循環器トライアルデータベース

EMPHASIS-HF
Eplerenone in Mild Patients Hospitalization and Survival Study in Heart Failure

目的 軽症の慢性収縮不全患者において,エビデンスに基づく薬物治療への選択的アルドステロン拮抗薬eplerenone追加投与の有効性を検討する。

一次エンドポイントは心血管死+心不全による初回入院の複合エンドポイント。
中間解析でeplerenoneの有効性が認められたためデータ安全性モニタリング委員会は試験の中止を決め,2010年5月,追跡期間21か月(中央値)で試験は予定より早く終了した。
コメント N Engl J Med. 2011; 364: 11-21. へのコメント
抗アルドステロン薬(spironolactone[スピロノラクトン])の有効性を検証したRALES試験は重症の慢性心不全患者を対象としていたため,eplerenone(エプレレノン)が比較的軽症(NYHA II度)の慢性心不全に対して有効かどうかの検証は多くの注目を集めていたが,期待通りの好成績が出た。本試験の最大のポイントは,基礎治療薬としてRAS抑制薬(ACE阻害薬/ARB)とβ遮断薬がほぼ全例に投与されている上に,エプレレノンを上乗せ投与した場合の効果が,さらに37%(一次エンドポイント)のリスク減少をもたらした点である。心筋梗塞患者を対象としたEPHESUS 試験の成績もあわせて考えると,軽症から重症まで心不全の重症度によらず,また心不全の原因(虚血か非虚血か)によらず,抗アルドステロン薬の投与が予後の改善をもたらすことが示唆される。しかも,心不全の悪化のみならず突然死の抑制にも有用であることから,RAS抑制薬やβ遮断薬と同様に慢性心不全の第一選択薬になることを意味する。
エプレレノンは,スピロノラクトンと異なり鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いので女性化乳房の副作用もなく使いやすいが,高カリウム血症には充分注意する必要がある。今回の試験から,10人に1人は5.5mEq/Lを超える高カリウム血症が発生していることは知っておく必要があろう。腎機能低下も気になる点であるが,全体では大きな問題はなさそうである。いずれしても,これだけ明確な結果が出る試験も珍しい。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(29か国278施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は21か月(中央値)。
登録期間は2006年3月30日~2010年5月25日。
対象患者 2,737例。55歳以上のNYHA心機能分類II度,EF<30%(あるいはEF>30~35%で非ペーシングのベースラインECG上のQRS間隔>130msec)で,ACE阻害薬,ARBあるいは両薬剤併用,(禁忌でなければ)β遮断薬の推奨量または最大忍容量を投与している薬物治療例。
ランダム化は心血管疾患による入院から6か月以内とし,6か月以内に心血管疾患で入院しなかったものはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)>250pg/mLあるいはN末端プロBNP:男性>500pg/mL,女性>750pg/mL例を登録した。
除外基準:急性心筋梗塞(AMI),NYHA III~IV度の心不全,血清カリウム≧5.0mmol/L,推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m²,カリウム保持性利尿薬が必要な症例など。
■患者背景:登録基準EF>30~35%で非ペーシングのベースラインECG上QRS間隔>130msecによる登録例はeplerenone群45例,プラセボ群51例,BNPあるいはN末端プロBNP値基準による登録例は195例,190例。
平均年齢(eplerenone群68.7歳,プラセボ群68.6歳),女性(22.7%, 21.9%),白人(82.6%, 83.1%);アジア人(11.6%, 11.5%),心拍数(両群とも72拍/分),血圧(両群とも124/75mmHg),EF(26.2%, 26.1%),QRS間隔(121msec, 122msec),非ペーシングのベースラインECG上QRS間隔>130msec(25.5%, 26.3%),BMI(両群とも27.5kg/m²)。
心不全背景:主な病因:虚血性心疾患(69.7%, 68.1%),罹病期間(4.8年,4.6年)。
既往:心不全による入院(52.3%, 52.9%),高血圧(66.7%, 66.2%),狭心症(43.3%, 43.6%),MI(50.3%, 50.6%),PCI(22.0%, 21.6%),CABG(18.8%, 18.9%),心房細動/粗動(30.0%, 31.7%),左脚ブロック(26.0%, 27.3%),糖尿病(33.7%, 29.1%),脳卒中(10.0%, 9.2%)。
デバイス:ICD(13.0%, 13.4%),CRT(2.8%, 1.6%),ICD+CRT(5.4%, 7.2%)。
