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SPIRE Cardiovascular OUTCOME
Studies of PCSK9 Inhibition and the Reduction of Vascular Events Cardiovascular OUTCOME

目的 3番目のPCSK9阻害薬であるボコシズマブ(bococizumab)は,完全ヒト型抗PCSK9モノクローナル抗体製剤であるevolocumab,alirocumabとは異なり,抗原が結合する相補性決定領域にネズミ配列が約3%残存するヒト化抗体である。開発プログラムの一環として,LDL-C値の異なる心血管高リスク患者において心血管転帰を検証する2つの大規模臨床試験Studies of PCSK9 Inhibition and the Reduction of Vascular Events(SPIRE)-1(LDL-C≧70mg/dL)とSPIRE-2(≧100mg/dL)が開始されたが,先行する脂質低下6試験のデータから,高抗体価の抗薬物抗体の発現によりLDL-C低下効果が長期的に減弱すること,さらに抗体陰性例でもLDL-C低下のばらつきが大きいことが報告され(N Engl J Med. 2017; March 17. doi: 10.1056/NEJMoa1614062. PubMed),早期終了となった。本報はこの2試験の結果。
心血管高リスクの患者において,bococizumab 150mg 1回/2週皮下注の心血管に対する安全性と有効性を検討する。

一次エンドポイントは,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,緊急血行再建術が必要な不安定狭心症による入院,心血管死の複合エンドポイント。
コメント PCSK9阻害薬(bococizumab)を用いた大規模臨床試験である。evolocumabやalirocumabが完全ヒト型単クローン抗体であるのに対し,bococizumabはヒト化単クローン抗体である点が異なる。このため,bococizumabでは,bococizumabに対する抗体,特に中和抗体が出現したことである。このことによりLDL-Cの低下が徐々に減弱するという弱点が存在し,本大規模臨床試験は中途で中断されることとなった。しかし,中和抗体が出現しなかった患者ではLDL-Cは十分低下しており,PCSK9阻害の効果は抗体治療の普遍的有効性を示したことにはなる。また,中間解析にはなるが,本試験ではリスクの低い群(SPIRE1)と高い群(SPIRE2)の2群で行っており,有効性の違いを見ることができるように設定されていたが,やはり,リスクの高い群では,有意に抑制効果が観察されており,中間解析とはいえ,リスクに応じてLDL-Cの低下療法の程度を決定するという意義を改めて示したという点では評価できる。
今後,このような試験から,ガイドラインのLDL-Cの治療目標値の再検討がなされることを期待するとともに,LDL-C低下療法が心血管イベント抑制薬という概念を確立し,適応も獲得することを期待するものである。(寺本
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(35か国)。
期間 追跡期間中央値は10か月(SPIRE-1:7か月,SPIRE-2:12か月)。
試験期間は2013年10月~’16年11月1日。
対象患者 ≧50歳,女性>60歳または家族性高コレステロール血症既往(≧35歳,≧45歳)に加え危険因子を≧1つ保有するもの(一次予防コホート),あるいは心血管疾患患者(二次予防コホート)で,スタチン治療(atorvastatin≧40mg/日,rosuvastatin≧20mg/日,simvastatin≧40mg/日*)を≧4週間受けているもの。SPIRE-1はLDL-C≧70mg/dL, non-HDL-C≧100mg/dL,SPIRE-2はそれぞれ≧100mg/dL, ≧130mg/dL。
* 副作用があればより低強度のスタチン。ただし,SPIRE-2のスタチン完全不忍容例(スタチン≧2剤に不忍容,スタチンによる横紋筋融解症・アレルギー)は除く。
除外基準:PCI,CABG,その他の動脈血管血行再建術予定例,≦90日の冠動脈血行再建術施行例,NYHA心機能分類IV度あるいはEF<25%,初回検査時に糸球体濾過量<30mL/分/1.73m²,コントロール不良の高血圧など。
■患者背景:平均年齢(SPIRE-1:両群とも63.3歳;SPIRE -2:bococizumab群62.2歳,プラセボ群62.6歳),LDL-C(93.8, 93.7mg/dL;133.9, 133.4mg/dL),女性(26.3%, 26.5%;34.1%, 35.1%),糖尿病(48.3%, 47.4%;47.8%,46.1%),高血圧(81.2%, 80.9%;81.3%, 79.6%),現喫煙(22.8%, 23.0%;27.7%, 26.6%),一次予防コホート(13.0%, 13.8%;18.9%, 18.5%),家族性高コレステロール血症(1.7%, 1.8%;7.0%, 7.6%),スタチン投与(99.1%, 99.2%;83.2%, 83.1%),ezetimibe使用(7.6%, 8.2%;13.0%, 13.8%)。
治療法 bococizumab群(13,720例[SPIRE-1:8,408例;-2:5,312例]):150mg 1回/2週皮下注。2回連続して外来受診時にLDL-C<10mg/dLとなった場合は75mg 1回/2週,必要であればさらに75mg 1回/4週に減量。
