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Trial Review

2005.Oct 脂質異常症 Trial Review 2003.Feb>>

 脂質異常症  
帝京大学内科  寺本民生
はじめに
1. LDL-C低下療法を必要とするハイリスク患者同定のトライアル
2. LDL-Cはどこまで下げることが有効なのか
3. ガイドラインへの影響
おわりに
文 献
はじめに
 20世紀における高脂血症治療の動脈硬化予防を目的としたトライアルは,スタチンを中心として行われ,少なくともLDL-C低下療法が安全に冠動脈イベントを抑制できることを証明したことが第一の成果と考えられる。また,ハイリスク患者であれば,総死亡の抑制効果とともに脳卒中予防効果もあることが示された。さらに,1990年代後半には,LDL-Cがそれほど高くないハイリスク患者でもLDL-C低下療法により冠動脈イベント抑制効果があり,このことは比較的リスクの高くない初発予防でも有効性が示されてきた。これらのトライアルに細胞生物学的な背景を付与したものとして1992年に発表されたプラークの破綻という概念[1]がある。つまり,心血管イベントの発症にはプラークの破綻が関与しており,LDL-C低下療法はプラークの安定化をもたらすことが,これだけの有効性を示すという考え方である。同時にプラークの破綻には炎症が関与しているという基礎的研究に支えられてトライアルが進行してきたものと考えられる。したがって,それ以降のトライアルは必ずしもLDL-Cが高くない患者でもプラークが存在する場合は炎症を抑制することがイベント抑制に寄与し,その炎症抑制としてLDL-C低下療法が位置づけられることとなっていった。

 21世紀はまさにそのような流れで始まり,とくにコレステロール135mg/dL以上のハイリスク患者を対象としたHeart Protection Study[2]は象徴的なトライアルといえる。
 21世紀のもう一つの重要な話題はメタボリックシンドロームである。この重要性は1988年からいくつかのグループから提唱されていたが,1999年WHOがそれらをまとめる形でメタボリックシンドロームと命名した。この背景には世界における死因で心血管病が占める割合が増加し,約30%とトップになっているという事実[3]と,これが比較的発展途上国で爆発的な増大を示していることがあげられる。アジア諸国の発展途上国では,これまでの栄養障害や感染症という問題が徐々に解消され,むしろ肥満の問題が浮上してきているのである。つまり,WHOとしても,世界の寿命延伸を期待するという観点から,従来の栄養改善策から肥満に対する対策へと変換せざるを得ない状況に置かれたということである。世界における心筋梗塞の危険因子の寄与率を地域別にみたINTERHEART study[4]が発表され,基本的にはアジアでも欧米の危険因子となんら変わらないことが示された。また,この中で,日本を含む東南アジア諸国では腹部肥満の寄与率が高いことが示された。このような状況の中で,メタボリックシンドロームが注目され,わが国に引き続いてInternational Diabetes Federation(IDF)でも,ほぼ同様の診断基準が提案された[5]。この基本的コンセプトは,危険因子それぞれが軽症であっても,それらが重積する場合には極めて危険度が上がるという事実であり,とくに肥満に関連した危険因子の重積は極めて危険度が上がることから特化して注意を喚起したものである。20世紀から21世紀にかけて行われた高脂血症や高血圧のトライアルの成果が反映されていると同時に,それらの治療効果だけで満足してはならないというメッセージであると思われる。
 最近の高脂血症治療のトライアルはこのような状況下に行われており,その方向性としては二つあり,一つはLDL-C低下療法をどのような患者に適応するかということであり,もう一つはLDL-Cをいったいどこまで低下させるのが妥当かということに焦点が絞られてきている。
Heart Protection Study DBINTERHEART study DB
UP
1. LDL-C低下療法を必要とするハイリスク患者同定のトライアル
ASCOT-LLA(Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial- Lipid Lowering Arm) DBCARDS(Collaborative Atorvastatin Diabetes Study) DBPROSPER(Prospective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk) DB
 再発予防患者がハイリスクであることは十分認識されてきたが,初発予防患者でもリスクが重なるとハイリスクになることを示したのがASCOT-LLAという試験[6]である。ASCOT-LLAは,もっとも日常的に多い総コレステロール≦250mg/dLの高血圧患者(10,305例)で,その他の危険因子が3つ以上重なった患者を対象とした試験である。結果は,LDL-Cを約131mg/dLから90mg/dL位まで下げることにより十分主要心血管イベントの抑制が示せたということで計画の中途で安全委員会から中止命令がでた。本来の試験期間を満了していないが脳卒中予防も可能であることを示したことは,高血圧を含むハイリスクであると必ずしもLDL-Cが高くなくてもLDL-Cのコントロールが心血管イベント抑制にはきわめて重要であることを示したトライアルと捉えていいであろう。
 アメリカでは二次予防と同等に扱うとされ,わが国でもカテゴリーB3に分類するという2型糖尿病に対する試験がCARDSという試験[7]である。対象患者はLDL-C≦160mg/dLの2型糖尿病患者(2838例)で,高血圧,網膜症,アルブミン尿,喫煙というリスクを1つ以上有するハイリスク患者群である。治療はアトルバスタチン群(1428例):10mg/日,プラセボ群(1410例)であり,アトルバスタチンの投与量はわが国の常用量である。アトルバスタチン治療による効果はLDL-Cを40%低下させ,治療後のLDL-Cの中央値は77mg/dLであった。一次エンドポイントは冠動脈疾患(CHD),脳梗塞の発症,冠動脈再建術のいずれかとされているが,実薬群でリスクが37%低下した。治療期間は当初5年間を予定していたが,2回目の中間解析で一次エンドポイントにおいて明確な有意差がでたため,倫理性を考慮して2年間短縮して終了した。本試験でも脳卒中の予防効果は示された。本試験では,高血圧合併例も多く,高血圧・糖尿病ともにコントロール良好とはいえなかった。実際の診療では,高血圧,糖尿病のコントロールは比較的困難であるのに対し,LDL-Cのコントロールは容易である。したがって,このような場合の治療として,スタチン治療というのはイベント抑制のためには極めて有効な治療法ということができる。
 高齢者高脂血症の治療効果については十分な検討が行われていなかった。PROSPERという試験[8]は70歳から82歳までのハイリスク高齢者を対象としており,約5800例と初めての高齢者大規模予防試験であり,プラバスタチン投与によりCHDの発症予防効果が示された。80歳までは軽度の高脂血症であってもハイリスクであれば治療効果が期待できることが示された。
 このように,ハイリスク患者の場合はたとえLDL-Cがほぼ正常であっても十分な管理が必要であるということが示されてきたが,ではいったいどの程度まで低下させるべきなのかという基本的な疑問が生ずる

