 |
収縮機能が保持されている拡張性心不全において,ARB irbesartanの死亡および心血管疾患への有効性を検討する。 一次エンドポイントは全死亡,心血管疾患(心不全悪化,心筋梗塞,不安定狭心症,不整脈,脳卒中)による入院。 |
 |
 |
拡張性心不全(拡張機能障害による心不全)患者においてirbesartanの有効性が示されると期待していたが,結果はニュートラルであった。試験開始時にACE阻害薬投与例が25%だったので上乗せ効果が出ると考えていたが,試験期間中にACE阻害薬,spironolactone,β遮断薬の使用が増えた。対象は至適な治療を受け血圧もよくコントロールされていたため,ONTARGETやVALIANTと同様にARBの上乗せ効果が期待できる余地がなかったのだと思われる。ARBの有効性は収縮機能低下例に比べると拡張機能低下例では弱いという印象を持っているが,今回の結果から拡張性心不全においてもRA系の抑制が必要だと推測される。心不全治療薬で死亡抑制効果が最も強いのはβ遮断薬であるが,リスクも高い。その点,ARBは安全面での問題がない。これは臨床上で非常に重要なことである。 心不全はその病態生理が不明な点が多い疾患である。なぜ,収縮機能が低下する人と拡張機能が低下する人がいるのかまだ明らかになっていない。遺伝的背景が同じDahlラットの実験では生後7週からラットに高食塩食を与えると高血圧になり拡張機能障害になるが,8週から与えると収縮機能障害になる。時期が違うと表現型が変わるのである。線維化や加齢,女性ホルモンなどの関与も考えられ,治療法確立のためにもメカニズム解明が求められる。 本試験は拡張性心不全の治療におけるRA系抑制の重要性を否定した試験ではないことを認識する必要があると思う。(堀) |
 |
 |
無作為割付け,プラセボ対照,多施設(25ヵ国293施設),intention-to-treat解析。 |
 |
 |
平均追跡期間は49.5か月。 登録,ランダム化期間は2002年6月~2005年4月。 |
 |
 |
4128例。60歳以上;心不全の症候を有する;EF≧45%;過去6か月間に心不全で入院しNYHA II~IV度(入院していない場合はIII~IV度)。 除外基準:過去にARB不耐用性が認められている症例;過去にEF<40%が認められた症例;3か月以内の急性冠症候群,血行再建術,脳卒中;弁膜症;降圧治療例でSBP<100mmHg,>160mmHg,DBP>95mmHg;ヘモグロビン<11g/dL,クレアチニン>2.5mg/dL,肝機能障害など。 ■患者背景:平均年齢72歳,女性60%,病因:虚血25%;高血圧64%,肥満41%,NYHA II度(irbesartan群21%,プラセボ群22%);III度(77%,76%),血圧(137/79mmHg,136/79mmHg),N-terminal pro-B-type natriuretic peptide(NT-proBNP)(中央値:360pg/mL,320pg/mL),左室肥大(31%,30%),心房細動/粗動17%,EF(0.59,0.60), 6か月以内の心不全による入院44%,Minnesota Living with Heart Failure scale は42(中央値)。 病歴:高血圧88%,狭心症の症状40%,心筋梗塞(24%,23%),PCI/CABG(14%,13%),心房細動29%,糖尿病(28%,27%)。 治療状況:利尿薬83%(ループ系が52%),spironolactone 15%,ACE阻害薬25%,β遮断薬59%,Ca拮抗薬40%,硝酸薬27%,経口抗凝固薬19%,抗血小板薬(59%,58%),脂質低下薬(32%,30%)。 |
 |
 |
1~2週間の単盲検によるプラセボ投与(run-in)後,ランダム化。 irbesartan群(2067例):75mg/日で投与を開始し,忍容性のある場合は1~2週間後に150mg,さらに1~2週間後に300 mgに強制漸増投与,プラセボ群(2061例)。 |
 |
 |
irbesartan群で 300mg/日まで増量したものは84%,平均投与量は275mg/日,プラセボ群は88%,284mg/日。 開始時にACE阻害薬非投与例のうち,irbesartan群の19%,プラセボ群の21%が追跡期間中にACE阻害薬を投与。spironolactone使用例はirbesartan群28%,プラセボ群29%へ増加した。 試験開始後6か月間の降圧はirbesartan群3.8/2.1mmHg,プラセボ群0.2/0.2mmHgで,試験期間中持続した。 投与中止例は1年後:irbesartan群13%,プラセボ群12%,2年後:21%,22%,終了時:34%,33%。 一次エンドポイントはirbesartan群742例(100.4/1000人・年) vs プラセボ群763例(105.4/1000人・年):ハザード比(HR)0.95;95%信頼区間0.86~1.05(p=0.35)。 どのサブグループ(年齢,性別,EF,ACE阻害薬およびβ遮断薬投与の有無,糖尿病の有無など)でも同様の結果であった。 二次エンドポイント 全死亡率は52.6/1000人・年 vs 52.3/1000人・年:HR 1.00;0.88~1.14(p=0.98)。 心血管による入院率は70.6/1000人・年 vs 74.3/1000人・年:HR 0.95;0.85~1.10(p=0.44)。 6か月後のMinnesota Living with Heart Failure scaleは両群で改善したが,両群間に有意差は認められなかった。 6か月後のNT-proBNPの変化も両群間に有意差はなかった。 有害事象 有害事象による投与中止率はirbesartan群16%,プラセボ群14%(p=0.07)。 クレアチニンの変化はirbesartan群が1.00mg/dL(開始時)→ 1.02mg/dL(終了時),プラセボ群1.00mg/dL→ 0.98mg/dL,クレアチニン値倍増はそれぞれ6%,4%(p<0.001)。カリウム値>6.0mmol/Lはそれぞれ3%,2%(p=0.01)。 ★結論★駆出率の保持された拡張性心不全患者においてirbesartanは予後を改善しない。 ClinicalTrials.gov No: NCT00095238 |
 |
 |
- [main]
- Massie BM, et al.; the I-PRESERVE Investigators. Irbesartan in patients with heart failure and preserved ejection fraction. N Engl J Med 2008; 359: 2456-67. PubMed
- [substudy]
- 駆出率が保持されている拡張性心不全患者の死亡状況(mode of death)で最も多いのは突然死,心不全死などの心血管死。
年間死亡率は5.2%(52.4例/1000人・年)で,死亡率に両群間差はなかった。mode of deathは心血管死60%(突然死26%,心不全14%,心筋梗塞5%,脳卒中9%など),非心血管死30%,不明10%で,いずれも治療群間差はみられなかった:Circulation. 2010; 121: 1393-405. PubMed
|
|