循環器トライアルデータベース

WHI
Women's Health Initiative

目的 健康な閉経後女性において,ホルモン補充療法:estrogen+progestinと冠動脈心疾患(CHD)リスクとの関連を検討。
一次エンドポイントはCHD:非致死的心筋梗塞(MI)およびCHD死,および副作用としての乳癌。
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,多施設(アメリカのclinical center 40施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は最大8.6年。2005年3月終了の予定であったが,2002年5月31日に追跡期間平均5.2年(3.5~8.5年)の時点で中止。
登録期間は1993~’98年。
対象患者 16,608例。50~79歳(平均63.3歳)。子宮を有する閉経後女性。
除外基準:見込まれる生存が<3年の者,乳癌の既往,10年以内に皮膚非黒色腫を除くその他の癌の既往,ヘマトクリットまたは血小板数低値例,アルコール依存,痴呆など。
■患者背景:マイノリティ16%,閉経後ホルモン療法実施は1/4,CHD(MIおよび/または冠動脈血行再建術)既往約2.4%,CHD+脳卒中+一過性脳虚血発作4.4%。
治療法 conjugated equine estrogen 0.625mg+medroxyprogesterone acetate 2.5mg/日経口投与群(8506例),あるいはプラセボ群(8102例)にランダム化。
6か月ごとに本人の記入による質問票で臨床イベントを評価。ベースライン時,3年後,6年後にECGを実施。エンドポイントの判定は各施設ではなく中央で行った。
結果 2002年4月30日までのデータ(preliminary)と,同7月7日までの解析データ(final result)を報告。
浸潤性乳癌の発生が試験中止の基準を超え,リスクがベネフィットを上回ったため,2002年5月31日(平均追跡期間5.2年)データ安全管理委員会は試験中止を勧告した。
2002年4月30日までのデータから算出されたハザード比(HR)は,CHD(両群での発症数286例)が1.29,乳癌(290例)が1.26,脳卒中(212例)が1.41,肺塞栓(PE,101例)が2.13,大腸癌(112例)が0.63,子宮体癌(47例)が0.83,大腿骨骨折(106例)が0.66,その他の死亡(331例)が0.92。全心血管疾患が1.22,すべての癌が1.03,全骨折が0.76,全死亡が0.98,global index(CHD,脳卒中,肺塞栓,乳癌,子宮体癌,大腸癌,大腿骨折,その他の死亡例のイベント初発)が1.15。estrogen+progestin療法による10,000人・年の絶対リスクの増加はCHDイベント7,脳卒中8,PE8,浸潤性乳癌8,一方,リスク低下は大腸癌6,大腿骨骨折5であり,global indexを含めたリスクの増加は19/10,000人・年であった。
2002年7月7日までのデータから算出されたハザード比は,CHD1.24,うち非致死的MIは1.28,CHD死は1.10。特に1年目は1.81で最も著明。10,000人・年のCHD絶対リスクは各39例,33例。
冠動脈血行再建術はハザード比1.01,狭心症による入院は0.86,狭心症は0.82,急性冠症候群は1.03で,いずれも有意な両群間差はなく,CHDと複合しても1.00であった。うっ血性心不全も同様に有意差なし(0.99)。
estrogen+progestin群のCHD高リスクと,ベースライン時のLDL-C高値に有意な相関がみられたが(p=0.01),C反応性蛋白高値や他のバイオマーカー,他の臨床的特徴では認められなかった。
★結論★全般に健康な閉経後女性におけるestrogen+progestin療法は,心保護効果を示さず,特にホルモン療法開始1年目においてCHDリスクを増加する可能性がある。試験期間中,全死亡には影響がみられなかった。本治療法を心血管疾患の予防として行うべきではない。
ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00000611

WHIホームページ
http://www.nhlbi.nih.gov/whi/
文献
  • [main]
  • Rossouw JE et al for the writing group for the women's health initiative investigators: Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women; principal results from the women's health initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002 17; 288: 321-33. PubMed
