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PEGASUS-TIMI 54
Prevention of Cardiovascular Events in Patients with Prior Heart Attack Using Ticagrelor Compared to Placebo on a Background of Aspirin–Thrombolysis in Myocardial Infarction 54

目的 急性冠症候群(ACS)発症後,心筋梗塞(MI)既往例の二次予防では,虚血イベントを抑制するためP2Y12受容体拮抗薬とaspirinの1年間の投与が推奨されているが,1年以上の長期2剤併用抗血小板療法(DAPT)の有効性は明らかでない。ticagrelorは強力な可逆的P2Y12受容体拮抗薬で,ACS患者において最大1年間の投与でclopidogrelよりも有害心血管イベントを抑制することが示されている。
MI既往の安定例において,低用量aspirinとticagrelor 2用量の長期併用の主要心血管イベント抑制効果および安全性を評価する。

有効性の一次エンドポイントは,心血管死,MI,脳卒中の複合エンドポイント。
安全性の一次エンドポイントは,TIMI大出血。
コメント N Engl J Med. 2015; 372: 1791-800. へのコメント
心筋梗塞後1年以上の長期にわたる抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が有用か否かを検証する試験で,アスピリン+チカグレロール(ticagrelor 60mg bidまたは90mg bid)とaspirin単独(プラセボ)の長期投与を比較した結果,有効性はticagrelor 両群でプラセボ群より有意に優れていたが,安全性(大出血)は有意に高リスクであることが示された。これは,10,000例の治療により,年間40-42件の一次エンドポイントが予防できるが,大出血は41-31件発生することを示唆しており,リスクとベネフィットのバランスを考えるとメリットは少ない。また,ほとんどの症例が心筋梗塞後のDAPT治療を中断して本試験に組み込まれており,この間の出血例が除外されているなど,出血リスクの比較的軽い症例が組み込まれている。したがって,実臨床では本試験結果より出血の増加が危惧される。最近報告されたDAPT trial(N Engl J Med. 2014; 371: 2155-66. PubMed)でも多少出血イベントは少ないものの,基本的に本試験と同様の成績であり,長期DAPTの有用性は認められないと考えるのが妥当と思われる。さらに,ticagrelor 群で治療初期にしばしばみられる呼吸困難は,PLATO試験の場合より少ないものの服薬中止の大きな理由になっているのも問題である。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(日本を含む31か国1,161施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は33か月(中央値)。
ランダム化期間は2010年10月~’13年5月。
対象患者 21,162例。50歳以上,1~3年前のMI既往で,危険因子(≧65歳,糖尿病,自然発症MIを2回以上発症,多枝冠動脈疾患[CAD],慢性腎機能障害[推算クレアチニンクリアランス<60mL/分])のうち一つ以上を保有する,aspirin 75~150mg/日服用患者。
除外基準:P2Y12受容体拮抗薬・dipyridamole・cilostazol・抗凝固薬使用予定例,出血性障害,虚血性脳卒中・頭蓋内出血既往など。
■患者背景:平均年齢65歳,女性24%,体重82kg,高血圧78% ,高脂血症(ticagrelor 90mg群76.7%,60mg群76.4%,プラセボ群77.1%),糖尿病(31.8%, 32.8%, 31.9%),多枝CAD(58.9%, 59.5%, 59.6%),PCI既往(83.0%, 83.5%, 82.6%),推算糸球体濾過量<60mL/分/1.73m²(23.8%, 22.2%, 23.6%)。
MI発症後の年数1.7年(中央値),STEMI(53.4%, 53.4%, 54.0%)。
治療:用量を問わないaspirin(99.8%, 99.9%, 99.9%),スタチン(92.6%, 92.2%, 93.2%),β遮断薬(82.4%, 82.3%, 83.2%),ACE阻害薬/ARB(80.9%, 79.9%, 80.6%)。
治療法 ticagrelor 90mg群(7,050例):90mg 2回/日投与。
ticagrelor 60mg群(7,045例):60mg 2回/日投与。
プラセボ群(7,067例)。
いずれも低用量aspirinに追加。
結果 [有効性の一次エンドポイント]
Kaplan-Meier推定による3年累積発生率は,ticagrelor 90mg群7.85%,60mg群7.77%,プラセボ群9.04%で,ticagrelor両群はプラセボ群にくらべリスクが有意に低かった:90mg群のハザード比(HR 0.85[95%信頼区間0.75~0.96, p=0.008];60mg群0.84[0.74~0.95, p=0.004])。
