循環器トライアルデータベース

CULPRIT-SHOCK
Culprit Lesion Only PCI versus Multivessel PCI in Cardiogenic Shock

目的 急性心筋梗塞(AMI)患者において早期の責任血管に対する血行再建術は心原性ショックの予防を改善する。心原性ショック例の80%は多枝病変を有し,1枝病変患者にくらべより死亡率が高い。一方で,非責任血管に対するimmediate PCIは議論のあるところで,心原性ショック症例を含んだランダム化比較試験はない。
心原性ショックを発生した多枝病変AMI患者において,責任病変のみのPCI(非責任病変にはstaged血行再建術)は,多枝病変に対するimmediate PCIよりも転帰が良好であるという仮説を検証する。

一次エンドポイントは,30日以内の全死亡,腎代替療法が必要になる重症腎不全の複合エンドポイント。
安全性のエンドポイントは,BARC出血基準の2,3,5と脳卒中。
コメント N Engl J Med. 2018 August 25. [epub ahead of print]へのコメント
だからEBMは難しい。
多枝病変を有する心原性ショックを合併した急性心筋梗塞に対する多枝同時PCI(multivessel PCI)の是非を問うたCULPRIT-SHOCKのデータが1年間follow-upとして更新された。1年前に発表された急性期(30日以内)の結果では,それまでの通説を覆し,責任病変(culprit lesion)のみのPCIが優るという結果だった。エビデンスレベルの高い初めての多施設ランダム化試験結果が重視され,ESCガイドラインは当該症例に対する急性期multivessel PCIをクラスIIa,レベルBからクラスIII,レベルBに引き下げたばかりである。
 今回検討された1年後の全死亡・再心筋梗塞・心不全入院・再血行再建・腎代替療法,およびそれらの複合エンドポイントは,確かに,事前に設定されたCULPRIT-SHOCKの二次エンドポイントである。結果,全死亡・再心筋梗塞には差が出ず,心不全入院・再血行再建率はmultivessel PCIに軍配が上がった。一方,「急性期編」で一次エンドポイントだった総死亡+腎代替療法の複合エンドポイントは俎上に上げられていない。
 もう少し詳しくみてみる。再血行再建率の有意差は,ある意味当然であろう。心不全の相違については,multivessel PCIが心機能改善に有利に働いた可能性や,急性期死亡が多かったために重症例が減って相殺された可能性がある。一方,「急性期編」での全死亡の有意差(culprit lesion vs. multivessel PCI; 43.3% vs. 51.6%, P =0.03)が11か月経って消失した(50.0% vs. 56.9%)。しかし,その増加数は23人(6.7%) vs. 18人(5.3%)と僅差で,相対リスクが0.84から0.88になっただけである。ちなみに,新たな腎代替療法は発生せず,全死亡+腎代替療法は52.0% vs. 59.5%で,依然として有意差が維持されている。
 何か,統計に翻弄されている感じである。
 この結果をみて,ESCはどうするのだろう?(中野

