循環器トライアルデータベース

CANVAS Program
Canagliflozin Cardiovascular Assessment Study Program

目的 カナグリフロジン(canagliflozin)は,糖尿病患者において血糖,血圧,体重,アルブミン尿の低下が示されているSGLT2阻害薬である。
CANVAS Programは,心血管(CV)高リスク2型糖尿病患者におけるcanagliflozinの安全性と有効性を検証し,ベネフィットとリスクのバランスを評価するもの。本報はFDAの承認取得に必要なCVに対する安全性を確認するCANVAS試験と,アルブミン尿への影響を検討,市販後のCVに対する安全性を確認するCANVAS-Renal(CANVAS-R)試験を統合して解析した結果。

一次エンドポイントは,CV死,非致死的心筋梗塞(MI),非致死的脳卒中の複合エンドポイント。
コメント Circulation. 2018 Mar 11. へのコメント
SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として開発された。しかし,EMPA-REG OUTCOME試験では死亡,心不全の低減効果が示唆され注目された。本研究はSGLT2阻害薬カナグリフロジンによる心血管イベントリスクの高い糖尿病症例を対象としたランダム化比較試験である。心不全合併症例においてカナグリフロジンの効果が勝ることが示唆された。心不全の有無はSGLT2阻害薬による死亡率低減効果と交互作用があった。糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬が心不全,死亡を低減させる効果のメカニズムの検証が必須となった。(後藤

N Engl J Med. 2017; 377: 644-57. へのコメント
本試験はEMPA-REG OUTCOME試験に次ぐ,SGLT2阻害薬の心血管系疾患リスクの高い患者に対する安全性の検証試験の結果である。先行試験であるエンパグリフロジンで証明された①心血管系複合エンドポイントの抑制,②総死亡の抑制,③心不全入院の抑制,④腎合併症の進展抑制などが証明されるか否かが大いに注目されていた。
結果は①③④で優位性がカナグリフロジンでも証明された。いわゆるクラスエフェクトの証明である。②では傾向を認めるものの優位性の証明には至らなかった。両試験の最大の違いは異なるSGLT2阻害薬であることはもちろんであるが,対象患者がほぼ100% CVDの二次予防であったEMPA-REG OUTCOME試験に対して,CANVAS試験は約35%がハイリスク患者の一次予防であった点である。詳細なデータを見ると,一次予防群でのプライマリーエンドポイントは信頼区間が1をまたいでおり,やはりこの薬剤がCVDの二次予防薬として大きな役割を果たしていることが見えてくる。今後ダパグリフロジンを用いたDECLARE試験も発表される予定である。糖尿病専門医として注目するのはCVDのイベント予防効果はもちろんであるが,SGLT2阻害薬がファーストラインとしての経口糖尿病薬の地位を占めるか否かにある。二つの試験の結果では,「動脈硬化の進行した糖尿病患者」には少なくとも有効な薬剤であることが示されたと考えてよいだろう。
もう一点,この試験で下肢切断の合併症がプラセボの2倍になっている。実際に切断を必要としたのは,すでに切断既往のある患者の1,000人・年が96.3であり,既往のない患者の4.68より20倍以上リスクが高い。カナグリフロジンの投与にあたって重篤な足病変のある患者を避けることが望ましいと考える。(弘世
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(30か国667施設),intention-to-treat解析。
期間 平均追跡期間は188.2週間(CANVAS試験:295.9週間,CANVAS-R試験:108.0週間)。
試験開始は,CANVAS試験:2009年12月(FDA承認は’13年3月);CANVAS-R試験:2014年。2017年2月まで追跡。
対象患者 10,142例。2型糖尿病(HbA1c≧7.0%,≦10.5%),推算糸球体濾過量(eGFR)>30mL/分/1.73m²で,30歳以上で症候性アテローム性心血管疾患(CVD)既往,あるいは50歳以上でCVDの危険因子*を2つ以上有するもの。 * 糖尿病罹病期間≧10年,1剤以上の降圧薬投与下で収縮期血圧>140mmHg,現喫煙,微量・顕性アルブミン尿,HDL-C<38.7mg/dL。
除外基準:糖尿病ケトアシドーシス既往,1型糖尿病,膵臓あるいはβ細胞の移植,膵炎・膵切除による二次性糖尿病など。
