循環器トライアルデータベース

HYVET
Hypertension in the Very Elderly Trial

目的 80歳以上の超高齢高血圧患者における降圧治療の有用性,安全性を検証する。

一次エンドポイントは致死的/非致死的脳卒中(一過性脳虚血発作は含まず)。
コメント N Engl J Med. 2008; 358: 1887-98.へのコメント
80歳以上の後期高齢者でも,積極的な降圧が脳心血管合併症を抑制することを明瞭に示した点で画期的な成績である。これまで後期高齢者のみを対象とした試験はなく,高齢者全体を対象とした試験における二次エンドポイントからのメタ解析からの予測では,後期高齢者での降圧治療は死亡率に対しては影響しないか,むしろ悪化するとの予測もあった。しかし今回の脳卒中発症(一次エンドポイント)と死亡(二次エンドポイント)というもっとも重要なイベントを評価項目に設定しての試験結果は,これらの予測を大きく覆し,年齢を問わず降圧薬治療の有用性を明らかにした。
それぞれの内訳をみると,脳卒中を30%,脳卒中死亡を39%,総死亡を21%減少させ,2年間のNNT(number needed to treat)でみると,脳卒中は94,死亡は40という驚異的ともいえる数字を示した。しかもその予防効果,すなわち降圧薬のメリットは試験開始早々の1年以内に明らかになっている点は,いかに高齢者でも速やかな降圧が重要であるかを明瞭に示している。高齢者ではゆっくり降圧という古典的考え方も見直すべきではなかろうか。本試験での降圧目標値は150/80mmHgであったが,2年で実薬群は平均143.5/77.9mmHg,プラセボ群は158.5/84mmHgまで下降している。5年目にはプラセボ群でも150mmHg, 実薬群では140mmHgに到達している。降圧治療に年齢は関係がなく,後期高齢者といえども収縮期血圧はほぼ140mmHgを目標とすべきことを示している。

注目すべきは,本試験では第一次選択薬としてインダパミドという古典的,かつ安価なサイアザイド類似降圧利尿薬を用いている点であり,薬剤に起因する低カリウム血症,血糖上昇などの副作用発現は両群に差がなかったことは,我が国でも降圧利尿薬を今後人口増加が予測される高齢者高血圧治療の第一選択薬として積極的に用いるべきことを示している。試験では後期高齢者を対象としていることから,試験中にプラセボ群448例,実薬群358例という多数の有害事象が発生している。しかし担当医によって試験薬に関連すると認識された有害事象は各々3例,2例しか発症していないことも注目すべきである。めまいなど降圧に伴う有害事象を怖れるあまり,後期高齢者の降圧をためらうことは,致命的イベントである脳卒中や死亡を回避する機会を失するということを明瞭に示している。

本試験の対象となった後期高齢者は糖尿病や腎障害などの合併症が比較的少ない,健康な症例である。現実には非常に多い,合併症を有している後期高齢者での降圧のあり方に対しての回答を与えるものではないが,多様性に富む後期高齢者では,個々の合併症に応じた個別的対応も重要である。
本試験は,血圧は“血管への負荷”であり,「老いた血管ほど負担を少なく」という考え方を実証したものであり,長年の高齢者高血圧の降圧目標値論争には終止符をうつべきである。(桑島
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(西欧,東欧,中国,オーストララシア,北アフリカ13か国195施設),intention-to-treat・per-protocol解析。
期間 追跡期間は1.8年(中央値)。
実施期間は2001年2月(最初のランダム化)~2007年10月12日。
対象患者 3,845例。80歳以上;持続性収縮期高血圧(収縮期血圧[SBP]>160mmHg);立位SBP≧140mmHg;座位拡張期血圧(DBP)<110mmHg(試験開始時[2000年]は90~109mmHgとしたが,2003年にプロトコール変更。
除外基準:加速型高血圧;二次性高血圧;立位SBP<140mmHg;6か月以内の出血性脳卒中;降圧治療が必要な心不全;クレアチニン>1.7mg/dL;カリウム<3.5mmol/Lあるいは>5.5mmol/L;痛風;認知症,日常的に介護が必要なもの。
■患者背景:東欧2144例,中国1526例,西欧86例,チュニジア70例,オーストララシア19例。
年齢は80~105歳で,平均年齢(降圧治療群83.6歳,プラセボ群83.5歳):80~84歳73.0%,85~89歳22.4%,90歳以上4.6%。
女性(60.7%, 60.3%),座位血圧(両群とも173.0/90.8mmHg),起立性低血圧(SBP>20mmHgの低下/DBP>10mmHgの低下:7.9%, 8.8%),収縮期高血圧(32.3%, 32.6%)。
既往:心血管疾患(11.5%, 12.0%),高血圧(両群とも89.9%),降圧治療(64.2%, 65.1%),脳卒中(6.7%, 6.9%),心筋梗塞(3.1%, 3.2%),心不全(両群とも2.9%)。
治療法 2か月のプラセボによるrun-in期間後,座位SBPが160~199mmHgのものをランダム化。80~89歳,90歳以上,性別で層別化して割付けた。
降圧治療群(1933例):徐放性indapamide 1.5mgで治療を開始し,目標血圧値150/80mmHgに達しない場合,ACE阻害薬perindopril 2mg~4mgを追加投与可。試験薬以外の降圧薬を3か月以上追加投与した場合,二重盲検からは脱落しオープンラベルで追跡できるものとした。また最大用量を投与しても座位SBP≧220mmHg,座位DBP≧110mmHgの場合は脱落とした。プラセボ群(1912例)。
結果 2007年7月に2回目の中間報告で140例の脳卒中が発症し(2007年4月30日まで7,399人-年の追跡),降圧治療群で一次エンドポイントが41%低下(p=0.009),全死亡が24%低下した(p=0.007)発表を受け試験は中止された。

