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2011.Feb  

 抗血栓薬に関する最近の臨床トライアルの読み方
後藤信哉 (東海大学医学部内科学系(循環器内科))
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抗血栓薬のトライアルをどう読むか?
●臨床医学における医療介入の科学的評価とはどうあるべきなのか?●薬剤の薬理作用そのものが「副作用」を惹起するリスクのある抗血栓薬●トライアルが示すものは,「設定された臨床的仮説」の検証に過ぎない

米国では死因の第1位が冠動脈疾患である。冠動脈疾患以外にも深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症などの死亡率も高い。欧米人が「血栓症」を恐れる度合いは,日本人が「がん」を恐れる度合いに匹敵する。「血栓症」に対する社会の恐怖を背景に,血栓性疾患の発症予防,治療を目的として抗血栓薬が多数開発されている。

ところで新規に薬剤を開発したら,その薬剤の有効性,安全性を世間に向けて保証する必要がある。「事故を起こさない自動車」を開発する技術がないのと同様,「副作用を起こさない薬剤」を開発する技術はない。その時々の一般的な常識とかけ離れて事故を起こしやすい自動車を開発したメーカーは社会的に懲罰を受ける。薬剤についても,副作用を起こさない薬剤の開発は無理であっても,「その時の社会の常識」とかけ離れて副作用が起こる薬剤ではないことを社会に向けて証明しなくてはならない。血栓性疾患の予防,治療を目指す抗血栓薬は,その薬剤が血小板,凝固系など止血に必須の機能を阻害するゆえに不可避的に出血性合併症の発症率が増加する。薬剤の薬理作用そのものが「副作用」を惹起するリスクのある抗血栓薬の領域では,その副作用が「社会的に容認される」程度か否かの判定を科学的に行うことが極めて重要である。

そもそも臨床医学における医療介入の科学的評価とはどうあるべきなのか? 人体に関するわれわれの理解は極めて初歩的である。医療介入,薬剤介入が人体におよぼす影響を構成論的に評価する論理も確立されていない。つまり,実際に薬剤を投与して結果をみないと本当の有効性,安全性を評価できないのである。ともすれば,ランダム化二重盲検比較法による医療介入評価(クリニカルトライアル)が「絶対的真実」と誤解される向きもあるが,クリニカルトライアルは結果しか知ることのできない現在の医学の苦し紛れの選択に過ぎない。世界中に多数いる患者のすべてに対する医療介入の適否を,それらの患者の中から無作為との名のもとではあるが,一定のバイアスのもとに選択された一部の症例に対する「ランダム化二重盲検比較試験」により可能であるか否かは未検証の仮説に過ぎないともいえる。

たとえば,抗凝固薬による心房細動(AF)症例の脳卒中予防トライアルを考えてみよう。全世界には億を超えるAF 症例がいるのであろう(絶対数は未知である)。これらの中から1万人程度の症例を登録してランダム化比較試験(RCT)が計画される。試験に参加する症例は,世界に散在するAF 症例と均一の性質を有する症例と仮定される。しかし,実際には北米,欧州,一部アジアなどの経済先進国以外からの症例はほとんど登録されていない。試験に登録された症例が「世界のAF 症例の標準」とは言い難い。さらに,RCT に登録される症例は厳密な組み入れ基準,除外基準を満たす症例であり,日常臨床にて一般的な症例ともいえない。

最近多く発表されている新薬の認可承認を目的としたRCT に登録される症例は「純粋なAF 症例」であっても,「世界のAF 症例の標準」ではない。新薬の認可承認,既存薬の適応拡大を目指したランダム化二重盲検試験の多くは真の意味で科学的真実を見いだす方法ではなくて,「社会的に容認される程度の真実」を規制当局と社会に示す一種の擬制であると理解すべきである。

New England Journal of Medicine に代表される欧米の一流臨床雑誌に掲載されるクリニカルトライアルは,あらかじめ恣意的に設定されたトライアルの科学性の基準はクリアーしている。しかし,トライアルが示すものは,「設定された臨床的仮説」の検証に過ぎないことを理解してトライアルの論文を読むべきである。

