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ASCEND
A Study of Cardiovascular Events iN Diabetes

目的 糖尿病は,心血管(CV)イベントの危険因子の一つである。aspirinはCVイベント二次予防に有効であると認められている一方,出血リスクを増加させる。CVD非既往の糖尿病患者に対するaspirinのCVD一次予防のベネフィットと出血リスクについてはこれまでに明らかになっていない。
ASCENDは,CVDのない糖尿病患者を対象に,aspirinおよびn-3系脂肪酸サプリメント投与のCVイベント一次予防効果を検討する,2×2 factorial designの大規模ランダム化試験である。本報は,aspirinの効果を検討したASCEND aspirin studyの結果。

有効性の一次エンドポイントは,初発の重篤な血管イベント[非致死的心筋梗塞(MI),非致死的脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA),血管死の複合]。
安全性の一次エンドポイントは,初発の大出血イベント[頭蓋内出血,失明の恐れのある眼内出血,消化管(GI)出血,その他の重篤な出血(入院や輸血が必要あるいは致死的な出血)の複合]。
コメント ◆コメント
Oxford大学のグループは,大規模臨床試験による正確な仮説検証研究を主導している。筆者もOxford大学のVisiting Professorなので,彼らが大規模ランダム化比較試験の実施前に徹底的に「仮説」の追求を行う姿勢を理解している。ASCEND研究では,「心血管イベントの既往のない糖尿病」におけるaspirinの有効性と安全性を検証した。aspirinは安価,安全,有効性の確立された薬剤であり,使用歴も長い。各種抗血小板薬が臨床開発され,clopidogrel,prasugrel,ticagrelorなどは日本でも承認された。特許切れしたclopidogrelであってもaspirinよりは高価である。
ランダム化比較試験にてaspirinと比較したといっても,イベント予防効果の差はわずかである。「糖尿病では血小板のターンオーバーが亢進してaspirin(clopidogrel)は効かない」など,非専門家を惑わす言説は多い。莫大な利益を得るメーカーが組織的に推進するマーケット活動に個別医師が対抗することは困難である。OxfordのグループはASCEND試験により,アスピリンが糖尿病症例でも有効であることを明確に示した。心血管病のない糖尿病症例では数年の観察では心血管イベントが起こらないので,効果があっても出血を増やすaspirinが必要か否かは不明である。
血栓イベントリスクが一般に高かった時代に,各種ランダム化比較試験により抗血小板薬が開発された。出血を起こす抗凝固,抗血小板薬の真の意味での適応は極めて狭いのであろう。数万人のランダム化比較試験では有効性を示すことができても,適応決定に必要な情報には不足であることが示された。(後藤
デザイン 無作為割付け,2×2 factorial*,二重盲検,プラセボ対照,intention-to-treat(ITT)解析。
* aspirin試験(15,480例:aspirin 100 mg/日 vs.プラセボ),n-3系脂肪酸試験(15,480例:n-3系脂肪酸サプリメント1g/日 vs.プラセボ)
期間 平均追跡期間は7.4年。
登録期間は,2005年6月~2011年7月。
対象患者 15,480例。40歳以上,糖尿病(1型および2型)と診断され,登録時に既知の心血管疾患がなく,抗血小板療法の必要性が不確定な患者。
おもな除外基準:aspirinの明らかな適応または禁忌例,試験薬のアドヒアランスに制限を与えうる病態。
■患者背景:平均年齢 aspirin群63.2歳 vs.プラセボ群63.3歳,男性 62.6% vs. 62.5%,白人:両群とも96.5%,BMI 30.8 kg/m² vs. 30.6 kg/m²,喫煙歴 45.6% vs. 45.5%,現喫煙 両群とも8.3%。 2型糖尿病:両群とも94.1%,糖尿病罹病期間の中央値:両群とも7年。
併存疾患:高血圧症** 両群とも61.6 %。
治療状況:スタチン 75.6 % vs. 74.9 %。
** 患者自己申告による
治療法 8~10週間のrun-in期間(プラセボ投与)後,aspirin 100 mg/日群(7,740例),プラセボ群(7,740例)に1:1の割合でランダム化。
6か月ごとに追跡調査を実施。
結果 15,341例(99.1%)が追跡を終了。推定平均アドヒアランスは,両群とも70%。
[有効性の一次エンドポイント]
プラセボ群にくらべaspirin群で有意に低減した[658例(8.5%)vs. 743例(9.6%),率比0.88; 95%信頼区間(CI)0.79~0.97, P =0.01]。イベントリスクの差は最初の5年間を中心に認められた(< 3年:2.6% vs. 3.5%,3~< 5年:2.3% vs. 2.7%,5~< 7年:2.5% vs. 2.4%,7年:2.7% vs. 2.7%)。
[安全性の一次エンドポイント]
プラセボ群にくらべaspirin群で有意に増加した[314例(4.1%)vs. 245例(3.2%),率比1.29; 95% CI 1.09~1.52, P =0.003]。aspirinによる出血の経時的な減弱は認められなかった。最も多かったのは,消化管出血(41.3%),次いで失明の恐れのある眼内出血(21.2%),頭蓋内出血(17.2%)であった。致死的出血(両群とも0.2%)および出血性脳卒中発生率(両群とも0.3%)の差は示されなかった。
[有効性の二次エンドポイント:消化管がんの発生率]
両群に有意差は示されなかった[157例(2.0 %)vs. 158例(2.0 %)]。全がん発生率についても同様であった[897例(11.6 %)vs. 887例(11.5 %)]。
★結論★既知のCVDのない糖尿病患者に対する低用量aspirin投与は,初発の重篤なCVイベントリスクを低減するが,大出血イベントの増加によりaspirinの絶対的ベネフィットは大幅に相殺される。ClinicalTrials.gov No: NCT00135226.
文献
  • [main]
  • The ASCEND Study Collaborative Group: Effects of Aspirin for Primary Prevention in Persons with Diabetes Mellitus. N Engl J Med. 2018; 379: 1529-39. PubMed

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収載年月2018.10