10,000例治療により90mg群で40件/年,60mg群で42件/年の一次エンドポイントを予防できると推定された。
イベント別の結果は次の通り。
CVD死:2.94%, 2.86%, 3.39%(90mg群0.87[0.71~1.06, p=0.15];60mg群0.83[0.68~1.01, p=0.07]),MI:4.40%, 4.53%, 5.25%(0.81[0.69~0.95, p=0.01];0.84[0.72~0.98, p=0.03],脳卒中:1.61%, 1.47%, 1.94%(0.82[0.63~1.07, p=0.14];0.75[0.57~0.98, p=0.03]。
[安全性の一次エンドポイント]
Kaplan-Meier推定による3年累積発生率は,90mg群2.60%,60mg群2.30%,プラセボ群1.06%で,ticagrelor両群はプラセボ群にくらべ有意にリスクが高かった(90mg群2.69[1.96~3.70, p<0.001];60mg群2.32[1.68~3.21, p<0.001])。
10,000例治療によりTIMI大出血は90mg群で41件/年,60mg群で31件/年発生すると推定された。
[その他]
全死亡には有意な群間差はなかった(5.15%, 4.69%, 5.16%)。
冠動脈疾患死,MI,脳卒中はticagrelor両群がプラセボ群にくらべ有意に少なかった(6.99%, 7.09%, 8.33%;90mg群p=0.002,60mg群p=0.003)。
TIMI小出血(1.31%, 1.18%, 0.36%),輸血を要する出血(2.43%, 2.09%, 0.72%),試験薬投与を中止した出血(7.81%, 6.15%, 1.50%)もticagrelor両群はプラセボ群にくらべ有意に多かった(全p<0.001)。
致死的出血,非致死的頭蓋内出血には有意な群間差はみられなかった(0.63%, 0.71%, 0.60%)。
呼吸困難はticagrelor両群で多く(18.93%, 15.84%, 6.38%;両群ともp<0.001),大半が軽度(58.1%),中等度(36.9%)であった。
★結論★心筋梗塞発症から1年以上経過した患者において,ticagrelor追加によりCVDリスクは有意に低下したが,大出血リスクが増大した。
ClinicalTrials gov No: NCT01225562
文献
  • [main]
  • Bonaca MP et al for the PEGASUS-TIMI 54 steering committee and investigators: Long-Term Use of Ticagrelor in Patients with Prior Myocardial Infarction. N Engl J Med. 2015; 372: 1791-800. Epub 2015 Mar 14. PubMed
    Keaney JF Jr: Balancing the risks and benefits of dual platelet inhibition. N Engl J Med. 2015; 372: 1854-6. Epub 2015 Mar 14. PubMed
  • [substudy]
  • 高リスクの多枝病変既往例において,ticagrelor群はプラセボ群よりMACE,冠イベントリスクが有意に低く,大出血リスクは増大するも頭蓋内・致死的出血の有意な増加はなかった。
    多枝病変(MVD)*患者におけるticagrelor群(両用量を統合)の二次予防の有効性と安全性の結果(事前設定解析)。 * 心筋梗塞(MI)発症時に主要血管≧2枝に>50%の狭窄を有するもの
    1~3年前のMI既往例のうち,MVD例は12,558例(59.4%:年齢中央値63歳[vs 非MVD例68歳],男性81.0%[69.2%],糖尿病27.7%[38.7%],ST上昇型MI 55.0%[51.6%],PCI既往93.0%[68.5%],CABG既往6.8%[1.4%],うっ血性心不全17.5%[23.5%])。
    プラセボ群において,MVD例は非MVD例よりもMACE(心血管死,MI,脳卒中の複合エンドポイント,3年Kaplan-Meier比9.37% vs 8.57%:調整ハザード比1.24;95%信頼区間1.03~1.50, p=0.026),冠イベント(7.67% vs 5.34%:1.49;1.19~1.87, p=0.0005)のリスクが有意に高かった。
    MVD例において,ticagrelor群はプラセボ群より,MACE(7.94% vs 9.37%:0.82;0.72~0.94, p=0.004),冠イベント(6.02% vs 7.67%:0.76, p<0.0001),冠動脈疾患死(1.41% vs 2.29%: 0.64, p=0.002)リスクが有意に低かった。一方で,TIMI大出血相対・絶対リスクは,ticagrelor群のほうが有意に高かったが(2.52% vs 1.08%:2.67;1.81~3.93, p<0.0001]),頭蓋内出血(ICH),致死的出血の有意な増加はなく(イベント比:60mg群0.80 vs 90mg群0.54 vs プラセボ群0.63),MVD,非MVDによる違いもなかった:交互作用は大出血p=0.58,ICH,致死的p=0.98:J Am Coll Cardiol. 2018; 71: 489-96. PubMed