2年間のカリウム(降圧治療群-0.02mmol/L vs プラセボ群+0.03mmol/L;p=0.09),尿酸(11.6μmol/L vs 3.5μmol/L;p=0.07),血糖(2.9mg/dL vs 2.0mg/dL;p=0.56),クレアチニン(3.4μmol/L vs 2.3μmol/L;p=0.30)の変化において両群間に有意差はなかった。
[忍容性]
降圧治療群の2年後の投与薬はindapamide単独投与25.8%,indapamide+perindopril 2mg併用投与23.9%,indapamide+perindopril 4mg併用投与49.5%。
[降圧]
降圧治療群の降圧は座位SBP-29.5mmHg/座位DBP-12.9mmHg,プラセボ群では-14.5/6.8mmHgと,降圧治療群はプラセボ群より15/6mmHg降圧効果が大きかった。
目標血圧達成率は48.0% vs 19.9%と降圧治療群が有意に高かった(p<0.001)。

[心血管イベント]
一次エンドポイント
降圧治療群51件,プラセボ群69件で降圧治療群でリスクが30%低下した(95%信頼区間-1~51, p=0.06)。
1000例を2年間治療して11件の脳卒中を予防,あるいは94例を2年治療して脳卒中を1件予防できることになる。
降圧治療群の有効性は試験開始1年以内から明らかであった。
二次エンドポイント
全死亡は431例,53.1件/1000人-年。全死亡リスクは降圧治療群で21%低下(4~35, p=0.02)。
致死的脳卒中は同群で39%(1~62, p=0.05),心不全が64%(42~78, p<0.0001),心血管イベントは34%(18~47, p<0.001)リスクが低下した。
per-protocol解析
プラセボ群と比べ降圧治療群では,脳卒中が34%(5~54, p=0.03),致死的脳卒中45%(7~67, p=0.02),総死亡28%(12~41, p=0.001),心血管死27%(3~45, p=0.03),心不全72%(52~83, p<0.001),それぞれリスクが低下した。
[安全性]
重篤な有害イベント:降圧治療群358例 vs プラセボ群448例(p=0.001),うち試験薬によるものと判断されたのは5例のみ(2例 vs 3例)。
★結論★80歳以上の超高齢高血圧患者において,利尿薬indapamide徐放剤による降圧治療はACE阻害薬perindoprilとの併用の有無にかかわらず有用である。
ClinicalTrials. gov No.: NCT00122811
文献
  • [main]
  • Beckett NS et al for the HYVET study group: Treatment of hypertension in patients 80 years of age or older. N Engl J Med. 2008; 358: 1887-98. PubMed
  • プロトコール:Bulpitt C et al: Hypertension in the very elderly trial (HYVET): protocol for the main trial. Drugs Aging. 2001; 18: 151-64 PubMed
  • HYVET試験実施の理由(rationale):Beckett NS et al: The rationale for the hypertension in the very elderly trial (HYVET). Eur Heart J. 1999; 1 suppl: 13-6.
  • [substudy]
  • 超高齢者における骨折と降圧治療-サイアザイド類似利尿薬+ACE阻害薬群は骨折リスクが低い傾向が示される。
    [背景]サイアザイド系/サイアザイド類似利尿薬は近位尿細管での受動的Ca再吸収を増加させ,Ca排泄量を低下させることが示されており,高齢者の骨折リスクを抑制する可能性がある。
    骨折(二次エンドポイント)の発生率を検討した結果(平均追跡期間2.1年):骨折の報告は104件/3,845例(definite:61件,probable:40件,根拠不十分:3件)。ただし2例が3回,7例が2回骨折したため,重複を除外して初発の骨折90例のみを解析対象とした(definite:53例,probable:37例)。骨折リスクは女性が男性の2倍高く,年齢が1歳増加するごとに7%上昇した。
    治療群別では,降圧治療群で骨折リスクが低い傾向が示された(38例 vs プラセボ群52例:調整後ハザード比0.58;95%信頼区間0.33~1.00, p=0.0498)。骨折発生までの平均時間は降圧治療群742.8日,プラセボ群515.12日。試験前に投与されていた降圧薬のクラスと骨折の関係をみると,β遮断薬のみでリスクが増加した(2.05;1.03~4.0, p=0.042):Age Ageing. 2010; 39: 609-16. PubMed