UP
2. LDL-Cはどこまで下げることが有効なのか
REVERSAL(Reversal of Atherosclerosis with Aggresive Lipid Lowering) DBESTABLISH DBPROVE IT-TIMI 22(Pravastatin or Atorvastatin Evaluation and Infection Therapy: Thrombolysis in Myocardial Infarction 22) DBALLIANCE(Aggressive Lipid-Lowering Initiation Abates New Cardiac Events ) DBTNT(Treating to New Target) DB
 このような観点に立って行われた試験が続々と発表されている。基本的には二次予防試験である。REVERSALという試験[9]は,従来の100mg/dLを目指した治療と,80mg/dL未満を目指した治療で,動脈硬化性病変であるアテローム進展に対する影響を観察した試験である。本試験でプラバスタチン40mg/日投与群が対象に選ばれた理由は,すでにプラセボを対照とした本治療法でイベント抑制やアテロームの進展抑制効果が証明されているからである。本試験は,このようなプラバスタチン投与群(LDL-C:110mg/dLに低下)に対してアトルバスタチンによる強力な治療(LDL-C:79mg/dLに低下)がアテローム進展において優位性があるか検討した試験である。結果的には,強力な治療でLDL-Cを80mg/dL以下にすることでアテローム進展が完全に抑制できたという点で,LDL-Cの管理目標値の設定には大きな影響を与えるものと思われる。REVERSALと同様の試験としてESTABLISHという試験[10]があげられる。本試験はわが国で行われた急性冠症候群(ACS)を対象とした試験である。血管内超音波法(IVUS)でのプラーク容積を評価項目としているため,70例という少数例でも統計学的に有意差を出しえたものと考えられる。対照群ではプラークの進展が見られたのに対し,強力にLDL-Cを低下させることが,動脈硬化進展抑制効果を発揮することを示したことは,極めてインパクトのある結果である。LDL-Cを70mg/dLまで下げることがプラーク進展を抑制すること,LDL-Cが125mg/dL未満でも治療することの意義を示し,わが国の動脈硬化性疾患診療ガイドラインにも影響を与える可能性がある。
 PROVE IT-TIMI 22という試験[11]もACSを対象とした試験であり,ACS直後の標準的治療(LDL-C:95mg/dLに低下)と強力な治療(LDL-C:62mg/dLに低下)を比較した試験である。対象患者数は4162例と大規模であり,平均LDL-Cは 106mg/dLと必ずしも高くない患者である。結果としては,強力な治療群でイベント抑制が有意に認められた。また,極めて早期にその治療効果があったということからACS直後からの治療が重要であることを示した。この試験では,標準的治療としてプラバスタチンが用いられ,強力な治療薬としてはアトルバスタチンが用いられ,薬剤の差があるのではないかという問題があった。ALLIANCEという試験[12]も薬剤の違いがあるが,強力に治療した群と標準的治療群とで比較している。本試験は安定した二次予防患者において,治療後のLDL-C:100mg/dl未満とそれ以上ではイベント発症率に有意な差が認められ,100mg/dl未満という目標値を検証した。2442例を対象とした大規模予防試験である。CAD既往患者のLDL-Cの治療目標値の根拠を与えた試験と評価できる。
 これらの試験に対して,同じアトルバスタチンを10mg/日と80mg/日で比較するというTNTという試験[13]が発表された。対象は安定した狭心症患者を対象とした試験である。これでもアトルバスタチン80mg/日でLDL-Cを約70mg/dLまで下げることにより,100mg/dLに下げるよりよりイベント抑制に効果があることが示された。

