循環器トライアルデータベース

ATTRACT
Acute Venous Thrombosis: Thrombus Removal with Adjunctive Catheter-Directed Thrombolysis

目的 近位深部静脈血栓症(DVT)患者では抗凝固療法を実施しても血栓後症候群(PTS)が高頻度発生する。
急性近位DVT患者において,pharmacomechanical thrombolysis(血栓内血栓溶解薬治療+血栓を迅速に除去するカテーテル治療併用による静脈の開存)がPTSを予防するかを検討する,国立心肺血液研究所(NHLBI)実施の第III相試験。

一次エンドポイントは,6~24か月後のPTS(Villaltaスコア≧5あるいはDVT発症下肢の潰瘍。4週間以内のスコアが<5の場合を除き,6か月以降の重症静脈症状治療のための予定外血管内手技)。
コメント 静脈血栓塞栓症の多い欧米では,静脈血栓後症候群が問題である。静脈血栓後症候群の発症メカニズムには未知の部分が多い。静脈血栓塞栓症では肺塞栓症を合併して死に至る予後が問題である。急性期を過ぎても再発リスクに対して抗血栓療法の継続が必要な場合が多い。肺塞栓症を起こす血栓が静脈内に形成されても,静脈内血栓自体の急性期の症状は乏しいため,静脈再灌流を目指した治療が行われる場合は少ない。実際,過去の血栓溶解療法による静脈血栓溶解を試みた試験が施行されたが,線溶後の血栓性亢進,血栓の再発が問題となった。現在も多くの静脈血栓は再灌流されずに放置されている。静脈血栓症の多い欧米諸国では,静脈血栓塞栓後に下肢に起こる浮腫,色素沈着,発赤などの自覚的血栓後症候群で生活の質(QOL)が下がる症例が問題となっている。急性期に静脈の再灌流ができれば,これらの血栓後症候群を予防できる可能性があると期待された。
t-PAの全身投与などでは反跳性の凝固系亢進のため,血栓の再発リスクが上昇する。そこで,静脈内にカテーテルを留置し,カテーテルの先端から線溶薬を投与しつつ血栓の溶解を目指した。十分溶解しない血栓を剥がすと肺塞栓になってしまうので,線溶薬により血栓を柔らかくして吸引する機械的・薬物治療が用いられた。静脈血栓は消失し,静脈の再灌流がなされても血栓後症候群は改善できなかった。血栓後症候群の発症病態には未知の部分が多いが,静脈の灌流障害と直結していない可能性が示唆された。
これまでのランダム化比較試験は死亡,心筋梗塞,脳梗塞などのハードエンドポイントを対象として施行された。標準的医療が進歩して,循環器の多くの領域においてハードエンドポイントの発現率は低減した。死亡に至らなくてもQOLが重視される時代となった。血栓後症候群は色素沈着,発赤など美容的にも大きな問題である。QOLが重視される時代には自覚症状の改善というソフトエンドポイントを用いた試験が再度価値を持つかもしれない。(後藤
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoints),多施設(米国の56施設),modified intention-to-treat・per-protocol(PPT)解析。
期間 追跡期間は2年。
ランダム化期間は2009年12月~’14年12月。
対象患者 691例。症候性の近位DVT。
除外基準:<16歳,>75歳,症状が>14日持続,出血高リスク,2年以内のPTSあるいは同側DVT既往など。
■患者背景:年齢53歳*,男性62%,体重93kg²,BMI 31kg/m²*,Villaltaスコア(0~4:18%;5~9:35%, 10~14:28%, ≧15:19%),左脚のDVT 62%,総大腿静脈,腸骨静脈までの進展57%,DVTあるいは肺塞栓症既往25%,外来患者82%,推算糸球体濾過量86mL/分/1.73m²*
発症からランダム化までの時間6日*,ランダム化前7日以内のaspirin使用21%,最初の抗凝固療法(低用量heparin 60%;未分画heparin 31%;warfarin 52%),PTSの危険因子:主要外科手術9%;入院9%;石膏ギプス2%。 * 中央値, PTS重症度の指標。患者報告5症状(けいれん,かゆみ,しびれ,脚部倦怠感,痛み),医師報告による6徴候(腓骨浮腫,皮膚硬結,色素沈着,静脈怒張,発赤,ふくらはぎ圧縮中の痛み)を4ポイントスケール(0:なし,あるいは最小,1:軽度,2:中等度,3:重度)で評価し左右の脚で加算。足潰瘍の場合は≧15ポイント:0~33(高スコアほど重症。0~4:なし,あるいは最小,5~9:軽度,10~14:中等度,≧15:重度)。
治療法 両群ともガイドラインに沿った初期長期抗凝固療法(使用できるならrivaroxabanを投与)を実施し,10日後および6か月ごとの外来時に30~40mmHgの膝下弾性ストッキングを提供した。
