循環器トライアルデータベース

KAMIR
Korean Acute myocardial Infarction Registry

目的 薬剤溶出性ステント(DES)時代の急性心筋梗塞(AMI)患者における“real world”での治療を検証する韓国の登録研究。
ST上昇型急性心筋梗塞でprimary PCI(DES)を施行する患者において,2種類の抗血小板療法(aspirin,clopidogrel)にcilostazol*を加えた3種類の抗血小板療法の有効性および安全性を検討する。
* 血小板および血管平滑筋細胞内のフォスホジエステラーゼIII(PDE III)活性を阻害。抗血小板効果はaspirinの10~30倍とされており,PCI後の投与による有効性,安全性はaspirin,clopidogrelと同等と報告されている。
コメント ■コメント 木村  剛
■コメント 後藤 信哉

KAMIRは韓国における急性心筋梗塞患者の多施設前向きレジストリーである。本論文はKAMIR登録患者のpost-hoc sub-analysisで,薬剤溶出性ステント(DES)を用いてprimary PCIが施行された急性心筋梗塞患者においてaspirin/ clopidogrelに加えてcilostazolが投与された群(triple group)とaspirin/ clopidogrelのみが投与された群(dual group)の8ヵ月の臨床アウトカムを比較した研究である。結果は驚くべきもので,cilostazolの追加投与は,患者背景やcilostazol投与のpropensityを補正した上で,死亡率を40%,心臓死を48%低下させた。大規模な前向き無作為化試験によるcilostazol追加投与の評価の必要性を示唆している。
しかしながら観察研究からの結果は基本的に仮説形成であり,その解釈には注意が必要である。観察研究結果を歪める最大の要因としては,患者選択バイアスが挙げられる。本研究において著明なイベント抑制効果が示されたエンドポイントが死亡である点には注意を要する。死亡というのは医学研究において最も重要なエンドポイントであることには疑いもないが,一方で患者選択バイアスの影響を受けやすいエンドポイントであることに留意すべきである。観察研究SCAARにおいてDESが死亡率を増加させると報告されたが,その後の多くの研究でそれが否定されたのが良い例である。薬剤を評価する研究で,重症例に投与された際に副作用が懸念される場合には特に注意が必要であり,cilostazolの場合には出血リスクや心不全増悪リスクへの懸念の影響が想定される。確かに両群間で患者背景は驚くほど均等に分布しているが,患者背景のテーブルに現れていない臨床的判断が影響した可能性は否定できない。
この種の観察研究結果を解釈する上で重要なことは,mechanistic plausibility,すなわち「なぜcilostazolは死亡率を低下させたのか?」を考えることである。確かにcilostazolの投与は,DES留置後の新生内膜増殖や標的病変再血行再建(TLR)を減少させ,またclopidogrel抵抗性患者の血小板凝集を抑制することが報告されている。それではこれらの効果が死亡よりももっと直接的に影響すると考えられるエンドポイントの結果はどうであろうか。TLRの頻度においても心筋梗塞再発の頻度においても両群間で差がみられない。それではどのようなメカニズムにより死亡率が低下したのであろうか。このような場合に死亡率低下のメカニズムを検討するうえで死因の分析が役に立つこともあるが,残念ながら本研究では死因の詳細な分析は行われていない。死亡率を低下させたと報告する観察研究においては,死因分析が必要であると考える。
本研究の結果を受けて,「日本においても明日から,DESを用いてprimary PCIが施行された急性心筋梗塞患者にcilostazolを追加投与すべきか?」という問いに対する答えは「時期尚早」である。(木村