N Engl J Med. 2017; 377: 2419-32.へのコメント
急性心筋梗塞の5-10%では心原性ショック(CS)を合併するが,ほとんどが多枝疾患でその予後は著しく不良である。1999年に発表されたSHOCK trialで,(主としてPCIによる)責任病変の急性期血行再建が薬物療法に比して長期予後を改善することが示され,今や臨床現場の常識となっている。CULPRIT-SHOCKは,さらに急性期に完全血行再建することの是非を問うた初めての多施設ランダム化試験である。そして「simple is the better」「余計なことはしない方が良い」というその結果は,血行動態の比較的安定した急性心筋梗塞を対象としてmultivessel PCIの有用性を検討したRCTのメタ解析(Am J Cardio. 2015; 115; 1481-6. PubMed)とは相反するものだった。残存虚血解除の急性期効果よりもPCIによる様々な心筋障害がマイイナスに作用するのか,あるいはギリギリの血行動態下での過量な造影剤が何らかの増悪因子になっているのか,そのメカニズムまでは明らかにならなかった。それにしても,一番“ショックショック”なのは,SHOCK trialから20年経っても死亡率がほとんど変わっていなかったことである。(中野中村永井
デザイン 無作為試験,オープン,多施設(欧州の83施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は30日。
登録期間は2013年4月~’17年4月。
対象患者 706例。心原性ショックのAMI患者で,PCIによる早期血行再建術予定例,主要血管(血管径≧2mm)に>70%の狭窄を有する多枝病変。
収縮期血圧(SBP)<90mmHgが>30分持続,あるいはSBP≧90mmHg維持のためのカテコラミン治療例,肺のうっ血症状,≧1つの徴候(意識障害,冷たく湿った皮膚および四肢,尿排泄量<30mL/時の乏尿,または乳酸>2.0mmol/L)のある臓器灌流障害の症状。
除外基準:>30分の蘇生,心停止,瞳孔が散大した重症脳機能障害,緊急primary CABG適応,1枝病変,機械的合併症によるショック,Ccr<30mL/分の腎障害など。
■患者背景:年齢*70歳,男性(責任病変のみPCI群74.9%,多枝病変PCI群78.1%),BMI*(26.6, 26.7kg/m²),現喫煙(25.4%, 27.4%),高血圧(59.0%, 61.5%),高脂血症(33.1%, 34.8%),糖尿病(30.3%, 34.6%),末梢血管疾患(12.6%, 11.0%),既往:MI(17.7%, 15.8%);脳卒中(8.5%, 6.0%);PCI(18.9%, 18.8%);CABG(5.9%, 3.9%),臓器灌流障害:意識障害(69.5%, 65.7%);冷たく湿った皮膚および四肢(68.9%, 70.4%);乏尿(24.0%, 28.5%);乳酸>2.0mmol/L(64.7%, 67.9%),ランダム化前の蘇生(51.9%, 55.3%),左脚ブロック(15.5%, 14.2%),血圧*(100/60mmHg, 100/61mmHg),心拍数*(90, 91拍/分),クレアチニン*(1.17, 1.20mg/dL),クレアチニンクリアランス*(64, 66mL/分),病変枝数(2枝:35.6%, 36.3%,3枝:63.6%, 63.2%),責任血管:左冠動脈主幹部(9.0%, 6.4%),左前下行枝(38.5%, 45.6%);左回旋枝(22.2%, 20.5%);右冠動脈(29.7%, 26.0%),≧1の完全閉塞病変(CTO)(22.4%, 24.0%),EF*(33%, 30%)。
■治療背景:大腿動脈アクセス(責任病変のみPCI群83.7%,多枝病変PCI群81.0%),橈骨動脈(17.8%, 19.3%),責任病変に対するステント留置(95.0%, 94.7%);薬剤溶出性ステント(93.6%, 95.1%),血栓除去(17.5%, 11.4%),造影剤使用量*(190, 250mL**),蛍光透視時間*(13分,19分**)。
非責任病変に対するimmediate PCI(12.5%, 90.6%**),immediate完全血行再建達成(7.6%, 81.0%**),staged PCI(17.4%, 2.3%**)。
機械的循環補助(28.8%, 27.8%):大動脈内バルーンパンピング(25.3%, 27.4%);経皮的左心補助装置(Impella 2.5[16.2%, 18.9%];Impella CP[30.3%, 18.9%])。機械換気(79.4%, 83.2%),換気期間*(両群とも3日),ICU治療期間*(両群とも5日)。
軽度の低体温療法(32.3%, 34.7%),カテコラミン治療(88.4%, 91.2%);治療時間*(両群とも2日)。
* 中央値,** p<0.001
治療法 診断冠動脈造影直後にランダム化。
責任病変のみに対するPCI群(351例):初回治療時には責任病変以外は治療せず,非侵襲的負荷試験あるいは冠血流予備量比(FFR)による虚血の有無,症状,臨床・神経学的状態で適応を評価し,staged 血行再建術を施行。
多枝PCI群(355例):>70%の狭窄を有するCTOを含むすべての主要血管にPCIを施行した。
