循環器トライアルデータベース

SCAAR
Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registry

目的 スウェーデンにおける薬剤溶出性ステント(DES)とベアメタルステント(BMS)の長期転帰を比較する。

一次エンドポイントは総死亡と心筋梗塞(MI)の複合。
コメント N Engl J Med. 2007; 356: 1009-19. へのコメント
SCAARはSwedenにおける冠動脈造影と冠動脈インターベンション(PCI)施行例のNational registryであり,今回ベアメタルステント(BMS)と薬剤溶出性ステント(DES)の長期成績について20000例に及ぶ症例の解析結果を報告している。Propensity scoreで補正した3年の死亡/心筋梗塞(プライマリーエンドポイント)の頻度はBMS群とDES群で有意差はなかった。イベントの内訳を見ると,心筋梗塞の頻度には差がなかったが,死亡率についてはDES群で有意の18%の相対リスク上昇を認めた。また初期治療後6か月を起点としてlandmark analysisを行うと,6か月以降では死亡,心筋梗塞ともにDES群で有意の相対リスク上昇を認めた。
国内のPCI症例全例が登録された大規模なレジストリーからの報告であり,この結果はDESの安全性懸念を増大させた。しかしながら本研究の結果はBMSとDESのランダム化試験の結果とは矛盾するものである。この結果は一般的には,ランダム化試験の対象となったオンラベル環境においてはDESの安全性は確認されたが,オフラベル環境においてはDESの安全性には重大な懸念があると受け止められている。
しかしながら,本研究結果から「DESの使用は長期的に死亡/心筋梗塞の増加をもたらす」と結論するにはいくつかの問題点がある。
本研究は観察研究であり患者選択バイアスの存在が否定できない。実際に本研究では患者背景,病変背景ともにDES群においてより複雑となっている。これらの患者背景,病変背景の相違はpropensity score解析で補正されているが,評価されていない交絡因子の存在は否定できない。DESがBMSに比べて著明に再狭窄を抑制することは既知であり,このような環境において評価された観察研究では患者選択バイアスが存在する可能性が高くなる。
landmark analysisとしてDES群における6か月以降のイベントの増大を指摘している。これはイベントの発生機序を推論する上では興味深いが,本来,治療法の評価は治療当初からの累積イベント発生率をもって行うべきであり,6か月以内のイベント発生例を除外して解析することは適切ではない。実際に本研究においてプライマリーエンドポイントである死亡/心筋梗塞の頻度には両群間に差を認めなかった。
もしDESの使用が真に死亡/心筋梗塞の頻度の増大をもたらすとすれば,その原因として現時点で指摘されているDESとBMSとの相違点は遅発性ステント血栓症のみである。本研究ではステント血栓症についての評価は一切行われていないが,考察においては6か月以降のDES群におけるイベント増加の原因が遅発性ステント血栓症によるものとして議論が展開されている。本研究におけるDES群の死亡率増加は年率0.5%としている。 
従来報告されているDES症例の遅発性ステント血栓症の頻度は年率0.2~0.6%,致命率は10~20%とされており,本研究におけるDES群の死亡率増加を遅発性ステント血栓症のみで説明することは困難である。もちろん突然死という形で発症し遅発性ステント血栓症として補足されないケースの存在が問題であるが,DESとBMSのランダム化試験において,DES群における突然死の増加は報告されていない。
さらにDES群におけるイベント増加の原因が遅発性ステント血栓症によるものであれば,死亡よりも心筋梗塞の方にイベント増加傾向が顕著になるはずであるが,イベント増加傾向は死亡の方により顕著に発現している。
以上のことからDES群におけるイベント増加を遅発性ステント血栓症のみで説明することは困難である。BMS群はST上昇型心筋梗塞を多く含むため初期のイベントリスクが高くなるが,6か月以降には患者背景の複雑なDES群においてイベントリスクが高くなると考えることも十分可能である。
本研究の結果は本来,仮説としてランダム化試験において検証されるべきである。しかしながらDESの導入によりPCIの適応は急速に拡大しており,再狭窄リスクを考えるとオフラベル環境でDESとBMSのランダム化試験を実施することは極めて困難な状況になっている。個人的には,今後,新たなDESとBMSのランダム化試験が行われることはなく,オフラベル環境におけるDESとBMSの安全性評価は,すでに施行されているいくつかのランダム化試験の長期追跡データのメタ解析によって行われるのであろうと考えている。今後のDESの評価の方向性はBMSとの比較ではなく,より安全性が高いと期待される新たなDESと第1世代のDESの比較や,DESを用いたPCIと冠動脈バイパス手術あるいは至適薬物治療単独との比較にシフトするであろう。(木村
デザイン 登録研究,多施設(スウェーデンの26施設)。
期間 追跡期間は3年。
登録期間2003年1月1日~2004年12月31日。
対象 19,771例:DES例6033例,BMS例13738例。PCI施行は24215例,植込みステントは37750本。スウェーデン冠動脈造影・冠動脈形成術登録(Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registry)のデータを使用した。
