循環器トライアルデータベース

ACCORD BP
Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Blood Pressure

目的 1万例を超える高リスクの2型糖尿病患者において,心血管疾患(CVD)予防治療戦略を検討している試験。
厳格な血糖コントロールに,脂質または血圧コントロールを加えることによるCVD抑制効果をダブルの2×2 factorialで比較検討しており,本報は血糖コントロール+厳格な血圧コントロール(収縮期血圧[SBP]<120mmHg)によるCVD抑制効果の検討結果。

一次エンドポイントは主要心血管イベント(非致死的心筋梗塞[MI],非致死的脳卒中,心血管死の複合)。
コメント 2型糖尿病例において収縮期血圧<120mmHgの厳格降圧群と<140mmHgの標準降圧群の心血管合併症発症率の比較において有意差を認めず,むしろ有害事象は厳格降圧群に有意に多いという結果である。
本試験で注意しなければならないのは,心血管イベント発症の内訳で,冠動脈疾患発症が脳卒中に比較してはるかに多いことである(厳格治療群:253件 vs 36件,標準降圧群:270件 vs 62件)。しかも脳卒中に関しては,厳格降圧群の方が標準降圧群に比べて有意に発症率が少ない。
この冠動脈疾患と脳卒中発症比率は2型糖尿病に罹患するnon-hispanic whiteの典型的な疾患比率と考えてよく,脳卒中の方が冠動脈疾患よりも2-4倍多いとされる日本人の疾患構成とは大きく異なることは注意が必要であり,この成績をこのまま我が国の医療に応用するわけにはいかない。しかし逆にいえば,冠動脈疾患予防に関する限りは収縮期血圧を120mmHg未満という極端なレベルまで下げる必要はなく,むしろ生活習慣の厳格な管理と脂質異常症にたいする管理を徹底するべきというメッセージともいえる。
このような至適降圧レベルを検証したトライアルとして古くはHOT研究,新しくはCARDIO-SIS研究,我が国ではJATOS研究があるが,HOT研究,JATOS研究ではいずれも厳格降圧群と標準治療群との間の心血管イベント発症率に有意差を見いだすことができなかった。両治療群に到達血圧レベルのオーバーラップが多すぎたためであり,この手の試験の難しさを示唆した。Cardio-Sisでは非糖尿病群でも厳格治療が左室肥大の進展予防のためには良好であったとしているが,あくまでも左室肥大という代理エンドポイントであり心血管イベント発症率の比較ではない。心血管イベントを比較したトライアルとしては本試験の方が信頼性は高いといえよう。
しかし降圧レベルを収縮期血圧<120mmHgというかなり低い値に設定した試験としては,本試験が初めてである。少なくとも冠動脈疾患合併症予防をターゲットとした場合には2型糖尿病ではそこまでの降圧は必要ないとの結論である。ただし日本人のように脳卒中の多い人種でのエビデンスではない。本試験の結果は,糖尿病患者の至適降圧レベルは<130/80mmHg未満としている欧米および我が国の高血圧ガイドラインとは必ずしも矛盾しない。(桑島
デザイン 無作為割付け,非盲検,double 2×2 factorial,多施設(米国,カナダの77施設),intention-to-treat解析。
期間 平均追跡期間は4.7年。
登録期間は2001年1月~6月(491例),2003年1月~2005年10月。
対象患者 4,733例。HbA1c≧7.5%の2型糖尿病で40歳以上のCVDを合併するもの,あるいは55歳以上で重大なアテローム性動脈硬化,アルブミン尿,左室肥大の解剖学的特徴を有し,あるいはその他に2つ以上のCVDの危険因子(脂質異常,高血圧,喫煙中,肥満)を合併しているもの;併用降圧薬≦3剤を服用しているSBP 130~180mmHg,24時間蛋白排泄量<1.0gのもの。
除外基準:BMI>45kg/m²,クレアチニン>1.5mg/dL,他の重篤な疾患など。
■患者背景:平均年齢62.2歳,女性47.7%,非ヒスパニック系白人60.5%,黒人24.1%,心血管イベント既往33.7%,喫煙中/喫煙歴13.2%/41.9%,BMI 32.1kg/m²。
血圧:全例139.2/76.0mmHg;降圧薬非投与例139.4/77.5mmHg,1剤以上の降圧薬投与例139.2/75.7mmHg,糖尿病罹病期間(中央値)10年,HbA1c 8.3%,空腹時血糖値174.7mg/dL,総コレステロール192.8mg/dL,LDL-C 110.0mg/dL(厳格降圧群111.1mg/dL,標準降圧群108.8mg/dL;p=0.03),HDL-C:女性51.3mg/dL;男性41.7mg/dL,トリグリセライド(中央値)147mg/dL,カリウム4.5mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,推算糸球体濾過量(eGFR)91.6mL/分/1.73m²,尿中アルブミン(mg)/クレアチニン(g)比(中央値)14.3。
治療法 厳格降圧群(2,362例):降圧目標はSBP<120mmHg。
標準降圧群(2,371例):降圧目標はSBP<140mmHg。
結果 最終外来時の喫煙率は厳格降圧群8.5%,標準降圧群7.5%。
[血圧]
1年の治療後:SBP;厳格降圧群(ベースライン時139.0mmHg→ 119.3mmHg),標準降圧群(139.4mmHg→ 133.5mmHg)で,両群間の血圧差は14.2mmHg(95%信頼区間13.7~14.7)。
DBP;厳格降圧群(75.9→ 64.4mmHg),標準降圧群(76.0→ 70.5mmHg),両群間差は6.1mmHg(5.7~6.5)。
厳格群の降圧はどの薬効の降圧薬でも併用薬剤数と関連していた。
1年後の併用降圧薬は,厳格降圧群3.4剤,標準降圧群2.1剤。

