循環器トライアルデータベース

Jikei Heart Study
●この論文は撤回されました

目的 日本人心血管疾患患者において,現行治療にAII受容体拮抗薬(ARB)valsartanを追加した場合の上乗せ効果を検討する。
一次エンドポイントは心血管死+心血管合併症(脳卒中,一過性脳虚血発作[TIA]による入院;心筋梗塞[MI];うっ血性心不全による入院;狭心症による入院;大動脈瘤解離;血清クレアチニン値の倍化;透析への移行)。
コメント 高血圧,心不全,虚血性心疾患などの心疾患を有する症例に対して,現行治療にアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を上乗せした場合の心血管イベント予防効果をARB以外の降圧薬と比較したところ,一次エンドポイントである心血管疾患および死亡の複合の発症はARB上乗せ群の方が有意に少なかったという成績である。すでに米国心臓病学会(ACC),国際高血圧学会(ISH),日本循環器病学会という3つの大きな学会で同じ内容が発表されており,ようやく論文化されたものである。
ある意味で,本研究の結果は今日のわが国で公正な大規模臨床試験を行うことが非常に困難であることを示唆する内容である。まず本研究はdouble blind法ではなく,PROBE法で行われたことと,狭心症,一過性脳虚血性発作(TIA)という客観性に乏しいイベントがエンドポイントに含まれており,この2つのイベント発症の差異が一次エンドポイントの差異に大きく貢献していることである。
本研究は慈恵会医科大学関連病院という単一グループでおこなわれ,しかもPROBE法という担当医が患者がどちらの群に割り当てられたかを知っている方法によって実施されていることから,狭心症やTIAという客観性に乏しいエンドポイントを設定することに問題があろう。率直に言えば,経済的支援を行っているARBサイドに好意的なイベント発症を中央委員会へ報告するというバイアスが生じる可能性は否定できない。我が国では,抗血小板薬やスタチン系薬剤などの心血管合併症予防薬がほとんどの症例で処方されていることを考えると,高リスク症例ですら死亡,心筋梗塞や脳卒中などのハードエンドポイントは起こりにくいことから,欧米のトライアルでは一次エンドポイントに含まれない狭心症,TIAまでもが我が国のトライアルではやむをえず一次エンドポイントに含めざるをえない事情がある。
またランダム化後6ヶ月,12ヶ月の時点での血圧レベルがバルサルタン群で2/2mmHg前後低いことも結果に影響している可能性がある。そしてなによりも問題なのは,ARB群の比較対照となった非ARB群の内容である。表によるとCa拮抗薬,ACE阻害薬あるいはβ遮断薬,利尿薬である。これまでの高血圧,心不全,虚血性心疾患の大規模臨床試験では,β遮断薬を対照薬としたLIFE試験をのぞいて,ARBがこれらの薬剤よりも心血管イベント予防に優れていたという仮説はことごとく否定されているのである。本研究のように従来の大規模臨床試験の結果とはまったく異なる結果が発表された場合には,その成績をそのまま鵜呑みにすることは危険である。
桑島
デザイン PROBE(prospective, randomised, open-label, blinded endpoint),多施設(4つの慈恵会医科大学病院および17の関連病院),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は3.1年(中央値)。登録期間は2002年1月~2004年12月。
対象患者 3081例。20~79歳;高血圧:3か月以上前に診断され降圧薬服用中のもの,冠動脈疾患(CHD):既往あるいは血管造影で>75%の狭窄が1か所以上見られ典型的な症状に基づき新規に診断されたもの,心不全:長期にわたる低EF(心エコーによる)に基づく診断によるNYHA II~IV度,拡張不全,あるいはこれらの合併症例;4週間以上の標準心血管治療(利尿薬,ACE阻害薬,β遮断薬,あるいはこれらの併用)。
除外基準:6か月以内の急性冠症候群,MI,3か月以内の脳血管疾患,クレアチニン値>265μmol/L,カリウム値>5mmol/L,ランダム化前4週間以内のARB投与例など。
■患者背景:平均年齢65歳,女性34%,喫煙例17%,BMI 24kg/m²,HbA1c 5.6%,平均血圧139/81mmHg,総コレステロール208.4mg/dL,LDL-C 121.6mg/dL(valsartan追加群123.5mg/dL,対照群119.7mg/dL),HDL-C 54.0mg/dL,トリグリセライド150.5mg/dL,空腹時血糖値117.9mg/dL(117mg/dL,118.8mg/dL),クレアチニン71μmol/L。治療状況:Ca拮抗薬67%,ACE阻害薬35%,β遮断薬32%,サイアザイド系利尿薬2%,その他の利尿薬8%,スタチン系薬剤31%。治療歴:高血圧87.5%,CHD 33.5%,心不全11%,高脂血症53%,糖尿病20%。