  • Manson JE et al for the women's health initiative investigators: Estrogen plus progestin and the risk of coronary heart disease. N Engl J Med. 2003; 349: 523-34. PubMed
  • [substudy]
  • 閉経後女性において,バイオマーカーを古典的危険因子に追加しても2型糖尿病のリスク予測への付加価値は見出せず。
    Women’s health Initiative Observational Study (WHIOS):1994年9月~’98年12月,50~79歳の女性9万3,676人を登録。2型糖尿病発症1584例,対照2,198例。
    6年間の糖尿病発症推定累積リスク:炎症マーカー(白血球数,インターロイキン6,hs-CRP),内皮機能不全マーカー(可溶性細胞間接着分子1)は,危険因子(年齢,人種/民族,腹囲,高血圧,薬物治療が必要であった高脂質値,身体活動,喫煙,喫煙,飲酒,1親等以上の糖尿病家族歴)+空腹時血糖値に基づいた参照モデルデル適合を有意に改善したが,モデル識別能はいずれの炎症・内皮機能マーカーも改善しなかった(ROC曲線下面積は0.93)。net 再分類,予測値は6年間の糖尿病カットオフ値15%で陽性適中率(0.22~0.24),陰性適中率(全0.99):Arch Intern Med. 2010; 170: 1557-65. PubMed
  • 閉経後の女性において危険因子に18のバイオマーカーを加えると冠動脈疾患リスクの予測能が改善。
    WHI-HT(Women’s Health Initiative Hormone Trials)のnested case-control biomarker study(冠動脈疾患[CAD]発症例321例,対照743例):古典的危険因子(スタチン治療,ホルモン補充療法,心血管疾患既往を含む)はフラミンガムリスクスコア+nested case-control studyからの新変数に比べC統計量(C-statistic)が改善(0.729 vs 0.699, p=0.001)。CRPなどの18のバイオマーカー(CADと独立して関連したのはインターロイキン-6,D-ダイマー,凝固因子VIII,フォン・ヴィレブランド因子,ホモシステインの5因子のみ)を加えると,さらに改善した(0.751 vs 0.729, p=0.001)。CRPは単独でも,その他のバイオマーカーとの組み合わせでもCADリスクの有意な予測能改善は認められなかった:J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 2080-91. PubMed
  • 女性における安静時の心拍数は心筋梗塞,冠動脈疾患死を独立して予測するが,脳卒中の予測因子ではない。
    既往例(心筋梗塞[MI],脳卒中,血行再建術)を除外した12万9,135人での観察:ベースライン時の安静時心拍数の分布と平均年齢は,≦62拍/分(bpm):32,195人(62.4歳),63~66 bpm:23,213人(62.6歳),67~70 bpm:24,235人(62,7歳),71~76 bpm:25,453人(62.8歳),>76 bpm:24,039人(63.0歳);年齢p<0.001。
    平均追跡期間7.8年で心筋梗塞(MI),CAD死2,281例,脳卒中1,877例。心拍数5分位によるハザード比(多変量解析):MI,CAD死(63~66 bpm:1.02[95%信頼区間0.89~1.17], 67~70 bpm:1.08[0.95~1.23], 71~76 bpm:1.02[0.89~1.16], >76 bpm:1.26[1.11~1.42] vs ≦62 bpm;p=0.001),脳卒中:(それぞれ1.04[0.90~1.20], 0.96[0.83~1.11], 1.07[0.94~1.23], 1.01[0.87~1.16];p=0.64):BMJ. 2009; 338: b219. PubMed
  • estrogen+progestin治療中に上昇した心血管リスクは治療中止後はみられなくなった:治療群343イベント(1.97%),プラセボ群323イベント(1.91%)。しかし,悪性腫瘍は治療群で多く発症した:281例[1.56%] vs 218例[1.26%];ハザード比1.24:JAMA. 2008; 299: 1036-45. PubMed
