循環器トライアルデータベース

SPRINT
Systolic Blood Pressure Intervention Trial

目的 降圧治療により心血管疾患(CVD)リスクは低下するが,目標収縮期血圧(SBP)値は明らかでない。2型糖尿病患者を対象とした試験(ACCORD)では,目標SBP<120mmHgへの厳格降圧と標準的な<140mmHgへの降圧では主要心血管イベントの発生率に差はみられなかった。脳卒中既往例を対象とした試験(SPS3)では,<130mmHgと<150mmHgへの降圧で脳卒中再発予防に差はみられなかったが,出血性脳卒中は<130mmHg群で有意に低下した。
米国立心肺血液研究所(NHLBI)は,非糖尿病者における高血圧関連合併症の予防効果を検証するもっとも重要な仮説として,目標SBP<120mmHgでの降圧治療は<140mmHgにくらべ臨床イベント発生率が低いという仮説を立て,その検証を行った。

一次エンドポイントは,心筋梗塞(MI),その他の急性冠症候群,脳卒中,急性非代償性心不全,心血管死の複合エンドポイント。
コメント N Engl J Med. 2015; 373: 2103-16. へのコメント
これまでフラミンガム研究などの観察研究で収縮期血圧120mmHg以上から心血管合併症が増えてくることは明らかにされており,120mmHgは至適血圧値とよばれていた。しかし降圧薬治療でこのレベルまで下げることの是非については多くの議論があった。とくに高齢者では降圧目標値を高めに設定するという意見が少なくなかった。また,HOT試験以来論争になっている冠動脈疾患におけるJカーブ論争を決着させたいという思いもあった。今回,米国NIHが総力をあげて取り組んだSPRINT試験でそれらの論争に一つの決着をつけた形である。とくに高齢者や高リスクの症例も厳格な降圧が生命予後を改善することを示した点で意義が大きい。ただし,脳卒中とACCORDで決着済みと考えられていると思われる糖尿病を除外しており,両群の差が明らかになったため倫理委員会の勧告により途中で打ち切られた。
注目すべきは主要評価項目全体のハザード比を減少させたなかで,心不全発症と心血管死のみが有意にかつ大幅に減少しており,これが全体の主要評価項目で厳格降圧治療群が好ましいという結果に導いていることである。
このような心不全発症の抑制効果が全体の流れに大きく影響するという現象はかつてのALLHAT試験でも観察され,最近では糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の有用性を検証したEMPA-REG OUTCOMEでもみられている。前者では降圧薬としてのサイアザイド系利尿薬,後者ではSGLT2阻害薬の利尿作用が大きく心不全発症に貢献したと考えられている。
今回のSPRINT試験でも,サイアザイド類似薬を優先的に使うことが推奨されていることから考えると,やはり心血管合併症を構成する重要な要素である心不全の抑制には利尿薬が不可欠であることを示唆している。
しかしSPRINTの結果をそのまま臨床に適応することには慎重であるべきである。
血圧測定環境が,医師のいない場所で自動血圧計による3回血圧測定の平均値であることは注目すべきである。すなわち白衣高血圧を徹底的に除外している状態での血圧評価である。わが国の家庭血圧計を用いた観察研究も収縮期血圧がほぼ120mmHg以上から心血管イベントが上昇することをすでに発表していることから,実際の臨床応用にあたっては家庭血圧で静かな環境での収縮期血圧120mmHgを目標とすべきと思われる。
もう一つ注意が必要なことは,今回の結果は血圧が安定するまで1ヵ月ごとの受診という細かい観察,しかも臨床研究という究極の適正治療の場での結果であることは留意すべきである。
とくに今回明らかになったように,腎機能の悪化,電解質異常の悪化は重篤な病態を招きかねない。低ナトリウム血症,低カリウム血症が厳格降圧群で多いことは,サイアザイド類似降圧薬の影響と思われる。本剤は非常に強力である反面,電解質異常にはくれぐれも注意が必要である。
<まとめ>
高リスク,高齢者では降圧目標120mmHgの厳格降圧が心血管合併症や生命予後を改善することが示されたが,血圧測定環境が日本の一般臨床とは異なること, 臨床研究という慎重な観察のもとで行われた降圧治療であることを念頭におくべきである(桑島)。

