循環器トライアルデータベース

JPAD
Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Aspirin for Diabetes

目的 日本人2型糖尿病患者において,低用量aspirinの動脈硬化性イベントの一次予防効果を検討する。
一次エンドポイントは全動脈硬化性イベント(突然死,冠動脈疾患死,脳血管死,大動脈血管死,非致死的急性心筋梗塞,不安定狭心症,労作性狭心症の新規発症,非致死的脳梗塞および脳出血,一過性脳虚血発作[TIA],非致死的大動脈・末梢動脈疾患)。
コメント ■コメント 寺本 民生
■コメント 後藤 信哉

本試験は,わが国におけるアスピリンの予防効果をみた初めての大規模試験であるが,さらに世界的に見ても糖尿病におけるアスピリンの効果を見た試験はほとんどないという点で注目された。結果的には,一次エンドポイントにおいては残念ながら有意差が認められなかったが,糖尿病で65歳以上という高齢者では有意にイベント抑制効果があったという点は注目に値する。また,一次エンドポイントでは有意差はなかったものの,他のアスピリンを用いた試験とほぼ同等の抑制傾向が観察されている点は注目に値する。問題は,やはりわが国では極端にイベント数が少なくて,有意差を示しえなかったものと思われるが,もうひとつの問題は狭心症というソフトなエンドポイントを加えているという点である。イベント数の少ないわが国であるから加えられたものと思われるが,ここには全く差が認められなかったことを考慮すると,加えるべきではなかったのではないかと思われる。症例数は多いので,現在計画されているいくつかの試験とあわせてメタ解析する必要があるものと思われる。(寺本