1. 急性冠症候群および経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に併用する抗血栓療法のトライアル
●「薬剤溶出性ステント留置後の遅発性ステント血栓症」に対する抗血栓療法の妥当性は,医療介入評価(クリニカルトライアル)で評価することが困難●血栓性の亢進している心筋梗塞急性期,ACS 時に施行するPCI 時には,血栓イベント発症予防のために強力な抗血栓療法が必須●evidence-based medicine は患者集団を対象とした科学なので,薬効の個人差の検証はクリニカルトライアルでの検証は向かない

PCI は歴史が浅い。PCI はテクノロジーの進歩とともにいまだに変化を続けている。PCI を行う専門医には高度のテクニックが要求されるため,PCI 専門医はテクノロジーを中心とする狭い世界のみで視野が狭くなりがちである。急性冠症候群(ACS),PCI に関連する抗血栓療法のトライアルの多くはPCI の血栓性合併症の低減を目指すものである。ACS に対するPCI は死亡,心筋梗塞(MI )の発症予防などの効果が期待できる。しかし,慢性冠動脈疾患に対するPCI はいかに効率的に抗血栓療法を行っても基本的に長期予後の改善は期待できない。薬剤溶出性ステント(DES)であっても,主な目的は労作時の虚血症状の改善であって予後の改善ではない。DES 使用時のステント血栓症の発症リスクの遷延は問題ではあるが,ステント治療の6ヵ月,12ヵ月以降のステント血栓症の発症リスクは0.2- 0.5% /年であり,クリニカルトライアルにより抗血栓薬の有効性を示すためには少なくとも数万例以上の登録が必要となる。さらに,数万人のうち数名がメリットを得ることがトライアルにて示されたとしても,その数名のイベント抑制のために数万例以上にむだに抗血栓療法を行うことも得策とは言えない。PCI 関連の学会では話題にあがることが多い「DES 留置後の遅発性ステント血栓症」に対する抗血栓療法の妥当性は,クリニカルトライアルにより評価することが困難な事象と筆者は理解している。

冠動脈疾患の症例に対する冠動脈バイパス手術(Coronary Artery Bypass Surgery: CABG)は死亡, MI の発症などの長期予後を改善することが示されている。しかし,PCI は既存の冠動脈内の動脈硬化巣をバルーンにて破壊する手技であり,CABG のように灌流血管が増えるわけではないので長期予後の改善は期待できない。MI 急性期,ACS ではCABG よりも早く心筋に血液を灌流できるとの利点がPCI にはある。もともと血栓性の亢進しているMI 急性期,ACS 時に,動脈硬化巣を破綻させ,異物であるステントを入れるPCI 時には,血栓イベント発症予防のために強力な抗血栓療法が必須であることは感覚的にも理解できよう。日本よりも冠動脈疾患の有病率が高く,PCI の施行数も相対的に多い欧米諸国では,抗血栓薬の市場規模も大きい。抗凝固,抗血小板両者について新薬の開発と認可承認,既存薬の適応拡大を目指したトライアルが多数施行されているのが昨今の現状である。

日本では経静脈的抗凝固薬としての未分画へパリンにより臨床的に困る症例は多くない。まれではあるが未分画へパリンにより血栓性が亢進する「ヘパリン惹起血小板減少/ 血栓症」にはアルガトロバンにて対応できる。未分画へパリンは物質として均一でなく作用も直接的ではない。直接的なトロンビン阻害薬として欧米諸国を中心にビバルイジン(ビバリルジン)が開発され,従来の抗凝固,抗血小板療法に対する有効性,安全性がクリニカルトライアルにより検証された[1-3]。ビバリルジンは非可逆性の高い抗トロンビン薬であることもあり抗凝固作用が強い。経静脈的抗血小板薬GPIIb /IIIa 受容体拮抗薬の必要性を減少させる抗凝固薬としての位置づけを得た[3]。後述の心房細動時の血栓塞栓症予防を目的として多数の経口抗凝固薬が開発されている。これらの経口抗凝固薬の効果をACS にて検証するトライアルが今後多く発表されるであろう[4, 5]