  • 80歳以上の後期高齢者でも,降圧治療と血圧コントロールによるベネフィットを早期に享受できる可能性が示唆された。
    1年オープンラベル延長試験(本試験終了時に二重盲検治療下にあった1,712例での検討)結果:本試験終了時に投与されていた薬剤にかかわらず,全例が徐放性indapamide単剤から降圧治療を再開し,本試験と同様のステップで,同じ目標血圧で実施した。血圧は,延長試験開始時には本試験でのプラセボ投与例が降圧治療例よりも14.3/4.2mmHg高かったが,6か月後に有意差は消失し(1.3/0.6mmHg),1年後まで持続した。延長試験期間中の脳卒中(13例:本試験でのプラセボ投与例に比べた降圧治療例のハザード比1.92;95%信頼区間0.59~6.22),複合心血管イベント(25例:0.78;0.36~1.72),心不全(0.28:0.03~2.73)には本試験の降圧治療例とプラセボ投与例との差は認められなかった。一方で,全死亡(47例:0.48;0.26~0.87;p=0.02)と心血管死(11例:0.19;0.04~0.87;p=0.03)には有意差がみられ,早期・長期降圧の必要性を支持する結果が示された:BMJ. 2011; 344: d7541. PubMed
  • 80歳以上(平均年齢83.5歳)において降圧治療により認知症のリスクが低下する可能性が示される(降圧治療と認知機能を検討したサブスタディ:HYVET Cognitive Function Assessment [HYVET-COG];降圧治療群1687例,プラセボ群1649群)
    2年後の降圧治療群とプラセボ群の降圧差はSBP:-15mmHg, DBP:-5.9mmHg(いずれもp<0.0001)。
    認知機能検査MMSE (mini-mental state examination)により認知機能を評価した結果,平均追跡期間2.2年で認知機能低下例は降圧治療群485例,プラセボ群486例。認知症の診断を受けたものは263例(降圧治療群126例[33例/1000人・年],プラセボ群137例[38例/1000人・年])。両群間に有意差は認められなかった(ハザード比0.86;95%信頼区間0.67~1.09):Lancet Neurol. 2008; 7: 683-9. PubMed
  • パイロット試験(本試験とは試験薬が異なる)
    1283例の超高齢高血圧患者:平均年齢83.8歳,血圧181.5/99.6mmHg,クレアチニン値102.2μmol/L,カリウム4.32mmol/L,BMI 25kg/m²,心筋梗塞既往3.0%,脳卒中既往4.5%,喫煙者4.2%。
    ACE阻害薬群(431例):lisinopril 2.5mg,利尿薬群(426例):bendrofluazide 2.5mg,無治療群(426例)。目標血圧(<150mmHg/80mmHg)に達しない場合,各薬剤を倍量投与→Ca拮抗薬diltiazem SR 120mgを追加投与→同薬240mgを追加投与。
    各治療群の遵守率はACE阻害薬群96%(lisinopril 54%, enalapril 42%),Ca拮抗薬投与例は13%,利尿薬群は97%(bendrofluazide 51%, chlorthalidone 34%, hydrochlorothiazide 13%),Ca拮抗薬投与例は16%。
    降圧はACE阻害薬群,利尿薬群で30/16mmHg,無治療群7/5mmHg。立位血圧はACE阻害薬群27/16mmHg,利尿薬群26/15mmHg,無治療群3/4mmHg。
    死亡はACE阻害薬群27例(6.3%:心血管死22例,非心血管死5例)・54.8例/1000人・年,利尿薬群30例(7.0%:23例,7例);63.4例/1000人・年,無治療群22例(5.2%:19例,3例);47.2例/1000人・年。致死的脳卒中はACE阻害薬群7例,利尿薬群6例,無治療群11例,非致死的脳卒中は各5例,0例,7例。心臓死は心筋梗塞15例,虚血性心疾患8例,うっ血性心不全5例,突然死1例。
    両治療群を合わせた脳卒中低下の相対ハザード比(RHR)は0.47(95%信頼区間0.24-0.93),致死的脳卒中低下のRHRは0.57(0.25~1.32)。しかし全死亡のRHRは1.23(0.75-2.01)であった。★結論★1000例を1年間降圧治療をすることにより,脳卒中19例を予防することは可能である。しかし,非脳卒中死が20例増加する可能性もある:J Hypertens. 2003; 21: 2409-17. PubMed

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収載年月2001.04
更新年月2014.04