JAMA. 2016; 315: 2763-82.へのコメント
■高齢者における降圧療法を振り返る
高齢者に対する降圧療法の論議を振り返ると,50年前は60歳以上では血圧を下げる必要は全くないというのが,専門家も含め多くの医師の共通した認識であった。しかしそのような認識を大きく変えたのが,1991年に発表されたSHEP試験である。この試験では少なくとも収縮期血圧(SBP)が160mmHg以上の場合には,降圧薬で血圧を下げることは脳心血管合併症を抑制するのに有用であることが明確に示された。しかしこの試験では治療群の達成血圧レベルが143mmHgであり,140mmHg以下に下げるというエビデンスではないという,高齢者での降圧レベルは150mmHgとする当時の高血圧学会の重鎮たちの主張がガイドラインなどにも反映されていた。
SHEP試験では80歳以上は除外されており,後期高齢者に対する降圧薬治療の有用性は明らかにはならなかった。しかしその問題に風穴を開けたのがHYVET試験である。この試験は,80歳以上の症例のみを対象としてインダパミドを第一選択薬とした降圧薬治療の有用性をプラセボ群と比較したランダム化比較試験であるが,高齢者でも降圧薬治療が脳心血管合併症を予防することを明瞭に示した。しかし,治療群の達成血圧値は144/78mmHgであったことから,後期高齢者の降圧目標を140/90mmHg未満とすることにはほとんどのガイドラインが消極的であった。
■SPRINT試験高齢者サブ解析
SPRINTサブ解析は,75歳以上の高齢者高血圧ではSBP 140mmHg未満を目指す緩和目標(標準降圧)群よりも,120mmHg未満の厳格降圧群のほうが生命予後の改善に良好であることを示した点で画期的である。サブ解析とはいえ,対象数は2,636例と解析には十分たえられる症例数であり,信頼性は高い。
厳格降圧群で実際に達成された血圧値は123.4/62.0mmHgであることから,後期高齢者では収縮期血圧120-130mmHgが好ましく,拡張期血圧(DBP)への配慮は不要であることを示唆している。かつてDBPが80mmHg以下では死亡率が増加するというJ-カーブ仮説がまことしやかに流布していたことを考えると,今昔の感がある。
本試験の特徴はfrailtyについても詳細に検討していることで,参加者の55%以上がless fitであり,歩行速度が遅い症例も28%前後含まれており,一般社会の後期高齢者の頻度とは差がないことが示されている。この点,頑強な高齢者ばかりを対象とした試験ではないことが示されたわけである。しかしfrailな例や歩行速度の遅い症例は試験からの脱落率も高いことが記載されており,本結果を読み解く上で重要なことである。
一次エンドポイントには全死亡は含まれていないが,厳格降圧群で標準降圧群にくらべて34%減少しており,NNTは27とかなり低い数値である。一次エンドポイントの中でも心不全抑制率が顕著である。しかし,もともとCKDを有していなかった症例において,厳格降圧群のほうが腎機能悪化症例が3倍以上増えたことには注目する必要がある。また厳格降圧による有用性が示されたのは心筋梗塞や脳梗塞といった心血管合併症ではなく,心不全というこれまでのトライアルではしばしば二次エンドポイントとされてきた疾患であることも注意しておく必要がある。SPRINTでは脳卒中既往例や糖尿病例は含まれていないことから,もともと心機能が低下している症例が高血圧という後負荷が軽減されたことで心不全の抑制に有効であったと思われる。
frailtyのサブ解析では,frailになるほどエンドポイント発症率が経過とともに高くなっていることが示されているが,興味深いのはfailな症例ほど厳格降圧の一次エンドポイント抑制効果が大きくなることである。これは普段臨床医師が考えていた概念とはまったく違う意外な結果である。ただ厳格治療群のほうが,低血圧,失神,電解質異常,急性腎障害が多いという結果は,後期高齢者では単に積極的に血圧を下げるだけではなく,これらの有害事象が起こりやすいことを念頭においた極めて慎重な対応が必要であることを示唆している。(桑島
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded endpoints),多施設(米国,プエルトリコの102施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は3.26年(中央値)。
