循環器トライアルデータベース

NORDISTEMI
Norwegian Study on District Treatment of ST-elevation Myocardial Infarction

目的 PCI施設まで100~400kmの距離にあるノルウェーの地方の医療施設で血栓溶解療法を実施した急性ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,PCI施設への救急搬送と従来のischemia-guided strategyとを比較する。
一次エンドポイントは12か月後の死亡,再梗塞,脳卒中,新規の心筋虚血の複合エンドポイント。
コメント STEMIの治療としては時間的・施設的条件がそろえばprimary PCIが望ましい。しかし,PCIが可能な施設への搬送に長時間かかる地域ではprimary PCIが早期に出来ないので血栓溶解療法が行われるが,その後の治療方針が確定していない。これまでprimary PCIがすぐに出来なくても血栓溶解療法後すぐにPCI施設への搬送が望ましいとの報告があるが,CAGの時期,最適な抗血栓療法,保存的治療の内容が報告により異なり,150km以上の長距離の搬送例は少なかった。本研究は,PCI施設のない地域で発症したSTEMIに対してfull-doseの血栓溶解療法を行い(半数以上は病院到着前),すぐにPCIのため長距離搬送する早期侵襲群とischemia-guided strategyの従来治療群を対比した。前者では平均搬送距離は158kmで搬送時間は130分かかっており,12ヵ月後の一次エンドポイントではischemia-guided strategyとの間に有意差はない。この結果は早期侵襲群のほうがイベント発生率が低いとするTRANSFER-AMIなどのこれまでの報告とは一致していない。理由としては,抗血小板療法の進歩,血栓溶解療法後からPCIまでの時間,従来治療群のインターベンションを中心とする治療内容,エンドポイントの定義,などに由来する。抗血小板療法の進歩として,血栓溶解療法時にclopidogrelをaspirinとともに初期投与しておりイベント低下をもたらすこと,従来治療群でも本研究では血栓溶解療法後平均5.5日で95%がCAGを行い必要ならPCIを受けていること,により12ヵ月後の両群のイベント発生の差が縮小したと思われる。今回早期のPCIで恩恵を受けるであろうハイリスク症例が少ないことも影響している。エンドポイントの中で心筋虚血の再発はECG変化を前提とはしていないのでソフトエンドポイントとなり,これを除外したハードエンドポイントのみを12ヵ月後に比較すると早期侵襲群のほうがイベント発生率は有意に低い。full-doseの血栓溶解療法に抗血栓・抗血小板療法を十分に行うと頭蓋内出血の頻度が少し高いと考えられ,欧米の文献的には問題ないとされていても日本人にはhalf-doseの血栓溶解療法のほうが良いかもしれない。
血栓溶解療法からPCIまでの最適な時間はいまだエビデンスはない。血栓溶解療法後すぐにPCIをするfacilitated PCIでは血栓性合併症などで臨床的有用性はみられなかった。早期侵襲群では血栓溶解療法とPCIの間が平均2.7時間であり,抗血小板薬も含む初期薬物療法の進歩とradial approachが80%以上で出血性合併症が少ないことにより30日後のハードエンドポイントが4.5%と低下している。平均130分の長期搬送の間の懸念していた合併症の発生率は他の報告と同様であった。3ヵ月後にSPECTで評価した梗塞量は両群に差はなかったが,発症から血栓溶解療法までが123分と非常に早く加療され入院前加療も多く,早期侵襲群でも発症からバルーンまで5時間かかっていることに由来する。PCI施設まで非常に距離のある地域でのSTEMIの治療方針として,入院前血栓溶解療法の確立と薬物治療の最適化とともに,PCI施設への救急搬送は臨床的意義があると考えられるが,日本の中でこのような地域はどのくらい存在するのであろうか?(星田
デザイン 無作為割付け,多施設(ノルウェー南東部の5施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は12か月。
登録期間は2005年2月~’08年4月。
対象患者 266例。18~75歳;発症から<6時間,ECG所見による急性STEMI(2連続前胸部誘導での≧2mm のST上昇,2連続肢誘導における≧1mm のST上昇,または新規左脚ブロック);first medical contactからPCI施行までの時間が>90分と予想されるもの;tenecteplase(TNK)による血栓溶解療法実施例;試験参加のインフォームドコンセントを獲得したもの。
除外基準:tenecteplaseの標準的な除外基準に該当するもの;心原性ショック・重度の不整脈;重度の腎不全(血清クレアチニン>250mmol/L)など。
■患者背景:平均年齢(早期侵襲治療群60歳,従来治療群61歳),男性(80%, 71%),高血圧治療例(25%, 38%;p=0.03),現在あるいは喫煙歴(両群とも79%),冠動脈疾患の家族歴(58%, 59%),狭心症の既往(両群とも13%),MIの既往(両群とも11%),前壁梗塞(44%, 39%),心拍数(65.3拍/分,70.7拍/分;p=0.02)。