  • サブスタディ:WHI-Coronary-Artery Calcium Study (CACS)
    子宮摘出後例で試験開始時に50~59歳であった1064例(estrogen群537例,プラセボ群527例)に心臓CTを施行した。治療後平均7.4年,試験終了から1.3年後(ランダム化から8.7年後)に冠動脈のカルシウムスコアを測定。
    カルシウムスコアは,estrogen群83.1でプラセボ群123.1より低かった(p=0.02)。冠危険因子で調整後のプラセボ群と比較したestrogen群の多変量オッズ比(OR)は,カルシウムスコア>0:OR 0.78;95%信頼区間0.58~1.04(p=0.09), ≧10:0.74;0.55~0.99(p=0.04), ≧100:0.69;0.48~0.98(p=0.04)。
    試験薬の遵守率が80%以上のもののORはそれぞれ,0.64;0.46~0.91(p=0.01), 0.55;0.39~0.79(p<0.001), 0.46;0.29~0.73(p=0.001)。
    カルシウムスコアが300を超える場合のORはintention-to -treat解析で0.58(vs <10, p=0.03),遵守率80%以上のものは0.39(p=0.004):N Engl J Med. 2007; 356: 2591-602. PubMed
  • ECG(心電図)正常例9744例,minor心電図異常*4095例,major心電図異常**910例。3年後心電図正常から心電図異常となったものは5%で,冠動脈イベント(CHD)は85例/10000人・年。調整後のCHDのハザード比はminor心電図異常1.55,major心電図異常3.01,心電図異常2.60。ホルモン補充療法と心電図異常との間に関連はみられなかった。* I~II度の房室ブロック;心室興奮延長ボーダーライン;心室再分極遅延;isolated minor Q,ST-T異常;ST-T異常を伴わない左室肥大;左心房拡大;心房,心室期外収縮;束枝ブロック,のいずれかが該当するもの。** 心房細動,心房粗動;高度の房室解離;左脚ブロック;右脚ブロック;確定できない伝導遅延;Q波梗塞;isolated 虚血異常;ST-T異常を伴う左室肥大;その他の不整脈(Novacode 1.4, 1.7, 1.8, 1.9, 2.4)のいずれかが該当するもの:JAMA. 2007; 297: 978-85. PubMed
  • 7年間のカルシウム(炭酸カルシウム500mg)+ビタミンD(25- hydroxy D3 200IU)×2回/日のサプリメント投与による冠動脈リスク,脳血管リスクの上昇も低下もみられなかった:Circulation. 2007; 115: 846-54. PubMed
  • 観察研究:ベースライン時の前高血圧は35%,うち白人39.5%,黒人32.1%,ヒスパニック42.6%,アメリカインディアン38.7%,アジア40.3%(p<0.0001)。血圧が高くなるにつれ年齢,BMI,糖尿病,高脂血症も上昇したが,喫煙率は低下した(全p<0.0001)。正常血圧例と比較した心血管死のハザード比(HR)は1.58,心筋梗塞1.76,脳卒中1.93,心不全による入院1.36,心血管イベント1.66。ヒスパニックとアジア人ではイベント率が低かったが,複合イベントのHRに人種差はなかったが(p=0.71):Circulation. 2007; 115: 855-60. PubMed
  • 微粒子空気汚染(空気動力学的直径2.5μm未満の微粒子状物質):PM2.5)の長期曝露は心血管イベントおよび死亡の増加と関連:N Engl J Med. 2007; 356: 447-58. PubMed
  • Observational Study(90,185例・1993年10月1日~2004年8月31日,平均追跡期間は7年):超肥満(BMI≧40kg/m2)は黒人で10%,アジア・太平洋諸島系で1%と人種差があった。10,000人・年当たりの全死亡率は,正常BMIで68.39,過体重(BMI 25.0~29.9)で71.16,肥満1(30.0~34.9)で84.47,肥満2(35.0~39.9)で102.85,超肥満で116.85であった。年齢,喫煙,教育レベル,アメリカの地域,肉体活動で補正すると,全死亡,冠動脈疾患死,冠動脈疾患リスクと体重の相関に民族/人種による違いはなかった。白人,黒人で補正すると,全死亡率と冠動脈疾患は体重増加と正の相関傾向が認められた。肥満関連死および冠動脈疾患リスクの大半は糖尿病,高血圧,高脂血症が原因である:JAMA. 2006; 296: 79-86. PubMed
