循環器トライアルデータベース

EMPA-REG OUTCOME

目的 ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬は腎臓でのグルコース再吸収を抑制し,尿中グルコース排泄量を増加させることにより,2型糖尿病患者の高血糖を抑制する。選択的SGLT2阻害薬のひとつであるエンパグリフロジン(empagliflozin)は,血糖降下作用に加え体重減少や心拍数増加を伴わない降圧効果なども示されている。
FDAが血糖降下薬の心血管(CV)安全性の検証を求めていることを受け,標準治療を受けているCVリスクの高い2型糖尿病患者において,empagliflozin追加のCV合併症,死亡への影響を検証する。

一次エンドポイントは,CV死,非致死的心筋梗塞(MI;無症候性を除く),非致死的脳卒中の複合エンドポイント。
コメント N Engl J Med. 2015; 373: 2117-28. へのコメント
本試験の結果は今年9月にストックホルムで開催された欧州糖尿病学会で発表された。そのインパクトの大きさゆえに発表会場では大きな喝采を持って迎えられた。この試験の解釈や解説はすでに多くの紙面あるいはウェブサイトで議論されているように,真に糖尿病薬としての効果によるものか?というと,そうではないようだ。大きく効果の認められた心血管死,心不全入院,総死亡ともにエンパグリフロジン介入のかなり早期からプラセボ群に対して差がついているように見える。もちろん血糖,血圧,脂質の改善があるものの,このような早期の効果はこれらの改善では説明がつかない。そこでこの薬剤の利尿効果が注目されている。対象患者がすべて心血管疾患の既往者,すなわちこの試験が二次予防であり心不全,あるいはその予備軍(?)に対して効果が発揮されたのではないかということである。この試験では全患者のうち利尿薬が予め投与されていたのは43%程度であり,それなら本来もっと使用すべきだったのかという意見も出そうだ。しかし,ALLHATなどではACE阻害薬やCa拮抗薬に比して利尿薬に本研究ほどのインパクトがあったとは言えない。残りの57%に利尿薬を処方しても30数パーセントのリスク低下は見込めないからだ。
しかし,対象が糖尿病ではないが,利尿薬の試験で最も印象的な結果が報告された心不全患者に対するエプレレノン(抗アルドステロン薬)を用いたEMPHASIS-HFの結果は参考になる。すでに他の利尿薬がほとんどといっていいぐらい投与されていても,作用機序の異なる利尿薬は心不全入院および心血管死で37%のリスク低下を認めている。浸透圧利尿という経口薬では新しい利尿効果が心不全治療の新しい境地を開くのかもしれない。そのためには今後心不全を対象とした介入試験が必要であろう。ただし一点,糖尿病専門医として危惧するのは,この薬を心不全薬として使用した時に起こり得る副作用について理解できていない場合である。それは脱水ではなくケトアシドーシスである。EMPA-REG OUTCOMEではケトアシドーシスの発症についてはプラセボ群との間に有意差は認められなかったが,それは糖尿病専門医が適正症例に使用しているからに他ならない。少なくともインスリン治療が必須と考えられる症例や経口摂取のできていない患者,あるいは周術期などにこの薬剤の投与を避けることは徹底されなければならないと考えている。いずれにしてもせっかくの好結果,これについての循環器専門医と糖尿病専門医による積極的な意見交換が急務であろう。(弘世
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(日本を含む42か国590施設),modified intention-to-treat解析。
期間 治療期間は2.6年,追跡期間は3.1年(ともに中央値)。
ランダム化期間は2010年9月~’13年4月。
対象患者 7,020例。18歳以上のCV疾患合併2型糖尿病患者で,BMI≦45kg/m²,推算糸球体濾過量(eGFR)≧30mL/分/1.73m²,ランダム化前≧12週間血糖降下薬を服用せずHbA1c≧7.0~<9.0%,または≧12週間安定血糖降下治療を実施下でHbA1c≧7.0%~<10.0%のもの。
除外基準:コントロール不良の高血糖(血糖値>240mg/dL),3か月以内の心臓手術・心血管形成術予定,減量手術・消化管手術施行後2年以内,3か月前の抗肥満薬服用,急性冠症候群・脳卒中・一過性脳虚血発作発症後2か月以内など。
