循環器トライアルデータベース

DIRECT-Protect 2

目的 2型糖尿病患者において,ARB candesartanの網膜症進展抑制効果を検討。
一次エンドポイントは,網膜症の進展(網膜症病期分類:Early Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS) scale*の3段階以上の変化:片眼≧2段階およびもう一方の眼が1段階あるいは片眼≧3段階でもう一方の眼は変化なし)。
コメント ■コメント 桑島 巌
■コメント 寺本 民生

2型糖尿病症例において,candesartanは一次エンドポイントである糖尿病性網膜症の進展を抑制できなかったというのが結論である。しかし二次エンドポイントであるが,早期の糖尿病網膜症にかぎれば,その回復においてcandesartan治療がプラセボ群よりも若干,良好な成績を示した。1型糖尿病で同様の検討を行ったDIRECT-Protect 1でもほぼ同じ結果が得られている。
本試験は高血圧症例がほとんどであるが,正常血圧例も若干含まれている。また,降圧目標値を設定してはいないが,candesartanはランダム化1か月後には32mg/日を投与するプロトコールとなっており,我が国の最大薬価収載用量12mg/日を大幅にオーバーしている点は注意が必要。
プラセボ群との血圧値の差が,ベースライン時降圧薬服用群では4.3/2.5mmHgあり,降圧薬非服用群でも2.9/1.3mmHgある。著者らは,血圧変化で補正してもなお2型糖尿病患者の網膜症改善効果は認められるとしているが,血圧で補正するこということはあくまでも統計上でのことであり,臨床的立場としては,これほどの血圧差があれば,軽症網膜症のわずかな回復効果をレニン-アンジオテンシン系の抑制のみに原因を求めるのは困難である。UKPDSが示したように降圧効果そのものが,糖尿病網膜症の進展を抑制あるいは進展を防止すると考えるべきであろう。
本試験の結果は我が国の臨床には全く応用できない。その理由として第一に,本試験で用いられているARBの用量が保険承認用量をはるかに凌駕していること,第二に,対象に含まれている正常血圧では保険が認められないこと,そして第三に,糖尿病性網膜症の重症例や増殖性病変では進展抑制,回復とも有用性を示すことができなかったからである。(桑島


網膜症は糖尿病患者の合併症として極めて重要であり,後天的な失明の原因のトップの座を占めている。糖尿病性網膜症は,糖尿病治療で進展抑制効果があることは知られているが,UKPDS 38では,高血圧治療でも,網膜症の進展抑制効果がある可能性が示されている。これまで,高血圧治療が糖尿病性網膜症の進展抑制効果を有するかという問題について,primary endpointにした研究がなかった。本研究はレニン-アンジオテンシン系(RAS)が網膜症の進展にかかわっているのではないかという仮説のもとに,正常血圧においてARBを用いてその有効性をみている点が特徴的である。興味深いのは,ARBには進展抑制効果は示されなかったのであるが,退行効果は認められ,とくに軽度非増殖性網膜症では有意に改善が認められ,中等度以上の網膜症には有効ではなかったという点である。初期の段階では,血糖とともに血圧管理(もしくはRAS)が重要であることを示しているものと思われる。また,FIELDという脂質異常に対する介入試験でも,糖尿病性網膜症の進展抑制効果が報告されており,糖尿病の合併症予防には血圧,脂質を含めたトータルケアが重要であることを改めて示したといえよう。(寺本
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(309施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は4.7年(中央値)。
ランダム化期間は2001年8月~2004年2月。2008年3月追跡終了。
対象患者 1905例。37~75歳;罹病歴1~20年の2型糖尿病;診断時年齢≧36歳で診断後1年以内に持続的インスリン治療の必要のないもの;正常アルブミン尿;正常血圧(≦130/85mmHg)または治療中の高血圧(≦160/90mmHg);軽度~中等度(ETDRSレベル*≧20/10,≦47/47)の非増殖性網膜症を認めるもの。
除外基準:眼底写真の判定を困難にする状況(例:高度な白内障,閉塞隅角緑内障など),臨床的に重大な黄斑浮腫または増殖性網膜症,弁狭窄症,最近発症した脳卒中,心筋梗塞,妊娠または授乳中の女性,腎機能障害(血清クレアチニン値:男性;>130μmol/L,女性;>110μmol/L),尿中アルブミン排泄率≧20μg/分,レニン-アンジオテンシン系阻害薬投与例。
■患者背景:平均年齢(candesartan群56.9歳,プラセボ群56.8歳),男性(49%,51%),糖尿病罹病期間(8.8年,8.7年),網膜症のレベル(ETDRS尺度):20(28%,29%);35(56%,53%),≧35(15%,19%)。
糖尿病治療:インスリンのみ(17%,18%),経口血糖低下薬のみ(62%,61%),インスリン+経口血糖低下薬(両群とも19%)。
HbA1c(両群とも8.2%),高血圧治療例(両群とも62%),血圧(123/75mmHg,123/76mmHg),治療高血圧(139/79mmHg,139/80mmHg),BMI(両群とも29.4kg/m2),総コレステロール(両群とも205mg/dL),non-HDL-C(両群とも151mg/dL),クレアチニン(90.3μmol/L,90.1μmol/L),尿中アルブミン排泄率(両群とも5.5μg/分)。
治療法 candesartan群(951例):16mg/日から投与を開始し,1か月後に32mg/日に倍増。16mg/日または8mg/日への減量可,プラセボ群(954例)。
眼底写真を6か月後,1年後,それ以降年1回実施し,網膜症の変化はETDRS*尺度に拠った。

