循環器トライアルデータベース

COMPASS
Cardiovascular Outcomes for People Using Anticoagulation Strategies

目的 心血管疾患(CVD)患者において,有効な二次予防治療戦略を実施しているにもかかわらず,年間のCVD再発率は5~10%である。aspirinのプラセボにくらべた二次予防効果が示されているが,心筋梗塞(MI)既往患者でビタミンK拮抗薬との長期併用療法はaspirin単独投与より二次予防効果で上回るが出血リスクが上昇する。
安定したアテローム性血管疾患既往患者において,rivaroxabanのaspirinとの併用,あるいは単独投与がaspirin単独投与よりも心血管(CV)イベント二次予防効果に優れ,安全であるという仮説を検証した。
COMPASS試験は1) rivaroxaban±aspirin群とaspirin単独群の比較,2)プロトンポンプ阻害薬(PPI)非服用例でのPPI pantoprazole(パントプラゾール)群とプラセボ群の比較(進行中)から成り,本報は1)の結果。

有効性の一次エンドポイントは,CV死,脳卒中,MIの複合エンドポイント。
安全性の主なエンドポイントは,modified ISTH(International Society on Thrombosis and Haemostasis)基準による大出血(致死的出血,重要臓器への症候性出血,再手術を要する手術部位への出血,出血による入院[日帰り救急治療施設への受診も含む])。
コメント N Engl J Med. 2017; 377: 1319-30. へのコメント
冠動脈疾患,脳血管疾患,末梢血管疾患を対象としたCAPRIE試験によりアスピリンに対するクロピドグレルの優越性が示されて以来,これらの疾患を動脈硬化を基盤とする血栓疾患「atherothrombosis: アテローム血栓症」と包括して,抗血小板薬の標的疾患とするプロモーション活動が開発企業を中心に施行された。血栓止血学の専門家として,心筋梗塞を惹起する直径数ミリメートルの冠動脈閉塞血栓の形成には直径2-5 µmの血小板に加えて凝固系とフィブリン形成が必須の役割を果たすことを認識していたが,冠動脈疾患,脳血管疾患,末梢血管疾患を全身病ととらえる立場には賛同していた。
全身を循環する血小板細胞は全身循環を通じて末梢組織の微小血管の血管内皮細胞機能の影響を受ける。心筋梗塞などの血栓性疾患を惹起する凝固系の活性化は血小板などの細胞膜上にて起こる。凝固系が血小板膜上にて活性化すると局所的に産生されたトロンビンが血小板上のトロンビン受容体を刺激して,血小板と凝固系のpositive feedbackが起こって血管閉塞血栓が形成される。抗血小板薬クロピドグレルは血小板細胞活性化阻害効果を介して局所的な凝固系活性化阻害効果を発揮する。血小板細胞膜上における局所的トロンビン産生を担うプロトロンビナーゼ複合体には活性化凝固第X因子(Xa)が寄与する。Xa阻害薬もクロピドグレルと同様に全身の動脈硬化血栓性疾患の発症予防効果を期待できる。
マーケット戦略として抗トロンビン薬,抗Xa薬開発メーカーは当初標的を「非弁膜症性心房細動の脳卒中予防」,「静脈血栓塞栓症」に設定した。これらの疾病では血流うっ滞部位に血栓ができるので,抗血小板薬と明確に異なる疾病概念として販売強化を図り,それなりに成功した。「血流うっ滞部位の血栓予防,治療には抗凝固薬」とのプロモーションが成功すると,「動脈系の血栓性疾患の予防治療には抗血小板薬」と切り分けられてしまう。体内の血栓は全て血小板と凝固系の混合血栓なので,抗凝固薬,抗血小板薬ともに全ての血栓性疾患に有効であるとすると,「非弁膜症性心房細動の脳卒中予防」,「静脈血栓塞栓症」にも安価なアスピリンが使用されてしまう。高価な抗トロンビン薬,抗Xa薬を「非弁膜症性心房細動の脳卒中予防」,「静脈血栓塞栓症」に絞って宣伝した企業の努力はそれなりに成功した。
複数の抗Xa薬の中で,リバーロキサバンは脳卒中二次予防を中心とした「非弁膜症性心房細動の脳卒中予防」を標的に開発試験を行い,脳卒中二次予防を中心にマーケット活動を行った。このため,リバーロキサバンのプロモーション標的と冠動脈疾患,末梢血管疾患の血栓予防との重複が他の薬剤よりも少なかった。一日1回20 mgを内服する「非弁膜症性心房細動の脳卒中予防」とほぼ平行して,一日2回5 mgまたは2.5 mgを内服する急性冠症候群の血栓予防試験を施行していた。急性冠症候群ではアスピリンとクロピドグレルなどの抗血小板併用療法が施行される。抗血小板併用療法のみでも重篤な出血イベントリスクは高い。一日2回5 mgまたは2.5 mgでも抗Xa薬リバーロキサバンを追加すると重篤が出血イベントは増えた。同時にステント血栓症を含む動脈血栓イベントの減少が確認された。微量または極微量のリバーロキサバンがクロピドグレルと同様に血栓イベントを低減できる可能性があると考え,クロピドグレルの開発時と同様に急性冠症候群とアテローム血栓症の適応取得を目指したランダム化比較試験が計画された。今回発表されたCOMPASS試験はクロピドグレル開発時のCAPRIE試験に相当するアテローム血栓症予防試験である。「非弁膜症性心房細動の脳卒中予防」が脳卒中二次予防であったため,アテローム血栓症のうち抗血栓薬開発におけるリスクの高い脳血管疾患を除外し,心筋梗塞後と末梢血管疾患を対象とした試験となった。
