循環器トライアルデータベース

TRANSCEND
Telmisartan Randomized Assessment Study in ACE Intolerant Subjects with Cardiovascular Disease

目的 ACE阻害薬に忍容性のない高リスク患者において,AII受容体拮抗薬(ARB)telmisartanがプラセボよりも優れているかを検討する。

一次エンドポイントは心血管死,非致死的心筋梗塞(MI),非致死的脳卒中,うっ血性心不全による入院の複合エンドポイント。

* TRANSCEND試験はtelmisartanの有効性を検討するONTARGETプログラムの一つである。
コメント ■コメント 桑島 巌
■コメント 堀 正二

ONTARGET試験が発表された際にARBのACE阻害薬に対する非劣性が証明されたことで全面的にARBの有用性が示された訳ではなく,ARBのハイリスク症例に対する真の評価はプラセボと比較したTRANSCEND試験が発表されるまで待つべきであると予想したことが現実になった。
一次エンドポイントに有意差がつかなかった理由は,やはりプラセボ群といえどもスタチン薬,抗血小板薬,β遮断薬の使用率がHOPE試験に比べて格段に増加していることにあるだろう。TRANSCENDとHOPEにおけるこれらの薬剤の併用率は,スタチン薬(55%, 28%),β遮断薬(58%, 39%),抗血小板薬(85%, 75%)である。高リスクといえどもこれだけの予防薬を処方することでかなり心筋梗塞発症は起こりにくいということである。またエンドポイント発症において脳卒中と心筋梗塞発症がほぼ1:1であることは,おそらく脳卒中発症の多い中国が参加していることに起因しているのかもしれない。この点も心筋梗塞の方が圧倒的に多いHOPEと大きく異なる点である。さらに一次エンドポイントに心血管死,心筋梗塞,脳卒中というHOPEの一次エンドポイントに加えて,心不全の入院というイベントを追加したことが有意差を逆に消失させてしまったことも原因であろう。
心不全の入院というイベントはPROBE法と違い,二重盲検法であるために客観性は保たれるであろうが,CHARMなどで心不全に対する有用性が求められたことでさらなる有用性を期待したことが逆に裏目になったと考えられる。
心不全の新規発症をのぞいた心血管死,脳卒中,心筋梗塞のみをエンドポイントとするとようやくわずかながら(modest)有意差が認められたというが,Kaplan-Meier曲線をみるとその有用性は2年以降にようやく発揮されているにすぎない。
本試験ではプラセボとの間に新規糖尿病発症,心房細動発症のいずれも有意差がついていない。本試験の対象は140/80mmHg前後の血圧のあまり高くない症例において降圧以外の効果を期待しすぎたために有意差を認めるに至らなかったが,ARBの“降圧をこえた心保護効果”に対する過大な期待を見直す時期ではないであろうか。(桑島


