循環器トライアルデータベース

GISSI-AF
Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell'Infarto Miocardico-Atrial Fibrillation

目的 心房細動(AF)既往例において,通常治療にARB valsartanを追加投与した場合のAFの再発予防効果を検討する。
一次エンドポイントは,(1) 初回AF再発までの時間,(2) 1年間に2回以上のAFを発症した患者の割合。
コメント ■コメント 井上 博
■コメント 桑島 巌
■コメント 堀 正二

LIFE, CHARM, VALUEの各試験ではARBがAFの再発を抑制した。しかし,これらの研究では心電図が定期検診の際に記録されており,本GISSI-AF試験に比べてAF再発の検出力に劣っている。一方,追跡期間は本試験が短く,前の3試験では3年以上となっている。これらの方法論の差が本GISSI-AF試験とこれまでの試験で結果が異なった原因となっている可能性があり,この問題に決着をつけるために更なる試験が必要である。(井上


ARBはupstream治療と称して,心房細動発症予防効果が雑誌や企業主催の講演会などで,主に不整脈専門家によって強調されている。本試験の結果は,これらの予想や期待とは異なりARBが心房細動発症予防には無効であることを,一次エンドポイントとした大規模臨床試験で明瞭に証明した点で価値がある。
これまでARBが心房細動発症予防に有効であるとしたトライアルは実は,LIFEやVALUEなどごく少数に過ぎず,しかもいずれも二次解析の結果なのである。ARBの心房細動発症予防についての二次解析はほかにも多数行われているがいずれも予防効果は認めていない。最近発表されたARBの脳卒中の二次予防効果をプラセボと比較したPRoFESS試験では,驚くことに心房細動発症はARB群の方がプラセボ群よりも有意に多いという結果すら発表されているのである。この結果はほとんど注目されていないが重要な所見である。LIFE試験など一部のトライアルの結果が強調されすぎているために,あたかもARBが心房細動発症を予防するかのような印象を与えてしまっているのである。しかも日本高血圧ガイドラインでは,心房細動予防に対してARBが有効であるとする表を掲載しているのである。
RAS阻害薬の心房細動予防に関しては,現在さらに規模の大きいトライアルが進行中であり,今年度ESCで発表されると予想される。最終的な決着までには紆余曲折があるかもしれないが,現段階では降圧薬の目的はあくまでも確実な降圧による脳卒中や心筋梗塞予防であることを銘記すべきである。(桑島