  • 心筋梗塞既往例の脳卒中の約1/3は転帰不良。ticagrelor 60×2回/日群では虚血性脳卒中が有意に低下し,出血性脳卒中の増加はなかった。
    ticagrelor 60mg×2回/日(承認用量)群での33か月(中央値)後の脳卒中発症は213例,うち85%が虚血性で,>30%が転帰不良(死亡18%,中等度~重度障害15%)。
    同群はプラセボ群より脳卒中(ハザード比0.75;95%信頼区間0.57~0.98),とくに虚血性脳卒中(0.76;0.56~1.02)リスクが有意に低かった。出血性脳卒中は両群とも少なかった(9例,8例)。TIMI大出血リスクは同群のほうが高かったが(2.32;1.68~3.21),頭蓋内・致死的出血リスクの有意な増加はみられなかった:Circulation. 2016; 134: 861-71. PubMed
  • 糖尿尿病合併例は非合併例よりMACEリスクが高く,ticagrelor群での絶対リスク低下がより大きい。大出血は合併の有無を問わずticagrelor 群で増加。
    糖尿病合併MI既往例(6,806例)は非合併例(14,355例)より3年後のMACEリスクが高かった(プラセボ群のMACE:合併例11.60% vs 非合併例7.83%,調整ハザード比[HR]1.45;95%信頼区間1.22~1.73)。合併の有無を問わずticagrelor(2用量)群はプラセボ群にくらべMACEリスクが有意に低かったが(ともにHR 0.84),絶対リスク低下はリスクが高かった合併例のほうが大きかった(1.5% vs 1.0%;NNT 67 vs 91)。心血管死,冠動脈疾患死の結果も同様だった。非合併例同様,合併例ではTIMI大出血がticagrelor 群で有意に増加したが(2.56% vs 0.98%;HR 2.56),致死的・頭蓋内出血は少なく有意な両群間差はなかった:J Am Coll Cardiol. 2016; 2732-40. PubMed
  • PAD合併例(5%)は非合併例よりMACEリスクが高く,ticagrelor群での絶対リスク低下がより大きい。同群では主要肢イベントリスクも低下した。
    末梢動脈疾患(PAD)合併MI既往例(5%)は非合併例より3年後のMACE(プラセボ群での比較:19.3% vs 8.4%,調整ハザード比[HR]1.60;95%信頼区間1.20~2.13),主要肢イベント(MALE;急性肢虚血:1.0% vs 0.1%,末梢血行再建:9.15% vs 0.46%),TIMI大出血(1.6% vs 1.0%)の発生率が高かった。ticagrelor群ではMACEリスクが合併例,非合併例ともに低下したが(HR 0.75, 0.86),絶対リスク低下は合併例のほうが大きかった(4.1% vs 1.0%;NNT 25 vs 100)。MALEリスクも低下(合併例:0.65;0.44~0.95)。TIMI大出血は合併例,非合併例ともに増加したが(HR 1.32, 2.59),合併例の絶対リスク増加は小さかった(0.12%, NNT 834):J Am Coll Cardiol. 2016; 2719-28. PubMed
  • 実地臨床でのAMI後≧1年の長期DAPTのリスク・ベネフィット-RCTの対象に一致する高リスク例は23%のみで,3年イベントリスクはRCTの約2倍と高い。
    ランダム化比較試験(RCT)PEGASUS-TIMI 54で認められた急性心筋梗塞(AMI)後の安定患者での長期2剤併用抗血小板療法(DAPT)のリスク・ベネフィットを,実地臨床の患者(CALIBER)で推定(AMI発症1年後から中央値1.5年追跡)。
    2005年4月~’10年3月(ticagrelor 発売前)登録のAMI発症後≧1年生存例(7,328例)のうちPEGASUS-TIMI 54の登録・除外基準を満たす高リスク患者を「標的群」(1,676例[23.1%])とした。心血管エンドポイント(AMI・脳卒中・心血管疾患死)の3年累積発生率は標的群でPEGASUS-TIMI 54のaspirin単剤群の約2倍と高く(18.8% vs 9.04%),出血エンドポイント(TIMI大出血)も同様だった(3.0% vs 1.26%)。標的群にPEGASUS-TIMI 54のticagrelor 60mg群の相対リスク(ハザード比)を適用すると,1万例・年の治療で予防される心血管エンドポイントは101件,TIMI大出血の増加は75件,致死的・頭蓋内出血の増加は10件:BMJ. 2016; 353: i3163. PubMed

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収載年月2015.03
更新年月2018.03