■患者背景:平均年齢63.3歳,女性35.8%,白人78.3%,アジア人12.7%,糖尿病罹病期間13.5年,現喫煙17.8%,BMI 32.0kg/m²,血圧136.6/77.7mmHg, HbA1c 8.2%,総コレステロール170.1mg/dL, HDL-C 46.4mg/dL, LDL-C 88.9mg/dL, LDL-C/ HDL-C比2.0,アルブミン/クレアチニン比12.3(中央値),アルブミン尿:正常69.8%;微量22.6%;顕性7.6%,eGFR 76.5mL/分/1.73m²。
既往:CVD 65.6%;アテローム性血管疾患72.2%(冠動脈56.4%,脳血管19.3%,末梢20.8%);細小血管疾患(網膜症21.0%,腎症17.5%,神経障害30.7%);高血圧90.0%;心不全14.4%。
治療法 2週間の単盲検,プラセボによるrun-in後,ランダム化。
canagliflozin群5,795例,プラセボ群4,347例。
CANVAS試験(4,330例):canagliflozin群(300mg群,100mg群),プラセボ群。
CANVAS-R試験(5,812例):canagliflozin群(100mg/日で投与を開始し13週後から300mg/日に増量可とした),プラセボ群。
尿中アルブミン/クレアチニン比をCANVAS-R試験は26週間ごと,CANVAS試験では12週間後と以降年に1回測定した。
その他の血糖治療薬,危険因子管理の治療は,地域のガイドラインに沿って最良の併用治療を実施した。
結果 早期投与中止例はcanagliflozin群29.2%,プラセボ群29.9%。
CANVAS-R試験のcanagliflozin群で300mgに増量したものは71.4%。
[CVリスクの中間マーカー(intermediate markers)]
canagliflozin群のプラセボ群にくらべた差は,HbA1c:-0.58%,体重:-1.60kg,血圧:-3.93/-1.39mmHg(全p<0.001)。また他の血糖降下薬使用も同群のほうが9.3%低く,HDL-Cは2.05mg/dL,LDL-Cも4.68mg/dL高く,LDL-C/ HDL-C比に違いはなかった。
[一次エンドポイント]
プラセボ群にくらべcanagliflozin群が有意に少なかった(26.9 vs 31.5例/1,000患者・年:ハザード比0.86;95%信頼区間0.75~0.97,非劣性p<0.001,優越性p=0.02)。
複合エンドポイントの各エンドポイントもcanagliflozin群のほうが少なかった(CV死:11.6 vs 12.8例/1,000患者・年:0.87;0.72~1.06,非致死的MI:9.7 vs 11.6例/1,000患者・年:0.85;0.69~1.05,非致死的脳卒中:7.1 vs 8.4例/1,000患者・年:0.90;0.71~1.15)。
サブグループの結果も,利尿薬(使用例0.66,非使用例1.11;均質性p<0.001)以外は一貫していた。
[その他の心血管転帰]
全死亡は17.3 vs 19.5例/1,000患者・年(0.87;0.74~1.01, p=0.57),心不全による入院は5.5 vs 8.7例/1,000患者・年(0.67;0.52~0.87, p=0.24)。
[腎臓転帰]
アルブミン尿への進展はcanagliflozin群のほうが少なく(89.4 vs 128.7例/1,000患者・年:0.73;0.67~0.79),その有効性はCANVAS-R試験(0.64;0.57~0.73)がCANVAS試験(0.80;0.72~0.90)より大きかった(均質性p=0.02)。さらに,アルブミン尿の退縮が同群で多かった(293.4 vs 187.5例/1,000患者・年:1.70;1.51~1.91)。また同群では,eGFR 40%低下,腎代替療法,腎疾患死が少なかった(5.5 vs 9.0例/1,000患者・年:0.60;0.47~0.77)。
[安全性]
重篤な有害イベントはcanagliflozin群のほうが少なく(104.3 vs 120.0例/1,000患者・年:0.93;0.87~1.00),投与中止に至った有害イベントには有意な両群間差はなかった(35.5 vs 32.8例/1,000患者・年:1.13;0.99~1.28)。
同群では,下肢切断リスクが高く(6.3 vs 3.4例/1,000患者・年:1.97;1.41~2.75),71%がつま先または中足骨であった。切断絶対リスクが最も高かったのは切断既往例,末梢動脈疾患患者であったが,これらの症例に対するリスクは両群同等だった。
またcanagliflozin群では,骨折も多く(15.4 vs 11.9例/1,000患者・年:1.26;1.04~1.52),CANVAS試験ではcanagliflozin群のほうが多かったが,CANVAS-R試験ではちがい,異質性がみられた。
糖尿病ケトアシドーシスは少なかった(0.6 vs 0.3例/1,000患者・年:2.33;0.76~7.17)。
