循環器トライアルデータベース

BIOFLOW V

目的 薬剤溶出性ステント(DES)の新たな技術の革新(金属合金,構造の変化,生体吸収性ポリマー使用)はこれまでランダム化比較試験(RCT)において,その臨床的安全性,有効性が実証されていない。
幅広いPCI施行例において,生体吸収性ポリマー使用のsirolimus溶出ステントの耐久性ポリマーeverolimus溶出ステントに対する非劣性試験を実施。

一次エンドポイントは,12か月後の標的病変不全(TLF:心血管死,標的血管[TV]関連心筋梗塞[MI],虚血による標的病変再血行再建術[TLR]の複合エンドポイント)。
コメント 現在PCIの舞台は第四幕を迎えている。第一幕のPOBAは血管内腔の開大を目指し,第二幕のBMSは開大のキープを目的とし,第三幕の初期DESは再狭窄抑制を一義とした。第四幕の主題はlate DES failureを予防するための“optimize healing”である。もう片方の主役のハズだった生体吸収性薬剤溶出性スキャフォールドが頓挫してしまった現時点において,best healingの期待は生体分解性ポリマー(biodegradable polymer: BP)に集まっている。しかし従来の数多の臨床試験においては,ごく一部を除き短期(1年)および長期(最長5年)での耐久性ポリマー(durable polymer: DP)-DESを凌駕する臨床的有用性は示されていない。
BIOFLOW-Vは超薄型ストラットとBPを使用したsirolimus溶出ステント(BP-SES: Orsiro)を薄型ストラットのDP-everolimus溶出ステント(DP-EES: Xience)と比較した大規模臨床試験であり,米国における承認のためのピボタルIDE(医療機器治験届)試験でもある。非劣性については,他の臨床試験 (BIOFLOW-I, BIOFLOW-IV) を加えて症例数を増やし,再解析を加えた上で検証された。今回は1年次の結果である。
同種の臨床試験で,1年次のTLF(心血管死,標的血管に関連するMI,虚血による標的病変再血行再建術[TLR]の複合エンドポイント)に有意差が示されたのは,おそらく初めてだろう。しかも,対照は最強と謳われてきたXience stent,である。
「勝てば官軍」とばかりに,「Discussion」には浮き足だった賞賛のコメントが並ぶ。が,果たしてそうだろうか? 指摘しておかなければいけないのは,両者を分けたのが「標的血管に関するMI」(のみ)であり,その大半はin-hospital MI(おそらくperi-procedual MI)に起因する点である。特にXience群の6.7%は我々の日常臨床の実感とはかけ離れて高率であった。その要因としては,STEMIを除外したACSが半数を占める対象症例(病変)の特殊性と,本試験でのperi-procedual MIの定義(modified ARC criteria; CK-MBあるいはtroponinの正常上限3倍以上の上昇)が影響したと推測する(本論文では示されていないが,Xience側が主張するであろうステント留置の差異-病変あたりのステント数やoverlapping rate-とin-hospital MIとの因果関係は否定されたらしい)。そして多くの識者達が指摘するように,その「机上のMI」が長期予後に与える影響はcontroversialなのである。
Orsiro stentは髪の毛ほどの超極薄(60~80μm)にもかかわらず他のステント並みのradial forceを備えfractureしにくいという構造上の特徴を有する。さらに,金属イオン溶出を抑制するnano-coating (proBIO coating) などの優れたテクノロジーの結晶である。生体分解性ポリマーとともにその役割は(超)慢性期での炎症やneoatheroscrerosisに対抗した“best healing”にこそ期待される。Orsiro stentではポリマーが約1年半をかけてゆっくり分解吸収される以上,今回示されたのはstent platformの違いのみが反映された可能性の高い第四幕のハプニングであり,主題ではない。
メーカー側もユーザー側も,「机上のMI」に踊らされることなく,長期的視野で評価する必要がある。恐らく明らかにされる5年後の結果においてbest healingが裏付けされるのか,さらには「机上のMI」が予後に関連するのか,DES時代におけるthin strutの意義は…等々,注目に値するトライアルの一つである。(中野中村永井
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded endpoint),多施設(アジア,欧州,イスラエル,北米13か国90施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は12か月。
登録期間は2015年5月8日~’16年3月31日。
対象患者 1,334例。18歳以上の1枝あるいは2枝の3病変以下を治療対象とする症例。虚血性心疾患患者で,新規病変に対するステント留置予定例を連続して登録。血行動態の安定している非ST上昇型MIを含む急性冠症候群(ACS)も可。目視で参照血管径2.25~4.0mmで病変長≦36mmの病変。