■患者背景:年齢(中央値)(DES群65歳,BMS群66歳),女性(29.1%, 27.5%),安定冠動脈疾患(CAD)(30.3%, 22.5%),不安定CAD(52.5%, 51.4%),ST上昇型MI(16.1%, 25.4%),喫煙(現在および喫煙歴)(49.8%, 52%),糖尿病(23.6%, 15.6%),高血圧(46.4%, 43.6%),既往:PCI(15.6%, 10.4%);CABG(11.2%, 9.8%);MI(38.2%, 36.7%),aspirin手技前投与(88.8%, 83.9%),GP IIb/IIIa受容体拮抗薬周術期投与(31.6%, 36.3%),clopidogrel前投与(60.1%, 51.9%)。
植込みステント数:1本(DES群60.3%,BMS群75.2%),2本(27.9%, 18.8%),3本以上(11.8%, 6.1%),1枝病変(47.2%, 51.2%),2枝病変(29.8%, 28.3%),3枝病変(17.9%, 16.5%),左主幹部病変(4.8%, 3.7%)。
調査方法 死亡1424例およびMI 2463例のベースライン時患者背景の差を調整し,最長3年間の転帰解析を行った。
結果 一次エンドポイントは3887例。うち死亡は1424例:DES群425例,BMS群999例,MIは 2463例:それぞれ750例,1713例。一次エンドポイントにおける有意な両群間差は認められなかった。
6か月までの調整前の一次エンドポイント発生率はDES群のほうがBMS群よりも低い傾向にあり1000例あたり13.4例の減少を示した。調整後も同群で低い傾向がみられた(相対リスク[RR]0.94;95%信頼区間0.83~1.06)。しかしそれ以降は,DES群のほうが有意に高くなり,年間で1000例あたり12.7例の増加を示した(調整後のRR 1.20;1.05~1.37)。
3年後の死亡率はDES群で有意に高かった(RR 1.18;1.04~1.35)。6か月後の調整後は両群同様であったが(RR 1.03;0.84~1.26),6か月以降 3年後のDES群の調整後RRは1.32(1.11~1.57)と有意に高かった。
6か月後の調整後MI累積発症率はDES群の方が低かったが(RR 0.89:0.77~1.03),6か月~3年では同群の方が高い傾向を示した(RR 1.12:0.95~1.32)。
DES群・植込みステントが1本のサブグループ(3638例:paclitaxel溶出2608例,sirolimus溶出1030例):ステント,病変で調整後の一次エンドポイントは最初の6か月はDES群の方が低かったが(RR 0.82;0.69~0.98),それ以降は逆転して高くなった(RR 1.23;1.02~1.48)。短期転帰と長期転帰における溶出薬剤間の差はなかった。
★結論★薬剤溶出ステント群ではベアメタルステント群に比べ死亡率が上昇。この上昇は6か月以降に認められ,死亡リスクは年間0.5%高くなり,総死亡と心筋梗塞の複合は年間0.5~1.0%上昇した。
文献
  • [main]
  • Lagerqvist B et al for the SCAAR study group: Long-term outcomes with drug-eluting stents versus bare-metal stents in Sweden. N Engl J Med. 2007; 356: 1009-19. PubMed
  • [substudy]
  • STEMIへのpPCI後3年間のステント血栓症-1年以内ではBMSが旧・新世代DESより高いが,1~3年後は旧世代DESがBMSより高く,新世代DESはBMSと同等。
    primary PCI(pPCI)を施行したST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における3年間のステント血栓症を新世代(n-)DESと旧世代(o-)DES, BMSとで比較した結果(2007年1月~’13年1月に登録した34,147例):n-DES(Endeavor Resolute, Xience V & Prime, Promus and Promus Element)植込みは4,811例,o-DES(Cypher, Cypher Select, Taxus Express & Liberte, Endeavor)は4,271例,BMSは25,065例。
    1年後を起点としたランドマーク解析の結果,1年以内のリスクはBMSにくらべn-DES例(ハザード比0.65, p=0.04),o-DES例(0.60, p=0.01)が有意に低かったが,1年後以降はn-DES例とBMS例は同等であった一方で,o-DES例はBMS例より高かった(2.88, p<0.01):J Am Coll Cardiol. 2014; 64: 16-24. PubMed
  • PCI施行例の20年間の推移-患者は高齢化し,不安定狭心症とSTEMIに対する施行が増加。この2因子で調整すると1年死亡率は低下傾向。
    1990年1月~2010年12月の初回PCI施行例(14万4,039例)において,患者背景と転帰の20年間の推移を調査した結果:PCI施行年により患者を8コホートに層別(1990~’95年,’96~’98年,’99~2000年,以後2年ごと)。1990~’95年から2009~’10年までに患者の平均年齢は増加し(60.1→67.1歳),不安定冠動脈疾患(CAD:27.4→47.7%)とST上昇型心筋梗塞(STEMI:6.2→32.5%)が増加した一方,安定CADは減少した(66.4→16.9%)。糖尿病(13.4→17.5%*),高血圧(34.4→51.4%*),多枝病変(3枝:3.8→17.3%)は増加したが,高脂血症は減少した(61.2→39.8%*)。ステントの使用率は1990~’95年の0.8%から2003~’04年には93%に到達し,以後は横ばい,DES使用率は2001~’02年の1.0%から’05~’06年の48.0%に増加後,’09~’10年に32.0%に低下した。
