循環器トライアルデータベース

SAVOR-TIMI 53
Saxagliptin Assessment of Vascular Outcomes Recorded in Patients with Diabetes Mellitus (SAVOR)–Thrombolysis in Myocardial Infarction (TIMI) 53

目的 2型糖尿病患者では血糖コントロールの改善により細小血管合併症が抑制されることが示されている。しかし,血糖降下治療の心血管合併症に対する安全性あるいは有効性は未だ確立されておらず,これまで血糖降下薬が心血管転帰を有意に改善することを示した研究はなく,逆に死亡や心不全のリスクを増加させるとの報告もある。さらに,FDAと欧州医薬品庁(EMA)は2008年に承認プロセスを改訂し,すべての新規血糖降下薬に対し心血管に対する安全性を証明するよう勧告した。
心血管疾患(CVD)高リスクの2型糖尿病患者において,ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬saxagliptinの心血管転帰に対する安全性と有効性を検討する(第4相試験)。

一次エンドポイントは,心血管死,非致死的心筋梗塞(MI),非致死的虚血性脳卒中の複合エンドポイント。
コメント SAVOR-TIMI 53, EXAMINEのコメント
DPP-4阻害薬は我が国では2010年のシタグリプチンを皮切りに現在7剤が上市されており経口糖尿病薬の中では売上高のトップを独走する。この薬剤は血糖上昇に応じたインスリン,グルカゴンの分泌調節をおこなうことにより血糖コントロールを改善するから,インスリン分泌促進薬との併用時以外は低血糖をおこす頻度が少なく,高齢糖尿病患者の第一選択薬とも考えられている。この薬剤でもう一つ,注目されてきたのは血管イベントに対する作用である。GLP-1の血管に対する好ましい作用,DPP-4の血管に対する好ましくない作用が基礎研究では集積されつつある。また血中GLP-1濃度を上昇させ,DPP-4活性を抑制することを介してDPP-4阻害薬がマウスおよびラットの実験で動脈硬化を抑制する,あるいは不安定プラークを安定化に導くといったデータも発表されている。さらに,多くのphase 3の試験結果をまとめたメタ解析(Monami M et al. Diabetes Obes Metab. 2013; 15: 112-20. PubMed)ではたった半年から1年の観察期間のうちに心筋梗塞や全死亡率が有意に抑制されたと報告されている。その意味でも今回の2つの発表は循環器医,糖尿病医に限らず,大きな注目を持って迎えられたであろう。
本来の試験の目的は新薬がプラセボに比べ,有意な心血管イベントをおこさないことを確認する目的で行われた検討であり,有意なイベント抑制を期待してのランダム化比較試験(RCT)ではない。その意味ではアログリプチン,サキサグリプチン共にCVDに対してニュートラルであったことは当初の目的にはかなった結果ではあった。しかし,これまでの基礎研究,メタ解析の結果からするとインパクトの低い結果ともといえよう。ただし平均観察期間はアログリプチンが18か月,サキサグリプチンが24か月と短く,もし,これらの試験が当初より「DPP-4阻害薬がCVDを有意に抑制するか否か?」を目的としていたのならば,さらに長期の観察期間設定が必要であったと考えられる。現在進行中の同様のRCTは観察期間が5年以上で設定されているものもあるようであり,「DPP-4阻害薬がCVDを有意に抑制するか否か?」という命題に対する最終解答は今少し,様子をみる必要があると考えられる。(弘世
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(26か国788施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は2.1年(中央値)。
登録期間は2010年5月~’11年12月。
対象患者 16,492例。HbA1c 6.5~12.0%の2型糖尿病既往例で,CVDの既往(≧40歳,アテローム性動脈硬化症による冠・脳・末梢血管イベントの既往),もしくは複数のCVDリスク因子(男性≧55歳,女性≧60歳,脂質異常症・高血圧・現喫煙のいずれか一つ以上)を保有するもの。
除外基準:現在あるいは6か月以内のインクレチンベース治療,末期腎不全など。
■患者背景:平均年齢(saxagliptin群65.1歳,プラセボ群65.0歳),女性(33.4%, 32.7%),白人(75.4%, 75.1%),ヒスパニック(両群とも21.5%),BMI(31.1kg/m², 31.2kg/m²),糖尿病罹病期間(両群とも10.3年[中央値]),アテローム性動脈硬化症(78.4%, 78.7%),高血圧(81.2%, 82.4%),脂質異常症(両群とも71.2%),既往:MI(38.0%, 37.6%);心不全(両群とも12.8%);血行再建術(43.1%, 43.3%),HbA1c(両群とも8.0%),空腹時血糖値(156mg/dL, 157mg/dL),推算糸球体濾過量(eGFR)(72.5mL/分,72.7mL/分;>50mL/分:両群とも84.4%,30~≦50mL/分:両群とも13.6%)。
治療法 saxagliptin群(8,280例):5mg/日(eGFR≦50mL/分の患者は2.5mg/日)。
プラセボ群(8,212例)。
その他の糖尿病および心血管疾患治療薬の使用については担当医師に一任したが,DPP-4阻害薬とGLP-1アゴニストの使用は認めなかった。
最初にsaxagliptin群のプラセボ群に対する非劣性を検討し,非劣性が証明されたら優越性を検討する閉手順(closed testing)を使用。
結果 [治療状況]
試験治療の早期中止はsaxagliptin群1,527例(18.4%) vs プラセボ群1,705例(20.8%),血糖降下薬の増量/新規追加は23.7% vs 29.3%,新規のインスリン治療(>3か月)開始は5.5% vs 7.8%(すべてp<0.001)。追跡不能は28例。
[血糖]