* Early Treatment Diabetic Retinopathy Study scale:level 10(糖尿病性網膜症なし),20(毛細血管瘤のみ),35(軽度非増殖性糖尿病性網膜症[NPDR]),43(中等度NPDR),47(中等度重症NPDR),53(重症NPDR),61・65・71・75・81(増殖性糖尿病性網膜症)
結果 [忍容性]
有害イベントによる治療中止はcandesartan群37例(4%),プラセボ群42例(4%)。
[降圧]
ベースライン時の降圧治療例でcandesartan群はプラセボ群より4.3/2.5mmHg降圧した(p<0.0001)。
非降圧治療例では同群は2.9(p=0.0003)/1.3mmHg(p=0.0045)プラセボ群より降圧した。
[一次エンドポイント]
網膜症の進展で両群間に有意差はみられなかった。
ETDRSレベルの3段階以上の進展は,candesartan群161例(17%),プラセボ群182例(19%):ハザード比0.87;95%信頼区間0.70~1.08(p=0.199)。
全体の網膜症の変化(ETDRSレベル)は,candesartan群で有意に改善された(オッズ比1.17;1.05~1.30,p=0.003)。
[二次エンドポイント]
網膜症の回復(ETDRSレベル≧3段階の改善あるいは2年連続して≧2段階改善)率はcandesartan群で有意に高かった:180例(19%) vs 136例(14%);1.34;1.08~1.68(p=0.009)。
candesartan群の有効性は血圧の変化とは関連しなかったが,軽度網膜症(レベル35)で同群の有意な有効性が認められたが,中等度~中等度重症例では認められなかった。相互関連:p=0.064)。
[その他,安全性]
増殖性糖尿病性網膜症または黄斑浮腫の発症は両群間に有意差はなかった(p=0.773)。
有害事象に両群間差はなかった:candesartan群796例(84%),プラセボ群786例(83%)。最も多かったのは高血圧(13%,18%),次いで頭痛(8%,10%),インフルエンザ(8%,9%),四肢痛(両群とも8%)。
死亡例は37例(4%),35例(4%)。
★考察★軽度~中等度の2型糖尿病性網膜症患者において,candesartanによる網膜症改善の可能性が示された。
ClinicalTrials.gov No: NCT00252694
文献
  • [main]
  • Sjølie AK et al for the DIRECT programme study group: Effect of candesartan on progression and regression of retinopathy in type 2 diabetes (DIRECT-Protect 2): a randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2008; 372: 1385-93. PubMed
    Mitchell P and Wong TY: DIRECT new treatments for diabetic retinopathy. Lancet. 2008; 372: 1361-3. PubMed
  • [substudy]
  • 正常アルブミン尿の1型・2型糖尿病患者において,candesartanは微量アルブミン尿の発現を抑制せず。
    DIRECT-Prevent 1,DIRECT-Protect 1, DIRECT-Protect 2のpooled解析(1型糖尿病3,326例,2型糖尿病1,905例:candesartan群2,613例,プラセボ群2,618例):candesartan群における微量アルブミン尿発現頻度に対する効果はほとんどなかったが(ハザード比0.95;95%信頼区間0.78~1.16,p=0.60),プラセボ群より頻度が増加することもなかった(年間微量アルブミン尿の変化はcandesartan群がプラセボ群より5.53%低下;0.73~10.14%,p=0.024):Ann Intern Med. 2009; 151: 11-20, W3-4.

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収載年月2009.07
更新年月2010.02