    * ’96~’98年→2009~’10年
    死亡の追跡期間は2,082日(中央値)。1年死亡率は20年間で増加したが(2.2→5.9%),年齢と適応症で調整すると低下傾向を示した(2009~’10年と比較した1990~’95年のハザード比1.17;傾向p<0.001)。これは主にSTEMI患者での低下が大きかったことよる(1990~’95年:1.66,’96~’98年:2.21;傾向p<0.001):J Am Coll Cardiol. 2013; 61: 1222-30. PubMed
  • ACS患者においてBMIと死亡の関係はU型で,死亡リスクは過体重~肥満者がもっとも低く,低体重~正常体重者がもっとも高い。
    【背景】肥満は心血管疾患のリスク因子とされてきたが,多くの疫学研究で腎疾患や心不全,心房細動,CADなどのさまざまな疾患において肥満者は予後が良い可能性が報告され,「肥満パラドックス」と呼ばれるようになった。この説は複数のメタアナリシスでも特定の疾患において確認されている。本研究では,急性冠症候群(ACS)患者に「肥満パラドックス」が存在するかを検証するため,BMIと死亡の関係を評価した。
    2005年5月~2008年12月にACSの疑いで血管造影を行った患者64,436例のうち重度狭窄(>50%)を認めたのは,欠測値のない症例で38,667例(欠測値をmultiple imputation method[多重代入法]で推定した解析では54,419例)。これらの患者をBMI値により9群にわけて解析した。
    平均追跡期間21か月で,重度狭窄例のうち3,018例が死亡。血管造影結果,治療法を問わずBMI 21.0~<23.5kg/m²を参照群とすると,もっとも死亡リスクが高いのは低体重者(<18.5kg/m²:未調整ハザード比2.94;95%信頼区間2.27~3.83),もっとも低いのは過体重者(26.5~<28kg/m²:0.52;0.44~0.62)だった。多重代入法による解析でも結果は一致した。BMIを連続変数として解析すると,BMIの増加に伴い調整後の死亡リスクは低下し,30~40kg/m²で最低となった後,上昇に転じた:Eur Heart J. 2013; 34: 345-53. PubMed
  • DES群で糖尿病患者は非糖尿病患者に比べ再狭窄率が高いが,DESの種類により違いがみられた。
    平均追跡期間29か月でDES群の再狭窄例は1807例。全ステント例の1年後の再狭窄率は3.5%(Cypherステント3.3%,Taxus Expressステント3.7%,Taxus Liberreステント3.2%,Endeavorステント4.9%),2年後は4.9%(4.9%, 5.1%, 4.1%, 6.5%)。
    糖尿病患者(DM)は非糖尿病患者(非DM)に比べ再狭窄のリスクが高い(相対リスク1.23;1.10~1.37)。Endeavor(zotarolimus溶出)ステント群のDMは他のステントに比べ再狭窄率は2倍,Endeavor・Cypherステントは他のステントに比べのDMの再狭窄率は非DMより高い:J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 1660-7. PubMed
  • DESの長期死亡,心筋梗塞リスクはBMSと同等。
    登録期間を延長(2003~’06年)し,’07年の終了までに1年以上追跡した(平均2.7年追跡),DES:1万294例,BMS:1万8,659例を解析:死亡2,380例,MI 3,198例。
    死亡,MIの複合エンドポイント:DESと比較した相対リスク0.96(95%信頼区間0.89~1.03),死亡:0.94(0.85~1.05),MI:0.97(0.88~1.06),ステント適応によるサブグループ間でも有意差は認められなかった。
    2003年のDES例はBMS例に比べ長期イベント率が有意に高かったが,翌年以降は転帰の差はみられなかった。植込みから1年間の再狭窄率はDES群3.0例/100人・年 vs BMS群4.7例/100人・年(0.43:0.36~0.52)。再狭窄1例を予防するためのDESのNNTは39病変。高リスク(糖尿病・ステント径<3mm・ステント長≧20mm)におけるDESの調整後再狭窄リスクはBMSより74%低く,1狭窄予防のNNTは10病変であった:N Engl J Med. 2009; 360: 1933-45. PubMed
  • オンラベル,オフラベルのいずれでもDESの転帰はBMSと同等。
    2003~’05年の登録例:オンラベル(DES;6,767例,BMS;1万431例),オフラベル(6,448例,9,907例)。
    死亡,心筋梗塞のオンラベル(DES,BMSの調整後ハザード比1.02;95%信頼区間0.92~1.13),オフラベル(0.95;0.87~1.04)のいずれもDESとBMS間に有意差はみられなかった:J Am Coll Cardiol. 2009; 53: 1389-98. PubMed

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収載年月2007.07
更新年月2014.09