循環器トライアルデータベース

DIRECT-Prevent 1, DIRECT-Protect 1
Diabetic Retinopathy Candesartan Trials Prevent 1, Protect 1

目的 1型糖尿病患者において,ARB candesartanの糖尿病性網膜症の一次予防(DIRCET-Prevent 1),進展抑制効果(DIRCET-Protect 1)を検討する。
一次エンドポイントは,DIRCET-Prevent 1:網膜症の発症(網膜症病期分類:Early Treatment Diabetic Retinopathy Study[ETDRS]≧2段階の進展),DIRCET-Protect 1:ETDRS≧3段階の進展。
コメント ■コメント 寺本 民生
■コメント 桑島 巌

DIRECT研究は,2型糖尿病を対象としたDIRECT-Protect 2と1型糖尿病を対象としたDIRECT-Prevent 1とDIRECT-Protect 1の3部作の2試験である。いずれもcandesartanの網膜症に対する影響をみたものである。結果としては,進行した網膜症には進展抑制効果はないが,初期の網膜症については発症予防効果があることを示したという意味では,共通した結果が得られている。もともとは,2型糖尿病を対象としたUKPDSにおいて降圧薬治療が網膜症の発症抑制効果があったという報告や,1型糖尿病を対象としたEUCLIDという試験で網膜症の発症予防効果,進展抑制効果が認められたというpost-hoc解析から,これを前向きに検討するということで計画された試験である。基本的には,両試験を支持する結果であった。また,FIELDという脂質異常改善薬を用いた試験でも網膜症の発症抑制効果があるということから,血糖,血圧,脂質の管理が重要であるというメッセージが発せられたものと理解される。しかし実際には,臨床的にどのように評価すべきか迷うところである。この結果が,レニン-アンジオテンシン系の阻害によるものなのか,降圧作用によるものなのか,さらなる検討が必要になるものと思われる。(寺本


DIRECT試験は,ARBは糖尿病性網膜症の発症あるいは進展を予防するかもしれないとの仮説を証明する目的で行われた大規模臨床試験であり,2型糖尿病患者を対象として進展予防効果を検討したDIRECT-Protect 2試験と1型糖尿病患者の網膜症新規発症予防効果を検討するDIRECT-Prevent1試験,そして進展予防を検討するDIRECT-Protect 1試験の3トライアルで構成されている。
本試験DIRECT-Prevent試験では,網膜症の新規発症は有意には至らなかったものの,ARBの方がプラセボ群よりも少ない傾向が認められた(25% vs. 31%, p=0.0508)。対象症例の血圧は両群とも116/72mmHgとかなり低いが,治療によってARB群とプラセボ群血圧差は収縮期血圧で3.6mmHg,拡張期血圧で2.5mmHgまで開いていることから,この低い血圧レベルでもさらに血圧を下げたことが網膜症発症予防につながった可能性も大きい。一方のDIRECT-Protection試験では,プラセボ群との間に有意差は認められなかったが,3段階の進展をみると有意にARB群で抑制が認められたとしているが,後付解析であり結果解釈には慎重であるべきである。RA系の強力な抑制が網膜症の発現を予防するとしても,本試験では初期治療ですら16mg/日,最大用量が32mgという我が国の許容用量をはるかに凌駕する用量で,かつ血圧もかなり低い症例での成績であることを考慮すると,この結果を臨床応用することは難しいと思われる。(桑島
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(309施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間はDIRCET-Prevent 1:4.7年(中央値),DIRCET-Protect 1:4.8年(中央値)。
試験期間は2001年8月~2008年3月。
対象患者 DIRCET-Prevent 1:1421例,DIRCET-Protect-1:1905例。
正常血圧(≦130/85mmHg);正常アルブミン尿(2回の夜間蓄尿のうち1回のアルブミン排泄率が<20μg/分);診断時年齢が<36歳で診断から1年以内にインスリンを投与している1型糖尿病患者。
DIRCET-Prevent 1:18~50歳,糖尿病罹病期間が1~15年の糖尿病網膜症非発症例。
DIRCET-Protect 1:18~55歳,糖尿病罹病期間が1~20年の軽度~中等度の糖尿病網膜症(ETDRS sclae>20/10[毛細血管瘤のみ/糖尿病網膜症なし]~47/47[中等度重症非増殖糖尿病網膜症])。
除外基準:網膜写真の判定を困難にする状況(例:開放隅角緑内障,高度な白内障など),弁狭窄症,心筋梗塞あるいは脳卒中の既往,腎障害(クレアチニン:女性;≧110μmol/L,男性;≧130μmol/L)など。
■患者背景
[DIRCET-Prevent 1]:平均年齢[罹病期間]:candesartan群29.6歳[6.6年],プラセボ群29.9歳[6.8年],HbA1c(8.0%,8.2%),血圧(両群とも116/72mmHg),BMI(23.8,24.1kg/m2),総コレステロール(TC:181.7,185.6mg/dL),HDL-C(両群とも65.7mg/dL)
[DIRCET-Protect 1]:平均年齢[罹病期間](31.5歳[10.9年],31.9歳[11.0年],HbA1c(両群とも8.5%),血圧(117/74,117/73mmHg),BMI(24.7,24.6kg/m2),TC(両群とも185.6mg/dL),HDL-C(両群とも65.7mg/dL)。
治療法 DIRCET-Prevent 1
candesartan群(711例):16mg/日で投与を開始し1か月後に32mg/日に倍増,プラセボ群(710例)。
試験期間中の試験薬の減量(16mg/日あるいは8mg/日)はいつでも可とした。
DIRCET-Protect 1
candesartan群(951例),プラセボ群(954例)。
ETDRSプロトコールに基づく7か所の眼底写真撮影を実施し,1年後,その後年1回行った(DIRCET-Protect 1は6か月後も実施)。
結果 [DIRCET-Prevent 1]
・candesartan最大量投与は533例(75%)。
・一次エンドポイント(ETDRS≧2段階)の発症:candesartan群178例(25%) vs プラセボ群217例(31%)とcandesartan群で相対リスクが18%低下:ハザード比(HR)0.82;95%信頼区間0.67~1.00(p=0.0508))。
ベースライン時背景(罹病期間,HbA1c,収縮期血圧[SBP])で調整後のHR:0.88;0.72~1.07(p=0.192),さらに試験期間中のSBPで調整すると,0.92;0.75~1.13(p=0.413)。
・(post-hoc解析)ETDRS≧3段階の発症:調整前HRは0.65;0.48~0.87(p=0.003),ベースライン時背景で調整後のHR:0.71;0.53~0.95(p=0.023),さらにSBPで調整すると0.74;0.55~0.99(p=0.046)。
・4.7年の治療でETDRS≧2段階,≧3段階の発症を1例予防するNNTは18人。
・最終ETDRSはcandesartan群の方が改善した(オッズ比(OR)1.16;1.05~1.30,p=0.0048)。
・有害イベント:candesartan群505例(71%),プラセボ群517例(73%)。
うち鼻咽頭炎(14%,16%),低血糖(14%,13%),低血圧(15%,8%),頭痛(7%,10%),有害イベントによる投与中止(両群とも3%),死亡(両群とも1%)。