pharmacomechanical thrombolysis群(336例):抗凝固療法に,ガイドラインに沿ったカテーテル血栓溶解療法を追加。血栓へのrt-PA(alteplase<35mg)の投与は,膝下静脈閉塞あるいは下大静脈関連の場合は,“infusion-first”(医師の判断で多孔式のカテーテルにより30時間以内の注入で開始)とし,その他の症例はAngioJet Rheolytic Thrombectomy SystemあるいはTrellis Peripheral Infusion Systemにより迅速注入(24時間以内)しながら初回血栓除去を行うこととした。AngioJetあるいはTrellis system使用のカテーテル血栓除去,経皮的バルーン血管形成術,ステント留置(腸骨または総大腿静脈で狭窄率≧50%のものに推奨),あるいは併用治療を可とし,血栓を≧90%除去し血流再開した場合あるいは重篤な合併症発症時には治療を中止した。治療開始時のINRは≦1.6とした。
対照群(355例):抗凝固療法。
結果 [アドヒアランス,血栓療法]
ランダム化から7日以内に5例が対照群からpharmacomechanical thrombolysisを実施し,pharmacomechanical thrombolysis群の11例が治療を実施しなかった。
初期抗凝固療法は,未分画heparin(pharmacomechanical thrombolysis群35%,対照群20%),低分子量heparin(54%, 64%),全抗凝固療法(30日後:両群とも98%→ 6か月後:78%, 86%→ 24か月後:48%, 50%),抗血小板療法(15%, 13%→ 21%, 13%→ 28%, 26%),弾性ストッキング≧3日/週使用(79%, 78%→ 66%, 69%→両群とも55%),抗凝固療法期間:試験期間中継続(55%, 57%),中止(44%, 42%),中止までの日数(211日,231日*)。
pharmacomechanical thrombolysis群の初回t-PA:infusion-first 58%(使用量21mg*;注入時間22時間[<4時間;0%]);AngioJet 22%(21mg*,20時間[45%]),Trellis 15%(20mg*,19時間,62%),追加血管内治療法(非実施12%,≧1つ実施88%)。
同群でのその他の追加治療:バルーン拡張62%,バルーン離脱62%,AngioJetによるレオリティック血栓除去61%,ステント留置28%,実施開始はランダム化の1日後*,血栓除去率は76%(Marder score:手技前11.4→手技後2.7;変化-8.7, p<0.001)。* 中央値
[一次エンドポイント]
有意な両群間差はなかった(pharmacomechanical thrombolysis群157例[47%] vs 対照群171例[48%]:リスク比0.96;95%信頼区間0.82~1.11[p=0.56])。
PPT解析でも(151/325例 vs 169/350例:0.94;0.81~1.10),多重代入法(multiple imputation)による感度解析(0.89;0.78~1.02)でも両群間に有意差はみられなかった。
[二次エンドポイント]
24か月後の静脈疾患特異的QOL,または一般的QOLの変化に有意差はなく,下肢痛の減弱(10日後のLikertポイント1.62, 1.29→ 30日後:2.17, 1.83;p=0.03),下肢周径は10日後:-0.26cm, +0.27cm,30日後:-0.74cm, -0.28cm(p=0.05)。PPT解析も同様の結果だった。
[安全性]
pharmacomechanical thrombolysis群では10日以内の大出血リスクがより高かった(1.7% vs 0.3%[p=0.049])が,24か月後の静脈血栓塞栓症再発リスクに有意差はみられなかった(12% vs 8%[p=0.09])。
中等度~重度(Villaltaスコア≧10)のPTSリスクはpharmacomechanical thrombolysis群のほうが有意に低かった(18% vs 24%:0.73;0.54~0.98[p=0.04])。
Villaltaスコアは,6・12・18・24か月後のいずれも同群のほうが有意に低かった(p<0.01)。
死亡例は15例(7例,8例)で,10日以内の死亡例はなかった。
★結論★急性近位深部静脈血栓症患者において,抗凝固療法へのpharmacomechanical thrombolysis法追加による血栓後症候群のリスク低下は認められず,大出血リスクが増大した。
ClinicalTrials gov No: NCT00790335
文献
  • [main]
  • Vedantham S et al for the ATTRACT trial investigators: Pharmacomechanical catheter-directed thrombolysis for deep-vein thrombosis. N Engl J Med. 2017; 377: 2240-52. PubMed

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収載年月2018.02