循環器トライアルデータベース

CANHEART Aortic Stenosis study
Cardiovascular Health in Ambulatory Care Research Team Aortic Stenosis study

目的 早期の疫学研究から古典的心血管(CV)危険因子と大動脈硬化・狭窄との関係が示されているが,大半が横断的研究で,特定の人たちや画像エンドポイントを評価したもので,危険因子と大動脈弁狭窄症(AS)との関係を記述した縦断的研究はほとんどない。
17の健康関連データベースから患者個人レベルのデータを統合したビッグデータを使用して,無作為に抽出された住民コホートにおいて心臓弁膜症などの心血管疾患既往のない高齢者における危険因子(高血圧,糖尿病,脂質異常症)と重度AS発症との長期にわたる関係を検証した。
主要評価項目は,重度AS(ASによる入院,外科手術あるいは経カテーテル的大動脈弁置換術などの大動脈弁への介入)。
コメント 超高齢化社会においてASは最も注意すべき弁膜症であり,症候性重度ASは放置すると年間死亡率50%であり,たいていの転移性がんより予後不良である。弁の変性には,年齢的変化だけでなく動脈硬化病変と同様に,脂質沈着・炎症・オステオポンチン産生などの内因性病的機序が関与している。これまでのAS と古典的リスク因子との関係を見た報告は横断的研究である。本研究は,ビッグデータを用いて65歳以上の多数のカナダ・オンタリオ州住民を非選択的に長期間観察し,AS入院や弁置換に関連する因子を縦断的に検討した。高血圧症・糖尿病・脂質異常症はすべて重度AS発症と関連し,この3つが重なると重度ASの1/3が説明可能である。特に高血圧は高齢者の罹患率が高くハザード比が1.71と最も高く,重度AS発症の関与度が大である。10歳加齢ごとにハザード比1.71となっており,年齢も大きな因子である。女性の重度AS発症頻度は低いが,リスク3因子の関与度は男性と同じである。
遺伝的高コレステロールマウスではヒトのASと同じ病態を生じ,高脂肪食を加えるとASがより進行する。RAS・AGEs・酸素ラジカル・炎症性サイトカインなどの活性化により大動脈弁の線維化・石灰化を生じるので,動脈硬化過程と基本的に発症機序は同じである。フラミンガム研究において,炎症性バイオマーカー(CRP, ICAM-1, IL-6, MCP-1)と心エコー図上の大動脈弁石灰化との関連は古典的リスク3因子で調整すると消失するので,炎症性バイオマーカーとリスク因子は同じ土俵上に位置している。心エコー図やCTを用いた他の研究では,高血圧・喫煙・LDL-C・Lp(a),あるいは,メタボリック症候群・糖尿病,あるいは,遺伝的高LDL-C素質,の各々が独立してAS石灰化と関連している。古典的リスク3因子を改善することでAS発症を低下させたランダム化試験はないが,弁膜変性の初期と進行期では作用機序が異なるかもしれない。
古典的リスク3因子と喫煙で男性のPADは75%が説明でき,さらに肥満を加えると男女とも心筋梗塞の80%が説明可能である。本研究のAS対象はAS入院と弁置換例のみで突然死している例は含まれず,リスク3因子の管理状況や心エコー図・喫煙・肥満は評価されていない。今回重度ASはリスク3因子で34%しか説明できず,年齢の関与度を考慮しても重要な因子がまだ隠れており,研究の余地が残っている。(星田
デザイン 縦断的コホート研究。
期間 追跡期間13年(中央値)。
参加者 112万108人。カナダ・オンタリオ州居住者のうち2002年4月1日時点で65歳以上の心臓弁膜症,冠動脈疾患,心不全,不整脈,脳血管疾患,先天性心疾患,心臓の症状による入院の既往のないもの。皆健康保険の一環であるOntario Health Insurance Plan番号有効者。
■背景:平均年齢74.1歳(中央値73歳),男性40.7%,高血圧53.2%,糖尿病15.1%,脂質異常症19.7%,ACE阻害薬/ARB 21.3%,β遮断薬11.2%,Ca拮抗薬13.7%,利尿薬17.3%,スタチン14.7%,その他の脂質低下薬15.7%,インスリン1.2%,その他の血糖降下薬7.1%。
