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Hokusai VTE Cancer

目的 がんおよびその治療において静脈血栓塞栓症(VTE)は多くみられる合併症で,出血と同様に死亡や合併症の原因となる。がん患者では,がん治療の妨げとなる可能性がある血栓症,出血のリスクが高く,がん関連VTEの治療はたやすくない。
VTE合併がん患者において6か月間の低用量heparin治療の血栓症再発リスクはビタミンK拮抗薬よりも低く,出血リスクが同等であったという2003年,’15年の結果を受け,がん関連VTEの標準治療は低分子量heparinとなった。しかし,6か月以降のベネフィットは明らかではなく,さらに皮下注射によるheparin投与は患者にとって負担が大きい。一方で,有効性がビタミンK拮抗薬と同等で,重症な出血が少ないことが示された直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)のがん関連VTEに対する有効性,安全性を長期低分子量heparinと比較した試験はまだ実施されていない。
がん関連VTE患者において,経口第Xa因子阻害薬edoxabanの有効性,安全性をdalteparin皮下投与と比較する(非劣性試験)。

一次エンドポイントは,治療期間に関係なく12か月後のVTEの再発,大出血の複合エンドポイント。
International Society on Thrombosis and Haemostasis(ISTH)基準による明白な出血(ヘモグロビン≧2g/dL低下,≧2単位の輸血,重大部位の出血あるいは死に至る出血)。
コメント 悪性腫瘍は静脈血栓塞栓症の重要なリスク因子である。活性化プロテインC抵抗性などの先天的血栓素因の少ない日本では,悪性腫瘍の静脈血栓症リスクは欧米よりも相対的に大きい。一部の悪性腫瘍では低分子ヘパリンによる静脈血栓再発予防効果を確認されており,欧米では低分子ヘパリンが悪性腫瘍を併発した静脈血栓症の標準治療である。
本研究では日本でも多い悪性腫瘍併発静脈血栓症でも経口抗Xa薬エドキサバンにより再発予防が可能であることを示唆した。同時に,血栓再発予防効果が勝る用量を選択すると重篤な出血イベントが増加することも示された。抗Xa薬であっても,効果と副作用のバランスの按分が必須であることを示した。(後藤
デザイン 無作為割付け,オープン,多施設(13か国114施設),modified intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は9~12か月(投与期間中央値:edoxaban群211日,dalteparin群184日[p=0.01])。
登録期間は2015年7月~’16年12月。
対象患者 1,046例。成人がん††患者(基底細胞がん,扁平上皮細胞がんを除く)で,急性の症候性あるいは偶発的に検出された膝窩・大腿・腸骨静脈または下大静脈の深部静脈血栓症;画像診断による急性の症候性肺塞栓症;偶発的に検出された肺動脈またはより近位の肺塞栓症。
†† 現がん(診断から6か月以内;再発・局所進行性・転移性がん;6か月以内のがん治療;完全寛解しない血液がん),あるいは診断から2年以内のもの。
■患者背景:平均年齢(edoxaban群64.3歳,dalteparin群63.7歳),男性(53.1%, 50.2%),体重(78.8kg, 79.1kg),クレアチニンクリアランス(Crcl)30~50mL/分(7.3%, 6.5%),血小板数50,000~100,000/μL(6.1%, 4.4%),edoxaban低用量基準合致例(23.4%, 22.3%),VTE:深部静脈血栓症の有無に関係なく肺塞栓症(両群とも62.8%),深部静脈血栓症のみ(両群とも37.2%),症候性深部静脈血栓症あるいは肺塞栓症(68.0%, 67.0%),偶発的深部静脈血栓症または肺塞栓症(32.0%, 33.0%),現がん(98.3%, 97.5%);転移性がん(52.5%, 53.4%);再発がん(31.2%, 29.0%),4週間以内のがん治療*(71.6%, 73.1%),Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS: 0~4で高値ほど日常生活の制限が大きい)(0:29.7%, 28.2%, 1:46.6%, 46.9%, 2:23.6%, 23.7%),VTE既往(9.4%, 12.0%),出血リスク因子(2週間以内の外科手術,抗血小板薬使用,原発性・転移性脳腫瘍など)保有数(0:両群とも17.6%,1:28.4%,28.8%,2:33.3%,30.3%, ≧3:20.7%, 23.3%)。
