循環器トライアルデータベース

TOTAL
Trial of Routine Aspiration Thrombectomy with PCI versus PCI Alone in Patients with STEMI

目的 primary PCI(pPCI)前の血栓除去術の有効性は未だ確立されていない。TAPAS試験で死亡率の低下が示され,ルーチンの使用が推奨されるようになったものの,その後のメタ解析では脳卒中リスクの増加が示唆された。2014年発表のTASTE試験では死亡率の低下は認められず,同試験を含めたメタ解析でも明確な結果は示されなかった。
pPCI施行予定のST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,pPCI前の血栓除去の有効性を検討する。

一次エンドポイントは,180日以内の心血管死,心筋梗塞(MI)再発,心原性ショック,NYHA心機能分類IV度の心不全の複合エンドポイント。
コメント N Engl J Med. 2015; 372: 1389-98. へのコメント
TOTAL試験は20ヵ国87病院で施行された無作為割り付け,オープンラベル,多施設試験でSTEMI患者におけるprimary PCI施行前のルーチンの血栓吸引療法が180日以内の心血管イベント(心血管死,心筋梗塞再発,心原性ショック,NYHA分類IV度の心不全)を減らせるかを検証した試験である。登録症例数は10,000例を超える最大規模の試験である。結果としてはprimary PCIのみの群と血栓吸引併用群は180日以内の心血管イベントに有意差は認められず,その上30日以内および180日以内の脳卒中が血栓吸引併用群に有意に多かった。ただし脳卒中の増加についてはイベント数そのものが少なく,発症時期がPCI施行数日以降とカテによる塞栓症の時間経過とは異なることからその解釈も難しく,偶然性は否定できないため今後の検討が必要である。
いずれにせよTOTAL試験はINFUSE-AMI試験,TASTE試験の結果とほぼ一致しており,ここ最近の大規模無作為割付け試験ではSTEMI患者におけるルーチンの血栓吸引療法の効果が否定されていることから,TAPAS試験の結果を大きく反映している現ガイドラインは再考の余地があるだろう。そしてルーチンの血栓吸引併用に関しては結論が出た様相であるが,血栓吸引療法の効果全てを否定できるかと言えばそこには当然異論がある。TOTALやTASTE試験でもそのコントロール群の死亡率の低さからは選択バイアスの可能性がつきまとい(特にTASTE試験でのレジストリー群では死亡率はエントリー症例の約3倍と高率である),コントロール群から血栓吸引併用群へのクロスオーバー症例などその有効症例の存在の可能性は否定できない。したがって今後は血栓吸引療法が適している症例選定について探索していくことになるのは当然の流れと思われる。
血栓吸引療法そのものは非常に簡潔に行え,slow flowを回避してステント留置など手技を円滑に進められる手技であることは周知の事実ではあるが,明らかに血栓を造影上で認めれば行う程度に留めるのが現時点での我々臨床医の妥当な姿勢だろう。(京都大学医学部附属病院循環器内科 渡邊大基,木村
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoint),多施設(20か国87施設),modified intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は180日。
登録期間は2010年8月~'14年7月。
対象患者 10,732例。心筋虚血症状が≧30分持続しECGで確認されたSTEMI発症後12時間以内のpPCI施行予定患者。
除外基準:18歳以下,CABG既往,STEMIに対する血栓溶解療法施行例。
■患者背景:平均年齢61.0歳,男性(血栓除去群76.8%,pPCI群78.2%),梗塞部位(前壁:39.0%, 40.9%,下壁:55.8%, 53.9%),現喫煙(44.6%, 46.8%;p=0.03),高血圧(50.3%, 50.0%),糖尿病(18.3%, 18.6%),MI既往(9.2%, 8.9%),PCI歴(8.3%, 8.4%)。
手技背景:発症~病院到着の時間(128分,120分;p=0.02),経橈骨アクセス(両群とも68.2%),シースサイズ(≦5F:0.8%, 2.5%*,6F:96.7%, 95.4%;p=0.001),抗血栓薬(未分画heparin:80.8%, 81.6%, bivalirudin:18.7%, 17.3%, GPIIb/IIIa阻害薬:37.4%, 41.3%)*,TIMI thrombus grade(4:13.7%, 13.6%;5[完全閉塞]:65.0%, 65.6%),手技前のTIMI flow grade 0(66.3%, 67.8%),ダイレクトステント(38.3%, 21.3%)*,使用ステント(ベアメタル:52.4%, 52.2%,薬剤溶出:44.7%, 45.0%),ステント数(両群とも1.4),総ステント長(21.5mm, 21.4mm),ステント径(両群とも3.1mm),手技中央値(39分,35分)*
* p<0.001
治療法 血栓除去群(5,372例):Exportカテーテル(地域で承認されているXT,AP,ADVANCEのいずれか)による血栓吸引後,pPCI施行。
pPCI群(5,360例):pPCIのみ。
実際にPCIを施行した10,063例(93.8%)(血栓除去群5,033例,pPCI群5,030例)を解析。
結果 [手技成績]
クロスオーバーは血栓除去群→ pPCI群が4.6%,pPCI群→血栓除去群が1.4%,pPCI群でのベイルアウト血栓除去は7.1%,血栓除去群での標的病変クロス成功は初回試行時82.5%,バルーン拡張後5.9%。
ST上昇の不完全消失(<70%)は27.0% vs 30.2%(p<0.001),手技後のTIMI flow grade 3は両群とも93.1%,遠位塞栓は血栓除去群で低下した(1.6% vs 3.0%, p<0.001)。
[一次エンドポイント]
有意な両群間差は認められなかった(347例[6.9%] vs 351例[7.0%]:血栓除去群のハザード比0.99;95%信頼区間0.85~1.15[p=0.86])。
[二次エンドポイント]
心血管死(3.1% vs. 3.5%:0.90;0.73~1.12, p=0.34),一次エンドポイント+ステント血栓症または標的血管再血行再建術(9.9% vs 9.8%:1.00;0.89~1.14, p=0.95)も同等。
[安全性]
30日以内の脳卒中は血栓除去群のほうが多く(33例[0.7%] vs 16例[0.3%]:2.06;1.13~3.75, p=0.02),180日以内も同様であった(1.0% vs 0.5%, p=0.002)。