[DIRCET-Protect 1]
・candesartan最大量投与は752例(79%)。
・ベースライン時のETDRS scale:20(毛細血管瘤のみ:両群とも49%),35(軽度非増殖糖尿病網膜症:candesartan群41%,プラセボ群43%),>35(10%,8%)。
・網膜症の進展:candesartan群127例(13%),プラセボ群124例(13%):調整前のHR 1.02;0.80~1.31(p=0.849),ベースライン時背景で調整後のHR:0.94;0.74~1.21(p=0.646),さらにSBPで調整すると1.01;0.79~1.30(p=0.932)。
・増殖性網膜症あるいは臨床上重大な黄斑浮腫,あるいは両方:110例(12%) vs 107例(11%)で両群間差はなかった。
・最終ETDRSはcandesartan群の方が改善した(OR 1.12;1.01~1.25,p=0.0264)。
・有害イベント:candesartan群738例(78%),プラセボ群721例(76%)。
うち鼻咽頭炎(14%,15%),低血糖(13%,15%),低血圧(11%,5%),頭痛(12%,11%),有害イベントによる投与中止(両群とも2%),死亡(両群とも1%)。
★考察★candesartanによる網膜症一次予防は認められたが,網膜症進展予防はみられなかった。
ClinicalTrials.gov No: DIRCET-Protect 1;NCT00252720,DIRCET-Prevent 1;NCT00252733
文献
  • [main]
  • Chaturvedi N et al: Effect of candesartan on prevention (DIRECT-Prevent 1) and progression (DIRECT-Protect 1) of retinopathy in type 1 diabetes: randomised, placebo-controlled trials. Lancet. 2008; 372: 1394-402. PubMed
    Mitchell P and Wong TY: DIRECT new treatments for diabetic retinopathy. Lancet. 2008; 372: 1361-3. PubMed
  • [substudy]
  • 正常アルブミン尿の1型・2型糖尿病患者において,candesartanは微量アルブミン尿の発現を抑制せず。
    DIRECT-Prevent 1,DIRECT-Protect 1, DIRECT-Protect 2のpooled解析(1型糖尿病3,326例,2型糖尿病1,905例:candesartan群2,613例,プラセボ群2,618例):candesartan群における微量アルブミン尿発現頻度に対する効果はほとんどなかったが(ハザード比0.95;95%信頼区間0.78~1.16,p=0.60),プラセボ群より頻度が増加することもなかった(年間微量アルブミン尿の変化はcandesartan群がプラセボ群より5.53%低下;0.73~10.14%,p=0.024):Ann Intern Med. 2009; 151: 11-20, W3-4. PubMed

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収載年月2009.09
更新年月2010.02