★結論★心血管疾患高リスクの2型糖尿病患者において,心血管リスクはcanagliflozin群がプラセボ群より低かったが,つま先,中足骨の切断リスクが高かった。
ClinicalTrials gov No: CANVAS; NCT01032629, CANVAS-R; NCT01989754
(本試験で使用されたカナグリフロジンの用量は,わが国での最大用量100mgを超える300mgが使用されている患者を含みます。)
文献
  • [main]
  • Neal B, et al for the CANVAS program collaborative group: Canagliflozin and cardiovascular and renal events in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2017; 377: 644-57. Epub 2017 Jun 12. PubMed
  • [substudy]
  • canagliflozinのCVおよび腎アウトカムに対する効果は,CVD既往または高リスクの2型糖尿病患者において,ベースラインの腎機能にかかわらず一貫していた。
    CANVAS Program参加者をベースラインの推算糸球体濾過量(eGFR)をもとに4つにサブグループ化(① <45 mL/分/1.73m²,②45~60 mL/分/1.73m²,③60~90 mL/分/1.73m²,④≧90 mL/分/1.73m²)し,心血管(CV)および腎アウトカムに対する効果をみた。
    [eGFR別canagliflozinの効果]
    MACE(① canagliflozin群44.7 vs. プラセボ群63.3/1000人・年,② 33.2 vs. 44.4/1000人・年,③ 26.8 vs. 29.0/1000人・年,④20.8 vs. 23.6/1000人・年)。CV死(① 29.5 vs. 30.2/1000人・年,② 19.4 vs. 18.6/1000人・年,③ 10.7 vs. 11.3/1000人・年,④ 6.4 vs. 9.6/1000人・年)。致死的/非致死的MI(① 13.6 vs. 23.3/1000人・年,② 12.8 vs. 19.0/1000人・年,③12.1 vs.11.0/1000人・年,④8.0 vs. 10.6/1000人・年)。
    致死的/非致死的脳卒中(① 5.2 vs. 16.8/1000人・年,②7.1 vs. 13.5/1000人・年,③ 7.7 vs. 9.3/1000人・年,④ 9.5 vs. 6.6/1000人・年)。心不全による入院(① 16.9 vs. 34.3/1000人・年,② 9.6 vs. 16.5/1000人・年,③ 4.6 vs. 6.1/1000人・年,④ 3.7 vs. 5.1/1000人・年)。腎複合アウトカム*(① 13.5 vs. 18.4/1000人・年,② 10.6 vs. 13.9/1000人・年,③ 4.6 vs. 7.4/1000人・年,④ 3.8 vs. 8.1/1000人・年)。
    * eGFRの40%低下,末期腎不全,腎死。
    Neuen BL, et al: Cardiovascular and Renal Outcomes With Canagliflozin According to Baseline Kidney Function. Circulation. 2018; 138: 1537-50. PubMed
  • canagliflozin群は幅広い患者でCV死,心不全による入院リスクがプラセボ群より低かった。有効性は心不全既往例のほうが大きい可能性が示された。
    心不全(HF)既往の有無でcanagliflozin群の有効性(心血管[CV]死,HFによる入院の複合エンドポイント),安全性が異なるかを検証した。
    HF既往(1,461例[14.4%]・平均年齢63.8歳)は非既往例(63.2歳)にくらべ女性(44.4% vs 34.4%),白人(91.9% vs 76.1%),高血圧(95.3% vs 89.1%),CV疾患(CVD)既往(80.4% vs 63.2%),β遮断薬(70.4% vs 50.6%),RAS阻害薬(85.7% vs 79.1%),利尿薬(60.1% vs 41.6%)の使用が有意に多かった。
    CV死,HFによる入院の複合エンドポイントは,HF既往が203例,非既往449例で, canagliflozin群はプラセボ群より有意にリスクが低かった(16.3 vs 20.8/1,000患者・年:ハザード比0.78;95%信頼区間0.67~0.91)。HFによる死亡あるいは入院(0.70;0.55~0.89),HFによる入院(0.67;0.52~0.87)もcanagliflozin群でリスクが低かった。同群の有効性はBMI(≧30, <30kg/m²),HbA1c(≧8%, <8%),利尿薬およびmetformin使用の有無に交互作用がみられたが(全p>0.02),年齢,腎機能,CVD既往別による有意な違いはみられなかった。