saxagliptin群でプラセボ群にくらべ空腹時血糖(2年後,試験終了時ともにp<0.001),HbA1c(1年後:7.6% vs 7.9%,2年後:7.5% vs 7.8%,試験終了時:7.7% vs 7.9%;すべてp<0.001)ともに有意に改善した。
[一次エンドポイント]
総観察期間はsaxagliptin群16,884人・年,プラセボ群16,761人・年。
有意な両群間差を認めなかった(Kaplan–Meier 推定による2年後のイベント発生率:613例[7.3%] vs 609例[7.2%]:ハザード比1.00;95%信頼区間0.89~1.12,優越性p=0.99;非劣性p<0.001)。on-treatment解析の結果も同様であった(1.03;0.91~1.17, p=0.60)。
[二次エンドポイント:心不全/血行再建術による入院など]
一次エンドポイント+不安定狭心症/心不全/血行再建術による入院の複合エンドポイントに有意な両群間差は認められなかった(1,059例[12.8%]vs 1,034例[12.4%]:1.02;0.94~1.11, p=0.66)。ただし,心不全による入院はsaxagliptin群のほうが多かった(289例[3.5%] vs 228例[2.8%]:1.27;1.07~1.51, p=0.007)。
[有害事象]
膵炎は両群で同等(急性:0.3% vs 0.2%;慢性:<0.1% vs 0.1%),低血糖はsaxagliptin群のほうが多かった(1,264例[15.3%] vs 1,104例[13.4%], p<0.001)。
★結論★高リスクの2型糖尿病患者において,DPP-4阻害薬saxagliptinによる虚血イベントの増加も,減少も認められなかったが,心不全による入院は増加した。
ClinicalTrials.gov No.:NCT01107886
文献
  • [main]
  • Scirica BM et al for the SAVOR-TIMI 53 steering committee and investigators: Saxagliptin and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med. 2013; 369: 1317-26. Epub 2013 Sep 2. PubMed
    [perspective]Hiatt WR et al: The cardiovascular safety of diabetes drugs - Insights from the rosiglitazone experience. N Engl J Med. 369: 1285-7. Epub 2013 Sep 2. PubMed
  • [substudy]
  • saxagliptin追加で低血糖リスクは主にSU薬投与例とHbA1c≦7.0%例で増加。低血糖関連因子は長期罹病,腎機能低下,顕性アルブミン尿,saxagliptin投与など。
    低血糖(症候性・血糖値<54mg/dL),重症低血糖(第三者の介助が必要)の発生はそれぞれ16.6%, 1.9%で,リスクはsaxagliptin群のほうがプラセボ群より高かった(低血糖:ハザード比1.16;95%信頼区間1.08~1.25,重症低血糖:1.26;1.01~1.58)。同群でのリスク増加はベースライン時SU薬投与例,HbA1c≦7.0%例でみられた。低血糖の関連因子(調整後)は糖尿病罹病期間,直前のHbA1c 6.5~9.0%,中等度腎機能低下,顕性アルブミン尿,SU薬,インスリン治療,saxagliptin投与。重症低血糖は>75歳,黒人,BMI≦30kg/m²,罹病期間,腎機能低下,顕性アルブミン尿,SU薬,速効型インスリン治療,saxagliptin投与:Diabetes Care 2016; 39: 1329-37. PubMed
  • saxagliptinと心不全による入院リスク-リスク増加は1年後まで。NT-proBNP高値,心不全既往,CKDが関連因子。
    saxagliptin群で二次エンドポイントである2.1年後の心不全による入院リスクがプラセボ群より27%高かった(3.5% vs 2.8%:ハザード比[HR]1.27;95%信頼区間1.07~1.51, p=0.007)ことを受け,危険因子,入院の時期,ナトリウム利尿ペプチドとの関連などを探索的に検討した結果:心不全による入院例(517例)と非入院例(15,975例)の比較により特定されたもっとも関連の強い因子は,心不全既往(調整HR 4.18),アルブミン/クレアチニン比>33.9mg/mmol(3.66),推算糸球体濾過量(eGFR)≦60mL/分(2.00)。
    心不全による入院は,6か月後(saxagliptin群1.1% vs プラセボ群0.6%:1.80;1.29~2.55, p=0.001),1年後(1.9% vs 1.3%:1.46;1.15~1.88, p=0.002)に有意な両群間差を認めたが,以後は認められなかった。それぞれを起点にしたランドマーク解析でも6か月後(2.4% vs 2.1%),12か月後(1.7% vs 1.5%)ともに有意差は認められず,saxagliptinによるリスク増加は時間とともに弱まる可能性が示された(治療☓時間の交互作用p=0.017)。
    NT-proBNPを測定したのは12,301例。心不全による入院リスクはNT-proBNP値の上昇に伴い増加し,多変量モデルに加えると最高四分位群(>332pg/mL)は心不全による入院リスクともっとも強く関連した(HR 5.51)。NT-proBNPレベルと治療の交互作用は認められなかったものの(p=0.46),saxagliptin群のプラセボ群と比較した絶対リスク増加は最高四分位群がもっとも高かった(2.1%):Circulation. 2014; 130: 1579-88. PubMed

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収載年月2013.09
更新年月2016.10