循環器トライアルデータベース

Los Angeles Barbershop Blood Pressure study

目的 米国で高血圧関連死亡率が最も高いのは,非ヒスパニック系黒人男性で黒人女性とくらべても医師の介入,高血圧治療率,コントロール率が低く,地域における働きかけ(community outreach)が必要である。理髪店が健康に対し影響をもつことはよく知られており,2011年に発表されたBARBER-1ランダム化比較試験(RCT)では,理髪師が黒人男性客の血圧を測定し高い場合に医師の受診を促した群では,高血圧のパンフレットを渡されただけの群よりもわずかに降圧が大きかった(Arch Intern Med. 2011; 171: 342-50. PubMed)。一方で,薬剤師の介入で高血圧コントロールを改善できたとする40を超えるRCTがあるが,黒人男性において従来の医療の場で薬剤師介入の有効性を検討したトライアルは少ない。
理髪師による健康促進を薬剤師による薬物治療につなげる黒人男性向け高血圧管理プログラムの有効性を,理髪店をランダム化の単位とするクラスターランダム化比較試験で検証する(NHLBI[米国国立心肺血液研究所]実施試験)。
主要転帰は6か月後の収縮期血圧(SBP)。
コメント ■コメント 後藤信哉
■コメント 桑島 厳

均質な医療が供給されている日本では米国医療の不均一性の理解は難しい。日本では金持ちにも貧乏人にも同じ医療が供給されることを目指すことが当然とされる。社会主義的,共産主義的発想である。米国人の多くは一生懸命働いたお金持ちは,働かない貧乏人よりも質の高い医療が受けられて当然と考える。能力があり,努力する人がお金持ちになるのだから,その人が良い医療を受けるのがよいと考えるのが多くの米国人である。結果の平等を重視する日本とチャンスの平等を重視する米国,発想に相違はあるが,どちらかが正しい訳でもない。本論文は米国には「チャンスの平等」から弾かれた人種的マイノリティがいることを再認識させる論文である。
米国の人種問題の歴史は長く簡単にコメントすることはできない。1960年代には公民権運動が盛り上がった。その後,時間経過とともに人種に関する米国の標準的視点は変化した。英語が母国語でないわれわれには英語の表現の妥当性はわからない。N Engl J Medを調べると人種表現として「Black」が多く使用されるのは2013年以降である。2011年までは「African American」が主体であった。米国の雑誌CirculationのEditorとして毎週ミーティングしていても米国人たちが簡単に「Black」と言える今のアメリカには驚いている。筆者の理解を越える問題であるが,国際共同ランダム化比較試験に登録される米国人の多くが白人男性であることが,本論文を読むと再認識される。ランダム化比較試験に参加すれば試験のスポンサーが医療費を負担してくれる場合が多い。登録された白人の多くは貧しいことが試験参加のインセンティブになっていると理解していた。本論文を読むと,黒人の場合には医療機関を受診する機会さえなかったことが示唆される。
英国では外科医は床屋との伝統がある。筆者の友人のUniversity College of Londonの外科教授は英国床屋組合の会長である。医学部を卒業してDoctorとなり,外科の訓練を終えて外科医になるとMisterに戻るのが英国である。米国にて4年生活していたが,床屋に行ったことはなかった。まして,黒人街の床屋に行ったことは全くなかったので,本論文を読んで黒人街の床屋が米国黒人男性の医療に貢献していることを初めて知った。歴史的経緯を知るためにはさらに勉強が必要である。床屋に薬剤師を配置して,医師の指示のもとに降圧薬を投与した群において,生活習慣改善をするよりも降圧効果が高いことを本研究は示した。医療が均質に供給される日本では放置されている高血圧はほとんどいない。本論文は米国医療の不均一性を示した。これまで医療が放置していた米国の黒人男性に対して,有効な医療介入法を見出そうとする努力の一環として評価できる(後藤


