循環器トライアルデータベース

HPS (MRC/BHF Heart Protection Study)
Medical Research Council, British Heart Foundation Heart Protection Study

目的 幅広い異なるタイプの冠動脈心疾患(CHD)高リスク患者において,脂質低下療法および抗酸化ビタミンの補充が,死亡率および主要な合併症の発生に及ぼす効果を検討。
一次エンドポイントは死亡率,すべての心血管イベント,加えて悪性腫瘍およびその他の主要な合併症。
コメント 本試験はCHDのハイリスク患者であればLDL-C値にかかわらずスタチン療法を行うことにより,心血管イベントならびに総死亡を抑制することができることを示した。このことは,ハイリスク患者の場合は全例でスタチンを使うべきではないかというセンセーショナルな議論を呼んでいる。また,LDL-Cレベルによらず,イベント抑制効果に差がないことよりスタチンのプレオトロピック効果にも興味がもたれるところである。一方,抗酸化ビタミンについては有効性を示すことができなかった。最近の多くの試験でも同様にその有効性は否定的である。(寺本
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,2×2 factorial,多施設(イギリスの69施設),intention-to-treat解析。
期間 追跡期間は平均5年。ランダム化期間は1994年7月~'97年5月。
対象患者 20,536例。男性15454例,女性5082例。40~80歳(70歳以上が5806例)。
総コレステロール≧135mg/dL。CHD死亡リスクが高くなると思われる次の既往例:冠動脈疾患(心筋梗塞:MI,狭心症,バイパスグラフト術あるいは血管形成術),非冠動脈性閉塞疾患(介護を必要とせず出血性とは思われない脳卒中,一過性脳梗塞,間欠性跛行のような足の動脈閉塞,頸動脈血管内膜除去術など),糖尿病,高血圧で治療を受けている例。
■患者背景:MI既往8510例,冠動脈疾患既往4876例,冠動脈疾患非既往7150例(うち脳血管疾患1820例,末梢血管疾患2701例,糖尿病3982例)。
治療法 [simvastatin試験]
HMG-CoA reductase阻害薬simvastatin群(10269例。40mg/日),あるいはプラセボ群(10267例)にランダム化。
[抗酸化ビタミン試験]
抗酸化ビタミン群(10269例。ビタミンE 600mg/日,ビタミンC 250mg/日,β-カロチン 20mg/日),あるいはプラセボ群(10267例)にランダム化。
追跡は4,8,12か月目,その後最終検査2001年5~10月まで6か月ごとに行う。
結果 [simvastatin試験]
全死亡はsimvastatin群で1328例(12.9%),プラセボ群で1507例(14.7%)とsimvastatin群で有意に低下した(p=0.0003)。冠動脈死はsimvastatin群で有意に低下[587例(5.7%) vs 707例(6.9%);p=0.0005],その他の血管死はわずかに低下[194例(1.9%) vs 230例(2.2%);p=0.07],非血管死には有意差は認められなかった[547例(5.3%) vs 570例(5.6%);p=0.4]。
非致死性MI,冠動脈死は有意に低下[898例(8.7%) vs 1212例(11.8%);p<0.0001],脳卒中は444例(4.3%) vs 585例(5.7%);p<0.0001,血行再建術の施行は939例(9.1%) vs 1205例(11.7%);p<0.0001。
★考察★CHD高リスク患者にsimvastatinを現行治療に追加した場合,登録時の脂質値にかかわりなく有効であった。simvastatinを5年間投与すると,1000例中70~100人の主要な血管疾患イベントを予防する。