UP
3. ガイドラインへの影響
 このようなハイリスク患者に対する治療に関する大規模予防試験が続々と発表される中,アメリカのガイドラインであるNCEP-ATP IIIは一部改訂というレポートを発表した[14]。この改訂を促した試験は5つあるが,その結果から,リスクが極めて高い場合にはLDL-Cを70mg/dL未満にすることを一つの選択肢に加えた。エビデンスを重んじるというNCEPの姿勢を明確に示したものである。さらに,このような勧告をNCEP-ATP IVとして出すのではなく急遽出してきたという点に注目したい。つまり,公式見解として,極めてリスクの高い患者には,より厳格な治療オプションを示す必要があったということである。
 ただし,この数値目標はあくまで欧米のデータであり,わが国にそのまま当てはめることは慎重にすべきである。ESTABLISH試験はこのレポートを支持する内容であるが,例数が少ないという点から,同様の報告がもう少しほしいところである。

UP
おわりに
 メタボリックシンドロームについては,グローバルな診断基準が確定したばかりであり,前向きの大規模試験はまだないが,徐々にサブ解析で治療成績が発表されている。しかし,メタボリックシンドロームの治療原則は生活習慣の改善であり,やみくもに薬物治療に進むことを是認してはならない。あくまでも,高LDL-C血症を伴ったメタボリックシンドロームでLDL-C低下療法が有効なのであるという認識が必要である。また,フィブラートを用いたサブ解析も報告されているがこれも然りである。生活改善による心血管病の予防効果が示されることを待ちたい。
UP
参考文献
1 Fuster V et al: The pathogenesis of coronary artery disease and the acute coronary syndromes (1). N Engl J Med. 1992; 326:242-50. PubMed
2 Heart protection study collaborative group: MRC/BHF heart protection study of antioxidant vitamin supplementation in 20536 high-risk individuals; a randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2002; 360: 23-33 PubMed
3 WHO: Reducing Risks, Promoting Healthy Life. The WORLD HEALTH REPORT 2002
http://www.who.int/entity/whr/2002
4 Yusuf S et al on behalf of the INTERHEART study investigators: Effect of potentially modifiable risk factors associated with myocardial infarction in 52 countries (the INTERHEART study); case-control study. Lancet. 2004; 364: 937-52. PubMed
5 メタボリックシンドローム診断基準検討委員会. メタボリックシンドロームの定義と診断基準. 日本内科学会誌2005; 94: 188-203.
6 Sever PS et al for the ASCOT investigators: Prevention of coronary and stroke events with atorvastatin in hypertensive patients who have average or lower-than-average cholesterol concentrations, in the Anglo-Scandinavian cardiac outcomes trial- lipid lowering arm (ASCOT-LLA); a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2003; 361: 1149-58. PubMed
7 Colhoun HM on behalf of the CARDS investigators: Primary prevention of cardiovascular disease with atorvastatin in type 2 diabetes in the collaborative atorvastatin diabetes study (CARDS); multicentre randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2004; 364: 685-96. PubMed
8 Shepherd J et al on behalf of the PROSPER study group: Pravastatin in elderly individuals at risk of vascular disease (PROSPER); a randomised controlled trial. Lancet. 2002; 360: 1623-30. PubMed
9 Nissen SE et al for the REVERSAL investigators: Effect of intensive compared with moderate lipid-lowering therapy on progression of coronary atherosclerosis: a randomized controlled trial. JAMA. 2004; 291: 1071-80. PubMed
10 Okazaki S et al: Early statin treatment in patients with acute coronary syndrome: demonstration of the beneficial effect on atherosclerotic lesions by serial volumetric intravascular ultrasound analysis during half a year after coronary event; the ESTABLISH study. Circulation. 2004; 110: 1061-8. PubMed
11 Cannon CP et al for the pravastatin or atorvastatin evaluation and infection therapy-thrombolysis in myocardial infarction 22 investigators: Comparison of intensive and moderate after acute coronary syndromes. N Engl J Med. 2004; 350: 1495-504. PubMed
12 Koren MJ on behalf of the ALLIANCE investigators: Clinical outcomes in managed-care patients with coronary heart disease treated aggressively in lipid-lowering disease management clinics; the alliance study. J Am Coll Cardiol. 2004; 44: 1772-9. PubMed
13 John C. LaRosa et al for the treating to new targets (TNT) investigators: Intensive lipid lowering with atorvastatin in patients with stable coronary disease. N Engl J Med. 2005; 352: 1425-35. PubMed
14 Grundy SM et al; National Heart, Lung, and Blood Institute; American College of Cardiology Foundation; American Heart Association: Implications of recent trials for the National Cholestreol Education Program Adult Treatment Panel III Guidelines. Circulation. 2004; 110: 227-39. PubMed
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