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高血圧患者に対するレニン・アンジオテンシン系(RA系)阻害薬の有効性は,数々の臨床試験で証明されているが,アジア人,ことに日本人が多く登録された試験は少ない。日本人の冠動脈疾患死亡率は米国人の3分の1であり,一方,脳血管障害死亡率は米国人の1.5倍といわれる。このような民族性の違いから,日本人のエビデンスが必要とされ,日本でもRA系阻害薬の有用性を検討した3つの臨床試験が行われたものの,それらの結果は一致するものではなかった。 本試験では,日本人の高リスク高血圧患者を対象に,ARB valsartanの上乗せによる心血管イベントに対する有用性を検討する。
一次エンドポイントは,脳心血管イベントの新規発症または増悪(入院などを含む)。 |
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高リスク高血圧患者においてARBの脳心血管合併症予防効果を非ARBと比較したという点で,VALUE,JIKEI HEART,HIJ-CREATEと同系列のトライアル である。結果はVALUEやHIJ-CREATEと正反対であり,JIKEI HEARTと似たものとなっている。いずれも企業支援によるトライアルであるが,方法論においてVALUEは二重盲検法であるのに対して,本試験はJIKEI HEART同様にPROBE法で行われており,結果の信頼性は大きく異なる。すなわちPROBE法においては,担当医の介入意図が入ってはならないというのが大原則であるが,本試験では狭心症,TIAを含む脳卒中といった介入の余地が大きいソフトエンドポイントにおいてARBが大きく優位に傾いており,それが一次エンドポイントのARBの優位性に貢献している。重要なハードエンドポイントである急性心筋梗塞,血清クレアチニン値の倍化,心血管死,全死亡などではいずれも有意差はついていない。非ARB群の大部分がCa拮抗薬,ACE阻害薬と考えられるが,一次エンドポイントのカプラン・マイヤー曲線ではランダム化後早々の3か月目より両群の一次エンドポイントに差がつきはじめており,JIKEI HEART以外のこれまでのトライアルからはとても考えられない結果である。VALUEでは心筋梗塞発症予防において,ARB(本試験と同じバルサルタン)はCa拮抗薬アムロジピンより有意に劣っており,かつ狭心症の頻度もバルサルタン群で有意に多いという結果であった。一方,このKYOTO HEART試験では狭心症予防においてARBの方が非ARB群(多くはCa拮抗薬)に比べて有意に優れているという結果である。これは果たしてバルサルタンという薬のみが,日本人と欧米人の狭心症に対して人種差で異なった作用を発揮するのか。だとすれば,日本人における狭心症には,Ca拮抗薬が有用であるといったこれまでの成績とは相容れないことになる。しかし同じ日本人を対象として行われたCASE-J試験やHIJ-CREATE試験ではARBカンデサルタンの非ARBに対する有用性は示されていない。とすると,ARBの中でバルサルタンのみが欧米人には狭心症を発症しやすく,日本人の狭心症には優れているという奇妙なことになる。 製薬企業によって経済支援された大規模臨床試験においては,狭心症のような現場の介入意図が入りやすいソフトエンドポイントはPROBE法では“禁じ手”であることが原則であることを知るべきである。 このような大規模臨床試験で重要なことは,これまでの大規模臨床試験や一般臨床での経験とあまりにかけ離れた不一致(inconsistency)がないことが重要である。もし,不一致な結果が出た場合には,多くの臨床家を納得させるだけの理論的説明が必要である。 本論文の編集論説を執筆したMesserli氏はまとめにおいて,「ARBが高血圧の基本治療薬として考慮されるべきか」という質問には,「安全性と単に血圧を下げるという点では,『Yes』である。しかし降圧薬の有効性を心血管イベントと死亡率を抑えることであると定義すれば,答えは『No』」であると厳しい言葉で結んでいる。 今後,わが国の実状を鑑み大いに論議が尽くされ,わが国から世界的に信頼される大規模臨床試験が実施され,発信されることを切に願うばかりである。(桑島) |
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PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoint),多施設(日本の31施設)。 |
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追跡期間中央値3.27年。 |