[抗酸化ビタミン試験]
全死亡はビタミン群1446例(14.1%),プラセボ群1389例(13.5%),血管死は878例(8.6%) vs 840例(8.2%),非血管死568例(5.5%) vs 549例(5.3%)といずれも両群間に有意差は認められなかった。さらに非致死性MIあるいは冠動脈死[1063例(10.4%) vs 1047例(10.2%)],全脳卒中[511例(5.0%) vs 518例(5.0%)],血行再建術[1058例(10.3%) vs 1086例(10.6%)]と両群間に有意差はみられなかった。
★考察★高リスク患者への抗酸化ビタミンの投与は安全なようである。しかし,5年間投与による血管疾患,悪性腫瘍あるいは主要なアウトカムによる死亡,合併症の有意な抑制効果は認められなかった。
文献
  • [main]
  • Heart protection study collaborative group: MRC/BHF heart protection study of cholesterol lowering with simvastatin in 20536 high-risk individuals; a randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2002; 360: 7-22. PubMed
  • Heart protection study collaborative group: MRC/BHF heart protection study of antioxidant vitamin supplementation in 20536 high-risk individuals; a randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2002; 360: 23-33. PubMed
  • [substudy]
  • 5年間のsimvastatin投与による有効性はさらに約5年後も持続し,新たなリスクの出現もなし。
    本試験実施中の平均追跡期間は5.3年,simvastatin群でLDL-Cが38.6mg/dL低下,主要血管イベントがプラセボ群より23%抑制された(p<0.0001)。本試験終了後,17,519例(simvastatin群8,863例,プラセボ群8,656例)をさらに5年以上追跡した試験開始から平均11.0年後の結果:本試験終了後の追跡1年目の自己申告によるスタチン服用率は58%,60%,5年後は84%,83%で両群間差はなく,LDL-Cも5年後は両群とも100.4mg/dLで差はなかった。試験終了後の追跡開始時と1年目はsimvastatin群でイベント回避生存率が高かったが,その後,両群間差はなくなり,さらなる有意な主要血管イベントの抑制は認められなかった(主要血管イベントのリスク比0.95,血管死0.98)。本試験実施中と終了後の追跡期間を合わせた期間の癌リスク(発症,死亡),非血管死の有意差はどの施設でもみられなかった:Lancet. 2011; 378: 2013-20. PubMed
  • simvastatinのベネフィットにベースライン時のCRP値は影響しない。
    CRPを測定した18,445別(<1.25[3,397例],1.25~1.99[2,729例],2.00~2.99[2,943例],3.00~4.99[3,766例],5.00~7.99[2,562例],≧8.00mg/L[3,048例])のイベント:主要血管イベント初発はsimvastatin群19.8%,プラセボ群25.2%:イベント率比0.76;95%信頼区間[CI]0.72~0.81でsimvastatin群で24%有意に低下したが,CRP値による相対的な違いは認められなかった(p for trend=0.41)。<1.25mg/L例においてでも,simvastatin群でリスクが29%有意に低下した(14.1% vs 19.4%;99%CI 12~43, p<0.0001)。
    4つのサブグループ(LDL-C<149mg/dL;CRP<1.6mg/L,LDL-C<149mg/dL;CRP≧1.6mg/L,LDL-C≧149mg/dL;CRP<1.6mg/L,LDL-C≧149mg/dL;CRP≧1.6mg/L)でもsimvastatin群の有意な相対リスク低下に異質性はみられなかった(p for heterogeneity=0.72)。特に,低LDL-C(<149mg/dL);低CRP(<1.6mg/L)例での低下が顕著であった(15.6% vs 20.9%:27%低下;99%CI 11~40, p<0.0001):Lancet. 2011; 377: 469-76. PubMed
  • N-terminal pro-B-type natriuretic peptide(N末端プロBNP:N-BNP)は心不全のみならず主要血管イベント(MVE:冠動脈死,非致死的MI,脳卒中,冠動脈あるいは非冠動脈血行再建術)を強く予測した。N-BNP値が高い例でMVEの低下率が低い傾向を示したが有意であることは変わらず,simvastatinの絶対効果はN-BNP値を問わず同等であった:J Am Coll Cardiol. 2007; 49: 311-9. PubMed
  • simvastatin群のスタチン薬使用によるコスト高は1497ポンド。同群は血管イベント抑制などにより入院コストを22%有意に低下。同群のイベントコスト/1例の絶対低下はリスクが5分位で最も高い例は847ポンド,最も低い例は264ポンド。主要な血管イベント予防コストは4500ポンド(5年間の血管イベント率42%)~31,100ポンド(12%)と費用対効果には幅があった:Lancet. 2005; 365: 1779-85. PubMed
  • 冠動脈疾患や高コレステロール値を有さない糖尿病患者においても脂質低下療法は有効である:Lancet. 2003; 361: 2005-16. PubMed

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収載年月2000.09
更新年月2011.12