治療状況:利尿薬(84.3%, 85.7%),ACE阻害薬(78.3%, 77.0%),ARB(19.2%, 19.4%),ACE阻害薬,ARB単剤あるいは併用投与(94.0%, 92.9%),β遮断薬(86.6%, 86.9%),ジギタリス(26.6%, 27.5%),抗不整脈薬(14.4%, 14.0%),抗血栓薬(88.3%, 88.4%),脂質低下薬(62.8%, 62.3%)。
治療法 eplerenone群(1,364例):心不全薬物治療にeplerenoneを追加投与。
血清カリウムが<5.0mmol/Lとなるよう25mg/日から投与を開始し,4週間後に50mg/日に増量。eGFRが30~49mL/分/1.73m²の場合は,25mg/日隔日投与から開始し25mg/日へ増量。その後,4か月ごとに患者を診断し,血清カリウムが5.5~5.9mmol/Lであれば減量し,≧6.0mmol/Lであれば投与を中止するようにした。その場合,72時間以内に血清カリウム値を再測定し<5.0mmol/Lであった場合のみ投与を再開した。
プラセボ群(1,373例):心不全薬物治療。
結果 用量調整期間終了後の5か月目にeplerenone群の60.2%が高用量(50mg/日)投与,プラセボ群は65.3%,平均投与量はそれぞれ39.1mg/日,40.8mg/日。
試験中止時点の投与中止例は,eplerenone群222例(16.3%),プラセボ群228例(16.6%),追跡不能例はそれぞれ17例,15例。
[一次エンドポイント:心血管死+心不全による初回入院の複合エンドポイント]
eplerenone群249例(18.3%) vs プラセボ群356例(25.9%):eplerenone群のハザード比0.63;95%信頼区間0.54~0.74(p<0.001)。
この結果は性別,年齢,既往,治療などのサブグループでも違いはみられなかった。
[主な二次エンドポイント]
全死亡+心不全による入院の複合エンドポイント:270例(19.8%) vs 376例(27.4%):0.65;0.55~0.76(p<0.001),
全死亡:171例(12.5%) vs 213例(15.5%):0.76;0.62~0.93(p=0.008),
心血管死:147例(10.8%) vs 185例(13.5%):0.76;0.61~0.94(p=0.01),
全入院:408例(29.9%) vs 491例(35.8%):0.77;0.67~0.88(p<0.001),
心不全による入院:164例(12.0%) vs 253例(18.4%):0.58;0.47~0.70(p<0.001),
心血管疾患による入院:304例(22.3%) vs 399例(29.1%):0.69;0.60~0.81(p<0.001)。
[安全性]
有害イベントによる投与中止は,eplerenone群188例(13.8%),プラセボ群222例(16.2%)(p=0.09)。
クレアチニン:ベースライン時(eplerenone群1.14mg/dL,プラセボ群1.16mg/dL)→ 1か月後(+0.15mg/dL, +0.07mg/dL)→試験終了時(+0.09mg/dL, +0.04mg/dL;vs ベースライン時)。
血清カリウム:4.3mmol/L, 4.3mmol/L→+0.16mmol/L, +0.04mmol/L(p=0.001)→+0.16mmol/L, +0.05mmol/L(p<0.001)。
>5.5mmol/L:eplerenone群158例(11.8%),プラセボ群96例(7.2%);p<0.001。
>6.0mmol/L:33例(2.5%),25例(1.9%);=0.29。
<4.0mmol/L:519例(38.8%),648例(48.4%);p<0.001。
<3.5mmol/L:100例(7.5%),148例(11.0%);p=0.002。
収縮期血圧:eplerenone群2.5mmHg低下,プラセボ群0.3mmHg低下(p=0.001)。
★結論★軽症収縮不全患者において,eplerenone群はプラセボ群より死亡および心不全による入院を低下した。
ClinicalTrials.gov No: NCT00232180
文献
  • [main]
  • Zannad F et al for the EMPHASIS-HF study group: Eplerenone in patients with systolic heart failure and mild symptoms. N Engl J Med. 2011; 364: 11-21. PubMed
    Armstrong PW: Aldosterone antagonist-last man standing? N Engl J Med. 2011; 364: 79-80. PubMed
  • [substudy]
  • 転帰の予測因子とeplerenone-年齢,性別,eGFRなど10因子が独立した強い予測因子。eplerenoneの有効性は患者のリスクを問わず一貫していた。
    主結果から一次エンドポイントの予測因子を特定。これらの因子をスコア化し合計スコアにより層別したリスクスコアカテゴリー別にeplerenoneの有効性を評価した結果(追跡期間中央値2.1年):一次エンドポイントの予測因子は,高齢,男性,収縮期血圧[SBP]低値,推定糸球体濾過量[eGFR]低値,糖尿病,BMI低値,ヘモグロビン低値,既往:心不全による入院;心筋梗塞/CABG,心拍数高値。