登録期間は2010年11月~’13年3月。
対象患者 9,361例。50歳以上,SBP 130~180mmHgで,下記のCVDリスク因子1つ以上を満たすのもの:臨床的・無症候性CVD(脳卒中を除く),慢性腎臓病(CKD;多嚢胞性腎症を除く),フラミンガム10年CVDリスクスコア≧15%,≧75歳。
除外基準:糖尿病,脳卒中既往。
■患者背景:平均年齢67.9歳,≧75歳(厳格降圧群79.8歳,標準降圧群79.9歳),女性(36.0%, 35.2%),非ヒスパニック系白人(両群とも57.7%),非ヒスパニック系黒人(29.5%, 30.4%),黒人(31.1%, 31.9%),推算糸球体濾過量(eGFR)(71.8, 71.7mL/分/1.73m²),総コレステロール(190.2, 190.0mg/dL),HDL-C(52.9, 52.8mg/dL),トリグリセライド(124.8, 127.1mg/dL),血糖値(両群とも98.8mg/dL),スタチン投与(42.6%, 44.7%),aspirin投与(51.6%, 50.4%),非喫煙(43.8%, 44.2%),BMI(29.9, 29.8kg/m²),服用降圧剤(両群とも1.8剤),降圧剤非投与(9.2%, 9.6%)。
CVDリスク因子:≧75歳(両群とも28.2%),CKD(28.4%, 28.1%),CVD(20.1%, 20.0%);フラミンガム10年CVDリスクスコア≧15%(61.4%, 61.2%)。
SBPの分布:≦132mmHg(33.8%, 33.2%);>132~<145mmHg(31.8%, 33.1%),≧145mmHg(34.3%, 33.8%)。
治療法 厳格降圧群(4,678例):目標SBP<120mmHg。
標準降圧群(4,683例):目標SBP<140mmHg。135~139mmHgを目標に薬物治療を調整。
血圧は診察室で5分安静後,自動血圧計(Omron Healthcare Model 907)を用いて座位にて3回測定した平均値を採用。受診は月1回×3か月,以後は3か月ごと。
主要クラスの降圧薬すべてを試験薬に含めたが,それ以外の薬剤も投与可とした。サイアザイド類似薬(第一選択薬として推奨),ループ利尿薬(進行CKD患者),β遮断薬(冠動脈疾患患者)など,CVD抑制のエビデンスのある薬剤の使用を推奨。サイアザイド類似薬はchlorthalidone,Ca拮抗薬はamlodipineを第一選択薬として推奨。
結果 予定追跡期間は平均5年だったが,厳格降圧群で一次エンドポイントリスクの有意な低下が示されたため,2015年8月20日に早期終了した。
[降圧治療と血圧の変化]
使用降圧剤数は厳格降圧群2.8剤,標準降圧群1.8剤。
SBPの変化(ベースライン→ 1年後→追跡終了時)は,厳格降圧群139.7→ 121.4→ 121.5mmHg,標準降圧群139.7→ 136.2→ 134.6mmHg。
拡張期血圧(ベースライン→ 1年後)は,それぞれ78.2→ 68.7mmHg, 78.0→ 76.3mmHg。
[一次エンドポイント]
厳格降圧群は標準降圧群にくらべ有意にリスクが低かった(243例[1.65%/年] vs 319例[2.19%/年]:ハザード比0.75;95%信頼区間0.64~0.89, p<0.001;NNT=61)。
年齢(≧75歳),CKD既往,性別,人種などのサブグループ解析の結果も変わらなかった。
[二次エンドポイント]
厳格降圧群のほうが心不全(0.41 vs 0.67%/年:0.62;0.45~0.84, p=0.002),心血管死(0.25 vs 0.43%/年:0.57;0.38~0.85, p=0.005;NNT=172),全死亡(1.03 vs 1.40%/年,0.73;0.60~0.90, p=0.003;NNT=90)のリスクが低かったが,MI(0.65 vs 0.78%/年),ACS(0.27 vs 0.27%/年),脳卒中(0.41 vs 0.47%/年)には有意差を認めなかった。
[腎転帰]
ベースライン時CKD患者(1,330例,1,316例)において,eGFRの≧50%低下と末期腎不全発症の複合エンドポイントの発生率は両群ともに低く,有意な群間差は認められなかった(0.33 vs 0.36%/年)。
一方,非CKD患者(3,332例,3,345例)では,eGFRが≧30%減少し<60mL/分/1.73m²への低下例は厳格降圧群のほうが多かった(1.21 vs 0.35%/年;3.49;2.44~5.10,p<0.001)。
