循環器トライアルデータベース

THIN
The Health Improvement Network

目的 収縮期血圧(SBP)140~159mmHgの患者での降圧治療による転帰改善のエビデンスは限られる。また日常診療においては,血圧上昇から治療の強化まで,治療の強化から血圧評価までにかなりの遅れが生じる場合があるが,その遅れの転帰への影響は明らかでない。
英国のプライマリケア受診患者を登録したThe Health Improvement Network(THIN)データベースを用いて,降圧治療を強化すべきSBP閾値,治療強化までの時間,治療強化後の追跡評価までの時間と,心血管イベント・死亡リスクとの関連を検証する。

評価項目は,初発の急性心血管イベント(心筋梗塞,脳血管障害,急性うっ血性心不全,末梢血管疾患[PAD]),全死亡。
コメント BMJ. 2015; 350: h158. へのコメント
これまで高血圧治療に関して降圧目標値に関しての議論が数多くなされてきたが,降圧する期間に関しての科学的根拠に基づいた議論はあまりなされていなかった。降圧速度に関しては,概念的にthe slower, the better(ゆっくりなほど,よし)というコンセプトをもつ専門家が多かった。この考え方は急な降圧は心臓や脳などの臓器に虚血を有するという意味では一理ある考え方ではあろう。しかし近年は,心血管疾患の発生病理学の著しい進歩によって,酸素や栄養成分の補給路,ライフラインである“血管”の破綻が心筋梗塞や脳梗塞をもたらすことが心血管合併症の本態であることが明らかになってきた。その考え方でいけば,傷んだ道路に対しては速やかな対策,すなわち通行制限が急務ということになる。高血圧治療でいえば速やかな降圧こそが心血管合併症予防に有効なのである。このことを証明したトライアルがARBバルサルタンの心血管合併症予防効果をアムロジピンと比較したVALUE試験である。本試験では,6ヵ月間の血圧調整期間において,アムロジピン群の降圧効果がバルサルタン群よりも大きかったために,心筋梗塞や脳卒中の発生が少なかったことから,速やかな降圧こそが重要であることを示唆した。
THIN研究は英国のプライマリーケア受診症例の長期追跡による結果であるが,まさに,降圧はthe faster, the better(速やかな降圧ほど,よし)を科学的に証明したという点で意義がある。速やかとはいっても服用後1,2時間に降圧させることは危険であることはいうまでもなく,本論文の主旨は,数週間単位での降圧速度のことであり,少なくとも1.4ヵ月以内に収縮期血圧をまずは,150mmHg以下に下げることが脳心血管合併症予防に重要であることを示唆している。(桑島
デザイン 後ろ向きコホート研究。
期間 追跡期間中央値は37.4か月。
登録期間は1986~2010年。
参加者 88,756例。THIN登録患者のうち,18歳以上,高血圧関連の診断コードが1つ以上記録され,血圧を1回以上測定,降圧薬1剤以上の投与を開始または強化し,10年以上の連続記録と身長・体重データがあるもの。
除外基準:BMI<15または>100kg/m²など。
■患者背景:平均年齢58.5歳,男性41.5%,BMI 27.6kg/m²,過去・現喫煙56.5%,冠動脈疾患既往7.7%,脳卒中既往2.8%,PAD既往1.1%,糖尿病6.6%,慢性腎臓病(CKD)2.7%, modified Charlson併存疾患スコア0.27,Townsend貧困スコア2.66。
調査方法 クリニック受診・高血圧診断・血圧上昇(SBP≧130mmHg)から1年間をrun-in期間とし,その後10年間を「治療戦略評価期間」とした。「降圧治療強化閾値」は治療強化(降圧薬の投与開始または増量)時の最小SBP値(10mmHg単位),「治療強化までの時間」は最初に降圧治療強化閾値を超えた日から治療強化開始まで,「追跡評価までの時間」は治療強化から次の診察室血圧測定までと定義。
年齢,性別,喫煙,貧困スコア,糖尿病・心血管疾患・CKD既往,併存疾患スコア,BMI,アドヒアランス(medication possession ratio),降圧治療強化時の降圧治療強化閾値と実際のSBPとの差で調整後,「治療戦略評価期間」終了後のイベント発症との関係を評価した。
結果 急性心血管イベント発症・死亡は9,985人(11.3%)。
[降圧治療を強化すべきSBP閾値]
降圧治療強化閾値140mmHgを対照とすると,130,150mmHgはイベント発症リスクに差がなかったが,>150mmHgでは有意にリスクが増加した(160mmHg:ハザード比1.21[95%信頼区間1.13~1.30], 170mmHg:1.42[1.31~1.55], ≧180mmHg:1.69[1.55~1.84])。
三次自然スプライン曲線では,SBP閾値が低いほどイベントリスクが低かった。
[治療強化までの時間]
イベント発症リスクは時間の増加に伴い増加した(0~1.4か月と比較したハザード比:1.4~4.7か月:1.12[1.05~1.20],4.7~8.7か月:1.23[1.15~1.32],8.7~15.3か月:1.19[1.11~1.28],≧15.3か月:1.25[1.17~1.35])。
三次自然スプライン曲線では,治療強化までの期間が短いほどイベントリスクが低かったが,リスクは最初の9か月間に最も急速に増加することが示された。
[追跡評価までの時間]
0.7~1.0か月にくらべると,0~0.7, 1.0~1.5, 1.5~2.7か月はイベント発症リスクに有意差はなかったが,≧2.7か月では有意に増加した(ハザード比1.18[1.11~1.25], p<0.001)。
三次自然スプライン曲線はJ字型で,最もリスクが低かったのは約1か月後であった。
★結論★降圧治療強化のSBP閾値>150mmHg,SBP上昇から治療強化までの時間>1.4か月,治療強化から次の診察室血圧測定までの時間>2.7か月は,急性心血管イベントまたは死亡リスクの増加と関連した。

