循環器トライアルデータベース

PARADIGM-HF
Prospective Comparison of ARNI with ACEI to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in Heart Failure

目的 ACE阻害薬は収縮機能が低下した心不全患者において,死亡リスクを抑制する。ネプリライシン阻害薬は,ナトリウム利尿ペプチド,ブラジキニンなどの血管作動性ペプチドを分解する酵素ネプリライシンを阻害することにより,これらの物質を増加させ,血管収縮やナトリウム貯留,リモデリングなどをもたらす神経ホルモンの過剰な活性化を妨げる。ACE阻害薬とネプリライシン阻害薬の併用は単剤よりも優れることが実験研究では示されたが,臨床試験では重篤な血管浮腫が認められた。この血管浮腫のリスクを軽減した薬剤として,ネプリライシン阻害薬sacubitrilとARB valsartanの合剤LCZ696が設計された。
EFが低下した心不全患者において,LCZ696の死亡抑制効果をACE阻害薬のenalaprilと比較する。

一次エンドポイントは,心血管死,心不全による入院の複合エンドポイント。
(ただし,試験は心血管死発生率の差を検出するようデザインされた。)
コメント N Engl J Med. 2014; 371: 993-1004. へのコメント
収縮機能が低下した慢性心不全(HFrEF)に対して久しぶりに新薬の有効性が示された。LCZ696は,ARB(バルサルタン)とネプリライシン阻害薬(sacubitril,AHU-377)との1:1の合成薬であり,LCZ696 200mgはバルサルタン160mgの作用を有する。ネプリライシンはNEP(neutral endopeptidase)であり,LCZ696 に含まれるsacubitrilはネプリライシン阻害薬であるが,omapatrilatのように,ACEやaminopeptidase Pを阻害せず,Na利尿ペプチドの分解は抑制する。したがって,ブラジキニンの上昇は少なく血管浮腫を生じない。omapatrilatはエナラプリルを対照とした大規模臨床試験(OVERTURE)で有効性が認められなかったのみならず,血管浮腫が増加した経緯があるが,LCZ696は血管浮腫を増加させなかった。腎機能の低下(クレアチニン値の上昇)や血清カリウム値の上昇は,むしろ,エナラプリル群より少なく,症候性低血圧が同群より多かったが,予後改善効果,心不全入院の減少,QOLの改善が認められたことは朗報であり,薬剤服薬中止例も同群よりも少なく,効果の点からも,安全性の点からもエナラプリルよりも優れた薬剤と言える。OVERTURE試験ではomapatrilatの1日1回投与であったが,今回のPARADIGM-HF試験では,LCZ696を1日2回投与したことが良かった可能性もある。(
デザイン 無作為割り付け,二重盲検,多施設(47か国1,043施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は27か月(中央値)。
登録期間は2009年12月8日~’12年11月23日。
対象患者 8,442例。18歳以上,EF≦40%(2010年のプロトコール改訂後は≦35%),NYHA心機能分類II~IV度の心不全患者で,B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)≧150pg/mLのもの。
除外基準:症候性低血圧,推算糸球体濾過量<30mL/min/1.73m²,スクリーニング時の血清カリウム値>5.2mmol/L,血管浮腫の既往など。
■患者背景:平均年齢63.8歳,女性(LCZ696群21.0%,enalapril群22.6%),人種(白人:両群とも66.0%,アジア人:18.1%, 17.8%),収縮期血圧(122mmHg, 121mmHg),BMI(28.1kg/m², 28.2kg/m²),血清クレアチニン(1.13mg/dL, 1.12mg/dL),虚血性心筋症(59.9%, 60.1%),EF(29.6%, 29.4%),NYHA心機能分類(I度:4.3%, 5.0%,II度:71.6%, 69.3%,III度:23.1%, 24.9%,IV度:0.8%, 0.6%),既往(高血圧:70.9%, 70.5%,糖尿病:34.7%, 34.6%,心房細動:36.2%, 37.4%,心不全による入院:62.3%, 63.3%,心筋梗塞:43.4%, 43.1%),試験前の服用薬(ACE阻害薬:78.0%, 77.5%,ARB:22.2%, 22.9%),ランダム化時の治療(利尿薬:80.3%, 80.1%,ジギタリス:29.2%, 31.2%,β遮断薬:93.1%, 92.9%,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬:54.2%, 57.0%,植込み型除細動器:14.9%, 14.7%)。
治療法 ACE阻害薬またはARBを中止し,単盲検run-in期間として最初にenalapril(10mg 2回/日)を2週間,次にLCZ696(100mg 2回/日→ 200mg* 2回/日に増量)を4~6週間投与。許容できない副作用の発現を認めなかった症例のみを下記2群にランダム化した。
LCZ696群(4,187例):200mg 2回/日。
enalapril群(4,212例):10mg 2回/日。
* LCZ696 200mgのARB成分はvalsartan 160mgに相当。
結果 2014年3月の中間解析でLCZ696の有効性が示されたため,本試験は早期に終了した。
試験治療の中止はLCZ696群17.8%,enalapril群19.8%(p=0.02),最終評価時の平均投与量はそれぞれ375mg, 18.9mg,追跡不能は11例,9例。
[一次エンドポイント]
LCZ696群はenalapril群にくらべ有意にリスクが低かった(914例[21.8%]vs 1,117例[26.5%]:ハザード比0.80;95%信頼区間0.73~0.87;p<0.001)。
心血管死(558例[13.3%]vs 693例[16.5%]:0.80;0.71~0.89),心不全による入院(537例[12.8%]vs 658例[15.6%]:0.79;0.71~0.89)のリスクも,同群のほうが有意に低かった(ともにp<0.001)。