[有害事象]
厳格降圧群は重篤な有害事象のうち低血圧(2.4% vs 1.4%, p=0.001),失神(2.3% vs 1.7%;p=0.05),電解質異常(3.1% vs 2.3%, p=0.02),急性腎障害・腎不全(4.1% vs 2.5%, p<0.001)が多かったが,傷害を伴う転倒(2.2% vs 2.3%),徐脈(1.9% vs 1.6%)は同等であった。起立性低血圧は厳格降圧群のほうが少なかった(16.6% vs 18.3%;p=0.01)。
★結論★CVDリスクの高い非糖尿病者において,目標SBP<120mmHgでの厳格降圧群は<140mmHgの標準降圧群にくらべ,致死的・非致死的主要心血管イベントおよび全死亡の発生率が有意に低かったが,一部の有害事象の発生率が有意に高かった。
Clinicaltrials.gov:NCT01206062
公式サイトURL:https://www.sprinttrial.org/public/dspHome.cfm
文献
  • [main]
  • The SPRINT research group: A randomized trial of intensive versus standard blood-pressure control. N Engl J Med. 2015; 373: 2103-16. PubMed
    Perkovic V and Rodgers A: Redefining blood-pressure targets — SPRINT starts the marathon. N Engl J Med. 2015; 373: 2175-8. PubMed
    Drazen JM et al: A SPRINT to the finish. N Engl J Med. 2015; 373: 2174-5. PubMed
    Jones DW et al: SPRINT: What Remains Unanswered and Where Do We Go From Here? Hypertension. 2016; 67: 261-2. Epub 2015 Nov 9. PubMed
    Esler M: SPRINT, or False Start, Toward a Lower Universal-Treated Blood Pressure Target in Hypertension. Hypertension. 2016; 67: 266-7. Epub 2015 Nov 9. PubMed
    Cushman WC et al: SPRINT Trial Results: Latest News in Hypertension Management. Hypertension. 2016; 67: 263-5. Epub 2015 Nov 9. PubMed
    Touyz RM and Dominiczak AF: Successes of SPRINT, but Still Some Hurdles to Cross. Hypertension. 2016; 67: 268-9. Epub 2015 Nov 10. PubMed
  • [substudy]
  • 10年CVD発症リスクの低い例では,厳格降圧はベネフィットよりも害(harm)のほうが上回った。
    厳格降圧によるベネフィットがもっとも大きい症例を同定するために,ベースライン時の10年心血管疾患(CVD)発症リスクで層別して一次エンドポイント(心筋梗塞,その他の急性冠症候群,脳卒中,急性非代償性心不全,心血管死の複合エンドポイント),すべての重篤な有害イベント(SAE)に対するベネフィット,有害(harm)を比較した。
    CVDリスクで患者を四分位(第1四分位群:10年リスク<11.5%~第4四分位群:>28.9%)にわけ,CVD発症リスク(ベネフィット/有害比)を判断するためにmultiplicativeポアソン回帰による予測モデルを作成。
