循環器トライアルデータベース

UK’s CPRD
UK’s Clinical Practice Research Datalink

目的 ACE阻害薬/ARBの投与開始後に突然腎機能低下が起こることがあるが,クレアチニン濃度30%までの上昇であれば一般的には安全であると考えられている。しかし,≧30%上昇の場合は投与中止がガイドラインで推奨されているにも関わらず,モニタリング例は10%,中止例は20%に過ぎない。また,クレアチニン上昇率別の長期心・腎転帰は分かっていない。
英国の入院患者のエピソード統計(hospital episode statistics)の病院記録データベースとリンクしている臨床診療リサーチデータ(CPRD)を使用して,ACE阻害薬/ARBの投与開始後のクレアチニン10%上昇ごとの心・腎リスクを検証した。
主要評価項目は,末期腎不全,心筋梗塞(MI),心不全,全死亡。
コメント BMJ. 2017; 356: j791. へのコメント
ACE阻害薬とARBは,日常的に診療で用いられる一般的な降圧薬である。こうしたレニン・アンジオテンシン系阻害薬は,投与を開始して間もなく血清クレアチニンが軽度上昇することが,比較的多い合併症として知られている。しかし,この血清クレアチニン軽度上昇が長期のアウトカムに及ぼす影響は,これまで十分には明らかにされていなかった。
UK’s CPRDでは,ACE阻害薬とARBによる血清クレアチニンの上昇が,しかもその上昇度に応じて,末期腎不全や心筋梗塞のみではなく,累積死亡も増加させることを示した。ACE阻害薬とARBによる血清クレアチニンの上昇は,非ステロイド性消炎鎮痛剤,ループ利尿薬,カリウム保持性利尿薬などの併用で起こりやすいことは分かっているので,こうした併用療法には細心の注意を払うべきであることを示している。また,高齢者,心腎の合併症を有する者にも多いので,ACE阻害薬とARBの投与の際には,血圧だけではなく血清クレアチニンの確認も怠るべきではない。ACE阻害薬またはARB投与中の患者に非ステロイド性消炎鎮痛剤が追加で開始されることも日常診療で行われることがあり,血清クレアチニンの上昇の危険性を考えると,避けられるべき併用の組み合わせである。UK’s CPRDの示した結果は注目に値する。(中村中野寺本
デザイン コホート研究。
期間 投与開始期間は1997年4月1日~’14年3月31日。
投与開始からの期間は<1~≧10年。
参加者 122,363例。18歳以上のプライマリケア受診者で,ACE阻害薬/ARBの投与を開始し,最初の投与記録の前にCPRDに≧1年登録しているもの。
調査方法 一般診療記録から全クレアチニン検査の結果を抽出し,ACE阻害薬/ARB投与開始前あるいは開始時のベースライン値と2か月以内の初回追跡外来時の値との相対差を投与開始後のクレアチニン濃度の変化と算定した。
ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン≧30%上昇例と非上昇例の主要評価項目の比較,クレアチニン10%上昇と心腎リスクとの関係はポアソン回帰分析で行った。調整因子は,年齢,性別,暦期間(1997~2003年,’04~’08年,’09~’14年),UK Index of Multiple Deprivationからの居住地域に基づく社会経済的状態,生活習慣因子,慢性腎臓病(CKD),糖尿病,心血管疾患合併,ACE阻害薬/ARB以外の降圧薬,投与開始前30日以内の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。
結果 [患者背景]
クレアチニン≧30%上昇例は2,078例(1.7%)。<10%上昇例は83.7%,10~19%上昇は11.7%,20~29%上昇は2.9%,30~39%上昇は0.9%,≧40%上昇は0.8%。
≧30%上昇例のほうが<30%上昇例(98.3%)より多かったのは,高齢(中央値68歳 vs 63歳),女性(56.1% vs 46.1%),重度(ステージ3b~4)CKD(8.9% vs 4.3%),既往(MI[10.5% vs 4.5%],心不全[19.0% vs 4.8%],不整脈[17.2% vs 6.8%],末梢動脈疾患[6.0% vs 2.5%])で,さらに,ループ利尿薬(28.6% vs 7.2%),カリウム保持性利尿薬(8.8% vs 2.0%),β遮断薬(23.7% vs 17.0%),NSAIDs(34.0% vs 23.5%)の併用が多かった。一方,少なかったのは,高血圧(64.1% vs 75.7%),Ca拮抗薬(16.9% vs 18.9%)の併用,現飲酒例(71.6% vs 78.3%),肥満例(29.0% vs 33.4%)。
投与開始前後の血圧変化(収縮期血圧中央値:150→ 140mmHg vs 155→ 144mmHg;いずれも7%低下),社会経済的状態,サイアザイド系利尿薬併用(20.9% vs 21.0%),喫煙率(喫煙歴,現喫煙:66.1% vs 65.3%),糖尿病合併(23.8% vs 22.0%)に違いはなかった。
[クレアチニン上昇と転帰]
≧30%上昇例は<30%上昇例よりも,主要有害心・腎イベントリスクが高かった。
末期腎不全:5.2 vs 1.3/1,000人・年;調整発生率比 3.43(95%信頼区間2.40~4.91)。
MI:11.0 vs 5.9/1,000人・年;1.46(1.16~1.84)。
心不全:28.9 vs 12.4/1,000人・年;1.37(1.14~1.65)。
全死亡:72.7 vs 22.4/1,000人・年;1.84(1.65~2.05)。
<投与開始からの期間との交互作用>≧30%上昇例における顕著な末期腎不全発生リスクとの関連がみられた(最初の1年間:12.2倍→ 2年後:3.7倍→ 2~<5年後:1.7倍→ 5~<10年後:2.5倍;傾向p=0.094)。心不全(調整発生率比1.9倍→ 1.5倍→以後のリスクに対しては持続して中立的;傾向p=0.025),死亡率(3.5倍→以後は50%のリスク増が持続*)にも同様の傾向がみられ,影響は小さかった。
クレアチニン上昇(<10%, 10~19%, 20~29%, 30~39%, ≧40%)に伴い,全主要評価項目リスクが段階的に増加した。
1年時の死亡絶対リスクは,<10%上昇例:2%,10~19%上昇例:2%, 20~29%上昇例:4%, 30~39%上昇例:7%, ≧40%上昇例・16%,10年時は22%, 26%, 33%, 42%, 57%と,用量依存的なリスク上昇がみられたが,すべての評価項目も同様であった。<10%上昇を対照とした場合の10~19%上昇例~≧40%上昇例の発生率比は,末期腎不全(1.73~4.04*),MI(1.12~1.59*),心不全(1.14~1.42*),死亡(1.15~2.11)。* 傾向p<0.001
[サブグループ]
クレアチニン≧30%上昇例の有害心・腎イベントリスクは,女性より男性のほうが高かった。
クレアチニン≧30%上昇例における死亡リスク増大は全サブグループでみられ,糖尿病などの合併症の有無を問わず一貫して大きかった。
★結論★ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン上昇と有害心・腎転帰は段階的に関係した。この関係は,ガイドライン推奨の治療中止閾値である30%上昇以下でもみられた。

