循環器トライアルデータベース

IRAD
International Registry of Acute Aortic Dissection

目的 急性大動脈解離(AAD)は診断,治療が難しいうえ,それらが遅れれば致死的転帰に至る疾患である。画像検査(CT,経食道心エコー[TEE],MR)が進歩し,特にCTによる救急治療室での“triple rule out”の実施により,急性冠症候群と誤診断・治療されることの多いAADの診断の改善が期待される。Stanford分類A型の患者においては手術関連技術が向上し,B型患者では血管内治療が拡大するなど,AADを取り巻く環境は変化している。
AAD患者の臨床症状,診断・治療,転帰の評価を目的としている登録研究IRADのデータから,17年間のそれらの変化を検証する。
デザイン 前向き登録研究,多施設(北米,欧州,アジアの大動脈疾患治療施設28施設)。
期間 登録期間は1996年1月~2013年2月。
対象 4,428例(Stanford A型2,952例[67%],B型1,476例)。参加施設を受診したAAD患者。
除外基準:なし。
■患者背景:平均年齢(A型61.5歳,B型63.6歳*),男性(67.5%, 65.8%),白人(88.6%, 82.1%*),他院からの紹介(68.5%, 72.2%, p=0.010),既往:マルファン症候群(4.5%, 4.0%),高血圧(74.4%, 80.9%*),アテローム性動脈硬化(23.8%, 31.7%*),大動脈瘤(12.7%, 20.7%*),AAD(4.0%, 8.9%*),糖尿病(7.7%, 8.0%),心臓外科術(14.2%, 19.6%*),大動脈弁置換術(4.5%, 6.2%, p=0.022),大動脈瘤・AAD(6.4%, 14.5%*),CABG(5.0%, 4.8%)。* p<0.001
調査方法 各施設において患者の人口統計学的背景,既往,身体所見,画像検査,管理,院内転帰に関するデータを症例報告書に記録し,IRAD Coordinating Centerで収集・検討。登録時期により患者を6グループ(第1期:1995年12月26日~’99年2月14日~第6期:2010年2月24日~’13年2月6日)に分類し,経時的傾向を分析した。
結果 [人口統計学的特徴]
17年間で発症年齢,男性の割合,高血圧既往例がB型に多いことに変化はなかった。
他院からの紹介:A型で第1期から第6期にかけ増加(62.0%→ 70.8%,傾向p<0.001),B型では変化はなかった(61.7%→ 68.3%,傾向p=0.327)。
マルファン症候群:A型で減少(5.7%→ 4.5%,傾向p=0.033),B型では変化はみられなかった(2.1%→ 4.0%)。
[主症状]
大半の患者の主訴は病型を問わず激痛(胸痛,背痛)で,経時的変化はみられなかった(A型:91.6%→ 93.1%;B型:93.0%→ 93.3%)。胸痛は病型を問わず増加した(78.3%→ 93.4%*;54.0%→ 78.2%*)。
[診断]
胸部CT使用:A型で増加(45.8%→ 72.9%*),B型では変化なし(77.9%→ 78.1%)。
TEE使用:A型で減少(49.9%→ 23.1%*),B型では変化なし(15.0%→ 16.8%)。
胸部X線:A型,B型とも縦隔拡大所見が減少し(60.8%→ 52.2%*;56.4%→ 39.1%*),正常所見が増加(12.7%→ 28.6%*;19.4%→ 36.3%*)。
[入院中治療・転帰]
A型解離では,外科的治療が増加し(78.7%→ 90.2%*),内科的治療が減少(20.3%→ 8.0%*)。手術死亡率が低下した(25.0%→ 18.4%,傾向p=0.003)ことにより,全般的な院内死亡率が低下(31.4%→ 21.7%*)。
B型解離では,内科的治療(75.4%→ 56.6%*),外科的治療(17.3%→ 7.6%*)ともに減少し,血管内治療が増加(7.3%→ 30.9%*)。全般的な院内死亡率に変化はなかった(12.1%→ 14.1%)。* 傾向p<0.001
★結論★2013年までの17年間でAADの主症状に著明な変化はみられなかった。A型解離では胸部CTの使用と手術が増加し,手術死亡率および院内死亡率が低下した一方で,B型解離では血管内治療が増加したが院内死亡率には変化がなかった。
文献
  • [main]
  • Pape LA et al: Presentation, diagnosis, and outcomes of acute aortic dissection: 17-year trends from the international registry of acute aortic dissection. J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 350-8. PubMed