[一次エンドポイント:非致死的MI,非致死的脳卒中,心血管死の複合]
発生数は445例で,厳格群208例(1.87%/年) vs 標準降圧群237例(2.09%/年):ハザード比0.88;95%信頼区間0.73~1.06(p=0.20)。
[二次エンドポイント]
・非致死的MI:126例(1.13%/年) vs 146例(1.28%/年):0.87;0.68~1.10(p=0.25)。
・全脳卒中[非致死的]:36例(0.32%/年)[34例(0.30%/年)] vs 62例(0.53%/年)[55例(0.47%/年)]:0.59;0.39~0.89(p=0.01)[0.63;0.41~0.96, p=0.03]。
・全死亡[心血管死]:150例(1.28%/年)[60例(0.52%/年)] vs 144例(1.19%/年)[58例(0.49%/年)]:1.07;0.85~1.35, p=0.55[1.06;0.74~1.52, p=0.74]。
・一次エンドポイント+血行再建術あるいは非致死的心不全:521例(5.10%/年) vs 551例(5.31%/年):0.95;0.84~1.07(p=0.40)。
・主要冠動脈疾患:253例(2.31%/年) vs 270例(2.41%/年):0.94;0.79~1.12(p=0.50)。
・致死的・非致死的心不全:83例(0.73%/年) vs 90例(0.78%/年):0.94;0.70~1.26(p=0.67)。
[有害事象]
標準降圧群に比べ,厳格降圧群では重篤な有害事象が有意に多かった:降圧薬に関連するイベント(77例 vs 30例;p<0.001):低血圧(17例 vs 1例;p<0.001),失神(12例 vs 5例),徐脈あるいは不整脈(12例 vs 3例;p=0.02),高カリウム血症(9例 vs 1例;p=0.01),血管性浮腫(6例 vs 4例),腎不全(5例 vs 1例)。
末期腎不全あるいは透析の必要:59例 vs 58例。
eGFR<30mL/分/1.73m²は厳格降圧群が有意に多く(99例 vs 52例;p<0.001),同群で蛋白尿は有意に少なかった。
★結論★高リスクの2型糖尿病患者において,収縮期血圧<120mmHgを目標にした厳格な降圧は,標準降圧(<140mmHg)と比べて致死的・非致死的主要心血管イベントを抑制しなかった。
ClinicalTrials. gov No: NCT00000620
文献
  • [main]
  • The ACCORD study group: Effects of inensive blood-pressure control in type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med. 2010; 362: 1575-85. PubMed
    Nilsson PM: ACCORD and risk-factor control in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2010; 362: 1628-30. PubMed
  • [substudy]
  • 厳格降圧とLVH-目標収縮期血圧<120mmHgへの降圧は標準降圧よりLVH退縮率が高く,新規発症が少なかったことから,LVHリスクが低かった。
    高リスク2型糖尿病患者において厳格降圧が左室肥大(LVH)に及ぼす影響を検証した結果(4,331例[厳格降圧群2,154例,標準降圧群2,177例:平均年齢62.1歳,女性47.1%,白人59.6%];追跡期間中央値4.4年):12誘導ECG を2年に1回と終了時に行い,Cornell 電圧>2,200μV(女性),>2,800μV(男性)をLVHと定義(カテゴリー変数)。またCornell 電圧を連続変数としたCornell indexも評価した。
