1. 心房細動の治療方針
心房細動は疫学的研究において心臓死の危険を増大させるほか,心原性塞栓症の原因として重要な不整脈であることが示されている。心房が細動状態となっていることがそもそもの原因であり,洞調律を維持できれば塞栓症の危険は減り,心機能抑制も防ぐことが期待できる。心房細動患者に抗不整脈薬が投与された場合,心機能低下例では死亡率が高くなる[
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PIAF(Pharmacological Intervention
in Atrial Fibrillation)
DB
症状のある持続性心房細動例を対象に心拍数コントロール(125例,ジギタリス+ジルチアゼム)と洞調律維持(127例,アミオダロン)に無作為に分け,オープン試験で1年間追跡した。洞調律維持群では56%の例で洞調律が維持できた。6分間歩行距離は洞調律維持群の方が長かった(550m対510m,p=0.008)が,自覚症状の改善とSF-36を用いたQOLの評価については両治療群で差はなかった。入院(69%対24%,p=0.001)や投薬の中止(25%対14%,p=0.036)は洞調律維持群で有意に高頻度であったが,洞調律維持群の入院の理由はDCショックやアミオダロンの副作用などであった。この試験から,1)心拍数コントロールでも洞調律維持でも同様の臨床効果が得られ,2)運動耐容能の改善が必ずしもQOLの改善に結びつかず,3)心拍数コントロールは費用対効果の上で優れている可能性があることが示された。 |
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AFFIRM(Atrial Fibrillation Follow-up Investigation
of Rhythm Management)
DB
4000例を超す心房細動(塞栓症の危険因子を1つ以上併せ持つ)例を対象に,洞調律維持(アミオダロンあるいはソタロール投与が約2/3)と心拍数コントロール群に無作為に分け,一次エンドポイントを全死亡として平均3.5年追跡した。洞調律維持群では,5年後の洞調律維持は約63%であり,初回の心房細動発作例が35%含まれているにもかかわらず,死亡率(26.7%)は心拍数コントロール群(25.9%)に比べて高い傾向を示した(p=0.08)。脳梗塞の発生率は,洞調律維持群でワルファリンの服用例が約70%であったことも影響してか,心拍数コントロール群(5.5%)と洞調律維持群(7.1%)で差がなかった。層別解析をすると心拍数コントロール群で死亡率が有意に低かったものは,高齢(65歳以上),冠動脈疾患,左室駆出分画≧50%,うっ血性心不全のない例であった。
以上の成績は,1)我々の期待に反して洞調律維持群で脳塞栓症の発生が抑制されず,2)死亡率に至っては心拍数コントロール群のほうが低い傾向を示している。初回の心房細動発作例が約1/3含まれているにもかかわらず,塞栓症の危険因子を1つ以上持つ例を対象にしたためか,約1/4の例がいずれの治療群でも死亡していることは,我々の日常診療の場では経験しないことである。洞調律維持の成否を自覚症状に頼っていると,約12倍の頻度で生じうる無症候性心房細動発作を見逃す危険があり(Circulation
1994;89:224-7 PubMed),再発をどのように予防するかが重要になると思われる。塞栓症の危険因子を1つ以上持つ例が対象にされたが,危険因子を持たない例への対応については明らかにされたわけではない。
以上のように限界はあるが,本試験は1)心拍数のコントロールが洞調律維持に決して劣る治療法ではなく,2)洞調律維持を治療目標にする場合でも,危険因子を持つ例ではワルファリンの継続投与が必要なことを示している。 |
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RACE(Rate Control versus Electrical
Cardioversion for Persistent Atrial Fibrillation)
DB
過去に1回以上DCショックを受けたことがある再発性の持続性心房細動(約7%は心房粗動)522例を対象に,洞調律維持と心拍数コントロールに無作為に分けて平均2.3年追跡した。エンドポイントは死亡,心不全,血栓塞栓症,出血,ペースメーカー植え込み,薬剤の重篤な副作用を合わせたものとした。両群とも約90%が塞栓症の危険因子を1つ以上持っていた。洞調律維持群では試験終了時点で39%の例が洞調律を維持していた。エンドポイントの発生は心拍数コントロール群17.2%であり,洞調律維持群の22.6%に比べて低い傾向にあった(p=0.11)。
以上の成績は前述の2つの比較試験と同様に心拍数コントロールは洞調律維持に劣る治療法ではないことを示している。このような結果となった理由として,1)心不全の発生に両群で差がなく,2)洞調律に戻っても抗凝固療法を止めると脳梗塞が発生し,3)出血の合併が両群で同様に見られ,4)洞調律維持群で抗不整脈薬の副作用が多く出現したためと考えられる。
心房細動例にみられる電気的リモデリングの概念(Circulation 1995;92:1954-68 PubMed)が提唱されて以来,心房細動は出来るだけ早期に洞調律に戻すことが重要と考えられるようになったが,以上の3つの比較試験の成績は洞調律化やその維持がすべての症例にとって最善の治療というわけではなく,心拍数コントロールの意義について見直しを迫るものである。 |