循環器トライアルデータベース

COACT
Coronary Angiography after Cardiac Arrest

目的 虚血性心疾患は心停止の原因として最も多いといわれている。 欧米の現行ガイドラインでは,心停止のST上昇型心筋梗塞(STEMI)に対して緊急冠動脈造影(CAG)とPCIを推奨している。一方,非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)に対する緊急CAGの意義についてはランダム化試験がなく,意見の一致をみていない。
COACT試験では,心停止後に蘇生に成功しST上昇を伴わない患者に対する緊急CAGの実施は,遅延CAGにくらべ生存を改善するという仮説を検証する。

一次エンドポイントは,90日後の生存。
コメント 院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest:OHCA)は先進国では常に死因の上位に位置し,欧米では10万人あたり年間36〜81人,本邦では累計12.7万人(2017年)と報告されている。院外での救命システムが成熟するとともに心拍再開(ROSC)で搬送される症例が増えてはいる(OHCAの40~60%)が,院内死亡率が30~50%に及ぶ。剖検や緊急CAGのデータからOHCAの7割以上は,虚血性心疾患が原因である。ROSC後にST上昇が認められた場合の緊急CAGの必然性に議論の余地はないが,意識が戻らずST症状もなかった場合の対応についてはcontroversialである。日欧のガイドラインでも「緊急CAGを考慮する」と歯切れが悪い。
COACT試験は,心室細動・無脈性心室頻拍を呈し(すなわち心原性の可能性が高い),ROSC後にショック状態でなく,ST上昇を示さないOHCAを対象に緊急CAGの意義を検討した初めてのランダム化試験である。
緊急CAG群・遅延CAG群ともに心筋梗塞既往が1/4,虚血性心疾患既往・慢性完全閉塞が1/3,虚血を示す心電図変化・CAGでの有意病変が2/3,と多くの症例で心停止への虚血の直接・間接的関与が示唆された。一方,緊急群で血栓性閉塞を含む不安定プラークが認められたのは,わずかに13.6%だった。この数字は遅延群から緊急CAGにクロスオーバーした症例の割合;38/265(14.3%)と符合する。すなわち,ST上昇型心筋梗塞(STEMI)に類する病態はそれほど多くない,と推測される。
結果,緊急CAGの意義は否定された。非ST上昇症例においては,予後の大半が発症時の脳阻血およびその後遺症で左右される対象病態の特殊性が緊急CAG・血行再建によって得られるかもしれない心合併症抑制のメリットを上回る,ということだろう。
本試験の結果はおそらく,次のガイドラインに反映される。次の課題は,15%弱のSTEMIに準じる症例をどう見分け予後に反映させていけるか,である。(中野
デザイン 無作為割付け,オープンラベル,多施設(オランダ,19施設)。
期間 登録期間は2015年1月~2018年7月。
対象患者 552例(解析対象538例)。≧18歳,cardioversionの適応となる不整脈(心室細動・無脈性心室頻拍)を認める院外心停止で,心拍再開(ROSC)後も意識不明の症例。
除外基準:心電図でSTEMI所見を認める症例,ショック状態,冠動脈以外の原因による心停止が明らかな症例。
■患者背景:平均年齢65.7歳(緊急群)vs. 64.9歳(遅延群),男性81.7% vs. 76.2%,陳旧性心筋梗塞 26.7% vs. 28.7%,冠動脈疾患既往 36.3% vs. 36.2%,目撃された心停止 79.9% vs. 76.6%,心停止-BLS開始時間(中央値) 2分 vs. 2分,心電図虚血性変化 64.1% vs. 69.4%。
治療法 緊急CAG群273例または遅延CAG群265例にランダム化。CAGの実施は,緊急群はランダム化後2時間以内,遅延群は神経学的回復後(概してICU退室後)。両群とも適応があると認められた場合にはPCIを実施。遅延群で心原性ショック・再発性致死性不整脈・再発性心筋虚血を示す症例には冠動脈造影を許容。
結果
  • CAGの実施:緊急群97.1% vs. 遅延群64.9%。
  • ランダム化からCAG実施までの時間中央値:緊急群0.8時間 vs. 遅延群119.9時間。
[一次エンドポイント]
  • 緊急群176例(64.5%)vs. 遅延群178例(67.2%)。オッズ比(OR)0.89; 95%信頼区間(CI)0.62~1.27; P=0.51。
[おもな二次エンドポイントとその結果]
  • 脳機能良好または障害が軽度~中等度の状態での90日後の生存:緊急群62.9% vs. 遅延群64.4%(OR 0.94)。
  • 心室頻拍の再発:緊急群7.7% vs. 遅延群6.0%(OR 1.30)。
  • 目標体温到達までの所要時間中央値:緊急群5.4時間 vs. 遅延群4.7時間。
  • 人工呼吸の実施期間中央値:緊急群2.3日 vs. 遅延群2.2日。
[その他]
  • 冠動脈病変枝数(一枝・二枝・三枝):緊急群27.2%・20.4%・17.0% vs. 遅延群28.5%・20.3%・16.9%。
  • 不安定病変(>70%狭窄病変かつ潰瘍・解離・血栓等を伴う)の検出:緊急群13.6% vs. 遅延群16.9%。
  • 急性血栓性閉塞の発生:緊急群3.4% vs. 遅延群7.6%。
  • 慢性完全閉塞性病変:緊急群37.7% vs. 遅延群33.7%。
  • PCI/CABG施行:緊急群33.0% / 6.2% vs. 遅延群24.2% / 8.7%。
★結論★院外心停止後に蘇生に成功したST上昇がない症例に対する緊急CAGの実施は,遅延CAGにくらべ90日後の生存率を改善しない。
文献
  • [main]
  • Lemkes JS, et al: Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation. N Engl J Med. 2019; 380: 1397-407. PubMed

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収載年月2019.05