    ベースライン時のLVH(厳格群5.3%,標準群5.4%)に有意な両群間差はなかったが,厳格群は標準群より追跡期間中のLVH退縮率が高く(55.6% vs 49.6%, p<0.001),LVH新規発症率が低かった(1.7% vs 3.0%, p<0.001)。LVHリスクは厳格群のほうが39%低かった(オッズ比0.61;95%信頼区間0.43~0.88, p=0.008)。ベースラインCornell indexも差がなかったが(1,456μV vs 1,470μV),追跡期間中の調整Cornell indexは厳格群が有意に低かった(1,352μV vs 1,447μV, p<0.001)。
    サブグループ解析の結果も一貫しており,重大な心室伝導遅延例(202例)を除外した感度分析も同様の結果であった(LVHリスク:0.55;0.41~0.73, p=0.001, Cornell index:1,353μV vs 1,449μV, p<0.001):Hypertension. 2015; 66: 1123-9. Epub 2015 Oct 12. PubMed
  • 中心性肥満(ウエスト/身長比)は主結果に影響を及ぼさず。
    4,687例において,主結果に対する中心性肥満(ウエスト/身長比<50%は≧50%よりも心血管リスクが低い)の影響を検討した結果:平均ウエスト/身長比は>0.60。心血管転帰に対する厳格降圧 vs 標準降圧の効果はウエスト/身長比が高いほど増大する傾向はみられたものの,有意には至らなかった(一次エンドポイント:交互作用のp=0.27;脳卒中:p=0.39;心血管死:p=0.78;非致死的心筋梗塞:p=0.31)。ウエスト/身長比は心血管死と有意に関連したが(最高四分位群 vs 最低四分位群のハザード比2.32;95%信頼区間1.40~3.83, p=0.0009),その他の転帰とは関連しなかった:Diabetes Care. 2012; 35: 1401-5. PubMed
  • 厳格降圧はうつ病や健康関連QOLに有意な影響は及ぼさず。
    ランダム抽出した1,028例において厳格降圧と健康関連QOL(HRQL),うつ病の関連を評価した結果(ACCORD BP HRQLサブスタディ;追跡期間中央値4年):HRQLは12,36,48か月後に自記式質問票によりHRQLの包括的尺度SF36, Symptom Distress in Diabetes Questionnaire, Diabetes Treatment Satisfaction Questionnaire, Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)を用いて評価。厳格降圧群ではSF36の身体機能が標準降圧群よりも低下したが(-0.8 vs -0.2, p=0.02),その他の評価に有意な両群間差は認められなかった:Diabetes Care. 2012; 35: 1479-81. PubMed
  • 血糖コントロール+血圧コントロール治療は糖尿病性網膜症の進展を抑制せず(ACCORD Eye study)。
    2,856例について17段階あるEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS) Severity Scaleの3段階以上の進展あるいは,レーザー光凝固法または硝子体切除術の必要な糖尿病網膜症の進展で網膜症の進行を評価:4年後,糖尿病網膜症は厳格血糖コントロール群7.3% vs 標準コントロール群10.4%:調整オッズ比0.67;95%信頼区間0.51~0.87(p=0.003)。
    血糖コントロール+血圧コントロール(ACCORD BP・1263例):厳格降圧群10.4% vs 標準降圧群8.8%:1.23;0.84~1.79(p=0.29):N Engl J Med. 2010; 363: 233-44. PubMed

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収載年月2010.03
更新年月2015.11