循環器トライアルデータベース

BALANCE
Clinical Benefit and Long-Term Outcome after Intracoronary Autologous Bone Marrow Cell Transplantation in Patients with Acute Myocardial Infarction Study

目的 急性心筋梗塞(AMI)後の患者における自家骨髄細胞(BMC)の冠内移植による心室血行動態,形状,収縮性の改善の定量的評価,および長期臨床転帰を検討する。
コメント 急性心筋梗塞(AMI)後にはリモデリングと呼ばれる心室筋の構造・病理組織上の変化を生じる。心筋梗塞領域は健常な領域ほど圧負荷や容量負荷に耐えることができず左室腔の拡大を生じ心機能の低下をもたらす。AMI後の投薬治療や冠血行再建術は壊死に陥った組織の機能は回復しないが,viableでhybernationを生じた心筋の機能を改善する。AMIに対するこれまでの治療手段は左室のリモデリングの予防や回復に限られており,心不全の発生頻度をさらに低下させたり,より一層のリモデリングの改善を得るには新しい治療オプションが必要である。動物実験や臨床研究において自家骨髄細胞(BMC)移植が心室機能を改善しリモデリングを予防することが示されつつある。AMI発症後5日間では梗塞部の炎症反応が最も亢進しており,発症後2週間では梗塞部の瘢痕形成が始まるのでBMC移植の最適な時期は5-14日の間と考えられる。本研究ではAMI例にBMC移植をした際の定量的な心機能の回復と5年後の死亡率の低下を明らかにした。心機能の回復に関しては,左室の血行動態,収縮指標,形態変化など多彩な指標で評価しており心筋梗塞部での改善効果が明らかである。特に,梗塞の中心部より周辺部における傷害心筋細胞の収縮能の改善が得られており,BMC移植によるサイトカインなどのパラクライン効果が想定される。BMC移植による長期的な予後改善の持続は,心不全発症や死亡に影響するリモデリングの抑制と関連する。リモデリングはAMIの60%に生じるとされ,梗塞領域だけでなく非梗塞領域の形態変化を生じる。primary PCIにより心筋梗塞サイズが縮小しリモデリングが抑制されることはよく知られており,今回の結果でもBMC移植により梗塞サイズの縮小も認められている。不整脈に対する諸指標でも改善が認められることは心強い結果である。5年後の死亡率が1.6%(通常は13-24%)と非常に低値であるのは,心ポンプ不全と重篤な不整脈の両方に対する改善効果に由来するのであろう。今後はより大規模な研究により本研究の結果の確認と,どの骨髄細胞のどのような処理技術がより有効性を発現しうるかを明らかにする必要がある。骨髄細胞よりiPS細胞などの多能細胞の方が良いのかもしれない。(星田
デザイン 前向き。
期間 追跡期間は60か月。
登録期間は2002~’03年。
対象患者 124例のAMI患者。
除外基準:アルコール・薬物依存,急性心筋炎,ヒト免疫不全,B型肝炎・C型肝炎ウイルス感染,妊娠,悪性・血液疾患の証拠。
■患者背景:平均年齢(BMC群51.4歳,対照群50.7歳),男性(87.1%, 92%),クレアチンキナーゼ最大値(1131 U/L,1151U/L),EF(51.6%,57.2%),梗塞責任動脈:左前下行枝(48.8%,52%),高脂血症(94%,91%),喫煙(52%,54%),肥満(60%,57%),高血圧(52%,49%)。
治療法 AMI発症から約10時間後に緊急血管造影を行い,バルーン血管形成・ステント植込みによる梗塞責任血管の血行再建から平均7日後に患者にBMC冠内移植を提案する。
BMC群(62例):BMC治療の同意が得られたもの,対照群(62例):BMC治療を拒否(その他の全ての試験の手順には同意)した患者のうち,BMC群と同等のEFおよび診断を有するもの。
BMC群では腸骨稜から骨髄(80~120mL)を採取し,単離しヘパリン生理食塩水で洗浄した単核細胞(CD34+,CD133+,CD34-細胞。生存率93%)を,血管形成バルーンカテーテルの拡張と並行し4分かけて4画分を冠内に直接注入(dobutamine静注およびdipyridamole冠注)。
全例にaspirin,clopidogrel,β遮断薬,ACE阻害薬・ARB,利尿薬投与;冠血管造影;2方向左室造影による梗塞サイズ,EF,局所壁運動,駆出時の梗塞域の壁応力の評価;右心カテーテル;心エコー;dobutamine負荷心エコー;遅延電位(LP);短期心拍変動(HRV);安静時ECG;24時間ホルター心電図。BMC治療後3,12,60か月に臨床フォローアップ。
結果 BMC群では治療後3か月にベースライン時に比べ,左室の血行動態に関しEFの有意な改善(7.9%;p<0.0167),安静時1回拍出量係数(SVI)の有意な増加(16.5%;p<0.0167),拡張末期容積(EDV)および収縮末期容積(ESV;p<0.0167)の縮小,梗塞サイズの有意な縮小(8%;p<0.01)が認められた。BMC群におけるEFおよびESVの改善は対照群に比べ有意に大きかった。
左室の収縮性については,BMC群でベースライン時に比べ収縮速度(長さ/秒,容積/秒)の有意な上昇,収縮性指数(Psyst/ESV)の有意な改善(p<0.01),梗塞領域における短縮速度(VCF)の有意な上昇(31%;p<0.05),収縮末期壁応力の有意な低下(8.6%;p<0.05)がみられたが,非梗塞領域ではBMC治療前後でVCFに変化はなかった。BMC群では治療後に異所性収縮,LP,HRVの異常の減少を認めた。BMC群で治療後にみられた左室の収縮性,血行動態,形状の改善は12,60か月後にも維持された。死亡率はBMC群で対照群に比べ有意に低下した(平均死亡率0.35%/年 vs 対照群2.35%/年,p=0.03)。
★結論★AMI後の患者において,BMC冠内移植により左室の形状および機能,死亡率が有意に改善し,その有効性は長期にわたり持続する。また,副作用は認められず,BMC治療の安全性が示された。
文献
  • [main]
  • Yousef M et al: The BALANCE study: clinical benefit and long-term outcome after intracoronary autologous bone marrow cell transplantation in patients with acute myocardial infarction. J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 2262-9. PubMed
    Forrester JS et al: Long-term outcome of stem cell therapy for acute myocardial infarction: right results, wrong reasons. J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 2270-2. PubMed

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収載年月2009.11