[正味の有効性]
180日以内の一次エンドポイント+脳卒中に有意な両群間差は認められなかった(377例[7.5%]vs 364例[7.2%]:1.04;0.90~1.20, p=0.64)。
[サブグループ]
TIMI thrombus grade≧3(thrombus burdenが高い)/<3を含むサブグループ解析の結果も同様であった。
★結論★pPCIを施行するSTEMI患者において,pPCI前のルーチン血栓除去によるpPCIのみにくらべた180日以内の心血管イベントの有意な低下は認められず,30日以内の脳卒中発症率が増加した。
ClinicalTrials. gov No: NCT01149044
文献
  • [main]
  • Jolly SS, et al for the TOTAL investigators: Randomized trial of primary PCI with or without routine manual thrombectomy. N Engl J Med. 2015; 372: 1389-98. PubMed
    Crea F: Coronary microvascular obstruction - A puzzle with many pieces. N Engl J Med. 2015; 372: 1464-5. PubMed
  • [substudy]
  • PCI施行予定のST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,ダイレクトステンティング(DS)はPCI単独群にくらべ血栓吸引療法併用PCI群でより多く行われていた。また,DSの臨床転帰と心筋再灌流に従来ステント留置との有意差は示されず,血栓吸引との交互作用も認められなかった。
    本研究は,ルーチンの血栓吸引療法を併用したPCIとPCI単独を比較した大規模ランダム化比較試験(RCT)の,TAPAS,TASTE,TOTALの患者データを統合し,STEMI患者におけるDSの臨床転帰および心筋再灌流に対する効果,またDSと血栓吸引との交互作用について検討した観察研究。
    DSは,PCI単独群にくらべ血栓吸引療法併用PCI群で約2倍多く行われていた(41% vs. 22%, P <0.001)。DSを受けた患者群では術前TIMI 0/1 flowの割合は低く(70% vs. 77%, P <0.001),従来のステント留置を受けた患者群にくらべ造影剤の使用量が少なく(162 mL vs. 172 mL, P <0.001),かつ透視時間も短かった(11.1分 vs. 13.3分,P <0.001)。 プロペンシティマッチングによるその後の解析では,有効性の主要評価項目である30日時点の心血管死は,DS群1.7% vs. 従来ステント群1.9%で有意差は示されず[ハザード比(HR)0.88; 95%信頼区間 0.55~1.41, P =0.60],DSと血栓吸引療法との交互作用も認められなかったことから(P interaction=0.96),両者による相乗効果はないことが示唆された。また,安全性の主要評価項目である30日時点の脳卒中および一過性脳虚血発作* についても差は示されず[0.6% vs. 0.4%; オッズ比(OR)1.02; 0.14~7.54, P =0.99],DSと血栓吸引療法との交互作用も認められなかった(P interaction=0.81)。さらに,PCI後の心筋再灌流について,DSはSTセグメント回復(<70%)に関連せず(30% vs. 35%; OR 0.84, 0.70~1.01, P =0.06),血栓吸引療法との交互作用は示されなかった(P interaction =0.47)。DSと冠動脈造影による心筋再灌流障害との独立した関連性は示されず[心筋濃染グレード(myocardial blush grade)0 or 1: 4.7% vs. 5.7%, OR 0.99; 0.66~1.47, P =0.94],血栓吸引療法との交互作用も認められなかった(P interaction=0.26)。
    * TASTEおよびTOTALのデータからのみ抽出
    Mahmoud KD, et al: Clinical impact of direct stenting and interaction with thrombus aspiration in patients with ST-segment elevation myocardial infarction undergoing percutaneous coronary intervention: Thrombectomy Trialists Collaboration. Eur Heart J. 2018; 39: 2472-9. PubMed
  • pPCI前のルーチン血栓除去術施行1年後-pPCIのみにくらべたCVイベント低下はみられず,脳卒中リスクが高かった。
    pPCI前のルーチン血栓除去術施行のpPCI単独施行にくらべた180日以内の心血管(CV)イベントの有意な低下は認められなかったが,ST寛解,遠位塞栓の減少という改善がみられた。この改善が良好な長期転帰につながるかを検討した結果(10,064例;追跡期間は1年):CV死,心筋梗塞(MI)再発,心原性ショック,NYHA IV度の心不全の複合一次エンドポイントは血栓除去術併用群395/5,035例(8%),pPCI群394/5,029例(8%):ハザード比1.00;95%信頼区間0.87~1.15(p=0.99)。
    CV死(3.6%, 3.8%),MI再発(2.5%, 2.3%),心原性ショック(1.9%, 2.1%),心不全(2.1%, 1.9%)も両群同等であったが,脳卒中は血栓除去術併用群のほうが多かった(1.2%, 0.7%:1.66;1.10~2.51[p=0.015])。
    この結果はサブグループ,解析法(intention-to-treat, on-treatment, per-protocol)を問わず一貫していた。
    Jolly SS, et al for the TOTAL Investigators: Outcomes after thrombus aspiration for ST elevation myocardial infarction: 1-year follow-up of the prospective randomised TOTAL trial. Lancet. 2016; 387: 127-35. Epub 2015 Oct 22. PubMed

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収載年月2015.05
更新年月2018.09