    10年CVDリスク≧18.2%例(第3~4四分位群)がおよそ半数。治療群間のベースライン血圧に有意なリスク群間差はなかったが,CVDリスクが高四分位群ほどベースライン収縮期血圧(SBP)やCVDが多い有意な傾向がみられた(p for trend <0.001)。両治療群とも達成SBPにCVDリスクによる違いはなかった。≧75歳例(2,343例)の17.3%が第3四分位群(10年リスク;18.2~28.9%)で,79.8%が第4四分位群だった。
    一次エンドポイント,全死亡リスクは両治療群で高四分位群ほど高く(p for trend<0.001), 10年リスクに関わらず厳格降圧群のほうがリスクが低かった。一次エンドポイントを1例予防するためのNNTはリスクが高い程少なかった(第1群:91~第4四分位群:38)。
    全SAEも両治療群で高四分位群ほど多かったが,CVDリスク間に違いはなかった。しかし,絶対リスク増加は第3,4四分位群で少なく,number needed to harm(NNH) は62~250。
    厳格降圧によるベネフィット/harm比は,第1四分位群:0.50,2群:0.78,3群:2.13,4群:4.80で,第1~2群は厳格降圧によるharmのほうが上回り,第3~4群はベネフィットが上回ることが示された(p for trend<0.001)。
    <DISCUSSION>リスク≧18.2%例には,2017年のACC/AHA血圧ガイドライン推奨(10年リスク>10%例はSBP<130mmHgを目標)が,<18.2%例には2015年のJNC8,2017年のACP/ AAFP血圧ガイドライン推奨(SBP<140mmHg)が妥当:J Am Coll Cardiol. 2018; 71: 1601-10. PubMed
  • 治療中の低SBP値は心血管イベントおよび全死亡の増加と関連し,この関係は到達SBPとは独立していた。
    降圧薬治療中の収縮期血圧(SBP)と心血管(CV)イベント,全死亡との関係を異なる目標降圧群で評価するため,SPRINTとACCORD-BP試験の患者個人データを統合。厳格降圧群(目標SBP<120mmHg),標準降圧群(<140mmHg)にランダム化された高血圧患者においてJカーブがみられるかを検証した。
    治療中に≧1回SBPを測定した13,946例(測定血圧値194,875件,異なる時に平均14回/患者測定):<120mmHg群;6,980例,<140mmHg群;6,966例。
    追跡期間中央値3.3年のCVイベントは1,014例(7.3%),死亡は502例(3.7%)で,<120mmHg群のほうが<140mmHgよりもCVイベントが有意に少なかったが(ハザード比0.82, p=0.002),死亡には有意差はなかった(0.86, p=0.10)。厳格降圧群では目標SBP値からの偏差は,目標SBPよりも<15mmHg低値例を除き標準治療群にくらべてCVイベント,全死亡のハザードが低かった。
    血圧が高値でも低値でもCVDリスクの上昇がみられた。SBP<120mmHg群,<140mmHg群のいずれも曲線の傾斜が同程度のJカーブがみられた。全死亡も同様であった。CVイベントおよび全死亡のリスクが最も低かった(nadir)のは目標SBP値からわずかな(3mmHg)低値例だった。厳格降圧群におけるCVイベント,全死亡のnadirは標準降圧群より低かった。拡張期血圧(DBP)のnadirは両群とも85mmHgで,低値になるほどリスクが一貫して上昇した。目標SBP値から最も低値(<-15mmHg)だったものは,より高齢で,BMI,喫煙率が高く,糖尿病,CV疾患既往が多かった。
    感度解析:ACCORD-BPとSPRINTを個々に解析すると,ACCORD-BPの糖尿病患者でのCVイベント,全死亡リスクは,SPRINTの高リスクながら非糖尿病患者とくらべて高く,≧75歳のみの解析ではSBP,DBPのいずれでも同様の形のJカーブがみられた:Circulation. 2017; 136: 2220-9. PubMed
  • ベースラインDBP低値例はCVDリスクが上昇するが,厳格なSBP降圧による有効性にDBPの影響はみられなかった。
    拡張期血圧(DBP)が低い患者における厳格な収縮期血圧(SBP)降圧のベネフィット,リスクの可能性は明らかではない。SBP厳格降圧の有効性にDBPが影響するか,DBP低値によりCVD,腎疾患,全死亡に対する有効性は失われるか,さらにベースライン脈圧(PP),平均動脈圧(MAP)の影響も,DBPを五分位(<68~≧88mmHg)に層別して検証した(post-hoc解析)。