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3,031例。≧20歳,≧140/90mmHgが4週間以上(ARB以外の降圧薬を服用)かつ,下記のうち1つ以上をもつ患者; 冠動脈疾患(狭心症,>6か月前の心筋梗塞),脳血管障害(>6か月前の脳卒中または一過性脳虚血発作),末梢動脈閉塞性疾患(肢部のバイパス術/血管形成術施行,肢部の潰瘍/壊疽,または間欠性跛行),1つ以上の心血管リスク因子(2型糖尿病,現在の喫煙,脂質異常症,肥満,左室肥大)。除外基準:ランダム化以前におけるARB治療,過去6ヵ月における心不全悪化/不安定狭心症/心筋梗塞/PCIまたはCABG実施。 ■患者背景: 平均年齢66歳,男性57%,現在の喫煙22%,BMI≧25は39%,冠動脈疾患23%,脳血管障害4%,心不全(valsartan追加群6%,非ARB群7%),糖尿病(26%,27%),脂質異常症(70%,71%),左室肥大(8%,9%),血圧(両群とも157/88mmHg),心拍数(両群とも70bpm),EF(両群とも63%),HDL-C(両群とも55mg/dL),LDL-C(121mg/dL,123mg/dL),トリグリセライド(147mg/dL,150mg/dL),空腹時血糖(両群とも121mg/dL),HbA1c(6.1%,6.0%),血清クレアチニン(0.87mg/dL,0.84mg/dL),Na(両群とも142mEq/L),K(4.5mEq/L,4.3mEq/L)。 治療状況: ACE阻害薬(19%,20%),Ca拮抗薬(54%,55%),α遮断薬(両群とも3%),β遮断薬(17%,18%),アルドステロン拮抗薬(両群とも2%),サイアザイド系利尿薬(両群とも3%),その他の利尿薬(5%,6%),スタチン系薬剤(32%,33%),フィブラート系薬剤(両群とも2%),経口血糖降下薬(14%,13%),抗凝固薬(6%,7%),抗血小板薬(26%,28%)。 |
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valsartan追加群(1,517例): 80mg/日を4週間投与し,降圧目標(<140/90mmHg,糖尿病または腎疾患合併患者では<130/80mmHg)に達しなければ2倍量に増量し(4週間),それでも降圧不十分な場合はARB/ACE阻害薬を除く降圧療法を追加。非ARB群(1,514例): ARB/ACE阻害薬を除く降圧薬を通常用量(4週間)→高用量に増量(4週間)→ ARB/ACE阻害薬を除く降圧療法を追加。 |
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[降圧] valsartan追加群の血圧は,ベースライン時157/88mmHg→試験終了時133/76mmHg,非ARB群は157/88mmHg→ 133/76mmHg。 [一次エンドポイント] valsartan追加群は非ARB群にくらべ,発生率が有意に低かった(83例[5.5%]vs 155例[10.2%]:ハザード比[HR]0.55;95%信頼区間[CI]0.42~0.72,p=0.00001,NNT=21)。一次エンドポイントのうち, 両群間の差が大きかったのは脳卒中/一過性脳虚血発作(25例 vs 46例:HR 0.55;95%CI 0.34~0.89,p=0.01488),狭心症(22例 vs 44例:HR 0.51;95%CI 0.31-0.86,p=0.01058)。 ★結論★高リスク高血圧患者において,valsartan追加投与はプラセボに比べ心血管イベントを有意に抑制した。 ClinicalTrials.gov No: NCT00149227 |
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- Sawada T, et al.; the KYOTO HEART study group: Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks: KYOTO HEART study. Eur Heart J. 2009; 30: 2461-9. PubMed
Messerli FH, et al: Angiotensin receptor blockers: baseline therapy in hypertension? Eur Heart J. 2009; 30: 2427-30. PubMed
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