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TAPAS
Thrombus Aspiration during Percutaneous Coronary Intervention in Acute Myocardial Infarction Study

目的 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,血栓手動吸引がprimary PCIの心筋灌流を改善するかを検討。
一次エンドポイントは手技後の心筋濃染blush grade 0~1(心筋再灌流なし~最少)。
コメント ST上昇型心筋梗塞(STEMI)にプラークの破綻と血栓形成が関与していることは自明の理である。STEMIへのprimary PCIに際しては,こうしたプラークや血栓の遠位塞栓による慢性期の心機能や予後への悪影響を軽減するため,aspiration catheter, distal protection device, filter device等が使用されている。しかしDe lucaらのメタ解析(American Heart Journal 2007; 153;343-53) によれば,thrombectomy device(血栓吸引),distal protectionともに再灌流の改善効果,遠位塞栓予防効果を認めるものの短期予後は改善していない。
本研究のポイントは,従来の報告のような血管造影所見や臨床像を限定することのない,従ってバイアスのかからないreal worldの検討であること,それでも心筋(再)灌流のサロゲートエンドポイントの有意な改善が証明されたこと,取り出されたマテリアルの詳細な検討が行われたこと,などである。組織病理学的検討で68%に血小板血栓が証明された点はこれまでの報告と一致するが,術前のTIMI flowや血管造影での血栓像の有無によって組織回収率やその組成に差がなかったことは非常に興味深く,また,血管造影所見に依存しない本研究の対象選択の正当性を裏付けている。強力な抗血小板療法(clopidogrel , abciximab)がthrombectomy deviceやdistal protectionの効果をマスクするといった指摘もあるが,その状況下でも血小板血栓の関与は大きいようである。
一方,プロトコール上の問題が指摘される。血栓吸引群で6割の症例が吸引後のdirect stentingであったのに対し,従来PCI 群では96%でバルーン拡張後にstent植込みが行われている。direct stentingによる遠位塞栓予防効果に関しては賛否両論あるようだが,これによるバイアスは除外できない。従って本研究はdirect stentingを前提としたaspirationの有効性を示した試験と捉えるべきかもしれない。(中野中村永井
デザイン PROBE(prospective, randomized, open, blinded-endpoint),単施設(オランダの教育医療施設)。
期間 追跡期間は30日。
対象患者 1071例。2005年1月~’06年12月の来院患者でSTEMIが疑われるもの;急性心筋虚血が示唆される症状が30分以上持続;発症から12時間以内;ECG上2つ以上の誘導で0.1mVを超えるST上昇。
除外基準:血栓溶解療法後のrescue PCI;余命6か月未満;インフォームドコンセント非取得。
■患者背景:平均年齢63歳,BMI 27kg/m²,男性(血栓吸引群67.9%,従来PCI群73.1%;p=0.06),高血圧(33.1%, 37.1%),糖尿病(10.6%, 12.6%),高コレステロール血症(23.7%, 27.1%),心血管疾患の家族歴(46.2%, 44.6%),喫煙(46.0%, 48.0%),梗塞前の狭心症(53.4%, 48.9%),総虚血時間(中央値:190分,185分),血圧(128/74mmHg, 130/75mmHg)。
血管造影背景:3枝病変(33.4%, 36.1%),2枝病変(32.8%, 32.6%),1枝病変(31.1%, 29.4%),左前下行枝(42.9%, 43.1%),左回旋枝(18.1%, 15.3%),右冠動脈(36.7%, 39.5%),TIMI grade 0~1(54.8%, 59.5%);2(19.4%, 16.0%);3(25.9%, 24.5%),血栓(48.6%, 44.0%)。
治療法 血管造影前に血栓吸引群(535例),従来PCI群(536例)にランダム化。
標的病変へのガイドワイヤーpassing後,血栓吸引群では持続的吸引をしながら標的血管(病変)へ6-French Export Aspiration Catheter(Medtronic社;crossing profile, 0.068 in)を挿入,従来PCI群では順行血流のためのバルーン拡張。全例で順行血流回復後に硝酸薬を冠内投与の上,ステント(ベアメタルステント)のサイズ,長さを決定。血栓吸引群ではアテローム血栓物質の有無により吸引の有効性を評価した。
PCI前にaspirin(loading用量500mg), heparin(5000IU), clopidogrel(loading用量600mg),さらに禁忌がなければabciximab(体重による調整用量)ボーラス投与+活性凝固時間に基づく用量。PCI後の標準療法としてaspirin,clopidogrel,β遮断薬,脂質低下薬,ACE阻害薬/AII受容体拮抗薬等を現行ガイドラインに従い投与。
結果 血栓吸引群において,54例(10.1%)では小血管,蛇行血管のため吸引を断念し,従来のPCIを施行した。また,295例(55.1%)でダイレクトステンティングが行われた。
入院から最初のバルーン拡張,吸引までの時間(中央値)は,血栓吸引群28分,従来PCI群26分。ステント植込み率はそれぞれ92.3%, 92.0%,手技後のTIMI grade 3は86.0%, 82.5%。組織病理学的検査により331/454例(72.9%)でアテローム血栓物質を見出し吸引成功と認められた。手技後の心筋濃染grade評価例は各群490例であった。

