循環器トライアルデータベース

TAVR-LM Registry

目的 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)を施行する重症大動脈弁狭窄症患者は有意な左主幹部(LM)病変を合併していることがあり,TAVR+LMへのPCI(LM PCI)の施行が増加しているが,その転帰は報告されていない。また,LM入口部と大動脈弁輪は解剖学的に近接しているためステントと弁が接触するリスクがあり,両病変の合併による血行動態の悪化も懸念される。
TAVR+LM PCIを施行した高リスク患者の臨床転帰を検証し,病変タイプ(入口部,保護か否か)やLM PCIの施行タイミングが転帰に及ぼす影響と転帰の予測因子を探索する。
コメント TAVR-LM Registryは左主幹部(LM)に対するPCIと重症大動脈弁狭窄症(severe AS)に対して,経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の両手技を施行した患者連続204例の多施設後ろ向きレジストリーである。日常診療において稀でなく遭遇するハイリスク患者の治療方針判断に示唆を与える重要な報告である。まとまった数の患者を連続症例とすることで,後ろ向きレジストリーであっても診療上有用な情報が提供出来ることを示す良い例である。
本研究の結論は以下の通りである。
1. TAVRの前あるいはTAVRと同時にLM-PCIを予定施行する手技の安全性は,LM病変の血行再建を必要としない患者に対するTAVRのリスクと大きくは異ならない。
2. TAVRの前あるいはTAVRと同時にLM-PCIを予定施行する手技の結果は,LM病変が非保護かどうか,入口部病変かどうか,またPCIの施行時期に影響されない。
3. TAVR施行後の計画されない(緊急の)LM-PCI施行例19例の死亡率は高いが,あらかじめガイドワイヤーで冠動脈が保護されていた6症例では死亡例はなかった。
4. TAVR施行後にLM-PCIが施行された9症例では,LM入口部へのガイドカテーテル挿入に特に問題なく,全例に手技成功が得られた。
本研究の結果を受けて,有意のLM病変を合併するTAVR予定患者の基本的な治療方針は「TAVRの前あるいはTAVRと同時にLM-PCIを予定施行する」ということになろう。もちろん,個々の患者さんの条件をしっかりと評価して治療方針を決定して行く必要があることは言うまでもないが。(木村
デザイン 登録研究,多施設(カナダなど北米,欧州の11施設)。
期間 登録期間は2007年1月~’14年12月。
参加者 204例(TAVR施行例の3.2%)。TAVR,LM PCI併用施行患者。
■患者背景(全例):平均年齢80.9歳,高血圧87.3%,脂質異常症68.1%,喫煙22.1%,糖尿病28.4%,末梢動脈疾患(PAD)33.3%,TAVR前のSYNTAXスコア4.1,NYHA心機能分類(III度:55.4%,IV度:19.6%),血管アプローチ(経大腿:73.0%,経心尖:18.6%,経大動脈:5.9%,経鎖骨下:2.5%),デバイスサイズ(23~25mm:26.5%, 26~27mm:46.6%, 29~31mm:27.0%),使用弁(Edwards:64.7%, CoreValve:33.3%),LM狭窄部位(LMのみ:22.9%,LM+1枝:28.7%,+2枝:28.2%,+3枝:20.2%),LM入口部ステント53.9%,LM分岐部ステント50.5%,薬剤溶出性ステント73.0%,狭窄率67.4%,病変長12.1mm,ステント長18.8mm,ステント留置病変数1.6。
・マッチ症例対照:平均年齢(TAVR+LM群81.7歳,マッチ対照群81.0歳),女性(36.7%, 31.3%),糖尿病(30.5%, 35.9%),高血圧(88.3%, 90.6%),PAD(34.4%, 41.4%),アプローチ血管(経大腿・鎖骨下:80.5%, 71.1%),BMI(両群とも25.8kg/m²),STSスコア(7.8, 8.0),EF(53.5%, 55.5%),EF≦30%:両群とも7.0%,平均圧較差(47.9mmHg, 45.7mmHg;≦30mmHg:両群とも7.8%),大動脈弁口面積(0.7cm², 0.6cm²;p<0.01)。