■患者背景:平均年齢(empagliflozin群63.1歳,プラセボ群63.2歳),男性(71.2%, 72.0%),白人(72.6%, 71.9%),BMI(30.6, 30.7kg/m²),HbA1c(8.07%, 8.08%),2型糖尿病診断後>10年(57.0%, 57.4%),血圧(135.3/76.6, 135.8/76.8mmHg),LDL-C(85.9, 84.9 mg/dL),eGFR(74.2, 73.8mL/分/1.73m²),尿中アルブミン/クレアチニン比(30~300mg/g:28.5%, 28.9%,>300mg/g:10.9%, 11.1%),冠動脈疾患(両群とも75.6%),多枝病変(46.5%, 47.1%),MI既往(46.7%, 46.4%),CABG(25.1%, 24.1%),脳卒中既往(23.1%, 23.7%),末梢血管疾患(21.0%, 20.5%)。
・薬物治療:metformin(73.8%, 74.3%),インスリン(48.0%, 48.6%),SU薬(43.0%, 42.5%),DPP-4阻害薬(11.3%, 11.4%),降圧治療(94.9%, 95.2%):ACE阻害薬/ARB(81.0%, 80.1%);β遮断薬(65.2%, 64.2%);利尿薬(43.7%, 42.3%);Ca拮抗薬(32.6%, 33.8%),脂質低下薬(81.5%, 79.9%),aspirin(82.7%, 82.6%)。
治療法 2週間のオープンラベルでのプラセボrun-in期間後,ランダム化。
empagliflozin群(4,687例):10mg/日または25mg/日投与。
プラセボ群(2,333例)。
いずれも標準治療に追加。ランダム化後12週間は治療薬を変更せず(空腹時血糖>240mg/dLの症例のみ強化治療を許可),以後はガイドラインに準じた血糖降下薬の調節を奨励。
empagliflozin 10mg/日群と25mg/日を統合してプラセボ群に対する非劣性を検証後,優越性を検証。
結果 試験完了は97%。
有害事象による試験薬治療中止は,empagliflozin群17.3%(10mg/日群17.7%, 25mg/日群17.0%)vs プラセボ群19.4%(p<0.01)。
[血糖コントロール]
12, 94, 206週後のHbA1cのプラセボ群との差は,empagliflozin 10mg/日群がそれぞれ-0.54, -0.42, -0.24,25mg/日群が-0.60, -0.47, -0.36パーセンテージポイント。
[一次エンドポイント]
empagliflozin群のプラセボ群に対する非劣性が示された(490例[10.5%]vs 282例[12.1%]:ハザード比0.86;95.02%信頼区間0.74~0.99;非劣性p<0.001,優越性p=0.04)。
empagliflozinの用量による違いはなく,サブグループの結果も一貫していた。
[その他]
二次エンドポイント(一次エンドポイント,不安定狭心症による入院の複合エンドポイント)においてもempagliflozin群の非劣性が示された(12.8% vs 14.3%:0.89;95%信頼区間0.78~1.01;非劣性p<0.001,優越性p=0.08)。
全死亡(0.68;0.57~0.82),CV死(0.62;0.49~0.77,ともにp<0.001),心不全による入院(0.65;0.50~0.85, p=0.002),心不全による入院またはCV死(致死的脳卒中を除く)(0.66;0.55~0.79, p<0.001)も同群で有意に少なかったが,MI(4.8% vs 5.4%)と脳卒中(3.5% vs 3.0%)には有意な両群間差はなかった。
[有害事象]
有害事象はempagliflozin群90.2% vs プラセボ群91.7%(p<0.001),重度有害事象は23.5% vs 25.4%(p<0.01),重篤な有害事象は38.2% vs 42.3%(p<0.001)。
低血糖(27.8% vs 27.9%),尿路感染(18.0% vs 18.1%),体液量減少(5.1% vs 4.9%),骨折(3.8% vs 3.9%)や急性腎不全,糖尿病ケトアシドーシスに差はなかったが,empagliflozin群は性器感染が多く(6.4% vs 1.8%, p<0.001),ヘマトクリットの増加が大きかった(10mg群:ベースラインから+4.8%,25mg群:+5.0%,プラセボ群:+0.9%)。
★結論★CVイベント高リスクの2型糖尿病患者において,標準治療へのempagliflozin追加によりCV死と死亡が低下した。
ClinicalTrials.gov No: NCT01131676
文献
  • [main]