治療法 全例にTNK標準用量(体重調整),aspirin 300mgを経口投与,enoxaparin(30mg静注後,退院または血行再建術までの最長7日間,12時間ごとに1mg/kg皮下注)および初日にclopidogrel 300mgを投与。血栓溶解療法時に試験参加の意思を確認しランダム化。
早期侵襲群(134例):血栓溶解療法の直後にPCI施設へ搬送し,冠動脈造影(CAG)により50%以上の狭窄を確認次第,梗塞責任血管の血管形成術を施行。ステントの種類の選択,GP IIb/IIIa受容体阻害薬の使用,左主幹部病変および重度の3枝病変の手技の選択は術者に委ねた。
従来治療群(132例):従来治療群では入院前に血栓溶解療法を受けたものは地域医療施設に入院,その他は治療を継続し,胸痛持続,血栓溶解療法開始後60分のST上昇の減少<50%,血行動態不安定の場合は即時CAGを実施するために搬送。早期CAGの実施はECG変化の有無を問わない安静時虚血再発,退院前に実施を推奨している運動負荷ECG上で虚血の徴候(胸痛,著明なST変化,低血圧,心室頻拍)を認める場合に推奨。他の症例については,血栓溶解療法成功後のルーチン評価として退院後2~4週以内のCAGを奨励。禁忌以外の全例にβ遮断薬,スタチン系薬剤を,適応例にACE阻害薬を投与。ステント植込み例にはclopidogrel 75mg/日の9か月間投与,その他の症例には担当医の裁量により9か月間またはCAGまでのclopidogrel投与を推奨した。
結果 発症からfirst medical contactまでの時間は,早期侵襲群67分,従来治療群65分,発症からTNK投与までは117分,126分,入院前のTNK投与例は60%, 54%。
CAG実施例は早期侵襲群133例 (99%) vs 従来治療群125例 (95%);p=0.04,PCI施行は早期侵襲群119例(89%) vs 従来治療群94例(71%);p=0.001,CABGは7% vs 12%。
TNK投与からカテ室到着までの時間(中央値):130分 vs 5.5日,TNK投与から3時間以内のCAG実施:83% vs 12%;12時間以内のCAGは99% vs 33%;30日以内は99% vs 86%,TNK投与から最初のバルーンまで(中央値)は163分 vs 3日(いずれもp<0.001)。
従来治療群では36例(27%)がrescueインターベンションのため搬送され,32例がrescue PCIを受けた。PCI施設への搬送距離(中央値)は早期侵襲群158km vs 従来治療群(rescueインターベンション例)180km(p=0.39)で,搬送中に早期侵襲群の1例(0.7%)が死亡した。
[一次エンドポイント:12か月後の死亡,再梗塞,脳卒中,新規の心筋虚血の複合]
早期侵襲群28例(20.9%) vs 従来治療群36例(27.3%):ハザード比(HR)0.72;95%信頼区間 0.44~1.18(p=0.19)。
[その他]
二次エンドポイント(12か月後の死亡,脳卒中,再梗塞の複合)は8例(6.0%) vs 21例(15.9%):HR 0.36;0.16~0.81(p=0.01)。死亡は3例(2.2%) vs 4例(3.0%)。
30日後の死亡,再梗塞,脳卒中,新規虚血の複合は14例(10.0%) vs 28例(21.2%):相対リスク(RR)0.49;0.27~0.89(p=0.03),死亡,脳卒中,再梗塞の複合は6例(4.5%) vs 13例(9.8%):RR 0.45;0.18~1.16(p=0.14)。30日後の出血は16例(12%) vs 19例(14%)(p=0.68)。3日後のトロポニンT値,3か月後の梗塞サイズには両群間に有意差は認められなかった。
★結論★PCI施設への搬送距離が長い地域において,血栓溶解薬およびclopidogrel投与後のSTEMI患者のPCI施設への救急搬送による12か月後の死亡,再梗塞,脳卒中,新規虚血の複合エンドポイントの有意な抑制は認められなかったが,死亡,再梗塞,脳卒中の複合エンドポイントを有意に抑制した。
文献
  • [main]
  • Bøhmer E et al: Efficacy and safety of immediate angioplasty versus ischemia-guided management after thrombolysis in acute myocardial infarction in areas with very long transfer distances results of the NORDISTEMI (Norwegian study on district treatment of ST-elevation myocardial infarction). J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 102-10. PubMed

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EBM 提供:大日本住友製薬 「循環器トライアルデータベース
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収載年月2010.04