ONTARGET試験で,血圧値が正常域の心血管疾患ハイリスク患者に対するtelmisartan(80mg/日)のramipril(10mg/日)に対する非劣性が示されたが,TRANSCEND試験では,telmisartan(80mg/日)のプラセボに対する優位性が検討された。一次エンドポイントは,残念ながら有意差はなかったが,HOPE試験の一次エンドポイントでは,13%のリスク減少が認められ,細小血管障害を加味したADVANCE試験のエンドポイントでも11%のリスク減少がみられたことから,telmisartanは大血管合併症にも細小血管合併症に有効と考えてよいという成績を示したものと考えられる。本試験では,HOPE試験に比し,リスク減少の程度が小さいのは,基礎薬としてβ遮断薬とスタチンの投与率がHOPE試験よりも高かったためARBの上乗せ効果が小さくなったものと思われる。また,本試験では心不全の新規発症がtelmisartanで抑制できなかったが,ARBが無効であるとは結論できないであろう。プラセボ対照群では,血圧のコントロールのため,telmisartan群より,利尿薬,β遮断薬の投与率が高かったことが影響しているものと考えられる。(
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(40か国630施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は56か月(中央値)。
登録期間は2001年11月~2004年5月。
対象患者 5,926例。ACE阻害薬に忍容性のない高リスク症例:冠動脈疾患(CAD),末梢血管疾患,脳血管疾患,終末臓器障害を伴う糖尿病。
除外基準:ARBの投与中止が必要あるいは継続投与が不可能;ACE阻害薬またはARBの過敏性あるいは非忍容;うっ血性心不全;血行動態的に著明な弁膜あるいは流出路閉塞;3か月以内の心手術あるいはPTCAの予定,収縮期血圧>160mmHg,顕著な腎血管狭窄,蛋白尿,肝機能障害など。
■患者背景:平均年齢66.9歳,心拍数68.8拍/分,女性(telmisartan群43.3%,プラセボ群42.6%),アジア人(21.6%, 21.0%),欧州人(61.0%, 61.2%),血圧(140.7/81.8mmHg, 141.3/82.0mmHg),BMI(28.2kg/m², 28.1kg/m²),総コレステロール(196.8mg/dL, 196.4mg/dL),LDL-C(116.8mg/dL, 117.2mg/dL),HDL-C(49.1mg/dL, 49.5mg/dL)。
CAD(74.8%, 74.3%):心筋梗塞(46.8%, 45.8%);狭心症(47.8%, 47.5%):安定(37.0%, 37.3%),脳卒中,一過性脳虚血発作(21.9%, 22%),末梢血管疾患(11.8%, 10.9%),高血圧(76.5%, 76.3%),糖尿病(35.8%, 35.6%),左室肥大(12.7%, 13.5%),微量アルブミン尿(10.6%, 10.1%),CABG既往(19.2%, 18.5%),PCI既往(26.5%, 25.8%)。
薬物治療:スタチン系薬剤(55.7%, 54.7%),β遮断薬(59.3%, 57.2%),aspirin(75.0%, 74.4%),clopidogrel, ticlopidine(10.8%, 10.6%),抗血小板薬(79.8%, 79.0%),利尿薬(33.2%, 32.8%),Ca拮抗薬(39.9%, 40.4%)。
・ACE阻害薬に忍容性がないとする理由:咳(88.2%),症候性低血圧(4.1%),血管浮腫,アナフィラキシー(1.3%),腎機能障害(1.0%)。
治療法 3週間のrun-in:単盲検でプラセボを1週間投与後,telmisartan 80mg/日を2週間投与後,ランダム化。
telmisartan群(2,954例):80mg/日投与,プラセボ群(2,972例)。
結果 試験終了時にtelmisartanを投与していた2122例(80.8%)のうちfull-dose投与は2086例(79.4%)。1年後に,試験薬以外のARBを使用していたのは,telmisartan群54例(1.8%),プラセボ群84例(2.9%)であったが,試験終了時にはそれぞれ152例(5.8%),200例(7.6%)に増加。併用降圧薬はプラセボ群の方が多かったが,スタチン系薬剤,抗血小板薬は両群同様であった。
投与中止例はtelmisartan群639例(21.6%) vs プラセボ群705例(23.7%):相対リスク0.91(p=0.055)。中止理由は,低血圧(29例 vs 16例:p=0.049),咳(15例 vs 18例),腎障害(24例,13例:p=0.067)。
・降圧(平均血圧)
telmisartan群の方がプラセボ群より低かった:6週間後の両群差6.2/3.6mmHg→ 1年後4.7/2.4mmHg→ 2年後4.2/2.3mmHg→試験終了時3.2/1.3mmHg:試験期間を通しての平均血圧降圧度4.0/2.2mmHg。
・一次エンドポイント
両群間に有意差は認められなかった。telmisartan群465例(15.7%) vs プラセボ群504例(17.0%):ハザード比(HR)0.92;95%信頼区間0.81~1.05(p=0.216)。
構成エンドポイントのうち,心筋梗塞,脳卒中はtelmisartan群で少なかったが,有意ではなかった。心血管死,心不全による入院も両群間に有意差はなかった。
・二次エンドポイント
心血管死,心筋梗塞,脳卒中(HOPE試験での一次エンドポイント)は,384例(13.0%) vs 440例(14.8%):HR 0.87;0.76~1.00(p=0.048)。このp値は一次エンドポイントと二次エンドポイントの重複が87%であることを考慮し,比較の多重性を調整すると,p値は0.068であった。