    10因子を1ポイント(75歳以上,男性,SBP<130mmHg,eGFR<70mL/分/1.73m²,糖尿病,ヘモグロビン<13g/dL,BMI<25kg/m²,心拍数>80bpm,既往:心不全による入院;心筋梗塞,CABG),2ポイント(eGFR<60mL/分/1.73m²,ヘモグロビン<11g/dL)としてリスクスコアを計算し,合計0~4ポイントを低リスク(eplerenone群648例,プラセボ群643例),5~6ポイントを中等度リスク(445例,478例),7~12ポイントを高リスク(271例,252例)に層別。一次エンドポイントに対するeplerenone治療の絶対ベネフィットは全カテゴリーで認められたが,高リスク群でもっとも大きかった(低リスク群の発生率はそれぞれ5.6件,7.6件/100例・年:eplerenone群のハザード比0.74;95%信頼区間0.56~0.99,中等度リスク群は12.2件,19.0件/100例・年:0.64;0.50~0.82,高リスク群は24.2件,39.4件/100例・年:0.63;0.49~0.82)。全死亡,心不全による入院でも同様の結果がみられた:Eur Heart J 2013; 34: 2823-9. PubMed
  • 高カリウム血症・腎機能低下高リスク患者とeplerenone-注意深くモニタリングすれば安全で有効。
    高カリウム血症発症リスクおよび腎機能低下リスクの高い患者(≧75歳[eplerenone群330例];糖尿病合併[459例];推定糸球体濾過量[eGFR]<60mL/分/1.73m²[CKD:439例];収縮期血圧[SBP]<123mmHg[682例])において,eplerenoneの安全性,有効性を検討した結果(事前に計画されていたサブグループ解析):高リスク例における有害事象による試験薬の投与中止は,≧75歳:eplerenone群18.2%,プラセボ群19.0%;糖尿病:15.1%, 18.1%; CKD:16.1%, 22.3%(p<0.05);SBP<123mmHg:16.6%, 18.0%。
    ・カリウム値>5.5mmol/L上昇はeplerenone群が有意に多かった(全例:eplerenone群11.8%,プラセボ群7.2%(p≦0.0001);≧75歳:12.4%, 6.6%*;糖尿病:14.1%, 8.5%**;CKD:16.6%, 9.3%**;SBP<123mmHg:10.9%, 7.3%*)。
    * p≦0.05, ** p≦0.01
    >6.0mmol/L上昇についてはeplerenone群での有意な増加はみられなかった(それぞれ,2.5%, 1.9%, 2.2%, 1.3%;3.8%, 2.1%;1.9%, 3.3%;2.1%, 2.4%)。
    >5.5mmol/L(>6.0mmol/L)上昇はeplerenone群で中央値162.5日(276日)後,プラセボ群では235日(235日)後に発生。
    ・eGFR(mL/分/1.73m²)の変化は高リスク例では両群間に有意差はなかった(-3.18, -1.29(p≦0.05), -5.29, -4.07;-4.94, -2.93, +2.04, +4.15;-1.31, -0.07)。
    ・一次エンドポイントに対するeplerenone群のプラセボ群と比較した有効性はいずれの高リスク例でも一貫していた:≧75歳例のハザード比0.66,糖尿病例0.54,CKD例0.62,SBP<123mmHg例0.63:J Am Coll Cardiol. 2013; 62: 1585-93. PubMed
  • 軽症の収縮期心不全患者において,推奨治療へのeplerenoneの追加は心房細動/粗動の新規発症を抑制。
    [背景・目的]アルドステロンとアンジオテンシンIIは動脈の線維化を引き起こし,心房細動/粗動(AFF)発症の原因となる。線維化促進作用はアルドステロンのほうが強いが,アルドステロン拮抗薬がすでにACE阻害薬やARBを投与されている収縮期心不全患者においてAFF発症を抑制するかは不明のため,本試験期間中のAFF新規発症を解析。
    [結果]ベースライン時非AFF例1,794例(eplerenone群911例,プラセボ群883例)において,eplerenoneは試験中のAFF新規発症を有意に抑制(2.7% vs 4.5%:ハザード比0.58;95%信頼区間0.35~0.96, p=0.034)。本試験で認められたeplerenoneによる一次エンドポイント抑制効果はベースライン時のAFFによる影響を受けなかった(AFF例:0.60;0.46~0.79,非AFF例:0.70;0.57~0.85;交互作用のp=0.411)。また,ベースライン時AFF例と非AFF例とでは一次エンドポイントの発生に差はなかった(AFF例 vs 非AFF例:1.13;0.96~1.33, p=0.152):J Am Coll Cardiol. 2012; 59: 1598-603. PubMed

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収載年月2010.11
更新年月2014.01