PCI 時の抗血小板薬の使用については議論が混乱している。多くの臨床医が合意できる部分は「ACS にPCI を施行し,ステントを挿入したら,急性期にはアスピリンとチエノピリジンの併用療法が必要である」であろう。本邦ではチエノピリジンとして欧米の半量以下である200 mg のチクロピジンが長年使用されてきた。「英文論文として発表された臨床データをevidence とする」との擬制の中では日本のevidence は乏しい。しかし,善意に満ちた日本の臨床医が長年選択してきた少量チクロピジンは実際に有効かつ安全なのであろう。日本人にて未分画へパリンによる抗凝固療法,アスピリンによる抗血小板療法に加えて,300 mg / 600 mg のクロピドグレルのローディングが本当に必要であるか否かは明確にされていない。少なくとも約800例のACS を対象とした日本のトライアルでは300 mg ローディングを含むクロピドグレルの優越性は示されていない(医薬品医療機器総合機構 [ PMDA ] ホームページ:http://www.pmda.go.jp/)。欧米では300 mg と600 mg のローディングの比較[6],さらにはVerifyNow® などの血小板機能検査を用いたクロピドグレル投与用量調節の有用性などが検証された。大量投与の有効性は示されたが,日本人に適応できるか否かは疑問であろう[6]。クロピドグレルの特許切れ,複数企業による安価な後発品の開発と使用の拡大が世界的に起こっている。クロピドグレルの用量設定を標的としたトライアルは今後減少すると予想される。

クロピドグレルの薬効標的はADP 受容体P2Y12 とされた。クロピドグレルはpro-drug であるため薬効発現に若干の個人差がある。evidence-based medicine は患者集団を対象とした科学なので,薬効の個人差の検証はクリニカルトライアルによる検証に向かない。クロピドグレル代謝酵素CYP2C19 の遺伝子型と抗血小板効果の関係などについても近年多数の論文が発表されているが,臨床効果に対する影響までを科学的に示した研究はない。個人の遺伝子の全体像をつかんで,個人の特性に応じた薬剤介入を行うpersonalized medicine の論理が確立するまで遺伝子型と薬効の関係も明確な結論はでないであろう。

若干のばらつきを有するクロピドグレルの欠点を克服する薬剤としてprasugrel ,ticagrelor が開発された[7, 8]。いずれの薬剤もランダム化比較試験において,クロピドグレルよりもP2Y12 阻害が平均的に強く発現する用量を設定したため,クロピドグレル群よりも心血管死亡 / MI / 脳卒中の血栓性イベントの発症率は減少した。しかし,重篤な出血イベントが増加する方向になったことが問題である。血栓イベント,出血イベントリスクに応じた個別的最適化personalized medicine の論理が確立すれば,これらの薬剤は個別用量設定がクロピドグレルよりも容易な薬剤として注目されるかもしれない。患者集団を対象とするevidence-based medicine の現状では,多くの症例に対して有効,安全,かつ後発品により安価になったクロピドグレルに対して,若干の有効性の改善と安全性の悪化,費用の増大をもたらすこれらの薬剤が医師 / 患者により評価されるか否かは今後の推移を見守る必要がある。

2. 心房細動における脳卒中予防トライアル
●唯一臨床使用可能な抗凝固薬ワルファリンは,個別化使用が問題に●自由度の狭い新規経口抗トロンビン,抗Xa 薬と自由度の高いワルファリンの比較試験という試験自体の科学的意味の考慮も必要●対照とされたワルファリンと実地医療でのワルファリン治療の差異を考慮して結果を解釈