新規糖尿病(209例[11.0%] vs 245例[12.8%];p=0.081),新規心房細動(182例[6.4%] vs180例[6.3%] ;p=0.829)発症とも両群間で有意差はなかった。左室肥大の発現は128例(5.0%) vs 202例(7.9%)でtelmisarta群で有意に少なかった(p<0.001)。
心血管疾患による入院はtelmisartan群で少なかった(894例[30.3%] vs 980例[33.0%]):相対リスク0.92;0.85~0.99(p=0.025)。
・ADVANCE試験の一次エンドポイントである大血管疾患(心血管死,心筋梗塞,脳卒中)+細小血管疾患(網膜光凝固,クレアチニン値倍増,顕性アルブミン尿,透析)は,telmisartan群で抑制された(523例[17.7%] vs 587例[19.8%]:HR 0.89;0.79~1.00(p=0.049)。これに微量アルブミン尿の発症を加えると,742例(25.1%) vs 861例(29.0%):0.85;0.77~0.94(p=0.001)。
★結論★ACE阻害薬に忍容性のない対象においてtelmisartanの忍容性は良好であった。心不全による入院を含む一次エンドポイントにおいて有意な抑制効果は認められなかったが,心血管死,心筋梗塞,脳卒中の総和をわずかに抑制した。
ClinicalTrials. gov No: NCT00153101
文献
  • [main]
  • The Telmisartan Randomised AssessmeNt Study in ACE iNtolerant subjects with cardiovascular Disease (TRANSCEND) Investigators: Effects of the angiotensin-receptor blocker telmisartan on cardiovascular events in high-risk patients intolerant to angiotensin-converting enzyme inhibitors: a randomised controlled trial. Lancet. 2008; 372: 1174-83. PubMed
  • [substudy]
  • 降圧治療でSBP<120mmHgを達成した例はMI,脳卒中を除くCVDリスクが高く,DBP<70mmHg例ではさらにMI,心不全による入院リスク増加と関連した。高リスク患者において低イベントリスクと関連する目標血圧値は120~130/70~80mmHg。
    ベースライン,発症前(心血管[CV]イベント発症前あるいは最後の外来),降圧治療達成平均血圧と複合CVイベントの関係を,両試験を統合した30,937例で検証した。
    <ベースライン時血圧>収縮期血圧(SBP)≧140mmHg例は120~<140mmHg例にくらべ全複合CVイベント(CV死,心筋梗塞[MI],脳卒中,心不全による入院)リスクが高かった。対照的に,拡張期血圧(DBP)<70mmHg例は≧70mmHg例にくらべ脳卒中を除きCVイベントリスクが上昇した。
    SBP 140~<160mmHg,≧160mmHg例はMI(≧160mmHg例のみでリスク上昇)を除きリスクが高かった。DBP≧90mmHg例は,それより低値例にくらべ複合CVD,MI,心不全による入院リスクが低かった。
    <治療による達成血圧>SBP<120mmHg例(4,052例)は,120~<140mmHg例(16,099例)にくらべ複合CVイベント(調整ハザード比1.14),CV死(1.29),全死亡(1.28)のリスクが高かったが,MI,脳卒中,心不全による入院に対しては中立的だった。
    DBP<70mmHg例(5,352例)は,70~80mmHg例(14,305例)よりも複合CVD(1.31),MI(1.55),心不全による入院(1.59),全死亡(1.16)リスクが高かった。
    <CVイベントとの関連>治療達成平均SBPは,ベースラインあるいは発症前血圧よりもCVD予測能が高く,CVDリスクが最も低いのは約130mmHgで,110~120mmHgは複合CVD,CV死,脳卒中を除く全死亡リスクが高かった。DBPはベースライン,治療中の値が約75mmHgのリスクが低かった★考察★因果の逆転の影響を除外するのは難しいが,高リスク患者において降圧治療で達成可能な血圧最低値が必ずしも至適な目標血圧値ではないことが示唆された:Lancet. 2017 Apr 5. PubMed
  • 55歳以上のCVD/糖尿病患者では,健康的な食事によりCVD再発リスクが低下。
    ONTARGET+TRANSCENDの参加者31,546例において,食事の質と心血管疾患(CVD)リスクの関係を評価した結果:食事の質はmodified Alternative Healthy Eating Index(mAHEI:高スコアほど野菜や果物,肉より魚などの健康的な食事が多い)を用いて評価。追跡期間56か月のCVDイベントは5,190例。一次エンドポイントのリスクはmAHEIスコアが高い(健康的な食事をしている)ほど低かった(最高5分位群 vs 最低5分位群の調整ハザード比0.78;95%信頼区間0.71~0.87;傾向p≦0.001)。個別のイベントのリスクも最高5分位群で低下した(心血管死:0.65;0.55~0.75, MI:0.86;0.72~1.03,うっ血性心不全:0.72;0.58~0.88,脳卒中:0.81;0.67~0.96)。
    この関係は,二次予防のための治療法別(aspirin[23,828例],β遮断薬[18,036例],スタチン[19,055例])の解析でも変わらず(すべて傾向p<0.001),また高血圧や糖尿病,脂質値などのリスク因子や地域,高・低所得国などの影響も認められなかった:Circulation 2012; 126: 2705-12. PubMed