急性冠症候群を対象としたATLAS試験にてリバーロキサバン極微量追加による血栓イベント減少効果は確認できていた。COMPASS試験でも,標準治療アスピリンに極微量のリバーロキサバンを併用すると血栓イベント発症率がアスピリン単剤群よりも減少した。リバーロキサバンの追加により重篤な出血イベントは増加した。過去の極微量リバーロキサバンの効果を反映する試験結果であった。5 mg×2/日のリバーロキサバンではアスピリンに比較して血栓イベントに差がなく,出血イベントが増えている。抗Xa薬でも一般論とすれば抗血小板薬アスピリンよりも出血イベントは増加する。安定期の冠動脈疾患および末梢血管疾患の標準治療としてアスピリンは不動の位置を保ち,極微量リバーロキサバン追加が選択肢に入ったインパクトは大きい。血栓止血学の専門家としては,長年の主張である「生体内の血栓は全て血小板とフィブリンの混合血栓」なので「全ての血栓の予防,治療には抗血小板薬,抗凝固薬ともに有効」との主張を裏付ける臨床試験の結果が発表されて嬉しい。(後藤
デザイン 無作為割付け,二重盲検,3×2 factorial,多施設(日本を含む33か国602施設),intention-to-treat解析。
期間 平均追跡期間は23か月。
ランダム化期間は2013年3月~’16年5月。
対象患者 27,395例。冠動脈疾患(CAD),末梢動脈疾患(PAD),あるいは両者の合併患者。<65歳のCADの場合は≧2つの血管床のアテローム性動脈硬化の記録,あるいは≧2つの危険因子(現喫煙,糖尿病,推定糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分,心不全,≧1か月前の非ラクナ梗塞)を保有しているもの。
除外基準:出血高リスク,最近の脳卒中発症あるいは出血性脳卒中・ラクナ梗塞既往例,重篤な心不全,進展した安定腎疾患(eGFR<15mL/分),2剤併用抗血小板療法(DAPT)・抗凝固療法・その他の抗血栓療法実施例など。
■患者背景:平均年齢68.2歳,女性22.0%,血圧136/78mmHg,総コレステロール162mg/dL, CAD既往90.6%,PAD既往27.3%,脂質低下薬使用89.8%,ACE阻害薬/ARB 71.2%
治療法 CABG後4~14日例を除きrun-in(rivaroxaban matchedプラセボを2回/日,aspirin 100mg/日)後にランダム化。
rivaroxaban-aspirin併用群(9,152例):rivaroxaban 2.5mg×2回/日,aspirin 100mg/日併用投与。
rivaroxaban単独群(9,117例):5mg×2回/日,aspirin matchedプラセボ投与。
aspirin単独群(9,126例):100mg/日,rivaroxaban matchedプラセボを2回/日投与。
結果 [早期中止]
有効性(想定イベントの50%発症)の1回目の中間解析の結果,rivaroxaban-aspirin併用群のaspirin単独群にくらべた優越性が認められたため,データ安全性モニタリング委員会は試験の早期中止を勧告し,2017年2月6日に平均追跡期間23か月で早期中止された。
--------------
治療中止例はrivaroxaban-aspirin併用群16.5%,rivaroxaban単独群17.0%,aspirin単独群15.7%。
[有効性の一次エンドポイント]
rivaroxaban-aspirin併用群がaspirin単独群よりも有意に少なかった(379例[4.1%] vs 496例[5.4%]:ハザード比0.76;95%信頼区間0.66~0.86, p<0.001;z=-4.126)。
rivaroxaban単独群ではaspirin単独群にくらべた有効性は認められなかった(448例[4.9%] vs 496例[5.4%]:0.90;0.79~1.03, p=0.12;z=-1.575)。
[主な安全性のエンドポイント]