非弁膜症性の心房細動(AF)症例は人口の高齢化とともに有病率が急増する疾患である。AF 症例では左房内の血流がうっ滞するため大きな血栓が形成されやすい。結果として重症の脳血栓塞栓症を惹起して,その後のquality of life が障害されてしまう。急性症候群と異なり,AF 症例の血栓塞栓症は抗血小板薬では予防が困難である。抗凝固薬により脳血栓塞栓症の発症を効率的に予防できることは過去のトライアルの結果から明らかである。しかし,唯一臨床使用可能な抗凝固薬であるワルファリンは,1)複数の凝固因子に間接的に作用する,2)活性代謝物の産生,効果発現ともに肝臓における代謝酵素に依存する,3)多くの食品,薬剤により薬効が影響を受ける,などの欠点があった。そのため,ワルファリンはINR という間接的な薬効指標を用いて用量調節されるのが一般的である。この個別化の手法は必ずしも容易ではない。抗血小板薬の世界ではランダム化比較試験(RCT)のevidence に基づいて画一的なクロピドグレルの使用が推奨されてきたことが問題とされ,VerifyNow® などによる用量調節,個別化が議論されている。抗凝固薬の世界ではワルファリンは間接的な薬効指標であるINR に基づいて個別化使用がなされていることが問題とされ,経口抗トロンビン薬,経口抗Xa 薬による画一的介入が目指されている。一方では「個別化」が,一方では「画一化」が問題とされているのは,現代の医学が患者集団を対象とするevidence-based medicine と個別化医療であるpersonalized medicine の間で逡巡している様子を反映していて興味深い。

新規経口抗トロンビン薬,抗Xa薬の開発には,個別最適化されたワルファリン治療ではなく,INR 2-3 と標準化されたワルファリン治療との比較がなされた。本邦では実態医療下のワルファリン使用時の頭蓋内出血を含む重篤な出血イベントは1% 程度と報告されている。しかし,新規経口抗トロンビン薬の対照群としてのワルファリン群の重篤な出血イベントは3% になっている。ワルファリンは自由度の高い薬剤なので,自由度の狭い新規経口抗トロンビン,抗Xa 薬と自由度の高いワルファリンの比較試験という試験自体の科学的意味についても十分考慮する必要がある[9]

今後も複数の新規経口抗凝固薬を用いたRCT の結果が開示されると予想されるが,試験の対照とされたワルファリン群とわれわれの実態医療のワルファリン治療の差異を十分に考慮して結果を解釈する必要がある。「AF 症例では,非AF 症例に比較して血栓塞栓症の発症リスクが高い」,「AF 症例の血栓イベントは重篤でquality of life を著しく障害する」などはいずれも事実であるが,画一的な抗凝固介入の普及により個別の医師は「薬剤介入により惹起される重篤な出血性合併症」に対応する能力を消失すること,日本の社会には臨床数値データベースを蓄積して日本国内の画一的医療介入の是非を継続的に評価する仕組みがないこと,などの問題点についても十分に考える必要がある。

まとめ
●トライアルの成績はあくまでも診療の参考

医学は不完全な科学である。臨床医が患者から取得する情報は膨大かつ未整理のものが多い。個別の症例について,疾病の発症リスクに応じた個別介入を論理化することに現時点では成功していない。一部の遺伝子情報と薬剤介入の関係についておおまかな理解は始まったが,個人差を規定するすべての遺伝的背景に応じた個別医療を可能とする水準には達していない。このような現状の中で,医師は個別の患者の将来を予測しつつ医療介入を行うことができない。そこで,医師の臨床経験を数値化して後ろ向きに経験を数値として蓄積する方法が医療の科学的評価法として確立された。研究プロトコールを確立したのちに患者の登録を開始するとの意味では「前向き」試験と呼ばれるが,実際に心筋梗塞,脳梗塞などを発症した症例数を数えて数値データベース化するとの意味ではすべてのトライアルは「後ろ向き」に経験を蓄積しているに過ぎない。すなわち,トライアルの結果が発表された時点では,すでにそのトライアルに登録された症例と今後薬剤介入をする症例に差異が生じている。この差異は著しく大きな場合も,小さな場合もある。「トライアル」は臨床的仮説を検証するための手段に過ぎない。「トライアル」にて示されるのは設定された臨床的仮説が,あらかじめ規定した統計学基準により棄却されたか否かのみを示す。循環器医に注目されている抗血栓薬の領域では今後も多くのクリニカルトライアルの結果が発表されると予想されるが,トライアルの成績はあくまでも診療の参考に過ぎないことを銘記したい。

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