2008年のAHAにおいて熊本大学の小川久雄教授らのグループは,血管病を合併しない2型糖尿病を対象としたアスピリンによる心血管病のprimary prevention効果の有無を日本人において検証したJPADを発表した。高血圧などの領域において行われたいくつかの目的の明確でない試験に比較して,本研究は試験のデザインが明確にされ,また適切なdisclosureのなされた研究であった。本研究はアスピリン使用,非使用にランダム化されているものの二重盲検試験ではないためプラセボ効果が大きく関与する。このプラセボ効果の存在を考慮して,かつイベント数を増加させるために必ずしも血栓性ではない新規発症の労作性狭心症,出血性脳梗塞などを含めて複合エンドポイントした試験であったにもかかわらず,一次エンドポイントにおいてアスピリン使用例と非使用例では差を認めなかった。本研究は介入試験としての意味以上に,日本人の2型糖尿病症例における心血管イベント発症率に関する前向きコホート研究としての意義が大きい。欧米人に比較して,日本人では糖尿病症例であっても心血管イベントの発症リスクは低いこと,糖尿病症例であっても冠動脈疾患よりも脳梗塞の発症リスクが高いこと,などコホート研究としては多くの重要な結果を含んでいる。致死的な脳,心血管イベントの発症予防にアスピリンが有効に見える部分の結果も含んでいるが,それらはいずれも二次的な解析結果であって,本研究では1群1000例程度では日本人では糖尿病症例であっても抗血小板薬の有効性を,オープンラベルによるプラセボ効果を追加しても示せないことを明らかにした点では意義の大きな研究であった。現在進行中の1万例以上を対象としたJ-PPPの意義がより大きくなった。(後藤
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoint),多施設(日本の163施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は4.37年(中央値)。
登録期間は2002年12月~2005年5月,2008年4月まで追跡。
対象患者 2,539例。30~85歳の2型糖尿病。
除外基準:心電図上のST低下,ST上昇,Q波;血管造影で確認された冠動脈疾患の既往;脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,TIAの既往;治療が必要な動脈硬化性疾患の既往など。
■患者背景:平均年齢65歳,男性55%,糖尿病罹病期間(中央値:aspirin群7.3年,aspirin非投与群6.7年),HbA1c(7.1%, 7.0%),高血圧58%,脂質異常症53%,血圧(136/77mmHg, 134/76mmHg)。
治療状況:Ca拮抗薬(aspirin群35%,aspirin非投与群34%),ARB(両群とも21%),ACE阻害薬(14%, 15%),スタチン系薬剤(両群とも26%)。
糖尿病治療薬:SU薬(58%, 56%),αグルコシダーゼ阻害薬(33%, 32%),ビグアナイド系薬剤(13%, 15%),インスリン(両群とも13%),TZD系薬剤(両群とも5%)。
治療法 aspirin群(1,262例):81mg/日あるいは100mg/日,aspirin非投与群(1,277例)。
結果 試験終了時のaspirin群の投与中止例は123例(10%)。
一次エンドポイントは154例:aspirin群68例(5.4%;13.6例/1000人・年),aspirin非投与群86例(6.7%;17.0例/1000人・年)で両群間に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]0.80;95%信頼区間0.58~1.10, p=0.16)。
致死的冠動脈イベント,致死的脳血管イベントはaspirin群1例(脳卒中)vs aspirin非投与群10例(心筋梗塞5例,脳卒中5例):HR 0.10;0.01~0.79(p=0.0037)。
全死亡は34例 vs 38例:HR 0.90;0.57~1.14(p=0.67)。
脳出血と胃腸出血は両群同様であった。
サブ解析
65歳以上(1363例:aspirin群719例,aspirin非投与群644例)で,アテローム性動脈硬化はaspirin群(45例[6.3%])のほうが非投与群(59例[9.2%])より有意に少なかった(HR 0.68;0.46~0.99, p=0.047)。65歳未満では有意差はみられなかった。
★結論★2型糖尿病患者において,低用量aspirinによる主要心血管イベント一次予防効果は認められなかった。
ClinicalTrials.gov No: NCT00110448
文献
  • [main]
  • Ogawa H et al: for the Japanese primary prevention of atherosclerosis with aspirin for diabetes (JPAD) trial investigators: low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes: a randomized controlled trial. JAMA. 2008; 300: 2134-41. PubMed
    Nicolucci A: Aspirin for primary prevention of cardiovascular events in diabetes: still an open question. JAMA. 2008; 300: 2180-1. PubMed
  • [substudy]
  • 中等度の腎機能低下例で低用量aspirinの有効性が認められる。
    腎機能障害(推算糸球体濾過量[eGFR]:60~89mL/分/1.73m2)例(1,373例[54%]:aspirin群661例,aspirin非投与群712例)の結果:一次エンドポイントはaspirin群のほうが有意に抑制された(30例 vs 55例:ハザード比0.57;95%信頼区間0.36~0.88, p=0.011)。一方,eGFR≧90mL/分/1.73m2例,<60mL/分/1.73m2例ではaspirin群の有効性はみられなかった。中等度の腎機能不全(eGFR 60~89mL/分/1.73m2)とaspirinの間に有意な交互作用が認められた(p=0.02):Diabetes Care. 2011; 34: 1277-83. PubMed
  • 食事療法のみを行っている例で低用量aspirinのアテローム性動脈硬化抑制効果が認められる。
    インスリン治療例(326例。経口血糖降下薬との併用例も含む),経口血糖降下薬投与例(1,750例),食事療法のみ(463例)。インスリン治療例は罹病期間が長く,血糖コントロールが不良で,細小血管障害の合併率が高かった。アテローム性動脈硬化の発症は,インスリン治療例:26.6例/1000人・年,経口血糖降下薬例:14.6例1,000人・年,食事療法のみ例:10.4例1,000人・年。インスリン治療例,経口血糖降下薬例ではaspirinによるアテローム性動脈硬化の低下はみられなかったが,食事療法のみを行っている例でアテローム性動脈硬化が最も発生が少なかったものの,aspirinの有意な抑制効果が認められた(ハザード比:インスリン治療例1.19,経口血糖降下薬0.84,食事療法のみ0.21):Diabetes Care. 2011; 34: 280-5. PubMed

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収載年月2008.11
更新年月2011.07