循環器トライアルデータベース

TIAregistry.org

目的 1997~2003年の研究で,一過性脳虚血発作(TIA)・軽症脳卒中患者の発症後3か月間の脳卒中・急性冠症候群(ACS)発症リスクは12~20%と推定された。その後,専門ユニットでの救急管理,迅速な評価,抗血栓薬治療などが導入され,診療体制は大きく変化したが,患者の予後がどう変わったかは明らかでない。また,ABCD²スコア*≧4のTIA患者に急性期治療が推奨されているが,治療が必要な患者すべてを同定できるわけではない。
TIA・軽症脳卒中患者のデータを用いて,患者の特徴,病因,(1)短期および(2)長期転帰をそれぞれ検証し,リスクの同定方法を再評価する。
主要評価項目は,(1)短期[1年],(2)長期[5年]の心血管(CV)死,非致死的脳卒中,非致死的ACSの複合エンドポイント。
* 年齢,血圧,臨床所見,症状持続期間,糖尿病の有無でスコア化。範囲0~7,高スコアほど脳卒中リスクが高い。
コメント N Engl J Med. 2016; 374: 1533-42. へのコメント
TIA後の脳卒中・心血管イベントは,従来の報告よりかなり低いことが示された。本研究では2/3以上がABCD²スコア4以上であり,決して軽症例が対象になったわけではない。これは,抗血小板療法や抗凝固療法(心房細動)の早期開始,積極的な再疎通治療の施行,降圧や脂質低下療法の積極的な介入などが効を奏したものと考えられる。本研究で,脳梗塞の予測因子として, ①脳画像上,多発性梗塞病変の存在,②ABCD²スコア6~7,③大血管のアテローム性動脈硬化症の存在が明らかにされたが,①はプラーク破綻による遠隔枝の塞栓によると考えられる。この予測因子は本研究で初めて明らかにされたもので,今後の検証が期待される。(
デザイン 前向き登録研究。
(1)多施設(21か国61施設)。
(2)5年後追跡率が≧50%の42施設。
期間 登録期間は2009年6月~’11年12月。
(1)追跡期間中央値は27.2か月。
(2)追跡期間中央値は5.01年。
対象患者 (1)4,583例。18歳以上,TIA・軽症脳卒中発症後7日以内に,救急受診にて脳卒中専門医による評価を受けた患者。局所の網膜虚血・脳虚血症状を一過性に発症し,初回評価時にmodified Rankin scale(mRS)0~1だったもの。施設は,脳卒中専門医によるTIA患者の診療体制が整っており,最近3年間の診療実績≧100例/年の施設とした。
■患者背景:平均年齢66.1歳,男性60.2%,高血圧70.0%,糖尿病19.6%,脂質異常症69.9%,喫煙歴24.6%,現喫煙21.9%,定期飲酒20.3%,定期運動22.3%,脳卒中・TIA既往 17.6%,冠動脈疾患既往12.4%,mRS(0:69.8%, 1:30.2%),BMI 26.5kg/m²,血圧146/81mmHg,血糖値105mg/dL*,LDL-C 119mg/dL,HDL-C 50mg/dL,独居33.9%,発症後24時間以内の受診87.6%;脳卒中専門医による評価78.4%,入院日数4日** 中央値
入院前の服用薬:抗血小板薬≧1剤26.9%(aspirin 23.5%),抗凝固薬≧1剤5.1%,降圧薬≧1剤54.7%,脂質低下薬≧1剤26.6%(スタチン24.7%)。

