循環器トライアルデータベース

Heart Score
Heart Strategies Concentrating on Risk Evaluation

目的 2010年に米国心臓協会(AHA)は,2020年までに心血管疾患(CVD)死,脳血管死を20%低下させ,心血管の健康を20%向上させることを目標とした“2020 Impact Goal”を発表した。その中で,ideal cardiovascular healthを定義している。
米国・ペンシルバニア州アルゲーニー郡でCVDのリスク層別化の改善,人種間差の確認,集団間差が生じるメカニズムを評価するために開始されたコホート研究に,ideal cardiovascular healthの定義を適用し,その達成度と人種,性別による分布を調査する。
コメント 心脳血管イベント発症抑制のための高脂血症・高血圧症治療の方向性は確立されているが,禁煙対策・日常的運動推進・肥満/糖尿病対策については満足できないのが実情である。AHAの取り組みは特定の疾患の予防/治療を目指すのではなく,健康増進/リスク是正を広く行うことによって「心血管の健康」を向上させることである。本研究は,上記目的の一環としてcommunity-based studyで人種間・性別間での各健康指標の実情を検討した初めての報告である。結果としては,心脳血管イベントを生じていない人でも「ideal」なbehavior/factorを有する人が非常に少ないことを示している。7項目すべてが「ideal」である人は1933人中たった1人で,5項目以上が「ideal」の人は5.3%である。behavior/factorの指標を何にするかによって当然結果は異なり,他の報告では禁煙・BMI 25kg/m²以下・野菜/果物摂取・日常的運動の4項目では3%,禁煙・総コレステロール200mg/dL未満・収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満・BMI 25kg/m²未満・糖尿病なしの5項目を指標とすると8%未満の人が「ideal」に相当するとされている。本研究では45-75歳の人が組み込まれており,年齢や白人/黒人・男性/女性の比率によっても結果は異なる。80.6%がBMI 25kg/m²以上であり,これは運動不足・血圧上昇・高血糖などの他の因子と関連するので,体重増加の原因を追究することが重要である。今回用いた7項目の中で定量的評価が困難な野菜/果物摂取についてはより明確な基準が必要である。他の報告と同様,黒人のほうが白人より「ideal」が少なくなっており,遺伝子的・社会経済的・文化的・歴史的要因以外にも原因があると考えられている。健康増進には,遺伝子関連などの個人レベルの問題と社会環境の整備など社会全体の問題がある。日本人での同様の報告が期待される。(星田
デザイン 地域コホート研究,単施設。
期間 2003年開始(進行中)。
参加者 1,933人。45~75歳の黒人または白人,Framingham低リスク,中等度~高リスク例,あるいはCVD患者。
除外基準:余命が5年未満の併発疾患のあるもの,年1回の来院が不可能なもの。
■患者背景:平均年齢59歳,女性66%,黒人44.2%,大卒以上81%,年収:2~4万ドル28.8%;4~8万ドル 33.3%,血圧136.8/80.9mmHg,BMI 30.2kg/m²,総コレステロール213mg/dL,HDL-C 57.6mg/dL,LDL-C 142.1mg/dL,トリグリセライド123.3mg/dL,血糖値99.1mg/dL。
調査方法 ベースライン時に自己報告による年齢,人種,性別,教育,年収,CVDの既往(冠動脈疾患,心不全,脳卒中),CVDのリスク因子(早発性CVDの家族歴,喫煙,高血圧,糖尿病,高脂血症),身体活動および食事,高血圧・高脂血症・糖尿病治療薬の使用に関するデータを収集。AHAによる“ideal cardiovascular health” の定義は,ideal health behaviorsの4項目(非喫煙,BMI<25kg/m²,目標レベルの身体活動,現在の推奨に即した果物および野菜の摂取),ideal health factorsの3項目(未治療での総コレステロール値<200mg/dL,血圧<120/80mmHg,空腹時血糖値<100mg/dL)を同時に満たした場合。各項目を“ideal” “intermediate” “poor”の3段階で評価後,health behaviors, health factors+非喫煙のそれぞれについて“ideal”評価の個数に応じて0~4でスコア化。人種,年齢,性別,収入による各サブグループ解析を実施。ロジスティック回帰モデルにより,health behaviors indexおよびhealth factors indexに対する人種の影響を評価。
結果 “ideal cardiovascular health”の7項目すべてが“ideal”であったのは1人(0.1%)のみで,大半(80.9%)は“ideal”≦3項目であった。“ideal”の平均項目数は2.3であり,黒人は白人に比べ有意に少なかった(2.0 vs 2.6, p<0.001)。
“ideal”≧5項目であった102人(5.3%)のサブグループ解析では,黒人の比率が有意に低く(2% vs 9.2%, p<0.001),女性の比率が高く(6.9% vs 4.7%, p=0.074),“ideal”≧5項目となったものの割合は,年齢の高さ,収入の低さに比例して有意に減少した(それぞれp=0.02, p=0.008)。
health behaviorsの4項目すべてが“ideal”であったものは39人(2.0%)で,“ideal”≧3項目であったものは211人(10.9%)であった。health factors+喫煙の4項目すべてが“ideal”であったものは27人(1.4%)で,“ideal” ≧3項目であったものは268人(13.9%)であった。
性別,年齢,収入による調整後,黒人は白人に比べcardiovascular healthの“ideal”≧5項目のオッズが82%低かった(オッズ比0.18;95%信頼区間0.10~0.34, p<0.001)。人種と年齢の交互作用は認められなかった。
★結論★ideal cardiovascular healthの浸透は中年期の一般住民において著しく低い。黒人はその達成度の低さの規定因子であったが,白人,黒人ともに達成には遠く及ばない。

[主な結果]
  • Bambs C et al: Low prevalence of “ideal cardiovascular health” in a community-based population: the heart strategies concentrating on risk evaluation (Heart SCORE) study. Circulation. 2011; 123: 850-7. PubMed

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収載年月2011.07