調査方法 複数の住民ベース健康ケア関連データベース(Ontario Registered Persons, Canadian Institute for Health Information退院サマリ,オンタリオ高血圧・糖尿病,Ontario Drug Benefit prescription, Registrar General of Ontario Vital Statistics,カナダ統計局人口調査)とリンクした個人データから,合併症,処方,死亡などを確認した。
結果 [重度AS発症例背景と死亡率]
重度AS発症例は20,995例(1.9%)で,非発症例にくらべ有意に高齢(75.2歳 vs 74.0歳),高収入地域居住者(第1五分位:18.7% vs 20.0%,第5五分位:20.9% vs 19.6%),高血圧(65.9% vs 53.0%),糖尿病(21.0% vs 15.0%),脂質異常症(23.4% vs 19.6%)が多く,循環器治療薬服用率も有意に高かった(ACE阻害薬/ARB:32.7% vs 21.2%,β遮断薬:14.8% vs 11.2%,Ca拮抗薬:21.6% vs 13.5%,利尿薬:24.2% vs 17.2%,スタチン:22.1% vs 14.5%,その他の脂質低下薬:23.5% vs 15.6%,インスリン:2.1% vs 1.2%,その他の血糖降下薬:10.9% vs 7.0%)。
全体の死亡例は470,938例(42.0%)で,AS発症例の死亡率は非発症例にくらべ有意に高かった(60.0% vs 41.7%, p<0.001)。
[重度AS発症とCV危険因子との関連]
AS絶対発症率は144例/10万人・年(男性169例,女性127例/10万人・年,p<0.001)。
年齢で層別した発症率は,65~69歳:96.7,70~74歳:145.2,≧75歳:178.9/10万人・年。
既往で層別すると,高血圧:178.6,糖尿病:200.9,脂質異常症:171.5/10万人・年。
保有危険因子数別では0:95.8, 1:154.7, 2:200.2, 3:234.2/10万人・年。
10歳加齢ごとの調整ハザード比(HR)は1.71,女性は0.65。
[重度AS発症と有意な関係がみられた危険因子]
高血圧(調整HR:1.71;95%信頼区間[CI]1.66~1.76),糖尿病(1.49;1.44~1.54),脂質異常症(1.17;1.14~1.21)は,重度AS発症リスク上昇と独立して有意に関連した(全p<0.001)。糖尿病のうちインスリン治療例は2.34,血糖降下薬治療例は1.71。
また,保有危険因子数(0とくらべたHRは1:1.73, 2:2.31, 3:2.77;p for trend <0.001),危険因子罹病期間(<5年:高血圧1.50,糖尿病1.31,脂質異常症1.15,≧5年:1.81*, 1.58*, 1.19)とAS発症リスクに用量依存の正の関係がみられた。* p<0.001。
[その他]
女性は男性よりAS発症リスクが低かったものの,AS発症に対する危険因子の関係に男女間に有意差はなかった(女性[男性]:高血圧1.74[1.68],糖尿病1.54[1.44],脂質異常症1.17[1.17])。
AS発症に対する危険因子の人口寄与リスクは,高血圧23.4%(95%CI 22.0~24.9),糖尿病5.6%(4.9~6.2),脂質異常症4.4%(3.7~5.2),3因子で34.4%(32.8~36.0)。
★結論★高齢者において,高血圧,糖尿病,脂質異常症とAS発症に独立した用量依存的な関連がみられた。これら3因子は重度ASのおよそ3分の1を占める。

[主な結果]
  • Yan AT et al: Association between cardiovascular risk factors and aortic stenosis: the CANHEART aortic stenosis study. J Am Coll Cardiol. 2017; 69: 1523-32. PubMed

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収載年月2017.07