(2)3,847例。
■患者背景:血圧132/77 mmHg, LDL-C 92 mg/dL。現喫煙率7.7%。5年時点(1年時点)の薬剤使用割合は,降圧薬≧1剤70.5%(71.1%),脂質低下薬≧1剤63.9%(67.8%),血糖降下薬≧1剤17.7%(17.3%),抗血小板薬≧1剤71.1%(78.0%),抗凝固薬≧1剤17.0%(17.2%)。
治療法 ベースライン時,1,3,12か月後とその後12か月ごとに,脳卒中専門医が患者との面談または近親者・家庭医への電話調査によりデータを収集。
結果 (1)短期(1年後)
[患者の特徴と検査所見]
24時間以内に専門医の評価を受けた患者は24時間以降に受けた患者にくらべ,ABCD²スコアが高かった(4.7 vs. 3.8, P <0.001)。
CT・拡散強調画像検査の実施率は96.5%,CT・MRA・ドプラは頭蓋外87.9%,頭蓋内79.8%,ECG・24時間ホルターECGは90.6%,経食道・胸壁心エコーは58.7%。
急性脳梗塞は33.4%,頭蓋外・内血管の≧50%狭窄≧1病変は23.2%,心房細動・粗動10.4%;新規診断5.0%。
[治療]
入院中の頸動脈血行再建術3.6%,心房細動に対する抗凝固薬投与8.1%,抗血小板薬≧1剤投与90.2%。
薬物治療は,抗血小板薬≧1剤(退院時90.2%,3か月後81.4%,12か月後78.8%;aspirin:68.0%, 61.2%, 58.0%),抗凝固薬≧1剤(17.6%, 16.7%, 17.4%),降圧薬≧1剤(67.7%, 69.3%, 71.4%),脂質低下薬≧1剤(69.8%, 69.8%, 67.5%;スタチン:67.3%, 67.8%, 65.2%)で,退院後のアドヒアランスは良好であった。
[転帰]
1年以上追跡例(死亡例を含む)は4,200例(91.6%)。
複合エンドポイント発生は274例(Kaplan-Meier推定による発生率6.2%),うち心血管死は25例(0.6%),非致死的脳卒中210例(4.7%),非致死的ACS 39例(0.9%)。
全死亡は80例(1.8%),脳卒中・TIA再発533例(12.0%),ACS 46例(1.1%),出血87例(2.0%)。
2,7,30,90日後,1年後の脳卒中発症率はそれぞれ1.5%, 2.1%, 2.8%, 3.7%, 5.1%で,ABCD²スコアが高いほどリスクが高かった(1年リスク:0%[スコア0]~9.6%[スコア7])。
脳卒中の22%はABCD²スコア<4の症例で発症した。
[転帰予測因子]
多変量Cox回帰分析による1年後の脳卒中の独立した予測因子は,脳画像上の複数の急性梗塞巣(vs. 梗塞なし:ハザード比2.16;95%信頼区間1.46~3.21, P <0.001),ABCD²スコア6~7(vs. スコア0~3:2.20;1.41~3.42, P <0.001),大血管のアテローム性動脈硬化症(vs. 原因不明:2.01;1.29~3.13, P =0.002)。
★結論★ TIA/軽症脳卒中発症後の心血管イベントリスクは従来の報告より低かった。1年以内の脳卒中再発リスクの層別化にはABCD²スコア,脳画像所見,大動脈アテローム性硬化症の評価が有用であることが示された。

(2)長期(5年後)
各施設の追跡率中央値92.3%。
[転帰]主要評価項目であるCV複合イベントの発生は469例[うち235例(50.1%)は追跡2~5年目の間に発生,推定累積発生率12.9%(95%信頼区間 11.8~14.1)]。各イベントの5年時点の推定累積発生率は,脳卒中9.5%(149例のうち43.2%が2~5年目での発症)。副次評価項目は,全死亡10.6%,CV死2.7%,頭蓋内出血1.1%,大出血1.5%であった。
[転帰予測因子]
多変量解析の結果,発症後2~5年の間における脳卒中再発の独立した予測因子は,同側の大血管アテローム性硬化症,心原性塞栓症,ABCD²スコア≧4。
★結論★ 脳卒中を含むCVリスクは5年後も1年後と同様に高いままであった。
文献
  • [main]
  • (1) Amarenco P, et al for the TIAregistry.org investigators: One-year risk of stroke after transient ischemic attack or minor stroke. N Engl J Med. 2016; 374: 1533-42. PubMed
  • (2) Amarenco P, et al for the TIAregistry.org Investigators. Five-year risk of stroke after TIA or minor ischemic stroke. N Engl J Med. 2018; 378: 2182-90. PubMed

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収載年月2016.08
更新年月2018.07