おもな除外基準:慢性完全閉塞,血管径>2.0mmの側枝を有する分岐部病変,グラフト狭窄,DES内再狭窄,発症から72時間以内のST上昇型MI,EF<30%,ステント血栓症,クレアチニンクリアランス<30mL/分,9か月以内のPCI施行あるいは30日以内の標的血管PCI施行例など。
■患者背景:平均年齢64.5~64.6歳,ACS 50%,糖尿病治療例:およそ3分の1,最も多かった治療枝は左前下行枝(662例[41%]・1,612病変),type B2/C病変は1,189例(74%),中等度~重度の石灰化病変が24~27%,治療病変数は1.2/患者,ステント長19.7mm。
軽度ながら両群間に有意差があったもの:総ステント長(BP SES群26.8,DP EES群29.5mm),使用ステント数(1.3, 1.5/患者,1.07, 1.13/病変,1.2, 1.3/標的血管),オーバーラッピングステント(9%, 15%)。
治療法 生体吸収性ポリマー使用のsirolimus溶出ステント群,耐久性ポリマーeverolimus溶出ステント群に2:1の割合でランダム化。
生体吸収性ポリマー使用のsirolimus溶出ステント(BP SES)群(884例・1,111病変):Orsiro(BIOTRONIK社)使用。超薄型ストラット(60μm,≧3.5mmは80μm),コバルトクロム合金プラットフォーム,ステント径2.25~4.0mm,ステント長9~40mm。PLLA 生体吸収性ポリマーは3.5~7.5μm厚で約2年で分解される。sirolimusは約3か月で溶出。
耐久性ポリマーeverolimus溶出ステント(DP EES)群(450例・589病変):Xience(Abbott Vascular社)使用。ストラット81μm,ステント径2.25~4.0mm,ステント長8~38mm。ポリマー厚は7.5μmで,everolimusは約4か月で溶出。
非劣性は,両ステントの別な2つのRCT(BIOFLOW II[Circ Cardiovasc Interv 2015; 8: e001441. PubMed],IV[81st Annual Scientific Meeting of the Japanese Circulation Society; Kanzawa, Japan; March 17–19, 2017])を合わせベイズ法で比較した。
結果 [一次エンドポイント]
12か月後のTLFはBP SES群のほうがDP EES群より有意に少なかった(52/833例[6%] vs 41/427例[10%]:95%信頼区間[CI]-6.84~-0.29, p=0.0399;ハザード比0.64[95%CI 0.42~0.96], p=0.0322)。
各イベントは,心臓死(<1% vs 1%),TV関連MI(5% vs 8%[p=0.0155]),再TLR(2% vs 2%)。
[その他]
主な二次エンドポイントは,全死亡(1% vs 1%),全MI(5% vs 9%[p=0.0129]);非Q波MI(5% vs 8%),臨床的理由による再TV血行再建術(3% vs 4%)。ステント血栓症は<1% vs 1%。
30日後のTLF(4% vs 7%, p=0.026),TV関連MI(4% vs 7%, p=0.045)もBP SES群のほうがDP EES群より有意に少なかった。また入院中のMIも同様だった(4% vs 7%, p=0.030)
post hoc解析による周術期MI(CK-MB>正常上限値の3倍)もBP SES群のほうが有意に少なかった(2% vs 4%, p=0.030)が,再TLRは両群同等だった(0.5% vs 0.7%, p=0.0694)。
[非劣性]
BP SES群がDP EES群に対し非劣性であるという事後確率は100%とされ,ベイズ推定(2,208例)によるTLFの両群間差は-2.6%(95%確信区間-5.5~0.1,非劣性マージン3.85%)だった。
★解釈★幅広い患者において,超薄型の生体吸収性ポリマー使用のsirolimus溶出ステントの耐久性ポリマーeverolimus溶出ステントに対する非劣性が示された。
ClinicalTrials.gov No: NCT02389946
文献
  • [main]
  • Kandzari DE et al for the BIOFLOW V Investigators: Ultrathin, bioresorbable polymer sirolimus-eluting stents versus thin, durable polymer everolimus-eluting stents in patients undergoing coronary revascularisation (BIOFLOW V): a randomised trial. Lancet. 2017; 390: 1843-52. PubMed

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収載年月2018.04