  • conjugated equine estrogenにより脳梗塞のリスクが上昇するが,この相関は出血性脳卒中ではみられない:Circulation. 2006; 113: 2425-34. PubMed
  • 食事介入(脂質の摂取量を減らし,野菜,果物,穀類の摂取量を増やす)が乳ガン,結腸直腸ガン,心血管疾患のリスクを低下させるかを検討するWHI Dietary Modification Trialの結果:食事介入群19,541例,通常食事(対照)群29,294例。平均追跡期間8.1年。CHDは介入群1000例(0.63%) vs 対照群1549例(0.65%):ハザード比(HR)0.97;95%信頼区間(CI)0.90~1.06,脳卒中は434例(0.28%) vs 642例(0.27%):HR 1.02(95%CI 0.90~1.15),心血管疾患は1357例(0.86%) vs 2088例(0.88%):HR 0.98;95%CI 0.92~1.05で,介入群の有意な有効性は認められなかった。飽和脂肪,トランス脂肪の摂取量の少ないもの,野菜,果物を多くとるものはCHDリスクの低下が大きい傾向にあった:JAMA. 2006; 295: 655-66. PubMed
  • WHI Dietary Modification Trial参加者からホルモン補充療法ランダム化試験参加者,心室伝導障害を除いた38,283例・追跡期間9.2年の結果:心室の再分極の異常は,ECG上の心筋梗塞およびQRS異常と同様にCHDイベントおよびCHD死の重要な予測因子である:Circulation. 2006; 113: 473-80. PubMed
  • コホートスタディ(WHI Observational Study) :ベースライン時(1994~'98年)に50~79歳の93,676例中,心血管疾患既往のない高血圧例は30,219例。うち単剤降圧療法(ACE阻害薬,β遮断薬,Ca拮抗薬,利尿薬)は11,294例,併用降圧療法(利尿薬+ACE阻害薬あるいはβ遮断薬あるいはCa拮抗薬,またはACE阻害薬+Ca拮抗薬)は4493例。平均追跡期間5.9年後,冠動脈疾患1509例(5.0%),脳卒中607例(2.0%),心血管死245例(1.3%)。利尿薬単剤群に比べCa拮抗薬単剤群の心血管死のリスクが大きかった(ハザード比1.55;95%信頼区間[CI]1.02~2.35)。利尿薬+Ca拮抗薬群は利尿薬+β遮断薬群に比べ心血管死のリスクは85%上昇した:JAMA. 2004; 292: 2849-59. PubMed
  • estrogen+progestinは静脈血栓リスクが倍増。この併用療法のリスクは年齢,過体重あるいは肥満,第V因子 Leidenと関連して上昇する:JAMA. 2004; 292: 1573-80. PubMed
  • 平均追跡期間6.8年:子宮摘出例において,conjugated equine estrogenは脳卒中のリスクを上昇させ,大腿骨骨折を抑制,CHDイベントには影響しなかった。conjugated equine estrogenは閉経後の女性における慢性疾患予防としては勧めるべきではない:JAMA. 2004: 291; 1701-12. PubMed
  • 末梢血管イベントは両群間に有意差なし(HR 0.89)。1年後のestrogen+progestin群のHRは1.33,2年後1.27,5年後0.85,6年以上後0.87:Circulation. 2004; 109: 620-6. PubMed
  • 5.6年後の骨折はestrogen+progestin群8.6%,プラセボ群11.1%(HR 0.76)。年齢,BMI,喫煙g転倒・骨折歴あるいは家族歴,カルシウム摂取量,ホルモン療法既往,骨密度,骨折リスクスコアによる有効性にいずれも有意差なし。3年後の大腿骨骨密度増加率は3.7% vs 0.14%(p<0.001):JAMA. 2003; 290: 1729-38. PubMed
  • 5.6年後の卵巣癌発症はestrogen+progestin群20例,プラセボ群12例(HR 1.58)。子宮内膜癌は27例 vs 31例(0.81)。実薬群で子宮内膜生検の必要が有意に増加した(33% vs 6%, p<0.001):JAMA. 2003; 290: 1739-48. PubMed
  • 運動量の多い閉経後女性の乳癌発症リスクは低下傾向:JAMA. 2003; 290: 1331-6. PubMed

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収載年月2002.09
更新年月2010.10