一次エンドポイントは血栓吸引群84/490例(17.1%)vs 従来PCI群129/490例(26.3%):リスク比0.65;95%信頼区間0.51~0.83(p<0.001)。
二次エンドポイント:完全なST回復(>70%)275/486例(56.6%)vs従来PCI群219/496例(44.2%):1.28;1.13~1.45(p<0.001),ST偏位持続の消失258例(53.1%)vs 201例(40.5%):1.31;1.14~1.50(p<0.001)。死亡11例(2.1%)vs 21例(4.0%):0.52;0.26~1.07(p=0.07),再梗塞4例(0.8%)vs 10例(1.9%):0.40;0.13~1.27(p=0.11),標的血管の再血行再建術24例(4.5%)vs 31例(5.8%):0.77;0.46~1.30(p=0.34),30日間の主要な有害心イベント(MACE:死亡,再梗塞,再血行再建術)36例(6.8%)vs 50例(9.4%):0.72;0.48~1.08(p=0.12)であった。死亡とMACEの発生率は心筋濃染blush grade,ST上昇の回復持続性,ST偏位と有意に関連した(心筋濃染blush grade 0~1の死亡率[MACE率]:5.2%[14.1%], 2:2.9%[8.8%], 3:1.0%[4.2%], p=0.003[p<0.001])。
大出血は20/529例(3.8%)vs 18/531例(3.4%): 1.11;0.60~2.08(p=0.11)。
★結論★ST上昇型心筋梗塞患者の大半において手動血栓吸引は適用でき,臨床上および血管造影上の特徴を問わず,従来PCIに比べ良好な心筋再灌流および転帰をもたらした。
Current Controlled Trials No: ISRCTN16716833
文献
  • [main]
  • Svilaas T, et al: Thrombus aspiration during primary percutaneous coronary intervention. N Engl J Med. 2008; 358: 557-67. PubMed
  • [substudy]
  • PCI施行予定のST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,ダイレクトステンティング(DS)はPCI単独群にくらべ血栓吸引療法併用PCI群でより多く行われていた。また,DSの臨床転帰と心筋再灌流に従来ステント留置との有意差は示されず,血栓吸引との交互作用も認められなかった。
    本研究は,ルーチンの血栓吸引療法を併用したPCIとPCI単独を比較した大規模ランダム化比較試験(RCT)の,TAPAS,TASTE,TOTALの患者データを統合し,STEMI患者におけるDSの臨床転帰および心筋再灌流に対する効果,またDSと血栓吸引との交互作用について検討した観察研究。
    DSは,PCI単独群にくらべ血栓吸引療法併用PCI群で約2倍多く行われていた(41% vs. 22%, P <0.001)。DSを受けた患者群では術前TIMI 0/1 flowの割合は低く(70% vs. 77%, P <0.001),従来のステント留置を受けた患者群にくらべ造影剤の使用量が少なく(162 mL vs. 172 mL, P <0.001),かつ透視時間も短かった(11.1分 vs. 13.3分,P <0.001)。 プロペンシティマッチングによるその後の解析では,有効性の主要評価項目である30日時点の心血管死は,DS群1.7% vs. 従来ステント群1.9%で有意差は示されず[ハザード比(HR)0.88; 95%信頼区間 0.55~1.41, P =0.60],DSと血栓吸引療法との交互作用も認められなかったことから(P interaction=0.96),両者による相乗効果はないことが示唆された。また,安全性の主要評価項目である30日時点の脳卒中および一過性脳虚血発作* についても差は示されず[0.6% vs. 0.4%; オッズ比(OR)1.02; 0.14~7.54, P =0.99],DSと血栓吸引療法との交互作用も認められなかった(P interaction=0.81)。さらに,PCI後の心筋再灌流について,DSはSTセグメント回復(<70%)に関連せず(30% vs. 35%; OR 0.84, 0.70~1.01, P =0.06),血栓吸引療法との交互作用は示されなかった(P interaction =0.47)。DSと冠動脈造影による心筋再灌流障害との独立した関連性は示されず[心筋濃染グレード(myocardial blush grade)0 or 1: 4.7% vs. 5.7%, OR 0.99; 0.66~1.47, P =0.94],血栓吸引療法との交互作用も認められなかった(P interaction=0.26)。
    * TASTEおよびTOTALのデータからのみ抽出
    Mahmoud KD, et al: Clinical impact of direct stenting and interaction with thrombus aspiration in patients with ST-segment elevation myocardial infarction undergoing percutaneous coronary intervention: Thrombectomy Trialists Collaboration. Eur Heart J. 2018; 39: 2472-9. PubMed
  • 1年後の転帰を血栓吸引群は従来PCI群に比べ改善する。
    心臓死:血栓吸引群19例(3.6%) vs 従来PCI群3例(6.7%):ハザード比1.93;1.11~3.37(p=0.020),心臓死,非致死的再梗塞:30例(5.6%) vs 53例(9.9%):1.81;1.16~2.84(p=0.009)。
    Vlaar PJ, et al: Cardiac death and reinfarction after 1 year in the Thrombus Aspiration during Percutaneous coronary intervention in Acute myocardial infarction Study (TAPAS): a 1-year follow-up study. Lancet. 2008; 371: 1915-20. PubMed

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収載年月2008.06
更新年月2018.09