循環器トライアルデータベース

ASCOT-BPLA
Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Blood Pressure Lowering Arm

目的 心血管イベントの危険因子を3つ以上有する高血圧患者において,冠動脈疾患(CHD)の一次予防効果を,長時間作用型Ca拮抗薬amlodipineをベースとする新規の降圧療法(ACE阻害薬perindoprilを併用:Am(+P)群)とβ遮断薬atenololをベースとする従来の降圧療法(サイアザイド系利尿薬bendroflumethiazideを併用:At(+T)群)とで比較する。ASCOTは本試験と脂質低下試験であるASCOT-LLAの2試験から成る。

一次エンドポイントは非致死的心筋梗塞(MI)および致死的CHD。
二次エンドポイントは非致死的MI(症候性のみ)および致死的CHD,全CHDイベント,全心血管イベントおよび血行再建術,全死亡,心血管死,致死的/非致死的脳卒中,致死的/非致死的心不全。
コメント Lancet. 2005: 366; 895-906. へのコメント
高血圧と臓器障害に関してthe lower the betterが明らかになり,臨床の現場においてはより低い降圧目標値を達成するためには併用療法が不可欠になってきている。したがって,どの併用療法が心血管合併症予防および副作用防止の観点からもっとも有効なのかを検討する試験が求められてきている。その意味で長時間作用型Ca拮抗薬アムロジピンとACE阻害薬ペリンドプリル併用群(Am(+P)群)vs. β遮断薬アテノロールとサイアザイド系利尿薬併用群(At(+T)群)の冠動脈疾患(CHD)の一次予防を比較した本試験は新しい時代の降圧試験の幕開けとなるものである。
結果は,単剤比較試験で言われてきたように,「心血管保護において降圧に優るものなし」を確認するものであり,24時間を通しての確実な降圧が心血管予防においては不可欠であることを追認するものであった。特に,本試験の対象のように,危険因子を複数有するリスク度の高い高血圧患者においては速やか,かつ厳格な血圧管理こそが血管を保護する上でもっとも重要であることを確認したものとして評価できる。
本試験ではアムロジピンとペリンドプリルというT/P比が大きい降圧薬の組み合わせであることは注目すべきである。したがってどのCa拮抗薬とACE阻害薬(あるいはARB)の組み合わせでも利尿薬とβ遮断薬という古典的治療に勝てるというわけではないのである。有用性が証明されたのはアムロジピンとペリンドプリルという長時間作用型の代表的降圧薬の併用である。
At(+T)群の死亡率が高く試験は中断されたために,一次エンドポイントである非致死的心筋梗塞+致死的心血管イベントにおいては両群間に有意差はみられなかったが,5年半ほどの追跡で総死亡の11%,心血管死24%の差は大きい。高齢者にβ遮断薬が不利であることはLIFE試験からも明らかなのでAt(+T)群に不利だった点もあるだろうが,やはり降圧度の差がCHD,脳卒中,死亡の抑制に影響したと思われる。
世界的に予防に重きが置かれるようになってきている現在,心血管イベントを発症させないような治療の重要性は高まる一方である。Am(+P)群はCHDの一次予防に成功した点も評価できる。またAm(+P)群で糖・脂質代謝への悪影響はみられないことから,メタボリックシンドロームを抑制し,心血管を守るという点からもこの併用療法には期待できる。ただ本試験がデザインされたのは数年前のため,現在利尿薬とβ遮断薬の併用治療は実際的ではないことも事実である。日常臨床でよく行われているような併用療法の長期的比較試験が期待される。(桑島

サブ解析CAFEのコメント
大動脈近位部における収縮期血圧は,駆出波と反射波の総和であり,実際に血管壁への負荷となるものである。一方,上腕動脈では反射波は遅れて逆行してくるために,駆出波とは乖離する。したがって臨床で一般に測定される上腕で測定する収縮期血圧は必ずしも血管壁への負荷を反映しない。本試験では中心動脈圧を測定し,Ca拮抗薬とACE阻害薬という血管拡張薬同士の併用が反射波を軽減させて,中心動脈圧減少をもたらことを証明した。したがって,両薬剤併用は上腕血圧値以上に血管壁への負荷軽減効果をもたらしたことを示唆している。このことがイベント予防効果をもたらした可能性はあるが,理論的には血管拡張薬はすべて反射波を軽減させることから,両薬剤併用が器質的な動脈硬化の退縮をもたらしたということを意味しないと考えられる。(桑島
デザイン PROBE(Prospective, Randomised, Open, Blinded Endpoints),多施設(718施設:北欧の一般診療686施設,イギリス,アイルランドのregional center 32施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は5.5年(中央値)。登録期間は1998年2月~2000年5月。