    治療(厳格・標準降圧)を問わず,目標および達成SBPの分布にDBPによる違いはなかったが,達成DBPはベースラインDBP最低値例(第1五分位)が最高値例(第5五分位)よりも有意に低かった(厳格治療:59.5 vs 74.9mmHg,標準治療:65.0 vs 83.3mmHg)。達成MAPも同様だったが,PPは両群ともベースラインDBP最低値例で最も高かった。
    <ベースラインDBPとSBP降圧によるCVへの有効性の交互作用>治療にかかわらず,ベースラインDBPと主要心血管疾患(CVD)にU字型の関係がみられた。
    厳格なSBP降圧の一次エンドポイントに対する有効性にベースラインDBPの影響はなかった(交互作用p=0.83)。第1五分位(平均61mmHg)群の一次エンドポイントに対する厳格降圧の標準降圧とくらべたハザード比は0.78(95%信頼区間0.57~1.07),第2~5五分位群[平均82mmHg]は0.74(0.61~0.90);交互作用p=0.78。全死亡(それぞれ0.88[0.60~1.29], 0.68[0.53~0.87];p=0.29),腎イベント(CKD患者:1.17[0.36~3.84], 0.79[0.31~2.00];p=0.61,非CKD患者:3.16[1.42~7.00], 3.58[2.37~5.41];p=0.79)も同様だった。一次エンドポイント,全死亡はベースラインDBPにかかわらず厳格群のほうが標準群よりも少なかったが,CKDは多かった。
    <その他>脳卒中を除いたCVD(467例)とDBPもU字型の関係だった。
    安全性:有害事象はDBP最低値例が最も多かったが,厳格降圧の有効性にDBPによる異質性はなかった。
    PPが低い例(<50mmHg)で急性腎障害リスクが高かったものの,SBP厳格降圧の有効性にMAP,PPによる異質性は認められなかった:Circulation. 2018; 137: 134-43. Epub 2017 Oct 11. PubMed
  • アドヒアランス・治療効果が5年以降に低下するか,生涯持続するかに関わらず,厳格降圧群は費用対効果が高い(シミュレーション研究)。
    生涯健康ベネフィットと医療費,質調整生存年(QALY)を推定し,厳格降圧群の生涯増分費用対効果(incremental cost-effectiveness ratio:ICER)を標準降圧群と比較した。
    SPRINT試験の適格基準を満たす成人における収縮期血圧のコントロールによる医療費,転帰,QALYを推算するためにマイクロシミュレーションモデルを作成し,仮想コホート(10,000例)において,厳格降圧の標準降圧とくらべた死亡・心血管(CV)死・CVイベント・重篤な有害事象のリスクを推定した。生涯コスト(高血圧の治療・管理,CVイベント・重篤な有害事象関連のコスト),獲得QALYs,QALYあたりのICERを推算した。
    最初の5年以降の4種類のアドヒアランス,治療効果のシナリオ(base case:ベースライン後15年まで漸減,worst case:消失,15-year best case:15年後まで持続,lifetime best case:生涯持続)を用いた1,000回のシミュレーションにおいて,厳格降圧群の費用対効果が高いことが示された。
    base caseでは,厳格降圧群は標準降圧群にくらべ10,000例の生涯一次エンドポイント(CVイベント)を170例,CV死を190例予防することが予測され,厳格降圧群のQALYは標準降圧群より0.27高くICERは約47,000ドル。一方,lifetime best caseでは,それぞれ929例,464例予防し,QALYは0.43高くICERは約28,000ドルだった。
    厳格降圧群のprobability of cost-effectiveness(QALYあたりの支払意思額[willingness-to-pay]の閾値を下回る確率)は閾値50,000ドルの場合に51%(worst case)~79%(lifetime best case),100,000ドルの場合に76~93%:N Engl J Med. 2017; 377; 745-55. PubMed
  • 患者の報告による転帰は,身体・認知機能低下例を含め厳格降圧群と標準降圧群は同等。