プラセボ群(13,718例[8,409例;5,309例])。
結果 [早期終了試験]
[脂質値の変化]
両試験を統合すると,14週後のLDL-Cのベースラインからの平均変化率はbococizumab群-56%,プラセボ群+2.9%で,bococizumab群ではプラセボ群にくらべ59パーセントポイント有意に低下し(p<0.001),ベースラインからの低下率の中央値は64.2%(p<0.001)であった。同群のLDL-C≦25mg/dL例は28%。
同群はプラセボ群よりも,総コレステロール(-37.0%),アポリポ蛋白B(-55.3%),non-HDL-C(-53.6%),リポ蛋白(a)(-30.9%),トリグリセライド(-19.4%)が有意に低下した(全p<0.001)。高感度CRPには群間差はなかった。
ただし,bococizumab群におけるLDL-Cの低下は時間とともに減弱し(52週後:-41.8%,104週後:-38.3%),先行の脂質低下試験で報告されたようにLDL-C低下の個人差が大きかった。
[一次エンドポイント]
リスクがより低く,追跡期間がより短かったSPIRE-1では,bococizumab群のプラセボ群にくらべた有効性は認められなかった(173例[3.01/100人・年] vs 173例[3.02/100人・年]:ハザード比0.99;95%信頼区間0.80~1.22, p=0.94)。
一方,リスクがより高く,追跡期間も長かったSPIRE-2では,bococizumab群のほうがリスクが低かった(179例[3.32/100人・年] vs 224例[4.19/100人・年]:0.79;0.65~0.97, p=0.02)。
統合解析では同群の有意な低下は認められなかった(352例[3.16/100人・年] vs 397例[3.59/100人・年]:0.88;0.76~1.02, p=0.08)。
[有害事象]
有害事象(8,727件 vs 8,289件),有害事象による投与中止(684件 vs 466件)はbococizumab群のほうが多かったが(ともにp<0.001),重篤な有害事象に差はなかった(1,995件 vs 1,999件)。年間(100人・年)注射部位反応もbococizumab群のほうが多かった(10.4% vs 1.3%;p<0.001)。
新規糖尿病発症(両群とも4.2%),白内障(両群とも1.1%),肝機能,腎機能にも差はなかった。
★結論★心血管高リスクの患者のうち,より低リスクの患者ではbococizumab群のプラセボ群にくらべた主要有害心血管イベントリスクの低下は認められなかったが,より高リスクの患者ではbococizumab群のほうが有意にリスクが低かった。
ClinicalTrials gov No: SPIRE-1;NCT01975376,SPIRE-2;NCT01975389
文献
  • [main]
  • Ridker PM, et al for the SPIRE cardiovascular outcome investigators: Cardiovascular efficacy and safety of bococizumab in high-risk patients. N Engl J Med. 2017; 376: 1527-39. Epub 2017 Mar 17. PubMed
  • [substudy]
  • 症状の安定したCVD患者集団において,スタチンとbococizumabの併用療法によってもなお炎症リスクは残存。
    LDL-Cが著明に低下してもなお残存する炎症リスクが臨床的に問題となるかは明らかになっていない。治療中の高感度C反応性蛋白(hsCRP OT)値を指標として,bococizumab併用群における残存炎症リスクとイベントとの関係を検証(post hoc解析)。
    対象は,SPIRE-1,SPIRE-2参加者のうち,症状が安定し,bococizumab併用群に割り付けられ,14週後のhsCRP値データが得られた9,738例。
    [hsCRP OTとCVイベント*発症リスク]
    hsCRP OT値で層別すると[hsCRP OT <1 mg/L群2,958例(30.4 %),1~3 mg/L群3,385例(34.8 %),>3 mg/L群3,395例(34.9 %)],CVイベント発症率はそれぞれ,1.96, 2.50, 3.59/100人・年であった。hsCRP OT <1 mg/L群を対照とした場合のCVイベント発症ハザード比(HR)は,1~3 mg/L群:1.16(0.81~1.66, P =0.4),>3 mg/L群:1.62(1.14~2.30, P =0.007)であった。hsCRP OT高値例では,女性,肥満,糖尿病または高血圧症罹病,現喫煙者が多く,CVD既往者は少なかった。
    *非致死的MI,非致死的脳卒中,緊急血行再建が必要な不安定狭心症による入院,CV死。
    [bococizumab併用によるLDL-CおよびhsCRP低減効果]
    14週後のLDL-C平均変化率は-60.5%であったのに対し,hsCRPの平均変化率は6.6%で,併用療法によるhsCRPへの著明な効果は示されなかった。
    Pradhan AD, et al: Residual Inflammatory Risk on Treatment With PCSK9 Inhibition and Statin Therapy. Circulation. 2018; 138: 141-9. PubMed

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収載年月2017.03
更新年月2018.10