    プラセボ群にくらべたcanagliflozin群のCV死,HFによる入院に対する有効性は,有意性は低かったがHF既往例のほうが非既往例よりも大きかった(0.61;0.46~0.80 vs 0.87;0.72~1.06,交互作用p=0.021)。既往例での浸透圧利尿薬関連イベントのリスク低下(交互作用p=0.03)を除いて,その他のCV転帰や安全性の転帰(切断,骨折など)へのcanagliflozin群の有効性はHF既往とは関係しなかった。
    Rådholm K, et a: Canagliflozin and Heart Failure in Type 2 Diabetes Mellitus: Results From the CANVAS Program (Canagliflozin Cardiovascular Assessment Study). Circulation. 2018 Mar 11. [Epub ahead of print] PubMed
  • CVD二次予防例は一次予防例よりも高リスクだったが,canagliflozin群のCV・腎イベント抑制効果にCVD既往による有意な異質性は認められなかった。
    心血管疾患(CVD)既往の有無(一次予防群,二次予防群)でcanagliflozinの有効性に違いがあるかを検証した。
    CVD一次予防群(3,486例[34%])は二次予防群(6,656例[66%])にくらべて若く(63歳 vs 64歳),女性が多く(45% vs 31%),糖尿病罹病期間が長かった(14年 vs 13年)。また二次予防例のほうがスタチン(63% vs 81%),β遮断薬(33% vs 64%),抗血栓薬(49% vs 87%),インスリン(48% vs 51%)の使用が多かったが,経口血糖降下薬の使用は少なかった。
    二次予防群は一次予防群にくらべ有意に高リスクだった(一次エンドポイント[CV死,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中の複合]イベント比36.9 vs 15.7/1,000人・年:ハザード比2.36;95%信頼区間2.03~2.74, p<0.001)。腎複合イベント[eGFR 40%低下,腎代替療法,腎疾患死]8.0 vs 5.1/1,000人・年:1.56;1.18~2.06, p=0.002)。
    一次エンドポイントは,canagliflozin群はプラセボ群より少なく,全例では1,011例(26.9 vs 31.5/1,000人・年:0.86;0.75~0.9,非劣性p<0.001;優越性p=0.02)で,二次予防群においてcanagliflozin群でリスクが18%低下(796例[34.1 vs 41.3/1,000人・年:0.82;0.72~0.95]),一次予防群では2%の低下だった(215例[15.8 vs 15.5/1,000人・年:0.98;0.74~1.30])が,CVD既往の有無による有意な異質性は認められなかった(交互作用p=0.18)。
    また,心不全による入院(二次予防群:0.68;0.51~0.90,一次予防群:0.64;0.35~1.15:交互作用p=0.91),全死亡(0.89;0.75~1.07, 0.79;0.58~1.07:交互作用p=0.64),腎複合イベント:0.59;0.44~0.79, 0.63;0.39~1.02:交互作用p=0.73)にも有意な異質性はみられなかった。
    さらに,有害事象(性器・尿路感染,骨折,急性膵炎,糖尿病ケトアシドーシスなど),下肢切断(2.07;1.43~3.00, 1.52;0.70~3.29:交互作用p=0.63)にも一次・二次予防群に異質性はなかった。
    Mahaffey KW, et al for the CANVAS Program Collaborative Group: Canagliflozin for Primary and Secondary Prevention of Cardiovascular Events: Results From the CANVAS Program (Canagliflozin Cardiovascular Assessment Study). Circulation. 2018; 137: 323-34. PubMed

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収載年月2017.07
更新年月2018.11