循環器トライアルデータベース

PLATO
Platelet inhibition and patient outcomes

目的 現在,急性冠症候群(ACS)への標準的治療として,aspirinとclopidogrelの併用による抗血小板療法が行われている。clopidogrelは体内での代謝で活性化されるプロドラッグであるため,有効性に一貫性がなく,また出血リスクなどの問題もある。
ticagrelorはclopidogrelと同様にP2Y12に拮抗する薬剤だが,体内での代謝を要さない直接的拮抗薬であり,その拮抗作用はclopidogrelより一貫している。ticagrelorの用量決定試験では,ticagrelor 90mg,180mgの1日2回投与の出血リスクは,clopidogrel 75mg/日と有意差がないことが示された。

PLATO試験では,ACSにおいて,ticagrelorの血管イベントと死亡の抑制効果がclopidogrelよりも優れているか否かを検証する。
一次エンドポイントは血管死,心筋梗塞(MI),脳卒中の複合エンドポイント発生までの時間。
二次エンドポイントは全死亡,MI,脳卒中の複合のほか,血管死,心筋梗塞,脳卒中,重篤な再虚血,再虚血,一過性脳虚血発作(TIA),その他の血管血栓イベント複合の発生,MI,心血管死,脳卒中,全死亡も検討。
安全性の一次エンドポイントは大出血。
コメント チエノピリジンとは異なる新たなP2Y12受容体拮抗薬である。プロドラッグでないため現在のclopidogrel抵抗性などのノイズを沈静化するのに役立つ重要な試験であった。本薬は服用時呼吸困難感が起こることが急性心筋梗塞の心不全合併例などでは使い難い可能性がある。また,医薬品消費市場としては世界2位のわが国が本試験に参加していない。日本人と欧米人では出血/血栓リスクが異なる可能性があるため,本試験に参加しても日本での認可承認には関与しない可能性は理解できる。しかし,世界が新薬の有効性・安全性を科学的に評価しようとのチャレンジをするときに,日本のみが部外者であってよいのか?という疑問を残す試験であった。(後藤
デザイン 無作為割付け,二重盲検,多施設(43か国862施設: 日本は参加していない)。intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は1年。
登録期間は2006年10月~2008年7月。
対象患者 18,624例。非ST上昇型ACSで発症後24時間以内に入院した患者のうち,次のうち2つ以上を有するもの; (1) 心電図上で虚血を示すSTの変化,(2) 心筋壊死を示すバイオマーカー陽性,(3) 1つ以上のリスク因子(≧60歳; 心筋梗塞既往またはCABG施行; 少なくとも2つの血管に50%以上の狭窄を認める冠動脈疾患; 脳梗塞/一過性脳虚血発作の既往; 50%以上の頸動脈狭窄または脳血管血行再建術; 糖尿病; 末梢動脈障害: 慢性腎機能障害(クレアチニン・クリアランス<60mL/分/1.73m2)。ST上昇型ACSの場合,隣接する複数の誘導で0.1mV以上の持続性ST上昇または新規の左脚ブロックで,かつPCI施行予定の症例は登録。
除外基準: clopidogrelへの禁忌; 24時間以内に血栓溶解療法実施,経口抗凝固薬を要する; 除脈リスクが高い; シトクロムp450 3Aの強力な阻害薬または誘導薬を要する。
■患者背景:年齢中央値(ticagrelor群62.0歳,clopidogrel群62.0歳),女性(28.4%,28.3%),BMI(27kg/m2[範囲13~68],27kg/m2[範囲13~70]),白人/黒人/アジア人/その他(91.8%/1.2%/5.8%/1.2%,91.6%/1.2%/6.0%/1.2%),喫煙(36.0%,35.7%),高血圧(65.8%,65.1%),脂質異常症(46.6%,46.7%),糖尿病(24.9%,25.1%),心筋梗塞既往(20.4%,20.7%),PCI施行(13.6%,13.1%),CABG施行(5.7%,6.2%),うっ血性心不全(5.5%,5.8%),非出血性脳卒中(3.8%,4.0%),末梢動脈疾患(6.1%,6.2%),慢性腎疾患(4.1%,4.4%),呼吸困難の既往(15.1%,14.6%),COPD(5.9%,5.7%),喘息(2.9%,2.9%),痛風(2.9%,2.8%),持続性ST上昇(37.5%,37.8%),ST下降(50.7%,51.2%),T波逆転(31.8%,32.0%),最終診断: ST上昇型心筋梗塞(37.5%,38.0%),非ST上昇型心筋梗塞(42.9%,42.5%),不安定狭心症(16.6%,16.8%),その他(3.0%,2.7%),Killip分類>2(0.7%,1.2%),TIMIリスクスコア≧3(45.3%,44.0%),トロポニンI陽性(79.5%,80.8%),ST下降>0.1mV(56.6%,57.7%),TIMIリスクスコア≧5(20.0%,21.2%)。
治療法 ticagrelor群(9,333例):180mgで投与開始後,90mg×2回/日を投与(PCI前にはローディングドーズ90mgの追加を許可)。
clopidogrel群(9,291例): ランダム化前の5日間にclopidogrelを投与されなかった患者には,clopidogrel 300mgで投与開始後,75mg/日を継続投与(PCI施行前にはローディングドーズ300mgの追加を許可)。clopidogrelをすでに投与されていた患者には,clopidogrel 75mg/日を継続投与。