    患者の報告による転帰を厳格降圧群と標準降圧群とを比較した。
    身体的・精神的健康関連QOLは,Veterans RAND 12-Item Health Survey[VR-12:0~100,高スコアほど良好]のPhysical Component Summary[PCS]・Mental Component Summary[MCS]で,抑うつ症状はPatient Health Questionnaire 9-item depression scale[PHQ-9:0~27,高スコアほど重症]で年1回評価し,降圧治療・降圧薬に対する患者満足度およびアドヒアランス(5-point Linkert scale[満足~非常に不満],8-item Morisky Medication Adherence Scale[0~8,高スコアほどアドヒアランス良好])を12・48か月後に評価した。2015年8月20日までのデータ。追跡中央値3年。
    VR-12 PCS評価の完了例はベースライン時99.6%,12か月後92.0%,以後は>87%。
    平均PCSスコアは両群とも経時的に微減(ベースライン時:44.7→厳格降圧群-0.23ポイント/年 vs 標準降圧群-0.23ポイント/年),MCSが微増(53.1→0.15 vs 0.14ポイント/年),PHQ-9が微減(3.1→-0.03 vs -0.03ポイント/年),いずれも有意な群間差はなかった。
    ベースライン時の併発疾患数,年齢(<75歳 vs ≧75歳),身体・認知機能(PCSスコア:≧40 vs <40,Montreal Cognitive Assessment [MoCA]スコア:≧25パーセンタイルvs <25パーセンタイル,フレイル指標[frailty indexスコア 0~1])で比較した場合も,転帰に有意な群間差はみられなかった。
    降圧治療に対する患者満足度の12か月後のスコア分布には有意な群間差がみられたが(p=0.03),両群とも満足度が高く(「満足」または「非常に満足」:厳格降圧群88.6% vs標準降圧群88.2%),ベースライン時から改善した患者の割合は両群で同等(35.0% vs 33.7%, p=0.18)で,降圧薬に対する患者満足度も同様だった(「非常に満足」:62.1% vs 57.7%,ベースライン時から改善:43.4% vs 40.7%)。
    12か月後の降圧薬のアドヒアランスが高い(スコア8)患者の割合に両群間に有意差はなかった(44.5% vs 44.3%):N Engl J Med. 2017; 377; 733-44. PubMed
  • 厳格降圧群では標準降圧群にくらべ左室肥大(LVH)のリスクが低かった。しかし,この厳格群のLVHへの効果では同群のCVDリスク低下の大半は説明できなかった。
    ベースライン,追跡心電図(ECG)を有す8,164例(平均年齢67.9歳,女性35.3%,黒人31.2%:厳格降圧群4,086例,標準降圧群4,078例)において,厳格降圧と標準降圧でLVHへの影響が異なるかを検証し,厳格降圧群の有意な一次エンドポイント抑制がLVHへの効果で説明できるかを検討したpost hoc解析の結果(追跡期間中央値3.81年):LVHはベースライン,2・4年後,終了時に実施した12誘導ECGで確認しCornell電圧で定義した。
    登録時にLVHのなかったもの(7,559例:3,784例,3,775例)で新規にLVHが起こったリスクは厳格群のほうが46%有意に低かった(118例 vs 標準群206例*)。これは年齢,性,人種,収縮期血圧,心血管疾患(CVD)・慢性腎臓病既往のサブグループでも一貫してみられた。
    また,LVHがあった605例(約7.4%:302例,303例)の62%で,厳格群で有意なLVHの退縮がみられた(70% vs 55%*:ハザード比1.66;95%信頼区間1.31~2.11)。この関係はサブグループでも,CVD既往例で非既往例より強かった(交互作用p=0.001)。
    一次エンドポイントは542例で,LVHを時間依存性変数として調整しても厳格群のCVDに対する効果は実質減弱しなかった(標準群とくらべたハザード比:調整前0.76;0.64~0.90*],調整後:0.77;0.65~0.91[p=0.003])。* p<0.001:Circulation. 2017; 136: 440-50. PubMed