    Elefteriades JA and Ziganshin BA: Gratitude to the international registry of acute aortic dissection from the aortic community. J Am Coll Cardiol. 2015; 66: 359-62. PubMed
  • [substudy]
  • A型,B型いずれの患者においても,来院時SBPと入院中の死亡率はJ字型の関係。この関係は入院中の合併症増加率と関連し,SBP≦80mmHgは入院中の死亡率と相互関連していた。
    来院時の収縮期血圧(SBP)と入院中の転帰, 特に全死亡との関連を評価した。
    連続6,238例(A型4,167例,B型2,071例)において,SBP 4分位に層別。>150mmHg群:A型([27.4%]平均年齢59.4歳・176/91mmHg);B型([62.0%]62.1歳・187/100mmHg),101~150mmHg群([41.4%]60.7歳・125/69mmHg;[33.1%]63.2歳・128/73mmHg),81~100mmHg群([15.3%]61.9歳・93/55mmHg;[2.9%]63.6歳・94/58mmHg),≦80mmHg群([15.9%]62.3歳・68/43mmHg;[1.9%]66.3歳・71/49mmHg)。
    来院時のSBPと入院中の死亡率には有意なJ字型の関係がみられた(≦80mmHg群は他の血圧群にくらべ有意に高く,>150mmHg群は101~150mmHg群より高かった):A型(B型)の死亡率はSBP>150mmHg群:19.5%(8.8%),101~150mmHg群:16.7%(7.7%),81~100mmHg群:24.4%(23.0%),≦80mmHg群:31.2%(52.5%)。さらに層別した死亡率は,SBP>180mmHg・A型例では26.3%,>200mmHg・B型例では13.3%,81~100mmHg群でA型は29.9%,B型は22.4%。
    この関係はおもに入院中の合併症増加率によった。A型は, ≦80mmHg群で脳卒中,昏睡,心タンポナーデが多く,>150mmHg群で腸間膜虚血・梗塞の割合が高かった。B型では, ≦80mmHg群で脊髄虚血, 心筋虚血/心筋梗塞, 昏睡が多かった。A型, B型ともに, 急性腎不全は,81~100 mmHg群および101~150 mmHg群にくらべ,>150mmHg群および≦80mmHg群で多かった。
    入院中の死亡の独立した予測因子は,A型:SBP≦80mmHg(オッズ比1.90),>65歳(2.39),脈拍欠損(1.73),腸間膜虚血・閉塞(8.05),心タンポナーデ(2.24),心筋虚血(2.03),昏睡(6.37),一方,B型は≦80mmHg(5.63),>65歳(3.85),大動脈周囲血腫(periaortic hematoma, 3.78),急性腎不全(2.08),肢虚血(3.24),腸間膜虚血・閉塞(8.64),脊髄虚血(3.05),昏睡(19.92),画像診断による大動脈瘤(2.27):J Am Coll Cardiol. 2018; 71: 1432-40. PubMed
  • 大動脈解離再発例は5%で半数以上がB型。マルファン症候群(21%)が強く関連し,5年後の全死亡,インターベンションリスクが高かった。
    大動脈解離(AD)再発例の特徴と転帰を検証した。
    再発例(204例[5%])は初発例(3,624例)にくらべ,年齢が低かった(58.6歳 vs 62.3歳)が,アテローム性動脈硬化例が多かった(32.0% vs 23.6%)。また再発例はマルファン症候群(MFS)(21.5% vs 3.1%),B型解離(52.5% vs 33.4%),大動脈瘤(54.3% vs 12.3%),心臓手術既往(72.8% vs 11.2%)が有意に多く,大動脈二尖弁例(3.6% vs 3.2%)には差がなかった。初発はA型が66.6%,再発はB型が52.5%,MFS例ではそれぞれ79.3%, 61.9%。
    再発例の治療は,A型の再発例は外科的大動脈弁置換術が少なかった一方で,高血圧が少なかったB型の再発例では多かった。また,下行大動脈径は再発例のほうが有意に大きかった(4.7 vs 3.5cm,A型:4.3 vs 3.3cm,B型:5.0 vs 4.0cm)。
    再発例は5年の大動脈インターベンションおよび全死亡リスクが高く,再発時の>70歳,大動脈瘤,動脈硬化既往が危険因子。中枢側のAD後に遠位側ADが発生した例は逆の発生例よりも年齢が低かった(42.1 vs 54.3歳)。多変量解析でMFSは再発と強く関連し,再発の独立した予測因子は,MFS例では大動脈弁置換術歴,非MFS例ではその他に,大動脈瘤,非白人。AD初発から再発まではMFS例10.1年,非MFS例は7.0年: Circulation. 2016; 134: 1013-24. PubMed

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収載年月2015.12
更新年月2018.07