ランダム化後PCIを施行する患者では,PCI施行前に試験薬の用量調節を下記の要領で実施; ランダム化後24時間以降にPCIを行う場合,ticagrelor群は90mg追加,clopidogrel群は300mg追加; CABG施行の場合,ticagrelor群は24~72時間の中断を推奨,clopidogrel群は5日間の中断を推奨。
両群ともに忍容性があればaspirin 75~100mg/日を投与。aspirin非服用例にはaspirin 325mgのローディングドーズを推奨。ステント留置後6か月間はaspirin 325mg/日を許可。
結果 治療遵守率(中央値)は82.8%,試験薬投与期間中央値は277日。
試験薬投与早期中止率は,ticagrelor群23.4%,clopidogrel群21.5%。
[一次エンドポイント]
1年後における累積発生率は,ticagrelor群(9.8%)はclopidogrel群(11.7%)にくらべ有意に低かった(ハザード比[HR]0.84;95%信頼区間0.77~0.92,p<0.001)。
[二次エンドポイント]
全死亡,MI,脳卒中の複合エンドポイントの発生率は,ticagrelor群(10.2%)はclopidogrel群(12.3%)に比べ有意に低く(HR 0.84;0.77~0.92,p<0.001),血管死,心筋梗塞,脳卒中,重篤な再虚血,再虚血,TIA,その他の動脈血栓イベント複合の発生率もticagrelor群(14.6%)はclopidogrel群(16.7%)より有意に低かった(HR 0.88;0.81~0.95,p<0.001)。MI発症率(5.8%vs 6.9%,p=0.005),心血管死(4.0%vs 5.1%,p=0.001),全死亡(4.5% vs 5.9%,p<0.001)もticagrelor群のほうが有意に低かった。脳卒中発症率には有意な群間差はなく,出血性脳卒中発症率については有意差はないものの,ticagrelor群のほうがclopidogrel群より高かった(0.2% vs 0.1%,p=0.10)。
[安全性の一次エンドポイント]
大出血の発生に有意な群間差はなかった(11.6% vs 11.2%,HR 1.04;0.95~1.13,p=0.43)。なお,TIMI分類における大出血発生率,致死性あるいは生命を脅かす出血,CABGに関連する大出血や輸血を要する出血にも有意な群間差はなかった。ただし,CABGに関連しない大出血発生率はticagrelor群のほうが有意に高かった。
[有害イベント]
ticagrelor群でもっとも頻度の高かった有害イベントは呼吸困難であり,clopidogrel群にくらべ有意に多かった(13.8% vs 7.8%,p<0.001)。呼吸困難による試験薬投与中止も,ticagrelor群はclopidogrel群より有意に多かった(0.9% vs 0.1%,p<0.001)。最初の週における心室停止はticagrelor群のほうがclopidogrel群より多かったが,30日後,有意差は消失した。失神やペースメーカ植え込みの発生率には群間差なし。
有害イベントによる試験薬投与中止例は,ticagrelor群はclopidogrel群より有意に多かった(7.4% vs 6.0%,p<0.001)。
★結論★ST上昇型/非ST上昇型ACS患者において,ticagrelorはclopidogrelにくらべ,大出血リスクを上昇させることなく,血管死,心筋梗塞,脳卒中の複合エンドポイントを有意に抑制した。
ClinicalTrials.gov No NCT00391872
文献
  • [main]
  • Wallentin L, et al.; the PLATO Investigators: Ticagrelor versus clopidogrel in patients with acute coronary syndromes. N Engl J Med. 2009; 361: 1045-57. PubMed
    Schömig A: Ticagrelor -- Is there need for a new player in the antiplatelet-therapy field? N Engl J Med. 2009; 36: 1108-11. PubMed
  • [substudy]
  • 早期侵襲的治療が予定されているACS例においても,ticagrelorはclopidogrelよりも有効である。
    侵襲的治療が予定されていた13,408例(72.0%,うち約77%がPCI施行):ticagrelor群(6,732例),clopidogrel群(6,676例)の結果:一次エンドポイントはticagrelor群569例(360日後のイベント比9.0%) vs clopidogrel群668例(10.7%):clopidogrel群と比べたticagrelor群のハザード比0.84;95%信頼区間0.75~0.94(p=0.0025)。
    総重大出血率(689例[11.5%] vs 691例[11.6%]:0.99;0.89~1.10,p=0.8803)も,GUSTO基準による重大出血率(185例[2.9%] vs 198例[3.2%]:0.91;0.74~1.12,p=0.3785)も両群間に差はみられなかった:Lancet. 2010; 375: 283-93. PubMed

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収載年月2009.09
更新年月2010.02