2004年10月データ安全モニタリング委員会はAt(+T)群において全死亡が多く,またいくつかの二次エンドポイントの悪化が認められたことから試験中止を勧告した。運営委員会は勧告を受けて中止を決定し,同年12月から2005年6月にすべての治験参加医師が登録患者に試験終了のための来院を呼びかけた。
対象患者 19,257例。40~79歳;血圧は未治療例≧160/100mmHg,治療例≧140/90mmHg;次の心血管イベントの危険因子*を3つ以上有するもの。
* 左室肥大,心電図上の異常所見,2型糖尿病,末梢血管疾患,脳卒中あるいは一過性脳虚血発作(TIA)の既往,男性,55歳以上,微量アルブミン尿あるいは蛋白尿,喫煙,総コレステロール(TC)/HDL-C≧6,若年発症CHDの家族歴。
除外基準:MI既往;現在治療中の狭心症;3か月以内の脳血管イベント;空腹時トリグリセリド>398.3mg/dL;心不全;治療抵抗性不整脈など。
■患者背景:平均年齢(Am(+P)群63.0歳,At(+T)群63.0歳),男性(77%, 77%),白人(95%, 95%),平均血圧(164.1/94.8mmHg, 163.9/94.5mmHg),心拍数(71.9拍/分,71.8拍/分),BMI (28.7, 28.7),TC(227.7mg/dL, 227.7mg/dL),LDL-C(146.7mg/dL, 146.7mg/dL),HDL-C(50.2mg/dL, 50.2mg/dL),トリグリセリド(159.3mg/dL, 168.2mg/dL),血糖(6.2mmol/L, 6.2mmol/L),クレアチニン(98.7μmol/L, 98.7μmol/L)。
既往:脳卒中あるいはTIA(両群とも11%),糖尿病(両群とも27%),左室肥大(両群とも22%),左室肥大以外のECG上の異常(両群とも23%),末梢血管疾患(両群とも6%)。
治療状況;未治療(19%, 19%),1剤での降圧治療例(44%, 45%),2剤以上(36%, 36%),脂質低下薬(11%, 10%),aspirin(19%, 19%)。
治療法 目標降圧値:非糖尿病例は<140/90mmHg,糖尿病例は<130/80mmHg。
Ca拮抗薬amlodipineをベースとしたACE阻害薬perindoprilとの併用治療群(Am(+P)群9639例):amlodipine 5~10mg→ perindopril 4~8mgを追加→ doxazosin GITS 4~8mgを追加。
β遮断薬atenololをベースとした利尿薬bendroflumethiazide (BFZ)との併用治療群(At(+T)群9618例):atenolol 50~100mg→ BFZ(カリウム併用) 1.25~2.5mgを追加→ doxazosin GITS 4~8mgを追加。
結果 ・試験終了時にamlodipine単独投与例は15%,atenolol単独投与例は9%,2剤以上の投与例は78%,Am(+P)群の平均投与薬剤は2.2剤,At(+T)群は2.3剤,クロスオーバーはそれぞれ16%,26%。
・トリグリセリド,HDL-C,BMI,クレアチニン,血糖はAm(+P)群 で有意に改善した。
・血圧は試験開始時から終了時までにAm(+P)群で164.1/94.8mmHg→ 136.1/77.4mmHg,At(+T)群で163.9/94.5mmHg→ 137.7/79.2mmHgへ降下した。試験期間を通じた両群間の平均降圧差(Am[+P]群マイナスAt[+T]群)は-2.7/-1.9mmHg(p<0.0001)。
一次エンドポイント
発症数は903例(Am(+P)群429例,At(+T)群474例)。Am(+P)群で10%低下したが両群間に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]0.90;95%信頼区間0.79~1.02, p=0.1052)。
二次エンドポイント
・一次エンドポイントから無症候性MIを除いたものはAm(+P)群390例 vs At(+T)群444例(HR 0.87, p=0.0458)。
・全冠動脈イベントは753例 vs 852例(HR 0.87, p=0.0070)。
・全心血管イベント+血行再建術は1362例 vs 1602例(HR 0.84, p<0.0001)。
・全死亡は738例 vs 820例(HR 0.89, p=0.0247)。
・心血管死は263例 vs 342例(HR 0.76, p=0.0010)。
・全脳卒中は327例 vs 422例(HR 0.77, p=0.0003)。
・全心不全は134例 vs 159例(HR 0.84, p=0.1257)。
三次エンドポイント
・不安定狭心症は73例 vs 106例(HR 0.68, p=0.0115)。
・慢性安定狭心症は205例 vs 208例(HR 0.98, p=0.8323)。