米国の黒人男性は血圧コントロール不十分で,脳卒中や心筋梗塞などによる死亡が白人や黒人女性に比べて多い。その一因として高血圧に対する意識が低く,治療を受ける環境も十分でないことから,黒人の血圧管理の啓蒙と治療意識の促進が国策として求められている。このLos Angeles Barbershop試験はNIHの国立心肺血液研究所の支援によって行われたランダム化比較試験である。理髪店ごとランダム化するクラスターランダム化が採用されている。
理髪店の常連客に自動血圧計によって血圧を測定してもらい2回のスクリーニングで≧140mmHgの黒人男性を対象としている。介入群(介入理髪店群28店舗,139人)では,高血圧知識のある薬剤師による生活改善指導と降圧薬の処方を受けた。コントロール群(24店舗180人)では理髪師が高血圧についての説明を行い,生活習慣の改善を促すとともに医療機関の受診を促した。
結果として6ヵ月後の血圧は介入群では,152.8mmHgから125.8mmHg,コントロール群では154.6mmHgから145.4mmHと下降,その降圧度は各々27.0mmHg,9.3mmHgで有意に介入群の方が大きかった。
理髪師は古来,外科治療も行っていたことは知られているが,一般人が定期的に接する理髪店が,生活習慣病の改善に寄与できる可能性を示している。
しかし,わが国とは事情が異なることも留意する必要がある。第一に,わが国では職場や地域での定期健診が行き渡っており,高血圧をスクリーニングする環境が整備されているため,米国のような経済や人種による医療の恩恵に対する格差が格段はない。しかし,健康に無関心な中年層や中小企業で働く人びとにとっては高血圧を意識づける一つの手段にはなり得る可能性がある。
本研究ではいくつかのlimitationがある。介入群では25ドル支給,薬剤費用と交通費を支給したとの記載があるが,それであれば被検者の治療に対するモチベーションも違ってくる可能性がある。また薬剤師は,米国にガイドラインに従い130mmHgを目標にしているのに対して,医師は140mmHgを降圧目標にしている可能性があり,このことが結果に影響しているかもしれない(桑島)。
デザイン クラスターランダム化比較試験,オープン,多施設(52の黒人所有理髪店),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は6か月。
登録期間は2015年2月~’17年7月。
対象患者 303人。35~79歳の非ヒスパニック系黒人男性で理髪店の常連客(≧6か月間で6週間に≧1回散髪をする),2日のスクリーニングで収縮期血圧≧140mmHg。
除外基準:透析あるいは化学療法を受けているもの。
■理髪店・参加者背景:理髪店数(介入群28店舗,対照群24店舗),営業年数(17.3年,18.1年),理髪師数/店舗(両群とも4人)。
平均年齢(54.4歳,54.6歳),既婚あるいはパートナーと同居(46.6%, 50.3%),学歴:高校卒業あるいはGED(general educational development:22.9%, 28.7%);大学あるいはassociate’s degree(51.1%, 44.4%),年収:≦15,999ドル(25.2%, 20.2%);16,000~24,999ドル(16.3%, 8.9%;25,000~39,999ドル(7.3%, 11.3%);40,000~49,999ドル(11.4%, 12.5%);50,000~74,999ドル(16.3%, 20.2%);75,000~99,999ドル(13.0%, 12.5%),≧100,000ドル(10.6%, 14.3%)。理髪店常連年数(10.2年,11.5年),理髪店に行く頻度(2週間おき,2.1週間おき),危険因子:BMI(30.8, 31.2kg/m²);現喫煙(33.1%, 29.8%);高コレステロール(34.8%, 24.0%)。
治療法 店舗(クラスター)は≧10人の常連がいること,各群10店舗とした。
介入群(132人):理髪師は薬剤師が参加者を追跡し血圧を測定することを促進するように訓練を受けた。特別な訓練を受け高血圧臨床医の認定を受けた2名のフルタイム勤務の医師レベルの薬剤師も理髪店で参加者と定期的に会い,降圧薬処方,血圧測定,ライフスタイルの改善を奨励し,参加者の治療状況を高血圧専門医とレビューした。薬剤師は血漿電解質レベルを観察した。降圧薬は保険が認可する併用投与(amlodipine+ARBあるいはACE阻害薬,第3選択薬:長期作用型サイアザイド系利尿薬indapamideが好ましいとした)。医学的適応のある場合は異なる薬剤分類の降圧薬の投与を可とした。
