循環器トライアルデータベース

ILLUMINATE
Investigation of Lipid Level Management to Understand its Impact in Atherosclerotic Events

目的 心血管疾患高リスク患者において,HDL-Cを上昇させるコレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬torcetrapibの心血管疾患抑制効果をみるために,HMG-CoA reductase阻害薬atorvastatin単独投与に対してatorvastatinとtorcetrapib併用により検討する。
一次エンドポイントは主要な心血管イベント(冠動脈疾患[CHD]死+非致死的心筋梗塞(MI)+脳卒中+不安定狭心症による入院)。
コメント スタチンによるLDL-C低下療法の意義についてはほぼ確立し,一段落した感がある。しかし,それでもイベント抑制効果は30~40%である。さらなる抑制効果をもとめて,HDL-Cの上昇効果が期待されている。CETP阻害薬であるtorcetrapibは確実なHDL-C上昇効果と合わせてLDL-C低下効果を示した。しかし,逆にtorcetrapib群で心血管イベントの有意な増加が認められた。これが,torcetrapib自体の問題なのか,CETP阻害自体の問題なのか以前より問題となっていた。十分な慎重な検討が必要であるが,torcetrapib群では収縮期血圧が5.4mmHgも上昇しており,これも一因と考えられる。また,torcetrapib群では血清Kの低下,Naの増加,アルドステロンの増加をみており,レニン-アンギオテンシン系の活性化が血圧上昇の説明因子になるかもしれない。致死的脳卒中がtorcetrapib群で増加しているのは血圧で説明できるかもしれないが,むしろ癌や感染症での死亡率が高い点が問題となろう。(寺本
デザイン 無作為割付け,二重盲検,多施設(7か国260施設),intention-to-treat解析。
期間 2006年12月2日予定より早く試験中止,追跡期間中央値550日。ランダム化期間は2004年8月23日~2005年12月28日。
対象患者 15,067例。45~75歳;試験開始から30日~5年前の心血管疾患(心筋梗塞,脳卒中,急性冠症候群,不安定狭心症,末梢動脈疾患,血行再建術)既往;心血管疾患既往のない2型糖尿病(ADAの基準に合致あるいは血糖降下薬投与例)。
除外基準:不安定症状;脂質改善薬を使用していない症例でLDL-C<100mg/dLなど。
■患者背景:平均年齢61.3歳,男性(torcetrapib+atorvastatin群77.7%, atorvastatin群77.8%),白人(93.2%, 93.3%),BMI(30.1kg/m², 30.2kg/m²),高血圧(72.3%, 73.9%),血行再建術(68.9%, 68.2%),心筋梗塞(46.2%, 45.3%),狭心症(61.1%, 60.0%),糖尿病(43.5%, 45.2%),末梢動脈疾患(12.5%, 12.7%),うっ血性心不全(6.7%, 7.0%),脳卒中(5.2%, 5.5%),一過性脳虚血発作(4.2%, 5.4%;p<0.001)。
治療法 4~10週間のrun-in期に生活習慣のカウンセリングを実施し,LDL-C<
100mg/dLを達成するためにatorvastatinを2週間ごとに漸増投与(115mg/dLまでを可とした)。目標LDL-C値に達したものを下記2群にランダム化した。
torcetrapib+atorvastatin群(7533例):torcetrapib 60mg, atorvastatin群(7534例)。
結果 torcetrapib+atorvastatin群での死亡,心イベントのリスク上昇を受け予定より早く終了した。
torcetrapib+atorvastatin群はatorvastatin群と比べ,HDL-Cが72.1%上昇,LDL-Cが24.9%低下,収縮期血圧(SBP)が5.4mmHg上昇,ナトリウム,重炭酸,アルドステロンが上昇した(すべて有意)。
[検査値の推移](ベースライン時→ 3か月後→ 12か月後。絶対変化)
・血圧:torcetrapib+atorvastatin群122.9/73.7mmHg→+4.4/2.1mmHg*→+5.4/+2.0mmHg*,atorvastatin群123.0/73.9mmHg→+0.4/+0.1mmHg→+0.9/-0.1mmHg)。
脂質
・総コレステロール:156.8mg/dL→+4.2%*→+7.0%*, 157.3mg/dL→+1.7%→+2.2%。
・HDL-C:48.6mg/dL→+60.9%*→+72.1%*, 48.5mg/dL→+1.7%→+1.8%。
・LDL-C:79.7mg/dL→-24.0%*→-24.9%*, 79.9mg/dL→+2.5%→+3.0%。
・トリグリセライド(中央値):127mg/dL→-9%*→-9%*, 128mg/dL→+1%→+1%。
・アポリポ蛋白A-1:128.2mg/dL→+25.3%*→ NA, 128.3mg/dL→+1.3%→ NA。
アポリポ蛋白B:73.2mg/dL→-12.5%*→ NA, 73.5mg/dL→+2.0%→ NA。
電解質
・カリウム:4.40mmol/L→-0.12mmol/L*→-0.08mmol/L*, 4.40mmol/L→+0.02mmol/L→+0.06mmol/L。
・ナトリウム:140.4mmol/L→+0.58mmol/L*→+1.39mmol/L*, 140.4mmol/L→±0mmol/L→+0.78mmol/L。
・クロール:102.8mmol/L→+0.10mmol/L*→+0.08mmol/L(p=0.06), 102.7mmol/L→-0.14mmol/L→+0.01mmol/L。
・重炭酸:24.3mmol/L→+0.82mmol/L*→+2.28mmol/L*, 24.3mmol/L→+0.55mmol/L→+1.93mmol/L
腎機能
・クレアチニン:1.0mg/dL→-0.013mg/dL*→-0.008mg/dL*, 1.0mg/dL→+0.002mg/dL→+0.005mg/dL。
・推定糸球体濾過量:79.5mL/分/1.73m²→+1.0mL/分/1.73m²*→+0.8mL/分/1.73m², 79.4mL/分/1.73m²→-0.2mL/分/1.73m²→-0.3mL/分/1.73m²。
* p<0.001 vs atorvastatin群,NA: not available