大出血は併用群のほうがaspirin単独群よりも有意に多かった(288例[3.1%] vs 170例[1.9%]:1.70;1.40~2.05, p<0.001)。頭蓋内出血,致死的出血,重要な臓器への症候性出血には有意な両群間差はなかった。
rivaroxaban単独群でも,入院につながる重要臓器への症候性出血を含む大出血がaspirin単独群よりも有意に多かった(255例[2.8%] vs 170例[1.9%]:1.51;1.25~1.84, p<0.001)
[その他]
二次エンドポイント:虚血性脳卒中,MI,急性下肢虚血(ALI),CAD死複合(0.72;0.63~0.83, p<0.001),虚血性脳卒中,MI,ALI,CV死の複合(0.74;0.65~0.85, p<0.001)も併用群のaspirin単独群にくらべた有意な低下が認められたが,全死亡には両群間に有意差はなかった(313例[3.4%] vs 378例[4.1%]:0.82;0.71~0.96, p=0.01;有意差p<0.0025)。
正味の臨床ベネフィット(CV死,脳卒中,MI,致死的出血,重要な臓器への症候性出血の複合)のリスクは,併用群でaspirin単独群より有意に低かった(4.7% vs 5.9%:0.80;0.70~0.91, p<0.001)が,rivaroxaban単独群ではaspirin単独群との有意差はなかった。
★結論★安定アテローム性血管疾患患者において,rivaroxaban 2.5mg×2回/日-aspirin併用群はaspirin単独群よりもCV転帰が良好であるが大出血が多く,rivaroxaban 5mg×2回/日単独群ではaspirin単独群とくらべた良好なCV転帰は示されず大出血リスクが高かった。
ClinicalTrials.gov No:NCT01776424
文献
  • [main]
  • Eikelboom JW et al for the COMPASS investigators: Rivaroxaban with or without aspirin in stable cardiovascular disease. N Engl J Med. 2017; 377: 1319-30. Epub 2017 Aug 27. PubMed
    Braunwald E: An important step for thrombocardiology. N Engl J Med. 2017; 377: 1387-8. Epub 2017 Aug 27. PubMed
  • [substudy]
  • 下肢PAD患者におけるMALEは,その後の転帰不良と関連する。aspirin-rivaroxaban併用群はaspirin単独群よりもMALEが少なかった。
    下肢末梢動脈疾患(PAD)患者(6,391例・平均年齢67.6歳,女性27.9%)における主要有害肢イベント(MALE)初発例はMALE非発生例よりも入院,主要有害心血管(CV)イベント(MACE),切断,死亡が多いか,治療群間に差があるかを検証した。
    追跡期間中央値21か月のMALEは128例(2.0%)。MALE後1年(中央値360日)の累積リスクは,全入院95.4%,CVによる入院85.8%,全切断22.9%,死亡8.7%,MACE 3.8%。MALEはその後の転帰のリスクを有意に高めた(入院*:ハザード比7.21;95%信頼区間5.51~9.43,全切断:197.5*;97.33~400.8,全死亡:3.23;1.87~5.56[p<0.001],MACE+全切断*:7.56;5.14~11.12,MACE+大切断*:4.23;2.62~6.84)。* p<0.0001
    aspirin単独群とくらべaspirin-rivaroxaban併用群では,MALE(2.6% vs 1.5%が43%(p=0.01),全切断が58%(p=0.01),大切断が67%(p=0.03),末梢血管インターベンションが24%(p=0.03),総末梢血管イベントが24%(p=0.02)低下した。一方,rivaroxaban単独群 vs aspirin単独群は,MALEが29%,血管由来の全切断が35%,大切断が48%の低下で有意差はなかった:J Am Coll Cardiol. 2018 Mar 7. PubMed
  • 安定PAD患者において,rivaroxaban-aspirin併用群はaspirin単独群にくらべ主要血管・肢イベントリスクが低かったが,大出血リスクが高かった。ただし,同群での致死的出血,危機的臓器出血の有意な増加はなかった。
    安定末梢動脈疾患(PAD:下肢疾患[末梢バイパス術・血管形成術歴;下肢・足部切断;PADの客観的証拠のある間欠性跛行]既往,頸動脈疾患[頸動脈血行再建術歴あるいは無症候性の≧50%頸動脈狭窄歴]既往,または足関節-上腕血圧比(ABI)<0.90の冠動脈疾患[CAD])での結果。