[主な結果]
  • Xu W et al: Optimal systolic blood pressure target, time to intensification, and time to follow-up in treatment of hypertension: population based retrospective cohort study. BMJ. 2015; 350: h158. PubMed
  • 洞調律回復AF患者における脳卒中・TIAリスクはAF非既往例にくらべると高いままで,AF非再発例でもリスクの上昇がみられた。
    洞調律を回復したresolved 心房細動(AF)患者のリスク,治療状況を検証するため,unresolved AF (非resolved AF;AF)例,非AF例と比較。主要評価項目は脳卒中,一過性脳虚血発作(TIA),副次評価項目は全死亡。
    2000~’16年の調査日12月1日の≧365日前に登録された18歳以上の脳卒中・TIA非既往例(AF既往のresolved AF例11,159例;AF例15,059例,AF非既往例22,266例)。2000年1月1日~’16年5月15日のデータベースを使用。
    resolved AF例は2000年の0.9%から’16年は10.5%に増加した。
    脳卒中・TIA粗発症率は,resolved AF例:12.1/1,000人・年(追跡期間中央値3.5年),AF例:16.7/1,000人・年(2.7年),AF非既往例:7.4/1,000人・年(3.5年)で,resolved AF例の調整発生率比は,0.76 vs AF例(95%信頼区間0.67~0.85),1.63 vs AF非既往例(1.46~1.83);いずれもp<0.001。また,AF非再発のresolved AF例リスク(vs AF非既往例)も1.45(1.26~1.67)と有意に高かった。
    粗全死亡率はresolved AF例:30.0/1,000人・年(3.7年),AF例:60.3/1,000人・年(2.8年),AF非既往例:24.4/1,000人・年(3.6年)で,resolved AF例の調整発生率比は0.60 vs AF例(0.56~0.65),1.13 vs AF非既往例(1.06~1.21);いずれもp<0.001。
    resolved AF診断時に抗凝固薬治療の記録があったものは17.4%。resolved AF例全体の治療率は,診断後90日以内:9.6%,91~180日後:8.3%だったが,記録のあったものは90日以内:44.9%,91~180日後:32.9%(Adderley NJ, et al: Risk of stroke and transient ischaemic attack in patients with a diagnosis of resolved atrial fibrillation: retrospective cohort studies. BMJ. 2018; 361: k1717.)。 PubMed
  • 代謝的に健康な肥満の人は,代謝的に健康な正常体重の人より初発CAD・脳血管疾患・心不全リスクが高かった。正常体重の人でも代謝異常を有し,CVDリスクが上昇し得ることが示された。
    肥満関連の代謝異常(2型糖尿病,高血圧,高脂血症)のない肥満は代謝的に健康な肥満(metabolically healthy obese)と言われている。代謝的に健康な肥満と心血管疾患(CVD)初発リスク(冠動脈疾患[CAD],脳血管疾患,心不全,末梢血管疾患[PVD])の関係を,1995~2015年の電子健康記録を使用して検証した。
    18歳以上の初回記録時にCVDを発症していなかった349万5,777人。平均追跡期間は5.4年。BMIで低体重(<18.5kg/m²),正常体重(18.5~<25kg/m²),過体重(25~<30kg/m²),肥満(≧30kg/m²)に分類し,代謝異常を0~3にスコア化した。
    代謝的異常なし・低体重:2.7%;正常体重:37.7%;過体重:25.7%;肥満14.8%。低体重で代謝異常のあったものはいなかった。体重を問わず代謝的に健康な肥満者の平均年齢42.6歳,代謝異常を1つ以上有する肥満者は58.6歳。
    死亡154,051例(4.4%),一般診療所からの紹介例1,182,658例(30.8%)。初発CVDは165,302例,CAD 61,546例(37.2%),脳血管疾患54,705例(33.1%),心不全25,254例(15.3%),PVD 23,797例(14.4%)。代謝的に健康な過体重者では,糖尿病が1.9%,高脂血症が9.4%,高血圧が7.2%発症した。代謝的に健康な肥満者での発症はそれぞれ5.6%, 11.5%, 10.5%。
    <CAD>代謝異常なしの人で正常体重とくらべた過体重者のハザード比(HR)1.30(95%信頼区間1.27~1.34),肥満:1.49(1.45~1.54)。低体重を除く全体重で保有代謝異常数が多い人ほどCAD発症リスクは高かった。
    <脳血管疾患>代謝異常なしの人における正常体重とくらべたHRは低体重:1.31(1.23~1.40),肥満:1.07(1.04~1.11)で高かった。体重を問わず保有代謝異常数が多い人ほど脳血管疾患リスクは高かった。
    <心不全>代謝異常なしの人における正常体重とくらべたHRは低体重:1.36(1.23~1.51),過体重:1.11(1.06~1.16),肥満:1.96(1.86~2.06)。体重を問わず保有代謝異常数が多い人ほど心不全リスクは高かった。
    <PVD>代謝異常なしの人における正常体重とくらべたHRは低体重:1.49(1.36~1.63)だったが,過体重:0.92(0.88~0.96),肥満:0.91(0.86~0.96)では低かった。体重を問わず保有代謝異常数が多い人ほどPVDリスクは高かった(Caleyachetty R et al: Metabolically healthy obese and incident cardiovascular disease events among 3.5 million men and women. J Am Coll Cardiol. 2017; 70: 1429-37.)。 PubMed

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収載年月2015.04
更新年月2018.06