[主な結果]
  • Schmidt M et al: Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks: cohort study. BMJ. 2017; 356: j791. PubMed
  • 心不全罹患率の経時的傾向(2002~2014年):罹患率は7%低下したものの,高齢化,新規発症や併存疾患の増加などにより,今や最多4種の新規発症がんの合計と同じくらいの疾病負荷に。また社会経済学的な差もみられた。
    人口の約7%に相当する英国人(英国の年齢,性,人種の平均的構成)の匿名化患者データベースである臨床診療リサーチデータ(CPRD)の一次診療電子記録と,入院患者のエピソード統計(hospital episodes statistics)の二次診療記録をリンクし(1998年以降),2002年1月から’14年12月31日にかけ一般診療に≧12か月登録されている≧16歳のデータから,診断から2年以内の直近の患者背景を抽出して心不全発症の経時的傾向を評価した。
    心不全発症は93,074例(診断時平均年齢76.7歳,女性49%,白人97%):’02~’04年21,943例,’12~’14年20,804例;経済的に最も富裕な群18,371例,最も困窮している群16,270例。
    調整心不全罹患率の算出は,2013年の欧州標準人口(European Standard Population;90歳まで5歳刻み)を使用し直接年齢,性調整を行い,粗罹患率は英国国勢調査の年央人口に暦年・年齢・性別に適用して推定。また15歳以下に心不全はないと想定し,>0歳から全年齢の発症,罹患率を報告した。社会経済学的指標はIndex of Multiple Deprivation (IMD) 2015を使用。
    年齢,性調整心不全罹患率は男女とも7%減少した(’02年:358→’14年:332/10万人・年;調整罹患率0.93[95%信頼区間(CI)0.91~0.94])一方で,粗罹患率は2%上昇し(288→295/10万人・年),新規心不全診断患者の推定絶対数も12%増加した(17万727例→19万798例)。増加は主に母集団の増加,高齢化によるものだったが,さらに心不全罹患推定絶対数は23%の上昇を示した。心不全の発症は,最も多いがん4種(肺・乳・大腸・前立腺がん)の新規発症の合計(Cancer Research UK in 2014)と同じくらいとなった。
    追跡期間を通し,心不全発症時年齢が高齢化し(76.5→77.0歳:調整差0.79歳[95% CI 0.37~1.20]),併存疾患数も増えた(3.4→5.4:2.0[1.9~2.1])。
    社会経済的にみると,心不全罹患率は富裕群よりも困窮群で高く(罹患率比1.61[95%CI 1.58~1.64]),最も困窮している群での診断時年齢は3.5歳若く,併存疾患も多かった(Conrad N, et al. Temporal trends and patterns in heart failure incidence: a population-based study of 4 million individuals. Lancet. 2018; 391: 572-80. Epub 2017 Nov 21.)。 PubMed

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収載年月2017.08
更新年月2018.01