LIFE, CHARM, VALUE 試験において,いずれも異なる種類のARB が高血圧患者の心房細動発症を抑制したことから,ARBの心房細動に対する1次予防効果は確立したと考えてよい。しかし,心房細動の再発に対する2次予防についてはARBの効果を検討した試験は4試験のみであり,いずれも小規模で総数も665例に過ぎない。一方,本試験は1442例を対象としており,これまでで最も規模が大きい。基礎疾患として,心血管疾患,糖尿病,左房拡大を有する高リスク患者を対象にしているが,1次予防試験と異なるのは,高血圧患者を対象にしていないことである。また,ARBが2次予防に有効であった3試験では,アミオダロンが100%に投与されているが,本試験では35%にしか投与されていない。一方,ACE阻害薬は57%に投与されており,抗不整脈薬は70%に投与されている。このように基礎疾患,基礎治療の差も結果に影響を与えているかも知れないが,2次予防の場合,心筋のリモデリングはすでに進行しており1年間のARBの投与で逆リモデリングを期待しうる確率は低いと考えるのが妥当であろう。本試験対象者の80%以上が2週間以内に除細動治療(cardioversion)を受けており,また大多数の患者は発作性心房細動(PAF)ではなかったため,心房細動の基質(substrate)の心筋リモデリングはかなり進行していると考えられる。また,一次エンドポイントの半数以上が,試験開始後2か月以内に生じていることから,本研究ではARBの逆リモデリング効果が発揮される時間が十分でなかったと考えるべきであろう。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(114施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は365日(中央値)。
登録期間は2004年11月~2007年1月。
対象患者 1442例。40歳以上,洞調律で過去6か月以内の2回以上のAF発作,あるいは2週間以内のAF除細動成功例;基礎疾患(心血管疾患,糖尿病,左房拡大)を有しているもの。
除外基準:その他の適応でARBによる治療が必要なもの;ARB禁忌例;6週間以内の急性心筋梗塞,CABG,PCI;臨床的に重大な弁膜症など。
■患者背景:平均年齢(valsartan群67.5歳,プラセボ群68.2歳),女性(37.0%, 38.5%),BMI(28.0kg/m², 27.7kg/m²),血圧(138.2/81.5mmHg, 139.0/81.6mmHg),心拍数(63.5拍/分,63.7拍/分),QRS≧120msec(7.9%, 9.7%),左室肥大(9.8%, 8.3%)。
登録基準:6か月以内の>2回のAF(41.4%, 39.2%),2週間以内の除細動(89.5%, 87.5%),>7日の持続性AF(33.0%, 31.2%),心不全またはEF<40%(7.8%, 8.1%),6か月以上持続する高血圧(85.7%, 85.0%),糖尿病(13.2%, 16.1%),脳卒中既往(4.4%, 3.8%),末梢血管疾患(5.1%, 3.1%;p=0.047),冠動脈疾患(15.4%, 9.4%;p≦0.001),AFのみ(10.8%, 13.1%)。
薬物治療:amiodarone(35.0%, 34.4%),sotalol(7.3%, 6.5%),I群抗不整脈薬(32.5%, 32.2%),ACE阻害薬(58.2%, 55.8%),Ca拮抗薬(28.7%, 30.7%),β遮断薬(30.9%, 29.6%),利尿薬(37.1%, 36.7%),スタチン系薬剤(27.1%, 23.9%),経口抗凝固薬(55.1%, 57.9%),aspirin(28.5%, 26.2%)。
治療法 valsartan群(722例):80mg/日を2週間投与後,160mg/日に増量し2週間投与し,4週間目に320mg/日に増量して52週目まで投与,プラセボ群(720例)。
AFの検知度を上げるため,全例に電話伝送心電計(Cardiobios 1)を提供し,AF発作が起きた場合,発症の有無を問わず週に1回は30秒心電図を試験コーディネートセンターと担当医に送信。AF再発が検知された際は確認のため外来受診した。
結果 4週間後の目標投与量320mg達成例はvalsartan群83.1%,プラセボ群85.2%。
8週後に収縮期血圧はvalsartan群-3.91mmHg,プラセボ群-1.07mmHg(p<0.001),終了時は-4.13mmHg, -1.96mmHg(p=0.01)。心拍数の変化はみられなかった。
[一次エンドポイント]
AF再発例はvalsartan群371例(51.4%) vs プラセボ群375例(52.1%):調整後ハザード比0.97;96%信頼区間(CI)0.83~1.14(p=0.73)。
AF初発までの時間は295日 vs 271日(中央値)。
1年間で2回以上AF発作を起こしたものは194例(26.9%) vs 201例(27.9%):0.89;99%CI 0.64~1.23(p=0.34)。
この結果はサブグループ(年齢,心不全/左室肥大,ACE阻害薬,抗不整脈薬,β遮断薬投与の有無など)で解析しても同様であった。
[二次エンドポイント]
血栓塞栓症イベントはvalsartan群で有意に多かった(10例[1.4%] vs 2例[0.3%]:5.06;95%CI 1.11~23.11,p=0.04)が,その他の全入院,心血管イベントによる入院,死亡あるいは非致死的血栓塞栓症イベント,死亡,脳梗塞,一過性脳虚血発作,AF発作回数,不整脈関連イベント(8週後の洞調律,試験終了時の洞調律,AF初回発作時の心拍数,初回発作の持続時間)のいずれも両群間差はなかった。
[安全性]
治療中止例はvalsartan群107例(14.8%),プラセボ群76例(10.6%);p=0.02。うちvalsartan群の26例,プラセボ群の12例は薬剤による有害反応によるものであった。valsartan群では低血圧が7例,腎機能障害とめまいがそれぞれ3例。
★結論★valsartanによる心房細動再発予防効果は認められなかった。
ClinicalTrials.gov No: NCT00376272
文献
  • [main]
  • Disertori M et al for the GISSI-AF investigators: Valsartan for prevention of recurrent atrial fibrillation. N Engl J Med. 2009; 360: 1606-17. PubMed
    Gillis AM: Angiotensin-receptor blockers for prevention of atrial fibrillation-a matter of timing or target? N Engl J Med. 2009; 360: 1669-71. PubMed

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収載年月2009.05