一次エンドポイント
torcetrapib+atorvastatin群464例(6.2%) vs atorvastatin群373例(5.0%)と,torcetrapib+atorvastatin群でリスクが上昇した(ハザード比[HR]1.25;95%信頼区間1.09~1.44[p=0.001])。
二次エンドポイント
CHD死:40例 vs 33例(HR 1.21;0.77~1.92, p=0.41)。
非致死的MI:142例 vs 118例(HR 1.21;0.95~1.54, p=0.13)。
脳卒中:43例 vs 40例(HR 1.08;0.70~1.66, p=0.74)。
不安定狭心症による入院:270例 vs 201例(HR 1.35;1.13~1.62, p=0.001)。
全死亡:93例 vs 59例(HR 1.58;1.14~2.19, p=0.006)。

後付け解析
torcetrapib群(7533例)における1か月後の検査値の変化と転帰の関連
・HDL-C>22mg/dL上昇(3663例) vs ≦22mg/dL上昇(3735例)
全死亡:49例 vs 40例,CHD死:18例 vs 20例,一次エンドポイント215例 vs 239例。
・LDL-C≧20mg/dL低下(3826例) vs <20mg/dL低下(3533例)
全死亡:43例 vs 46例,CHD死:20例 vs 18例,一次エンドポイント:217例 vs 234例。
・アポリポ蛋白A-1>30mg/dL上昇(3500例) vs ≦30mg/dL上昇(3650例)
全死亡:32例 vs 38例,CHD死:15例 vs 18例,一次エンドポイント:198例 vs 234例。
・SBP>2.5mmHgの上昇(3562例) vs ≦2.5mmHgの上昇(3873例)
全死亡:33例 vs 57例,CHD死:11例 vs 28例,一次エンドポイント:211例 vs 245例。
・カリウム≧0.1mmol/L低下(3709例) vs <0.1mmol/L低下(3629例)
全死亡:54例 vs 35例,CHD死:26例 vs 12例,一次エンドポイント:240例 vs 211例。
・重炭酸≦0.7mmol/L上昇(3695例) vs >0.7mmol/L上昇(3669例)
全死亡:35例 vs 54例,CHD死:11例 vs 27例,一次エンドポイント:214例 vs 239例。

有害事象
torcetrapib+atorvastatin群86.6%,atorvastatin群83.3%(p<0.001)。
torcetrapib+atorvastatin群で有意に多かったのは,高血圧(1411例 vs 564例,p<0.001),末梢浮腫(467例 vs 353例,p<0.001),狭心症(451例 vs 360例,p=0.001),呼吸困難(313例 vs 243例,p=0.003),頭痛(412例 vs 296例,p<0.001)。
重篤な有害イベントも同群で有意に多かった(16.4% vs 15.0%, p=0.02)。
癌死は24例 vs 14例,感染症による死亡は9例 vs 0例。
★結論★torcetrapib治療により死亡,合併症が増加したが,その理由は明らかではない。同剤による予期しなかった効果がないわけではなかったが,CETP阻害薬に関連する有害反応を無視するわけにはいかない。
ClinicalTrials.gov No.: NCT00134264
文献
  • [main]
  • Barter PJ et al for the ILLUMINATE investigators: Effects of torcetrapib in patients at high risk for coronary events. N Engl J Med. 2007; 357: 2109-22. PubMed
  • [substudy]
  • atorvastatinを投与している2型糖尿病患者において,torcetrapibに血糖改善の可能性。
    糖尿病例6,661例での結果:3か月後,torcetrapib+atorvastatin群はatorvastatin群に比べ,血糖値が0.34mmol/L,インスリン値が11.7μU/mL低下(いずれもp<0.0001)。HOMA-IRによるインスリン抵抗性はtorcetrapib併用群で49.1→47.3と有意に低下(p<0.0001)したが,atorvastatin群では50.8→51.7と上昇。
    6か月後のHbA1cは7.06% vs 7.29%(p<0.0001)で,このtorcetrapib併用群の有効性は12か月後も持続していた(7.16% vs 7.36%, p<0.0001)。
    torcetrapib併用群では非糖尿病患者でも糖尿病患者より程度は小さかったものの,血糖およびインスリンが低下した: Circulation. 2011; 124: 555-62. PubMed

▲pagetop
EBM 「循環器トライアルデータベース®」
ライフサイエンス出版
ご不明の点はお問い合わせください
収載年月2007.11
更新年月2011.07