* 抗がん剤(細胞障害性,ホルモン,標的治療薬,免疫チェックポイント阻害剤),放射線治療,外科手術,これら併用治療。
治療法 edoxaban群(522例):臨床用量の低分子量heparin(dalteparin以外も可,用量も合わせ治療医に一任)を≧5日皮下注射後に,固定用量60mg/日を経口投与。Crcl 30~50mL/分あるいは体重≦60kg,またはpotent P-glycoprotein inhibitors(P-gp阻害薬)併用投与例は低用量30mg/日投与とした。
dalteparin群(524例):200IU/kgを30日皮下注射(最大用量/日は18,000IU)後,150IU/kg/日を投与。治療中に血小板数<100,000/μLに減少した場合は一時的に減量した。
両群とも投与期間は6~12か月とし,6か月以上の投与は治療医に委ねた。
結果 投与中止までの規定治療の≧80%実施例は,edoxabn群447例(85.6%),dalteparin群465例(88.7%)。
[一次エンドポイント]
dalteparin群に対するedoxaban群の非劣性が示された(edoxaban群67例[12.8%] vs dalteparin群71例[13.5%]:ハザード比[HR]0.97;95%信頼区間[CI]0.70~1.36[非劣性p=0.006;優越性p=0.87])。
2つの時点の感度分析による結果も同様でedoxaban群の非劣性が認められ,6か月後の一次エンドポイントは55例(10.5%)vs 56例(10.7%):1.01;0.69~1.46(非劣性p=0.02),治療中(per-protocol解析)は51/490例(10.4%)vs 53/508例(10.4%):0.99;0.68~1.46(非劣性p=0.02)。
[二次エンドポイント]
VTE再発:41例(7.9%)vs 59例(11.3%):リスク差-3.4%(95%CI -7.0~0.2);HR 0.71(95%CI 0.48~1.06, p=0.09),深部静脈血栓症再発:19例(3.6%)vs 35例(6.7%);0.56(0.32~0.97),肺塞栓症再発:27例(5.2%) vs 28例(5.3%);1.00(0.59~1.69)。
大出血:36例(6.9%)vs 21例(4.0%):2.9%(0.1~5.6);1.77(1.03~3.04, p=0.04)。出血重症度:カテゴリー(1~4で高値ほど重症,4は死亡に至る場合も含む。1;両群とも発生なし,2;66.7%, 38.1%, 3;33.3%, 57.1%, 4;0%, 4.8%)
死亡:206例(39.5%) vs 192例(36.6%)。死亡の大半はがん関連によるもので,VTEあるいは出血関連死は両群とも6例ずつだった。
[サブグループ解析,有害イベント]
消化管がん例においてedoxaban群で治療中の出血リスクがdalteparin群より増大した(交互作用p=0.02)以外に有意な交互作用がみられたものはなかった。
もっとも多かった有害イベントは,腫瘍の進展および肺炎だったが両群同等だった。
★結論★がん関連VTE患者におけるVTE再発,大出血の複合エンドポイントにおいて,edoxaban経口投与群のdalteparin皮下注射群に対する非劣性が示された。VTE再発リスクはedoxaban群のほうが低かったが,大出血リスクは同群が高かった。
ClinicalTrials gov No: NCT02073682
文献
  • [main]
  • Raskob GE et al for the Hokusai VTE cancer investigators: Edoxaban for the treatment of cancer-associated venous thromboembolism. N Engl J Med. 2018; 378: 615-24. PubMed
    Hirsh and Ginsberg JS: Edoxaban for the treatment of venous thromboembolism in patients with cancer. N Engl J Med. 2018; 378: 673-4. PubMed

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収載年月2018.03