治療法 valsartan追加群(1541例):現行治療+valsartan。高血圧患者はvalsartan 80mg/日で投与を開始,心不全あるいは冠動脈疾患患者は40mg/日で投与を開始し忍容性をみながら漸増投与。降圧目標(<130/80mmHg)達成のため,40~160mg/日に調整した。12~16週間後より非ARB薬の追加も可とした。対照群(1540例):ARB以外の降圧薬治療。降圧目標達成のため,試験開始時の降圧薬の増量あるいは,標準降圧治療薬の追加。
結果 2006年1月,valsartan追加群の有効性が明らかになったため試験を早期終了した。valsartan平均追加用量75mg/日。その他の追加薬剤は大半がCa拮抗薬,ACE阻害薬,β遮断薬であった。併用降圧薬の数はvalsartan追加群の方が若干多かった(ベースライン時:両群とも1.79剤→ 6か月後:2.69 vs 2.11剤→ 12か月後:2.55 vs 2.39剤→ 24か月後:2.55 vs 2.39剤→試験終了時:2.41 vs 2.44剤)。血圧の推移(ベースライン時→ 6か月後→ 12か月後→ 24か月後→試験終了時) valsartan追加群:139.2/81.4→ 131.5/76.1→ 130.4/76.2→ 131.9/77.1→ 132.0/76.7mmHg,対照群:138.8/81.4→ 133.6/78.2→ 131.9/77.5→ 132.2/77.3→ 132.0/76.6mmHg。終了時に>140/90mmHgだったものは両群で122例(4%)。一次エンドポイント valsartan追加群92例(6.0%);21.3例/1000人・年,対照群149例(9.7%);34.5例/1000人・年(ハザード比[HR]0.61;95%信頼区間[CI]0.47~0.79,p=0.0002)でvalsartan追加群で低下した。これは主に,同群で脳卒中,TIA,狭心症,心不全が抑制されたことによる。二次エンドポイント脳卒中,TIA:valsartan追加群29例(1.9%) vs 48例(3.1%);6.7例 vs 11.1例/1000人・年(HR 0.60;95%CI 0.38~0.95,p=0.0280)。新規あるいは急性心筋梗塞再発:17例(1.1%) vs 19例(1.2%);3.9例 vs 4.4例/1000人・年(HR 0.90;0.47~1.74,p=0.7545)。入院を要する新規狭心症あるいは狭心症悪化:19例(1.2%) vs 53例(3.4%);4.4例 vs 12.3例/1000人・年(HR 0.35;0.20~0.58,p=0.0001)。入院を要する新規心不全あるいは心不全の悪化:19例(1.2%) vs 36例(2.3%);4.4例 vs 8.3例/1000人・年(HR 0.53;0.31~0.94,p=0.0293)。大動脈瘤解離:2例(0.1%) vs 10例(0.6%);0.5例 vs 2.3例/1000人・年(HR 0.19;0.04~0.88,p=0.0340)。透析への移行/クレアチニン値倍化:7例(0.5%) vs 8例(0.5%);1.6例 vs 1.9例/1000人・年(HR 0.93;0.34~2.61,p=0.8966)。全死亡:28例(1.8%) vs 27例(1.8%);6.5例 vs 6.3例/1000人・年(HR 1.09;0.64~1.85,p=0.7537),心血管死:9例(0.6%) vs 9例(0.6%);2.1例 vs 2.1例/1000人・年(HR 1.03;0.41~2.60,p=0.9545)。有害事象は78例(2.5%)で,めまいがvalsartan追加群9例,対照群3例でvalsartan群で多かったが,両群間に有意差はなかった。★考察★日本人の心血管疾患患者において,現行治療にvalsartanを追加投与すると,現行治療を増量,併用するよりも,心血管イベントを抑制する。この有効性は血圧差のみでは説明できない。ClinicalTrials.gov No.: NCT00133328
文献
  • [main]
  • Retraction--Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality study. Lancet. 2013; 382: 843 PubMed
  • Mochizuki S et al for the Jikei Hearty study group: Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality study. Lancet. 2007; 369: 1431-9. PubMed

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収載年月2006.10
更新年月2013.09