・末梢血管疾患は133例 vs 202例(HR 0.65, p=0.0001)。
・生命にかかわる不整脈27例 vs 25例(HR 1.07, p=0.8009)。
・新規発症腎不全は403例 vs 469例(HR 0.85, p=0.0187)。
・新規発症糖尿病は567例 vs 799例(HR 0.70, p<0.0001)。
Am(+P)群の有効性は18のサブグループすべてでみられた。
後付(post-hoc)解析
・一次エンドポイント+血行再建術は596例 vs 688例(HR 0.86, p=0.0058)。
・心血管死+MI+脳卒中は796例 vs 937例(HR 0.84, p=0.0003)。
有害事象
・治療中止につながる有害事象の発症は4760例で両群間に有意差はなかったが,重症例は162例 vs 254例でAm(+P)群で有意に少なかった(p<0.0001)。
★考察★amlodipineをベースとする降圧治療はatenololをベースとする治療よりも主要な心血管イベント,糖尿病発症の抑制効果に優れていた。

ASCOT試験公式サイト
http://www.ascotstudy.org/
文献
  • [main]
  • Dahlof B et al: Prevention of cardiovascular events with an antihypertensive regimen of amlodipine adding perindopril as required versus atenolol adding bendroflumethiazide as required, in the Anglo- Scandinavian cardiac outcomes trial-blood pressure lowering arm (ASCOT-BPLA); a multicentre randomized controlled trial. Lancet 2005: 366; 895-906. PubMed
  • [substudy]
  • 受診毎血圧変動と脳卒中-TIA既往例において,受診ごとのSBP変動と最大SBPは独立した強力な脳卒中予測因子。高血圧治療例の残存SBP変動は血管イベント高リスクと関連。
    血圧変動性とその後の脳卒中の関係を一過性脳虚血発作(TIA)患者(UK-TIA)において解析し,その結果を3つのTIA・脳卒中コホート(ASCOT-BPLAのTIA/脳卒中既往例[2,011例],ESPS-1[2,500例]*,Dutch TIA[3,150例]*)で検証。さらにこの関係の一般化可能性を,治療下の高血圧患者(ASCOT-BPLA)で評価した結果:UK-TIAコホート(2,006例:平均年齢60.3歳,男性1,438例;4か月に1回血圧測定)におけるベースラインから脳卒中発症/死亡までの血圧測定回数(中央値)は10回,7回目の測定(2年後)まで到達したのは1,324例(66%)でその後の脳卒中発症は104例,冠動脈イベント(CAD)は166例。収縮期血圧(SBP)の受診毎変動(visit-to-visit variability in blood pressure. 標準偏差[SD])は脳卒中の強力な予測因子であり(SDの最高十分位群 vs 最低十分位群:未調整ハザード比6.22;95%信頼区間4.16~9.29),この関係は平均SBPとは独立しており(調整後:4.37;2.73~6.99),測定回数が多いほど強力であった(10回測定:12.08;7.40~19.72)。最大SBP も脳卒中と強く関連した(7回測定,平均SBPで調整後:15.01;6.56~34.38, p<0.0001)。他のTIAコホートでも結果は同様だった。
    ASCOT-BPLA(6か月ごとに血圧測定,測定回数≧2回は18,530例;中央値10回)での一般化可能性の検証では,降圧治療下で残存するSBPの受診ごとの変動(residual visit-to-visit variability in SBP)は,脳卒中(診察室血圧/ABPMの平均SBPで調整後:3.25;2.32~4.54, p<0.0001)とCADの強力な予測因子であった。SBP変動はatenolol群のほうがamlodipine群よりも大きかったが,リスクとの関係は両群で変わらなかった。
    ABPMサブスタディ(1,905例;平均測定回数3.25回)では,SBPの変動のイベント予測能は弱まったものの,昼間の平均SBP<中央値の症例では予測能がもっとも強かった。
    * ESPS-1 (European Stroke Prevention Study-1: Lancet 1987; 330: 1351-4.), Dutch TIA (N Engl J Med. 1991; 325: 1261-6.): Lancet. 2010; 375: 895-905. PubMed
  • 左室拡張機能の改善はamlodipineベース群のほうがatenololベース群より大きい。拡張能の両群差は降圧,拡張機能関連因子とは独立。