シロスタゾール(cilostazol)は日本製の薬剤である。欧米諸国ではPADにおける下肢症状改善薬と理解されているが,日本では脳梗塞再発予防効果を示したCilostazol Stroke Prevention Study (CSPS)の結果などから,長年抗血小板薬と理解されてきた。米国では冠動脈インターベンション後の再狭窄予防効果も示されており,出血リスクも少ないことから,日本でもaspirin/チエノピリジン系薬剤に追加する3剤目として古くから使用されてきた。
日本からは臨床試験を数値化して海外に発表することが遅れた。本研究で示されたコンセプトは日本人医師にはなじみの深い結果である。コンセプトを普遍化して世界に発表するプロセスにおいてKoreaに遅れたのは残念であった。(後藤
デザイン 前向き登録研究,多施設(韓国のprimary PCIが可能な41施設)。
期間 追跡期間は8か月。
登録期間は2005年11月~2007年12月。
対象 4023例。DESを植込むprimary PCI施行例。
除外基準:非ST上昇型心筋梗塞;ベアメタルステント,バルーンのみの血管形成術を施行するST上昇型心筋梗塞(STEMI);selective PCIを施行するSTEMI;PCIを施行しない保守的治療など。
■患者背景:平均年齢(2種類の抗血小板療法群62.01歳,3種類の抗血小板療法群61.97歳),BMI(24.05kg/m², 23.97kg/m²),男性(74.6%, 74.9%),既往:高血圧(45.3%, 43.8%);糖尿病(24.5%, 23.9%);脂質異常症(8.1%, 7.1%);冠動脈疾患家族歴(7.4%, 6.0%);MI(4.2%, 4.6%);脳血管疾患(5.3%, 5.0%),Killip分類:I(78.6%, 80.4%);II(15.3%, 13.5%)。
血管造影背景:左前下行枝(54.0%, 53.0%),右冠動脈(35.1%, 35.3%),1枝病変(47.1%, 49.4%),2枝病変(30.8%, 28.8%),3枝病変(21.0%, 19.4%)。
ステント背景:sirolimus溶出(52.0%, 39.0%),paclitaxel(26.2%, 46.8%),ステント径(3.17mm, 3.18mm),ステント長(25.27mm, 25.65mm),1例当たりのステント数(1.35, 1.53)。
調査方法 本報は2005年~’07年に登録した1万3632例から,primary PCI(発症から24時間以内に施行)を施行したST上昇型AMIを後ろ向きに登録した。
2種類の抗血小板療法群(2569例):aspirin,clopidogrelを6か月以上併用投与。
3種類の抗血小板療法群(1634例):aspirin,clopidogrel,cilostazolを併用投与。
aspirin,clopidogrelは患者がPCI施行に同意直後に投与を開始。aspirinは200mg/日で投与を開始し100mg/日を維持投与,clopidogrelの投与開始用量は300~600mg/日,維持投与量は75mg/日。cilostazolはPCI直後に200mg×2回/日で投与を開始し100mg×2回/日を維持投与,手技後1か月以上投与し,cilostazol投与中止後は,3種類の抗血小板療法例は2種類の抗血小板療法とした。
結果 発症からPCIまでの時間は両群とも4.08時間。
入院中の試験薬以外の薬物治療:GP IIb/IIIa受容体拮抗薬(2種類の抗血小板療法群11.3%,3種類の抗血小板療法群22.6%;p<0.001),低分子量heparin(33.6%,33.8%),未分画heparin(66.4%,66.2%),β遮断薬(76.7%,77.9%),ACE阻害薬(68.5%,75.4%;p<0.001),ARB(13.1%,13.5%),Ca拮抗薬(10.9%,7.9%;p=0.002),スタチン系薬剤(81.2%,81.7%)。
[8か月後の累積転帰]
有害心イベント:2種類の抗血小板療法群240例(9.3%) vs 3種類の抗血小板療法群124例(7.6%);p=0.049:調整後のオッズ比0.74(95%信頼区間0.58~0.95,p=0.019)。
心臓死:3.2% vs 2.0%(p=0.019):0.52(0.32~0.84,p=0.007),全死亡:4.9% vs 3.1%(p=0.006):0.60(0.41~0.89,p=0.010),PCI再施行:3.9% vs 3.7%(p=0.745):0.83(0.59~1.18,p=0.312)。
[サブ解析]
高齢(>65歳),女性,糖尿病患者で3種類の抗血小板療法の方が2種類の抗血小板療法より転帰が良好であった。
★結論★DESによるprimary PCIを施行するST上昇型心筋梗塞患者において,3種類の抗血小板療法は2種類の抗血小板療法よりも有害心イベントを抑制した。
文献
  • [main]
  • Chen KY et al for the Korea acute myocardial infarction registry investigators: Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation. 2009; 119: 3207-14. PubMed
    Abdel-Latif A, and Moliterno DJ: Antiplatelet polypharmacy in primary percutaneous coronary intervention: trying to understand when more is better. Circulation. 2009; 119: 3168-70. PubMed

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収載年月2009.10