  • 高リスクの非糖尿病患者において,telmisartanの追加による糖尿病発症予防および耐糖能異常改善効果は認められず。
    非糖尿病者3,488例(平均年齢67歳,男性61%;telmisartan群1,726例,プラセボ群1,762例)での結果―糖尿病新規発症(空腹時血糖[FG]>125mg/dL,OGTTの2時間値>199mg/dL,または医師による報告)はtelmisartan群376例(21.8%) vs プラセボ群395例(22.4%):相対リスク0.95;95%信頼区間0.83~1.10, p=0.51。
    ベースライン時に空腹時血糖異常(IFG;FG 100~125mg/dL)かつ/または耐糖能異常(IGT;OGTT 2時間値140~199mg/dL)患者における糖尿病発症は258/769例(33.6%) vs 259/792例(32.7%):ハザード比1.05;0.88~1.24,ベースライン時にIFGもIGTも認めなかったものでは118/951例(12.4%) vs 134/962例(13.9%):0.85;0.67~1.09であった。また,ベースライン時のIFG/IGTから正常血糖への改善(26.9% vs 24.5%),糖尿病の進展(20.1% vs 21.1%)には有意な群間差はみられなかった:Diabetes Care. 2011; 34: 1902-7. PubMed
  • 24時間ナトリウム排泄量と心血管イベント間にJカーブ現象。
    ONTARGETと合わせた28,880例での結果:ベースライン時の24時間ナトリウム排泄量4.77g,カリウム排泄量2.19g,56か月(中央値)後の複合一次エンドポイントは4,729例(16.4%)で,心血管(CV)死2,057例,心筋梗塞(MI)1,412例,脳卒中1,282例,CHFによる入院1,213例。
    対照群(ナトリウム排泄量4~5.99g/日[14,156例]。CV死6.3%,MI 4.6%,脳卒中4.2%,CHFによる入院3.8%)に比べ,ベースライン時のナトリウム排泄量が多かった例では,CV死(7~8g/日例9.7%:ハザード比1.53;1.26~1.86,>8g/日例11.2%;1.66;1.31~2.10),>8g/日例のMI(6.8%:1.48;1.11~1.98),脳卒中(6.6%:1.48;1.09~2.01),CHFによる入院(6.5%:1.51;1.12~2.05)リスクが増大した(多変量解析)。
    また,ナトリウム排泄量が少なかった例でも,CV死(2~2.99g/日例8.6%:1.19;1.02~1.39,<2g/日例10.6%:1.37;1.09~1.73),2~2.99g/日例のCHFによる入院(5.2%:1.23;1.01~1.49)のリスクが上昇した(多変量解析)。
    カリウム排泄量<1.5g/日(2,194例。脳卒中6.2%)に比べると,排泄量の多い例では脳卒中リスクが低下(1.5~1.99g/日例4.7%:0.77;0.63~0.94,2~2.49g/日例4.3%:0.73;0.59~0.90,2.5~3g/日例3.9%:0.71;0.56~0.91,>3g/日例3.5%:0.68;0.49~0.92)(多変量解析):JAMA. 2011; 306: 2229-38. PubMed
  • 腎機能低下例においてもtelmisartanのプラセボと比べた心血管・腎保護効果はみられず。
    糸球体濾過量(GFR)低下例(eGFR<60mL/分/1.73m²:1,480例,微量アルブミン尿例(695例),マクロアルブミン尿例(135例)での結果:
    [心血管転帰,死亡]プラセボ群と比べたtelmisartan群での抑制はみられなかった。
    [腎転帰]クレアチニン値倍化,慢性透析は89例で,telmisartan群の腎保護効果は認められなかった(相対リスク38%上昇;95%信頼区間-10~110%)。アルブミン尿,GFR両者との交互作用がみられた。正常アルブミン尿例でtelmisartan群の腎リスクがプラセボ群に比べ135%増大し,微量アルブミン尿,マクロアルブミン尿が認められた例でそれぞれ40%, 29%低下の傾向がみられた。
    正常GFR例はtelmisartan群で71%リスクが上昇(4~180%)したが,低GFR例は腎リスクが低下する傾向がみられた(telmisartan群で26%低下;-69%~72%)。慢性透析は10例のみ。
    [有害イベント]高カリウム血症(>5.5mmol/L)が併用投与群で多かった(0.81 vs 0.31イベント/100人・年,p<0.0001)。GFR,アルブミン尿との交互作用はみられず。重篤な高カリウム血症(>6.5mmol/L)はtelmisartan群の3例のみ。投与中止はtelmisartan群のほうが少なかった:Circulation. 2011; 123: 1098-107. PubMed
  • telmisartan群はプラセボ群より左室肥大を有意に抑制。
    telmisartan群は左室肥大(LVH)をプラセボ群より有意に抑制した(調整オッズ比0.76;0.64~0.90, p=0.0015):telmisartan群:ベースライン時12.7%→2年後10.5%→5年後9.8%,プラセボ群:12.8%→12.7%→12.8%。同群の新規LVHの調整オッズ比は0.65;0.52~0.81(p=0.0001)。収縮期血圧の低下はLVH非発症例の方が大きかった(4.8 vs 1.8mmHg, p<0.0001):Circulation. 2009; 120: 1380-9. PubMed

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収載年月2008.09
更新年月2017.04