  • 75歳以上での厳格降圧 vs 標準降圧-約80歳の高血圧患者における主要心血管イベント,死亡は,目標SBP<120mmHgの厳格降圧群のほうが有意に少なかった。
    ≧75歳のサブグループ解析の結果(2,636例;追跡期間中央値3.14年)。
    ■患者背景:平均年齢(厳格降圧群[1,317例]79.8歳,標準降圧群[1,319例]79.9歳),女性(37.9%, 38.0%),血圧(141.6/71.5mmHg, 141.6/70.9mmHg),eGFR(63.4, 63.3mL/分/1.73m²),フレイル(33.4%, 28.4%),使用降圧剤数(2.6剤,1.8剤),ACE阻害薬/ARB(70.6%, 52.2%),利尿薬(61.7%, 42.3%),β遮断薬(43.2%, 33.5%),Ca拮抗薬(56.0%, 34.8%)。歩行速度<0.8m/秒は全体の28.1%。
    治療中止は厳格降圧群6.2% vs 標準降圧群6.4%。追跡期間中の収縮期血圧(SBP;ベースライン値を調整した最小二乗平均値)はそれぞれ123.4mmHg, 134.8mmHg,両群間差は11.4mmHg(p<0.001)で,試験全体の差(14.8mmHg)より小さかった。拡張期血圧は62.0mmHg, 67.2mmHg,群間差5.2mmHg(p<0.001)。
    一次エンドポイントは厳格降圧群のほうが少なく(102件[2.59%/年] vs 148件[3.85%/年]:ハザード比0.66;95%信頼区間0.51~0.85, p=0.001, NNT=27),全死亡も同群で有意に抑制された(73例 vs 107例:0.67;0.49~0.91, p=0.009, NNT=41)。
    重篤な有害事象は両群同等で(48.4% vs 48.3%),低血圧(2.4% vs 1.4%),失神(3.0% vs 2.4%),電解質異常(4.0% vs 2.7%),急性腎障害(5.5% vs 4.0%)は厳格降圧群に多く,傷害を伴う転倒は同群が少なかったが(4.9% vs 5.5%),いずれも有意差はなかった:JAMA. 2016; 315: 2763-82. Epub 2016 May 10. PubMed
    Chobanian AV: SPRINT resu.lts in older patients: how low to go? JAMA. 2016; 315: 2669-70. Epub 2016 May 19. PubMed
  • SPRINT試験の適格基準を満たす米国成人-成人の7.6%(1,680万人),治療下高血圧者の16.7%(820万人)が該当。該当した成人の51.0%は降圧治療を受けていなかった。
    SPRINT試験の結果から目標SBP<120mmHgが有用な可能性のある米国民の割合を算出するため,NHANESの2007~’12年の20歳以上の調査参加者(16,260人)においてSPRINTの適格基準を満たす参加者の割合と特徴を調査し,それらの割合を米国成人人口(2億1,940万人)に当てはめた結果:NHANESでは,血圧は訓練を受けた医師が水銀血圧計と適切なサイズのカフを使用して座位にて5分間安静後に1分間隔で3回測定し,平均値を採用。治療下高血圧は自己申告による降圧薬≧2クラスの服用と定義(調査時に参加者に服用中の薬剤ボトルを持参してもらい確認)。
    SPRINTの登録基準(≧50歳,SBP 130~180mmHg,複数の降圧薬を服用,CVD高リスク[CAD既往,eGFR 20~59mL/分/1.73m²,10年CVDリスク≧15%,≧75歳])と除外基準(糖尿病,脳卒中既往,蛋白尿>1g/日,心不全,eGFR<20mL/min/1.73m²または透析)を満たしたのは,全成人の7.6%(1,680万人),治療下高血圧者の16.7%(820万人)。この割合は≧75歳(vs 50~59歳),男性,非ヒスパニック系白人(vs 非ヒスパニック系黒人・ヒスパニック)で高かった。基準を満たした成人のうち51.0%(860万人)は降圧治療を受けていなかった:J Am Coll Cardiol. 2016; 67: 463-72. Epub Oct 31. PubMed

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収載年月2015.11
更新年月2018.04