推奨最大造影剤用量は300mLとした。
結果 30日追跡できなかったものは,多枝PCI群の1例で,解析例は責任病変のみに対するPCI群:344例,多枝PCI群:342例。
[治療]
責任病変のTIMI flow gradeに有意な両群間差はなかった(0[PCI前:55.8%, 52.8%→ PCI後:3.8%, 4.7%]),I(10.9%, 13.4%→ 3.5%, 2.4%),II(16.5%, 14.8%→ 8.2%, 6.2%),III(16.8%, 19.0%→ 84.5%, 86.7%)。
クロスオーバー:責任病変のみPCI群→多枝PCI群;12.5%,逆は9.4%。
[一次エンドポイント]
責任病変のみに対するPCI群のほうが多枝PCI群より有意に少なかった(158例[45.9%] vs 189例[55.4%]:相対リスク0.83;95%信頼区間0.71~0.96, p=0.01)。
全死亡は43.3% vs 51.6%(0.84;0.72~0.98, p=0.03),腎代替治療は11.6% vs 16.4%(0.71;0.49~1.03, p=0.07)。
per-protocol解析による一次エンドポイントは44.8% vs 55.1%(0.81;0.69~0.96, p=0.01),as-treated解析では46.0% vs 55.1%(0.83;0.72~0.97, p=0.02)。
[安全性]
BARC出血基準の2,3,5に有意な両群間差はみられなかった(57例[16.6%]vs 75例[22.0%]:0.75;0.55~1.03, p=0.07)。BARC 2(24.6% vs 30.7%), 3a(36.8% vs 37.3%), 3b(29.8% vs 25.3%)。
両群間で脳卒中(3.5% vs 2.9%)に有意差はなかった。
[サブグループ,その他]
性,年齢(<50歳,50~75歳,>75歳),糖尿病,高血圧,ST上昇型か否かなど事前に予定された全サブグループでの結果も一貫していた。
MI再発(1.2% vs 0.9%),うっ血性心不全による再入院(両群とも0.3%)に有意な群間差はなかった。
★結論★心原性ショックを発生した多枝病変AMI患者における初期PCI治療において,責任病変のみに対するPCIは多枝に対するPCIよりも30日後の死亡,腎代替治療が必要になる重症腎不全の複合エンドポイントのリスクが低かった。
ClinicalTrials.gov No: NCT01927549
文献
  • [main]
  • Thiele H, et al for the CULPRIT-SHOCK investigators: PCI strategies in patients with acute myocardial infarction and cardiogenic shock. N Engl J Med. 2017; 377: 2419-32. Epub 2017 Oct 30. PubMed
  • [substudy]
  • 心原性ショックを発生した多枝病変AMI患者の責任病変のみに対するPCIと,多枝病変に対するimmediate PCIのPCI施行後1年時点の死亡に有意差は示されなかった。
    二次エンドポイント(全死亡,腎代替療法,再MI,再血行再建,うっ血性心不全による入院),および複合エンドポイント(死亡+再MIまたは死亡+再MI+心不全による入院)について検討した。イベントの1年発生率は,ランダム化後365日以内にイベントが発生した患者数から算出。視覚評価法(visual-analogue scale)を含めたEQ-5DスコアによりQOLの評価も行った。
    [二次エンドポイント]1年後の全死亡:責任病変のみPCI群172例; 50.0% vs. 多枝PCI群194例; 56.9%(相対リスク0.88; 95%信頼区間 0.76~1.01)。心血管死:159例; 46.2% vs. 180例; 52.8%(0.88; 0.75~1.02)。再MI:1.7% vs. 2.1%(0.85; 0.29~2.50)。再血行再建:32.3% vs. 9.4%(3.44; 2.39~4.95)。うっ血性心不全による入院:5.2% vs. 1.2%(4.46; 1.53~13.04)。腎代替治療が必要になるイベントの発生はなかった。
    [複合エンドポイント]死亡+再MI:50.9% vs. 58.4%(0.87; 0.76~1.00)。死亡+再MI+心不全による入院:55.2% vs.59.5%(0.87; 0.93~1.06)。
    QOLについて,両群で有意差は示されなかった。
    Thiele H, et al for the CULPRIT-SHOCK Investigators: One-Year Outcomes after PCI Strategies in Cardiogenic Shock. N Engl J Med. 2018 August 25. [Epub ahead of print] PubMed

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収載年月2017.12
更新年月2018.09