調査方法 症例を3群に層別:予定されたLM PCI施行例(176例;既存のLM病変に対するLM PCIをTAVR手技前[167例]・手技中[9例]に施行),予定外のLM PCI施行例(19例;TAVR関連の冠動脈合併症に対するLM PCIを手技中[17例]・手技後24時間以内[2例]に施行),手技後LM PCI施行例(9例;TAVRのステントフレームに関連しないLM狭窄に対しLM PCIを手技の24時間後以降に施行)。
既存のLM病変に対するLM PCIを手技前に施行した167例と,2007年12月~’13年12月にTAVRのみを施行した1,188例から,年齢,体重,STSスコア,大動脈圧較差,EFなどで1:1にマッチングしたTAVR+LM PCIコホート・対照コホート128組を作成し,転帰を比較した。
結果 [臨床転帰]
30日死亡率(TAVR+LM PCI群3.1% vs マッチ対照群2.3%[ハザード比1.38;95%信頼区間0.31~6.16]),1年死亡率(9.4% vs 10.2%[1.09;0.50~2.39])に有意な両群間差は認められなかった。
主要血管合併症は16.4% vs 3.9%(p<0.01),永久ペースメーカー植込みは26.6% vs 14.1%(p=0.02)。
1年後の標的血管再血行再建術(TVR)はTAVR+LM PCI群のほうが高い傾向であったが(5.5% vs 1.6%, p=0.06),その他の周術期,30日後,1年後の転帰にも差はなかった。
[転帰への影響]
非保護LM病変に対するTAVR+LM PCI施行例(102例)と保護LM病変に対する施行例(74例)で,1年後の死亡率(7.8% vs 8.1%),脳卒中(3.0% vs 0.0%),心筋梗塞(MI)(3.0% vs 1.4%), TVR(5.9% vs 1.4%)に有意差はみられなかった。
LM PCI をTAVR施行前3か月以内に施行した患者(95例)と>3か月前に施行した患者(81例)の1年死亡率にも差はなく(7.4% vs 8.6%),3か月以内の施行例で急性腎障害(AKI)(6.3% vs 5.2%),主要血管合併症(13.7% vs 12.3%),大出血・生命を脅かす出血(13.7% vs 14.8%)の増加は認められなかった。
LMステント留置位置が入口部(87例)と非入口部(89例)の症例でも,1年死亡率(10.3% vs 15.6%), TVR(2.4% vs 5.7%), MI(1.2% vs 3.4%)に差はなかった。
予定外のLM PCI施行例は予定された施行例にくらべ死亡率が高かった(30日後:15.8% vs 3.4%[4.91;1.23~19.64], p=0.013,1年後:21.1% vs 8.0%[2.67;0.88~8.12], p=0.071)。
[予測因子]
単変量解析による30日後の死亡予測因子は,予定外のLM PCI,2個目の弁,AKI,血液透析,1年後の死亡予測因子は,予定外のLM PCI,2個目の弁,AKI,低体重であった。
★結論★大動脈弁輪とLMは解剖学的に近接しているにもかかわらず,TAVR+LM PCIは安全で技術的に実施可能であり,短期・中期の臨床転帰はTAVRのみの施行例と変わらなかった。TAVR+LM PCIは手術高リスク例の妥当な選択肢である可能性が示唆された。

[主な結果]
  • Chakravarty T et al: Outcomes in patients with transcatheter aortic valve replacement and left main stenting: the TAVR-LM Registry. J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 951-60. PubMed
    Barbanti M: TAVR and left main stenting: can 2 giants live in harmony in a small room? J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 961-2. PubMed

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収載年月2016.09