    7,470例(558施設):症候性PAD 6,048例(下肢PAD 4,129例[55%],頸動脈血行再建術歴あるいは≧50%の狭窄1,919例[26%]),ABI<0.90のCAD 1,422例(20%)。
    ■患者背景:平均年齢67.8~67.9歳,男性71~73%,CAD既往65~66.5%,PAD既往(大動脈,大腿動脈あるいは下肢バイパス術,腸骨あるいは鼠径動脈の経皮的血管形成術;26.8~28.4%,間欠性跛行,ABI<0.90あるいは末梢動脈実質狭窄率≧50%;45.3~45.8%),頸動脈疾患;24.8~27.2%,ABI<0.90のCAD;18.6~19.8%,症候性PAD;80.1~81.4%。
    追跡(中央値21か月)終了時の試験薬投与中止率は,併用群17%,rivaroxaban単独群18%,aspirin単独群16%。
    有効性の一次エンドポイントは,rivaroxaban-aspirin併用群126/2,492例(5%) vs aspirin単独群174/2,504例(7%):ハザード比(HR)0.72;95%信頼区間0.57~0.90(p=0.0047)。しかし,rivaroxaban単独群のaspirin低用量群にくらべた有意なリスク低下は認められなかった(149/2,474例[6%]vs 7%:0.86;0.69~1.08, p=0.19)。
    大出血リスクは併用群がaspirin単独群より高く(3% vs 2%:1.61;1.12~2.31, p=0.0089),rivaroxaban単独群も同様であった(3% vs 2%:1.68;1.17~2.40, p=0.043)。大出血でもっとも多かったのは消化管出血(併用群2%, rivaroxaban単独群,aspirin単独群ともに1%)。
    大切断を含む主要有害肢イベントは,併用群のほうがaspirin単独群より有意に少なかった(1% vs 2%:0.54;0.35~0.82, p=0.0037,大切断のHRは0.3)が,rivaroxaban単独群のaspirin単独群にくらべた低下はみられなかった(2% vs 2%:0.67;0.45~1.00, p=0.05)。総死亡率に併用群のaspirin単独群にくらべた有意な低下はなかった(0.91;0.72~1.16, p=0.45):Lancet. 2017 Nov 10. PubMed
  • 安定CAD例において,rivaroxaban-aspirin併用群は主要血管イベントおよび死亡リスクが低かったが,大出血リスクが高かった。ただし,同群での頭蓋内出血,危機的な臓器出血の有意な増加はなかった。
    安定冠動脈疾患(CAD:20年以内の心筋梗塞[MI],多枝疾患,既往:安定・不安定狭心症;多枝病変に対するPCI,CABG)患者(24,824例[558施設])での結果。
    ■患者背景:平均年齢68.3歳,男性80%,MI既往69%;1年以内の発症1,238例(5%);1~5年の発症7,234例(29%);>5年の発症8,520例(34%),多枝病変15,469例(62%)。試験期間中に2剤併用抗血小板療法が必要になったCABG例1,120例。
    有効性の一次エンドポイントは,rivaroxaban-aspirin併用群347/8,313例(4%)vs aspirin単独群460/8,261例(6%):ハザード比0.74*;95%信頼区間0.65~0.86。rivaroxaban単独群のaspirin低用量群にくらべた有意なリスク低下は認められなかった(411/8,250例[5%] vs 6%:0.89;0.78~1.02, p=0.094)。
    大出血はaspirin単独群より併用群(3% vs 2%:1.66*;1.37~2.03),rivaroxaban単独群(3% vs 2%*:1.51;1.23~1.84)より有意に多かった。大出血でもっとも多かった部位は消化管(併用群2%, rivaroxaban単独群,aspirin単独群ともに1%)。
    脳卒中(1% vs 2%:0.56*;0.42~0.75),死亡率(3% vs 4%:0.77;0.65~0.90, p=0.0012)は併用群でaspirin単独群よりも有意に低かった。脳卒中に有意なrivaroxaban単独群,aspirin単独群間差はなかった(1% vs 2%) * p<0.0001:Lancet. 2017 Nov 10. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2017.09
更新年月2018.04