  • Zinman B et al for the EMPA-REG OUTCOME investigators: Empagliflozin, cardiovascularoOutcomes, and mortality in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2015; 373: 2117-28. Epub 2015 Sep 17. PubMed
  • [substudy]
  • ベースライン時に大半は心不全ではなかったが,3割は心不全高リスクだった。心不全リスクに関係なく,empagliflozin群では心不全転帰が改善した。
    心不全(HF)の有無,5年心不全発症リスク度によるempagliflozin群の有効性を検証した。
    ベースライン時にHFのなかったもの(89.9%)における9因子(年齢,冠動脈疾患,収縮期血圧,心拍数,心電図による左室肥大,喫煙,血清アルブミン,空腹時血糖値,クレアチニン)によるHealth ABC HFリスクスコア(両群とも中央値4;男性のほうが女性よりやや高く,高リスク例は高齢,合併症および服用薬剤数が多かった)で評価した5年間HF発症リスクは,低~中等度リスク(<10%)が67.2%,高リスク(10~20%)24.2%,超高リスク(>20%)5.1%だった。
    プラセボ群では,HFリスク上昇とともにHFによる入院,心血管(CV)死の発生率が高くなった(低~中等度リスク例:1.68,高リスク例:4.03,超高リスク例:7.0/100患者・年)。HFだった例では8.55/100患者・年だった。
    HFではなかった例において,empagliflozin群の心血管(CV)死,HFによる入院に対する効果はHFリスクに関係なく一貫してみられた(低~中等度リスク例:ハザード比0.71;95%信頼区間0.52~0.96,高リスク例:0.52;0.36~0.75,超高リスク例:0.55;0.30~1.00)。
    HFだった例,HFによる入院例あるいは有害イベント発症HF例におけるCV死もempagliflozin群はプラセボ群にくらべ有意に減少し(0.67;0.47~0.97),絶対リスクの低下は4.9%だった。非HF例でもempagliflozin群の有効性は同様だった。
    empagliflozin群のプラセボ群にくらべたHF入院リスクの低下は1か月以内からみられ,試験期間中持続した:Eur Heart J. 2018; 39: 363-70. PubMed
  • CKD合併患者(32%)においても,腎機能,アルブミン尿の状態とは独立してempagliflozin群において死亡,入院リスクが低下した。
    腎機能障害(CKD;推算糸球体濾過量[eGFR]<60mL/分/1.73m²,尿中アルブミン-クレアチニン比[UACR]>300mg/g)合併例において,empagliflozinの臨床転帰(心血管死,心不全による入院,全入院,全死亡)への有効性を検証した。
    CKD例は2,250/7,020例(32%)で, eGFR<60 mL/分/1.73m²は26%,微量アルブミン尿(UACR 30~≦300mg/g)は29%,顕性アルブミン尿:11%。
    CKD例は非CKD例よりも,高齢(66歳 vs 62歳),>10年の2型糖尿病(66~69% vs 52~53%),インスリン治療例(57~59% vs 43~44%),多枝病変(49~52% vs 45%),CABG(30~31% vs 21~23%),心不全(13~14% vs 8~9%),薬物治療例が多かった。
    CKD例において,プラセボ群にくらべempagliflozin群では心血管死が29%(ハザード比:0.71;95%信頼区間0.52~0.98),全死亡が24%(0.76;0.59~0.99),心不全による入院が39%(0.61;0.42~0.87),全入院が19%(0.81;0.72~0.92)それぞれリスクが低下した。非CKD例ではそれぞれ47%, 39%, 29%, 7%リスクが低下した。
    empagliflozin群の有効性は,eGFRサブグループ(<45, 45~<60, 60~<90, ≧90mL/分/1.73m²;交互作用p>0.05),UACR(>300, 30~≦300, <30 mg/g;交互作用p>0.05)を問わず,また2用量(10, 25mg)群いずれでも認められた。心筋梗塞,脳卒中リスクには両群間差はなかった。