    詳細な心血管データを集めたサブスタディ・HACVD(Hypertension-Associated Cardiovascular Disease):イギリス,アイルランドの2施設の登録患者1,006例(Am(+P)群413例,At (+T) 群411例)の治療からおよそ1年後,心エコー,血流・組織ドプラ法で左室拡張機能を評価。
    血圧に両群間差はなく(Am(+P)群136/80mmHg,At (+T) 群137/82mmHg),駆出率にも差はみられなかった。しかし,拡張早期の僧帽弁輪速度(E’)はAm(+P)群の方が有意に速く(8.8 vs 7.9cm/秒),左室筋重量係数(LVMI)は非有意に左室流入血流速度 (E) / E’比,BNPは有意に同群のほうが低かった。年齢,性で調整後もE’,E/E’比,BNPの両群間差は有意で,さらに,収縮期血圧,LVMI,心拍数で調整しても,E’,BNPの違いに影響はなかったが,E/E’比の差は減弱した。E/心房収縮期血流速度(A)はAt (+T) 群の方が大きく,年齢,性,LVMIなどで調整後も有意であったが,心拍数で調整後は有意差は消失した:J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 1875-81. PubMed
  • 人種と拡張機能
    欧州系白人高血圧患者に比べアフリカ系-カリブ系黒人高血圧患者は拡張期機能が有意に不良である:拡張期早期血流速度(E' )は7.7cm/s vs 8.6cm/sとアフリカ系-カリブ系黒人で有意に低く(p=0.003),左室流入血流波形との比(E/E' )は有意に高かった(8.85 vs 7.93, p=0.003)。多変量解析後も同様であった:J Am Coll Cardiol. 2008; 52: 1015-21. PubMed
  • 第3選択薬としてのα遮断薬doxazosin gastrointestinal therapeutic system (GITS)の評価
    doxazosin GITS投与例は11,768例:平均年齢63歳,男性79%,糖尿病32%,投与開始はランダム化から8か月後(中央値),投与開始量は平均4.1mg,終了時は7.0mg。中断のない(uniterrupted)投与期間12か月(中央値)で158.7/89.2mmHg→11.7/6.9mmHg降圧し,doxazosin追加投与後29.7%が目標血圧を達成。心不全の増加はみられず,有害イベントによる投与中止は7.5%:Circulation. 2008; 118: 42-8. PubMed
  • Conduit Artery Function Evaluation (CAFE) study
    異なる降圧療法の上腕動脈(末梢)血圧への影響は同様であっても,中心大動脈圧に及ぼす影響,さらには心血管転帰は異なるのかを検討するサブ解析(英国およびアイルランドの5施設。2001年に登録を開始した2199例のうち解析例は2073例)。橈骨動脈トノメトリー法と脈波波形により中心大動脈圧を算出した(SphygmoCorシステム)。
    試験終了時にランダム化された治療を受けていたものは,Am(+P)群85%,At(+T)群80%,単独投与例はamlodipineは7.0%,atenololは3.5%。2種類以上の降圧薬を投与していたものは95%,追加併用治療率は56% vs 60%。
    上腕動脈血圧はAm(+P)群133.2/76.9mmHg,At(+T)群133.9/78.6mmHg(拡張期血圧はp<0.0001)でそれぞれ27.8/15.7mmHg, 26/13.8mmHgの低下で両群同様であった。脈圧は56.2mmHg vs 55.3mmHg(p=0.06)。上腕収縮期血圧の両群間差(Am(+P)群マイナスAt(+T)群)は-0.7mmHg(95%信頼区間[CI]-0.4~1.7, p=0.2)であったが,中心大動脈収縮期圧の差は-4.3mmHg(95%CI 3.3~5.4, p<0.0001)でAm(+P)群が有意に減少していた。中心大動脈の脈圧も-3.0mmHg(95%CI 2.1~3.9, p<0.0001)でAm(+P)群で減少していた。Cox比例ハザードモデルによると,中心大動脈脈圧は後付けで設定した総心血管イベント/血行再建術+腎機能不全と有意に相関した(補正前p<0.0001,補正後p<0.05)★結論★降圧薬は上腕動脈血圧に及ぼす影響は同様であっても,中心大動脈圧および血行動態への影響は実質的に異なる。さらに中心大動脈の脈圧は臨床転帰の決定因子である可能性がある:Circulation. 2006; 113: 1213-25. PubMed

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収載年月2005.09
更新年月2013.09