治療,治療薬を処方,強化薬物治療をモニターし,参加者に経過の記録を送るようにした。
対照群(171人):参加者は血圧に関する説明書を受け取った。理髪師は説明書について参加者と話し合えるように訓練を受け,ライフスタイルの改善,医師を受診するよう奨励した。
両群とも,理髪店で面接調査者が参加者に直接会って30分の現場インタビュー(コンピュータ使用の質問)をベースラインと6か月後に行った。面接調査者は血圧を記録し,回答データから患者背景,参加者報告の転帰を,薬瓶から服薬情報を記録した。全血圧測定は理髪店で,認められたオシロメトリック法の血圧計で行った。測定は安静5分後に座位で5回行い最後の3回の平均値を血圧値とした。
結果 [主要血圧:SBP]
介入群:ベースライン152.8→ 6か月後125.8mmHg;-27.0mmHg,対照群:154.6→ 145.4mmHg;-9.3mmHgと,降圧は介入群のほうが21.6mmHg(95%信頼区間14.7~28.4)有意に大きかった(p<0.001)。
<130/80mmHg達成例も介入群のほうが有意に多かった(63.6% vs 11.7%, p<0.001)。
<140/90mmHg例(89.4% vs 32.2%),<135/85mmHg例(82.6% vs 18.7%);いずれもp<0.001。
[副次血圧:拡張期血圧]
介入群:92.2→ 74.7mmHg;-17.5mmHg,対照群:89.8→ 85.5mmHg;-4.3mmHg,降圧は介入群のほうが14.9mmHg有意に大きかった(p<0.001)。
[医師の受診および治療]
ベースライン時以前の3か月間の医師の受診回数は介入群1.0回,対照群1.2回だったが,登録から3~6か月後は1.2回,1.1回だった。
6か月後の介入群における降圧薬の服用率は55%から100%へ,対照群は53%から63%へ増加した(p<0.001)。介入群では対照群より6か月後の降圧薬の併用数(2.6剤,1.4剤/参加者),第一選択薬使用(ACE阻害薬/ARB:98.5%, 41.5%;Ca拮抗薬:94.7%, 32.7%;利尿薬:46.2%, 28.7%[全p<0.001]),降圧薬追加(アルドステロン受容体拮抗薬:10.6%, 1.2%[p<0.001])が増えた。さらに,介入群では対照群より長期作用型薬剤(amlodipine, irbesartan, telmisartan, indapamide)が使用されることが多かった。
[安全性]
両群とも治療関連の重篤な有害事象はみられなく,薬剤の副作用も両群同等だった。急性腎障害が介入群で3例(いずれもindapamide使用例で同薬中止により寛解),対照群では発生しなかった。
[その他]
両群ともretention(継続率)は95%。
自己報告転帰の変化は,excellent, very good:介入群;ベースライン20.6%→ 28.8%,対照群;20.6%→ 24.6%, good:38.9%→ 43.2%, 45.9%→ 43.9%, fair, poor, very poor:40.5%→ 28%, 33.5%→ 31.6%。
6か月で介入群の参加者は薬剤師の訪問を7回,4回の追跡電話を受けた。介入群の28店舗中6店舗で理髪師が血圧測定を行い(1参加者を4回),対照群24店舗中10店舗で健康に関するレッスンを話し合った(4レッスン/参加者)。
★結論★理髪店の常連である血圧がコントロールされていない高血圧黒人男性において,理髪師による健康促進と訓練を受けた専門薬剤師による高血圧薬治療管理によって大きな降圧が得られた。
ClinicalTrials gov No: NCT02321618
文献
  • [main]
  • Victor RG et al: A cluster-randomized trial of blood-pressure reduction in black barbershops. N Engl J Med. 2018; 378: 1291-301. Epub 2018 Mar 12. PubMed

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収載年月2018.03