    有害事象はサブグループのいずれでも一貫してみられ(eGFR<45例:empagliflozin群252.7,プラセボ群237.8, 45~<60例:162.9, 275.5, ≧60/ mL/分/1.73m²例:140.1, 159.8/1,000患者・年),empagliflozin群での尿路感染,高カリウム血症,骨折,下肢切断,低血糖の増加はなかった。ただし,全サブグループで性器感染はempagliflozin群のほうが多かった:Circulation. 2018; 137: 119-29. Epub 2017 Sep 13. PubMed
  • サブグループでの心不全転帰-empagliflozin群の心不全に対する有効性は,ベースライン時の心不全合併の有無を含むすべてのサブグループで一貫して認められた。
    心不全転帰を全例とベースライン時心不全例(706例[10.1%])を含むサブグループで検証。
    心不全による入院・心血管死(empagliflozin群5.7% vs プラセボ群8.5%:ハザード比0.66;95%信頼区間0.55~0.79),心不全による入院・心不全死(2.8% vs 4.5%:0.61;0.47~0.79),心不全による入院(2.7% vs 4.1%:0.65;0.50~0.85),試験担当医が報告した心不全(4.4% vs 6.1%:0.70;0.56~0.87),担当医が報告した重症心不全(4.1% vs 5.8%:0.69;0.55~0.86)のいずれもempagliflozin群のほうが有意に少なかった。同群の有効性に用量,サブグループ(年齢,人種,HbA1c,BMI,推算糸球体濾過量,血糖降下薬,心不全治療薬など)による違いはなく,ベースライン時心不全例(10.4% vs 12.3%:0.75;0.48~1.19)・非心不全例(1.8% vs 3.1%:0.59;0.43~0.82)の違いもみられなかった。重篤な有害事象・有害事象による治療中止は両群とも心不全合併例のほうが多かったが,empagliflozin群はプラセボ群より少なかった:Eur Heart J. 2016; 37: 1526-34. PubMed
  • empagliflozinと長期腎転帰-腎疾患の進展の遅延,腎イベント抑制と関連した。
    empagliflozinが細小血管,特に腎疾患の進展にもたらす効果を検証(事前に計画された解析)。ベースラインeGFR 45~59, 30~44mL/分/1.73m²,はそれぞれ17.8%, 7.7%,微量アルブミン尿28.7%,顕性アルブミン尿11.0%。
    腎症の発症・悪化リスクはempagliflozin群がプラセボ群より低かった(12.7% vs 18.8%:ハザード比[HR]0.61;95%信頼区間0.53~0.70, p<0.001)。empagliflozinの用量による違いはなく(10mg群:0.61;0.53~0.72, 25mg群:0.61;0.52~0.71),サブグループ解析の結果も同様であった。これらに心血管死を加えた結果も同様であった(16.2% vs 23.6%:0.61;0.55~0.69, p<0.001)。顕性アルブミン尿への進展(11.2% vs 16.2%),血清クレアチニン倍加(1.5% vs 2.6%),腎置換療法開始(0.3% vs 0.6%)リスクも同群が低かったが,アルブミン尿発症(51.5% vs 51.2%)には有意差はなかった。腎疾患死は3例,0例。
    ベースライン時腎疾患例(eGFR<60 mL/分/1.73m²,顕性アルブミン尿)でのpost hoc解析でも,empagliflozin群のほうが血清クレアチニン倍加,腎置換療法開始,腎疾患死のリスクが低かった(HR 0.54, p<0.001)。
    eGFR≧60mL/分/1.73m²例(平均67歳),≦59mL/分/1.73m²例(62歳)ともに,有害事象(empagliflozin群89.9% vs プラセボ群90.5%;91.3% vs 95.1%),重篤な有害事象(21.3% vs 22.2%;29.7% vs 34.3%),有害事情による試験薬中止(15.4% vs 16.6%;22.9% vs 27.5%),急性腎損傷(0.5% vs 0.9%; 2.1% vs 3.6%),急性腎不全(3.2% vs 3.9%;11.2% vs 14.3%)に有意な両群間差はみられなかった:N Engl J Med. 2016; 375: 323-34. Epub 2016 Jun 14. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2015.11
更新年月2018.03