[二次エンドポイント:全死亡など]
LCZ696群は,全死亡リスクが低く(17.0% vs 19.8%:0.84;0.76~0.93;p<0.001),8か月後のKansas City Cardiomyopathy Questionnaire (KCCQ) スコア(範囲0~100;高スコアほど心不全症状と身体活動制限が少ない)の変化が小さかった(-2.99 vs -4.63:群間差1.64;0.63~2.65;p=0.001)。
心房細動の新規発症と腎機能の低下には,有意な両群間差を認めなかった。
[安全性]
有害事象による試験治療中止は,LCZ696群10.7%,enalapril群12.3%(p=0.03),腎機能障害による中止は0.7%, 1.4%(p=0.002)。
LCZ696群は症候性低血圧が多かったが(14.0% vs 9.2%;p<0.001),血清クレアチニン≧2.5mg/dL(3.3% vs 4.5%;p=0.007),血清カリウム>6.0mmol/L(4.3% vs 5.6%;p=0.007),咳(11.3% vs 14.3%;p<0.001)は少なかった。
血管浮腫はそれぞれ19例,10例(p=0.13)で,気道狭窄や気道確保を要した症例はなかった。
★結論★収縮機能が低下した心不全患者において,LCZ696群はenalapril群にくらべ,死亡および心不全による入院のリスクが有意に低かった。
ClinicalTrials gov. No: NCT01035255
文献
  • [main]
  • McMurray JJ et al for the PARADIGM-HF investigators and committees: Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure. N Engl J Med. 2014; 371: 993-1004. PubMed
    Jessup M: Neprilysin Inhibition - A novel therapy for heart failure. N Engl J Med. 2014; 371: 1062-4. PubMed
  • [substudy]
  • HFrEF患者において,発作性AF既往例は心不全による入院,脳卒中リスクが持続性・永続性AF既往例より高く,新規発症AFは全死亡を含む有害CVリスクと関連した。
    2つの大規模ランダム化比較試験PARADIGM-HF,ATMOSPHEREを使用して,駆出率の低下した収縮性心不全(HFrEF)患者において,心房細動(AF)の病型別(発作性,持続性,永続性)および新規発症AFと転帰(心血管[CV]死,心不全[HF]による入院,全死亡,脳卒中など)の関係を検証した。
    ランダム化時のAF既往例は5,481例/15,415例(35.6%),うち発作性:1,645例(30.0%),持続性および永続性:3,770例(68.8%),不明:66例。AF例は3,654例(23.7%)で新規AF発症は369例。
    AF例は非AF例より高齢(発作性;66.9歳,持続・永続性;67.2歳 vs 61.6歳),男性が多く(80% vs 77.2%),HF罹病期間が長く(≦1年:24.3, 24.5% vs 35.8%, 1~5年:37.9, 38.4% vs 37.4%,>5年:37.8, 37.0% vs 26.8%),NYHA心機能(I~II度:71.6~62.9% vs 77.9%,III~IV度:28.4~37.1% vs 22.1%),推算糸球体濾過量が低く(64.2~67.7 vs 72.7/mL/分/1.73m²),HF入院既往(66.3~65.8% vs 58.7%)や高血圧既往(72.3~75.5%)が多く,EF(29.1~30.3 vs 28.5%),NT-proBNP(1,474~1,801 vs 1,244pg/mL),CHA2DS2-VAScスコア(4.1~3.9 vs 3.5)が高いなどの違いがみられた。また持続性・永続性AF例は発作性AF例,非AF例にくらべ虚血性が少なく(50.6% vs 63.3%, 60.2%),心筋梗塞既往も同様だった(30.0% vs 49.2%, 45.5%)。β遮断薬の使用に違いはなかったが,利尿薬はAF例のほうが非AF例より多く,digoxinは持続性・永続性AF例(50.8%)のほうが発作性AF(28.7%),非AF例(23.8%)より使用率が高く,amiodaroneはそれぞれ8.7% vs 24.9%, 7.1%。CHA2DS2-VAScスコア≧2は93.0% vs 94.9%, 89.7%。経口抗凝固薬の使用は持続性・永続性AF例で多く(71.2% vs 53.1%, 11.9%),抗血小板薬(31.4% vs 50.8%, 66.0%)と対照的だった。新規発症AF例(64.3歳,女性15.2%)はHF罹病期間が非AF例より長く(≦1年:21.7%,1~5年:39.1%,>5年:39.1%),NT-proBNP(1,694 pg/mL)は持続性・永続性AF例と同じくらいだった。
    非AF例とくらべ,発作性AF例では心血管死,HFによる入院の複合エンドポイントのリスクが有意に高かった(ハザード比1.20;95%信頼区間1.09~1.32, p<0.001)。またHF入院(1.34;1.19~1.51, p<0.001),脳卒中(1.34;1.02~1.76, p=0.037)リスクも高かったが,持続性・永続性AF例でのリスク上昇はみられなかった。
    新規AF発症例も非AF例より,心血管死,HF入院(2.21;1.80~2.71),HF入院(2.11;1.58~2.81),脳卒中(2.20;1.25~3.88[p=0.006]),全死亡(2.26;1.86~2.74),CV死(2.43;1.97~2.98)のリスクが有意に高かった(全p<0.001):J Am Coll Cardiol. 2017; 70: 2490-500. PubMed

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収載年月2014.09
更新年月2017.12